放射能汚染の現状と内部被ばくの実態とは? ~「市民と科学者の内部被曝問題研究会」研究報告会 2日目 2013.6.16

記事公開日:2013.6.16取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 2013年6月16日(日)10時より、東京千代田区にある日比谷図書文化館で「市民と科学者の内部被曝問題研究会」研究報告会の2日目が開催された。研究報告会は、昨日より引き続き、医療やマスコミ、科学など、さまざまな分野から見た汚染や被曝について報告があり、市民と意見を交換した。

■ハイライト

  • 10:00~ 吉木健氏「汚染と『除染』」
  • 10:20~ 土居保良氏、松井英介氏、松井和子氏、肥田舜太郎氏「乳歯を保存するプロジェクト ― ストロンチウム90の内部被曝追跡調査」
  • 10:40~ 生井兵治氏「自然核種と人工核種の大きな差異の証明 ― 自然放射性カリウムK-40のリスクは無に等しい」
  • 11:00~ 川根真也氏「ベラルーシ報告 ― 日本が学ぶべきこと」
  • 11:20~ 地脇美和氏、松井英介氏、松井和子氏「IAEAが福島に常駐する目的とは? ― IAEAとWHOがチェルノブイリで行ったことから、考える」
  • 11:40~ 松井英介氏、井戸川克隆氏、梶村太一郎氏「もうひとつの選択肢=『脱ひばく』集団移住権利法実現の課題と展望」
  • 12:00~ 田中一郎氏「(脱原発・脱被曝・被害者完全救済を実現しよう)これからの『市民と科学者の内部被曝問題研究会』への提言」
  • 13:10~ 柳原敏夫氏「ふくしま集団疎開裁判 ― 世界は見ている(2013年4月24日仙台高裁判決)」
  • 13:30~ 大石光伸氏「関東における被ばく線量評価をめぐる市民による測定」
  • 13:50~ 特別講演 太田昌克氏「3・11が啓示する教訓とは何か ― 『救護の不可能性』という核の非人道的帰結」
  • 15:00~ 特別講演 西尾正道氏「放射線健康被害の未解明な医学的課題について」
  • 16:00~ 特別講演 矢ヶ﨑克馬氏「放射線防護と人権 ― チェルノブイリ法と福島原発事故被災」

 吉木健氏の「汚染と『除染』」から、報告会が始まった。まず、福島原発事故の実態、放射能飛散を分析した吉木氏は、「セシウムは水に溶け、効果的な除染は不可能。ゆえに環境省除染ガイドラインは意味がない」と話した。次の、「乳歯を保存するプロジェクト―ストロンチウム90の内部被曝追跡調査」の報告では、「親が子どもにできることは、放射能が危ないかもしれない、ということを、学校でもどこでも、真面目に話し合える社会にすること。それが一番大切だ。自由に一緒に考えられる社会を望む」とまとめた。生井兵治氏の発表では、自然カリウム核種と人工核種の危険性の証明を試みた。生井氏は「自然核種の粒径は、多くは0.2~0.6nm。人工核種は、10nm~20μmなど数倍。人工核種は大きく強い。よって低線量被曝も安全とは言えない」と報告した。

 川根真也氏は「福島の子どもたちには、パンデミックに近いことが起こる」と警鐘を鳴らした。「今でも福島第一原発から、毎時1000万ベクレルの放射性セシウムが放出され、福島県各地に、除染の意味がないほど降り注いでいる」と数値を示して指摘。「福島県の小児甲状腺がんの検査結果では、2011年と2112年で17万5465名のうち、2次検査対象者が1140名。2次検査実施者383名のうち、悪性およびがんの疑いが27名見つかった。しかし、2次検査対象者の757名は、未検査なのである」と語った。そして、ベラルーシでの甲状腺がんの実態、検査方法、発症する病気の性質などを報告した。

