スイス情報局の元参謀本部大佐ジャック・ボー氏が今年3月、フランスの『Centre Francais de Recherche sur le Renseignement(フランス知能研究センター)』に「ウクライナの軍事情勢」と題する論文を発表しています。
- LA SITUATION MILITAIRE EN UKRAINE/(Centre Francais de Recherche sur le Renseignement、2022年3月)
「ウクライナで起こっていることを、ボー氏ほど明確かつ知識的に、直接的に、深く、包括的に説明した者はいない」と評する編集者のボイド・D・キャシー氏が、フランス語で書かれたこのボー氏の論文を英訳・編集し、「ウクライナで何が起こっているのかを実際に知ることは可能なのか? 」と題して4月2日、『The Unz Review』というサイトで紹介しています。
- Is It Possible to Actually Know What Has Been and Is Going On in Ukraine?(The Unz Review、2022年4月2日)
キャシー氏は、ボー氏の経歴について、以下のように説明しています。
「ジャック・ボーは元参謀本部大佐、元スイス戦略情報部員で、東欧諸国の専門家である。
米英の諜報機関で訓練を受ける。国際連合平和活動の政策チーフを務める。法の支配と治安制度の国連専門家として、スーダンで初の多次元国連情報ユニットを設計、指揮した。アフリカ連合に勤務し、NATOでは5年間、小型武器の拡散防止を担当した。
ソ連崩壊直後には、ロシア軍や情報機関の最高幹部との議論に携わる。NATOでは、2014年のウクライナ危機をフォローし、その後、ウクライナ支援プログラムにも参加。
諜報、戦争、テロに関する著書があり、特に「流用」(SIGEST出版)、「フェイクニュースで政治を動かす」、「ナヴァルニー事件」(同)などがある。最新作は『プーチン、ゲームの達人か? 』(マックス・ミロ社)」
ジャック・ボー氏のこの論文を、3回にわけてご紹介します。
第2回目は「第二部 戦争」です。
ボー氏は「西側諸国は、ロシアの介入を国民の目から見て完全に違法と思わせるために、実際に戦争が始まったのが2月16日であるという事実を意図的に隠蔽していた」と指摘しています。
ロシアのプーチン大統領が「特別軍事作戦」と称してウクライナへの侵攻を開始したのは2月24日ですが、ウクライナは2月16日以降、ミンスク合意を破ってドンバスへの砲撃を強めていたのです。ボー氏は「戦争の始まり」を振り返って、次のように述べています。
「実際、2月16日の時点で、ジョー・バイデンは、ウクライナ側がドンバスの民間人に対する激しい砲撃を開始したことを知っており、プーチン大統領は、ドンバスを軍事的に助けて国際問題を引き起こすか、ドンバスのロシア語圏の人々が潰されるのを傍観するか、という難しい選択を迫られた。
軍事介入をすれば、プーチンは『保護する責任』という国際的な義務を発動することができる。しかし、その内容や規模がどうであれ、介入は制裁の嵐を巻き起こすことは分かっていた。したがって、ロシアの介入がドンバスに限定されようが、ウクライナの地位をめぐって欧米に圧力をかけようが、支払うべき代償は同じである。
これが2月21日の演説で説明されたことである。この日、彼は下院の要請に応じ、ドンバスの2つの共和国の独立を承認し、同時に友好・援助条約を締結したのである」。
ウクライナに侵略した。そして民間人を殺した、という罪で、国際社会はプーチンとロシアを特別法廷に引きずり込もうとしています。
しかし、実際には、ウクライナ軍による、ウクライナ国内のロシア系民間人への無差別砲撃が強化されており、住民保護のため、ロシア軍はウクライナ領に踏み込まざるをえなくなった、というのです。
しかし、それをバイデン大統領は知っていて、傍観し、プーチン大統領の決断を政治的に利用したのです。
民間人を殺した罪で、「戦争犯罪」に問われるべきは、ロシア軍の前にウクライナ軍であると言うべきです。それを知っていて、「預言者」のように、「プーチンは侵略する」と繰り返していたバイデン大統領の罪は、何に相当するのでしょうか。
ウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」というプーチン大統領の作戦の目的をあげ、ボー氏は「つまり、ウクライナを征服するのではなく、おそらくは占領するのでもなく、破壊するのでもない」と論じています。
その一方でボー氏は、戦況について「彼らの非武装化目標はほぼ達成され、残存するウクライナ軍にはもはや作戦・戦略上の指揮系統はない」と指摘しています。
「国連で平和維持の責任者として、文民保護の問題に取り組んできた」というボー氏は、「民間人に対する暴力は、非常に特殊な文脈で発生することがわかった。特に、武器が豊富にあり、指揮系統が存在しない場合だ」と述べ、「マリウポリを守っているのがウクライナ軍ではなく、外国人傭兵で構成されたアゾフ民兵であることをあらかじめ理解しておくことが重要だ」と強調しています。
さらにボー氏は、西側メディアでロシア軍による戦争犯罪と断じられているマリウポリでの産院爆撃についても、ウクライナと西側の政治家とメディアによる共犯の可能性を指摘しています。
そしてボー氏は第二部の最後に、次のように述べているのです。
「西側の政治家たちは、ウクライナ政府に対していかなる制裁措置もとらずに、ドンバスでの民間人攻撃を8年間も容認してきた。欧米の政治家たちが、ロシアを弱体化させるという目的のために国際法を犠牲にすることに同意するという力学に、私たちはとっくの昔に入り込んでいるのだ」。
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