【第572号-574号】岩上安身のIWJ特報!「ウクライナ紛争のエスカレーションの背景にあるのは米国によるウクライナへの武器供与!」岩上安身による国際政治学者・神奈川大学教授 羽場久美子氏インタビュー 2022.11.1

記事公開日:2022.11.1 テキスト独自
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(文・IWJ編集部)

 記録的な猛暑となった2022年の夏。東京都心の猛暑日(気温35度以上)は14回を数え、1875年の統計開始以来、歴代最多日数を更新した。また、新型コロナウイルスの新規感染者数は8月19日に全国で26万人を超え、こちらも過去最多となった。

 日本の社会では、7月8日に安倍晋三元総理が銃撃されて死亡した事件の衝撃が続き、その背景として浮かび上がった世界平和統一家庭連合(旧統一教会。日本では2015年に名称変更)と政治家との強い結びつきが次々に明らかになっていった。

 一方で、極寒の2月に始まったロシアとウクライナの紛争には終結の兆しは見えず、紛争が長引くほど、市民生活に大きな影響が出るのは必至だ。

 国際政治学者で神奈川大学教授の羽場久美子氏は、6月6日に「ロシアのウクライナ侵攻―武器供与でなく停戦を―アメリカの世界戦略、次は中国」と題する講演を行い、「現在のロシア・ウクライナ戦争の報道の中で、アメリカの話はほとんどされない」と指摘した。

▲ズームでインタビューに答える羽場久美子 神奈川大学教授(IWJ撮影)

 単純に「ロシア=悪」とする見方に異議を唱え、この紛争の背後で大きな役割を果たしている米国に焦点をあてた上で、早期停戦の重要性を説いた。今の学会では希少な、勇気と理性のある発言である。

 IWJは同講演を中継している。

 また、ロシアとウクライナの停戦交渉が停滞する中、14人の歴史家らからなる「憂慮する日本の歴史家の会」が、5月9日に声明「日本、韓国、そして世界の憂慮する市民はウクライナ戦争即時停戦をよびかける」を発表、即時停戦を求めた。羽場氏も、その1人として名を連ねている。

2022年3月15日【第1次声明】

 ウクライナ戦争を1日でも早く止めるために日本政府は何をなすべきか

       ―――憂慮する日本の歴史家の訴え―――

 ロシア軍の侵攻によりウクライナ戦争がはじまってから3週間がすぎた。ロシア軍 はキエフを包囲し、総攻撃を加えようとしている。このような戦争が継続することは ウクライナ人、ロシア人の生命をうばい、ウクライナ、ロシアの将来にとりかえしの つかない打撃をあたえることになる。それだけではない。ウクライナ戦争の継続はヨーロッパの危機、世界の危機を決定的に深めるであろう。

 だから、われわれはこの戦争をただちに終わらせなければならないと考える。ロシア軍とウクライナ軍は現在地で戦闘行動を停止し、正式に停戦会談を開始しなければ ならない。戦闘停止を両軍に呼びかけ、停戦交渉を仲介するのは、ロシアのアジア側の隣国、日本、中国、インドがのぞましい。

 日本はアメリカの同盟国で、国連総会決議に賛成し、ロシアに対する制裁をおこなっている。しかし、日本は過去130年間にロシアと4回も深刻な戦争をおこなった国である。最後の戦争では、米英中、ロシアから突き付けられたポツダム宣言を受諾して、降伏し、軍隊を解散し、戦争を放棄した国となった。ロシアに領土の一部をうばわれ、1956年以降、ながく4つの島を返してほしいと交渉してきたが、なお日露平和条約を結ぶにいたっていない。だから日本はこのたびの戦争に仲裁者として介入するのにふさわしい存在である。

 中国はロシアとの国境画定交渉を成功させ、ロシアとの安定的な隣国関係を維持しており、国連総会決議には棄権した。ロシアに対する制裁には反対している。インドは伝統的にこの地域に起こった戦争に対して停戦を提案し、外交的に介入してきた。インドとロシアの関係は安定しており、国連総会決議には棄権している。