 地脇美和氏は「現在、IAEAと福島県立医大が協定を結び、福島県環境創造センターを建設中だ。そのトップになる人物は、原発事故の際、スピーディの予測データのメールを隠蔽した福島県職員だ」と述べて、IAEAとWHOの原子力推進戦略と、チェルノブイリ事故に対する同機関の対応、また福島閣僚会議の内容などを糾弾した。松井英介氏は、「20ミリシーベルト以下なら住んでいい、というのが福島の唯一の選択肢。チェルノブイリでは、土での汚染が年間1ミリシーベルトの地域で、移住の権利を認めた」と、汚染地域の住民を移住させる理由を説明した。

 弁護士の柳原敏夫氏は、ふくしま集団疎開裁判の報告をした。「郡山地裁1審で負け、2審の仙台高裁では却下されたが、低線量被曝と除染の限界の問題などの事実認定があり、1ミリシーベルト基準を認めた異例の判決だった。世界が注視する中での、真実、正義、市民の力が影響したのではないだろうか」と分析した。続いて、茨城県常総生協の大石光伸氏が、生協組合員の住む地域を中心に放射能の土壌調査を行った報告をした。また、地域の母親たちが、ドイツのセバスチャン・プフブルークバイク氏の著作『チェルノブイリの健康影響』を翻訳したり、ハウスダスト、玄米、大豆加工品などを測定する活動をしていることを紹介した。

 特別講演では、共同通信編集委員の太田昌克氏が「アメリカは、広島・長崎の被爆地調査で残留放射線の影響はないとした。原爆を上空で爆発させたことで、核分裂生成物質は散逸し、内部被曝はないと考えたのだ。しかし、ビキニ環礁の水爆実験で内部被曝の深刻さに気づく。原爆投下24年後の1969年、長崎大がホールボディカウンター調査を実施して、内部被曝を確認した」と、原爆の被爆者調査について説明した。また、太田氏は「福島原発事故発災の3日後、米国の国家安全保障会議(NSC)は、福島に被害管理対応チーム(CMRT)派遣を決定。空中測定システムで、3月17~19日に汚染調査を実施し、放射能汚染マップを日本政府に提供していた。ところが、日本の事務方に、あらかじめブリーフィングしていたにもかかわらず、当時の内閣に報告されていなかった。そのため、住民の避難が3日も遅れた」と語った。

 次に、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏が「内部被曝は、化学兵器や毒ガス兵器と同じ。死ぬのが遅いか早いかの差があるだけ。放射線の影響は、慢性と急性、局所と全身とでまったくその作用は違う。人体で一番影響を受けるのは、細胞分裂がさかんな造血臓器、生殖腺、小腸(消化管)、水晶体上皮などだ。日本の放射線防護の教科書は、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準で書かれているが、今のICRPとIAEAなどの放射線防護の議論は、まるで神学論争。作られた物語だ」と語った。さらに、「飯舘村で、今年1月から相次いで仔馬15頭が死んだ。解剖したら2000ベクレル/キロのセシウムが出た。しかし、医師たちは『発表する必要はない』ともみ消す。哲学が欠如した、金の損得勘定だけで、医学会も行政も進んでいる」と指摘した。

 最後に、琉球大学名誉教授の矢ヶ﨑克馬氏が「日本でほとんど報道されていないが、チェルノブイリ法では、年間1~5ミリシーベルトの地域の住民には移住権利がある。空間線量3ミリシーベルト/年に内部被ばく2ミリシーベルトの設定だ。同様の方法で、5ミリシーベルト/年以上は、強制移住の対象。日本で1ミリシーベルト/年の汚染地域は、チェルノブイリより広域になり、100万人の移住規模になる。そのせいか、日本の汚染状況は可能な限り過小評価される」と述べた。そして、「行政による放射線量の偽装測定。これは、ICRPやIAEA、国連科学委員会、各国政府が行っている、知られざる核戦争だ」と話した。

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