 だから、日本が中国、インドに提案して、ロシアの東と南の隣国として、この度の戦争を一日も早く終わらせるために、三国が協力して、即時停戦をよびかけ、停戦交渉を助け、すみやかに合意にいたるよう仲裁の労をとることができるはずだ。われわれは日本、中国、インド三国の政府にウクライナ戦争の公正な仲裁者となるように要請する。

 ロシア軍とウクライナ軍は即時停戦し、停戦交渉を正式にはじめよ。ロシア軍はロシアにとっても信仰上の聖地であるキエフへの総攻撃をやめなければならない。最後に訴えたい。ウクライナ戦争をとめるには、すべての者がなしうるあらゆる努力をつくさなければならない。傍観者にとどまってはならないのだ。
                            2022年3月15日

2022年5月9日【第2次声明】

日本、韓国、そして世界の憂慮する市民はウクライナ戦争即時停戦をよびかける

      ―――憂慮する日本の歴史家の訴え―――

 ロシア軍の侵攻によりウクライナ戦争がはじまってからすでに2か月がすぎた。ロシア軍は目的を達したとして、兵を首都キエフ方面から撤退させ、ドンバス東部に兵力を集中させている。イスタンブールでの停戦会談ではウクライナの停戦の条件が示され、楽観的な空気があらわれた。ところが、キエフ近郊の町ブチャでの市民の遺体が発見されるや、ロシア軍の戦争犯罪を非難する声が上がり、ウクライナ軍は怒りに燃えて、さらなる戦闘に向かっている。米国をはじめとする支援国グループは競って、大型兵器、新鋭兵器をますます大量にウクライナに送り込んでおり、米国の統合参謀本部議長ミリー将軍はウクライナ戦争は数年つづくだろうと言い始めた。

 一部の国々はこの戦争をウクライナの勝利まで、プーチン政府が降伏するまで続けることを願っているようだ。しかし、戦争が続けばつづくほど、ウクライナ人、ロシア人の生命がうばわれ、ウクライナ、ロシアの将来に回復不能な深い傷をあたえることになる。

 それだけではない。多くの国がロシアに制裁を加え、ウクライナに武器の援助を増大させつづければ、戦争がウクライナの外に拡大し、エスカレートし、ヨーロッパと世界の危機を招来する。核戦争の可能性が現実のものになり、制裁の影響はアフリカの最貧国において世界的規模の飢餓をひきおこしかねない。

 戦争がおこれば、戦場を限定し、すみやかに停戦させて、停戦交渉を真剣にさせることが平和回復のための鉄則である。われわれはあらためて、ロシア軍とウクライナ軍は現在地で戦闘行動を停止し、真剣に停戦会談を進めるように呼び掛けたい。国連のグテーレス事務総長が、ロシアとウクライナの大統領を相次いで訪ね停戦を働きかけた。国連はさらに停戦のための真剣な努力を継続してほしい。3月以来、トルコが停戦会談の仲介者として敬服に値する努力を果たしている。ヨーロッパの戦争の決定的な現段階においては、アジア、アフリカの諸国も行動をおこすべきだ。中国やインド、南ア共和国などの中立的大国、インドネシア、ベトナムなどアセアン諸国が戦闘停止を両軍に呼びかけ、停戦交渉を仲介するのに参加してくれることを願ってやまない。

 これ以上戦争を続けることは許されない。プーチン大統領のロシア政府とゼレンスキー大統領のウクライナ政府は即時停戦する意思を世界の人々の前に明らかにし、停戦会談をまとめあげ、実際に停戦に向かうようにお願いする。

 世界中の人々がそれぞれの場で、それぞれの仕方で、それぞれの能力に応じて、「即時停戦を」の声をあげ、行動をおこすべきときである。

 もっとも大切な価値は命である。ウクライナにおいて、これ以上、人間を殺すな、人間は殺されるな、と私たちは訴える。

                           2022年5月9日

 岩上安身は2022年8月16日の夜、オンラインで羽場氏にインタビューを行った。

 冒頭で羽場氏は、「ウクライナへのロシアの侵攻は、2月24日に始まったんですが、実はゼレンスキー自身が、2月25日には、停戦交渉を始めたいと言っていた。3月末にもトルコが仲介して、ウクライナを中立化するということに、ウクライナもロシアも合意した。ところがその直後、ブチャの事件(ロシア軍が占拠していた街で大量の遺体が発見された事件)が発覚して、停戦は反故になってしまった」と説明した。

 ロシアが侵攻した状態で「停戦」と言うと、ウクライナ市民が犠牲になると思われるかもしれない。しかし羽場氏は、「停戦というのは、即時、その場で武器を置くこと。お互いに、もう戦闘ができないような状況を、まず作り出すこと」と話し、停戦によって市民の命を守り、美しい国土を維持することの大切さを訴えた。

 さらに羽場氏は、ウクライナ紛争がエスカレーションし、終わりが見えなくなっている背景には、米国によるウクライナへの大量の武器供与という問題があると述べた。

 岩上安身が、「ロシアのような強い国の軍隊が入ってきたんだから、やむなく、その時点からウクライナに武器を支援し始めたと思い込んでいる人が多いが、(米国の関与は)武器供与も含めて、その(侵攻)前から始まっていた。2014年のウクライナ革命を見なければいけないし、東部の紛争も、(2014年時点で)すでに開始されていた」と語ると、羽場氏は「おっしゃる通り。2014年の、あのマイダン革命の前から、かなりアメリカの関与が始まっていた」と同意した。

 その上で、この3月、米国で行われた学会でジャパン・ハンドラーとして知られる国際政治学者のジョセフ・ナイ氏が、「アメリカは、この戦争によって3つの点で非常に有利になった」と発言したことを紹介した。

 ひとつは、武器供与によって米国の軍事産業が儲かること。2つ目はロシアへの経済封鎖で、ノルドストリーム(天然ガスのパイプライン)を止めて米国産シェールガスを輸出したり、米国の穀物価格の上昇など、米国への経済効果が期待できること。3つ目はトランプ前大統領によって評価が落ちた米国の威信を回復し、欧州との関係を良好にすることだという。ただし、2番目は経済制裁の効果が上がらず、成功していない、とつけ加えた。

 羽場氏は、「アメリカの意図はウクライナを守ることではなく、ロシアを封じ込めて弱体化すること。これは東アジアでは、中国を封じ込めることと並行して行われている。米国は21世紀の今も、アメリカ一極支配の夢を継続したいのだ。ウクライナの問題と、台湾有事など東アジアの緊張はパラレルだということを、皆さんに知ってほしい」と強調した。

記事目次

  • 早期停戦が叶わぬ背景には米国からウクライナへの武器供与が! それはロシアの侵攻以前から始まっていた!
  • 「ボスポラスを抑えるものは世界を制覇」!? 欧州、アフリカ、アジアが重なる黒海とクリミア半島は重要拠点!
  • 軍事産業を潤し、シェールガスや穀物を高く売り、米国の威信回復? この戦争の「旨味」を学会で語っていたジョセフ・ナイ
  • ウクライナを守ることがアメリカの目的ではない! ロシアの弱体化と米国の覇権継続が狙い!
  • 「ロシア・ウクライナ戦争は、米国を有利にした」という米政治学者ジョセフ・ナイの見解と逆の結果に!
  • 独立わずか30年のウクライナ。複雑な地域の集合体が単一の国民国家として戦争するには無理がある!
  • ポーランドからの独立で始まったウクライナ民族主義。だが、この戦争でポーランドが西ウクライナを吸収?
  • 「1インチも東に広げない」はずだったNATO。この30年で加盟国が2倍! なんと2008年の段階ですでに「ウクライナを入れる」と決めていた!
  • クリミア半島を死守したいロシアの核使用を避けるには「ウクライナ中立化」の選択も!

早期停戦が叶わぬ背景には米国からウクライナへの武器供与が! それはロシアの侵攻以前から始まっていた!

岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。

ウクライナの問題がですね、最近、取り沙汰されなくなっています。

 統一協会の問題に情報、報道が集中してしまっていて、最近、関心が薄れている、報道量が薄れているという風にお感じの方、多いと思いますが、ウクライナ問題はまったく終結していませんし、出口というものも、まだ見えてきていない状態が続いております。

 この問題に関しまして、本日は、国際政治学者、神奈川大学教授でもある羽場久美子先生をお招きして、ズームでですが、お話をうかがいたいと思います。

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