2013年6月8日(土)18時30分より、東京都中野区の、なかのZERO小ホールで「福島の子ども保養プロジェクト1周年イベント in 東京」が開催された。西尾正道氏は、IAEA、ICRP、それに従う日本の原子力政策を痛烈に批判した。また、数々の学術論文を示して、低線量被曝の安全神話に反論した。堀潤氏は、廃炉が決まったアメリカのサンオノフレ原発への市民運動の関わりについて報告。また、ネット選挙への期待を語った。主催者の広河隆一氏は、原発の再稼働問題について、「3.11以降、日本のメディアは最悪のものだけは仕方なしに叩くが、中間悪みたいなものは、じわじわと容認する作戦をとっている」と懸念を表明した。
- 講演 西尾正道氏(北海道がんセンター 名誉院長)「放射線の健康障害の真実」
- 講演 堀潤氏(ジャーナリスト、元NHKアナウンサー)「市民発信でみんなを守ろう」
- 講演 鈴木薫氏(いわき放射能市民測定室たらちね 事務局長)「子どもを保養に送り出して」
- 講演 広河隆一氏(沖縄・球美の里 理事長、DAYS JAPAN 編集長)「『沖縄・球美の里』1年の報告」
冒頭で、子どもたちのための保養所、球美の里を紹介した沖縄放送のニュース映像が上映された。チェルノブイリ原発事故で、多くの子どもが健康被害に苦しんだ実情を知る広河隆一氏が、「放射能汚染地域に住む子どもたちに、健康回復のための保養所を」と呼びかけ、昨年7月、沖縄の久米島に球美の里が開設された。この日のイベントは、球美の里の1周年を記念したものである。
1人目の講演者、西尾正道氏が登壇した。西尾氏は「私は、日本でもっとも多くのがん治療をした放射線専門医だ。最初の20年間は、がんを切りたがる外科医と闘い、次は抗がん剤治療に頼る内科医と闘った。原発事故以降は、御用学者との闘いだ」と、自己紹介から講演をはじめた。「IAEA(国際原子力機関)、ICRP(放射線防護委員会)、WHO(世界保健機関)の掲げる理論は、彼らが創作した物語」と断じた西尾氏は、安全神話の中身、その背後にある権力構造などについて語った。
福島の子どもの甲状腺検査の結果について、西尾氏は「がんは、10ミリに成長するのに約10年かかる。今回、福島で甲状腺がんの子どもが12人、疑いのある子どもは15人発見された。もし、5ミリのしこりだとしたら、5年ほど経過していることになり、県や専門家たちが『放射線とは関係ない』と否定する根拠になっているが、結論はもう少し待つしかない」とした。
続いて、放射線防護について、「実は、ICRPは単なる民間団体である。そこに莫大な資金が流れ、IAEAが合わさり、WHOとつるんで、権威があるかのように勧告を出す。日本は放射線管理区域を、1.3ミリシーベルト/3ヶ月=0.6マイクロシーベルト/毎時、年間5.2ミリシーベルトと定めており、そのエリアでは18歳以下の人間は労働禁止(労働基準法)、飲食も禁止(医療法)だ。しかし、今、国の指針では、一般公衆の被曝限度は年間20ミリシーベルト。放射線管理区域の3.8倍だ。国は、労働基準法と医療法の両方に違反している」と指摘した。
西尾氏は「年間100ミリシーベルト以下では、放射線の影響は見られない」という政府見解に対し、学術論文を根拠に反論した。「原爆投下後の、広島と長崎でのABCCと放射線影響研究所の調査は、爆心地から半径2キロ以内、年間100ミリシーベルト以上のエリアにいた被爆者だけが対象だ。100ミリシーベルト以下の地域では調べていないので、被害を証明するデータがない。それを、影響はない、と恣意的に言い換えている」と話した。また、世界的な医学誌『ランセット』に掲載された、医療被曝の発がんリスクを指摘した論文を紹介。「50ミリシーベルト相当のCT検査を受けていると、子どもの脳腫瘍と白血病が3倍発症するという。低線量被曝、慢性被曝でも、発がんリスクは高い。このような自分たちに不都合なデータに対して、ICRPは反論をせず、無視を決め込む」と述べた。
さらに、西尾氏は「5月13日、国連科学委員会(UNSCEAR)報告書の『福島の健康障害は予測されず』という発表を、マスコミは大きく報じた。かたや5月30日、国連人権委員会の依頼で福島を調査したアナンダ・グローバー氏が、『年間1ミリシーベルト以上の被曝は人権侵害だ』とする調査報告を提出した。しかし、マスコミはほとんど報道しない」と語り、ICRPとIAEA、日本の原子力政策、マスコミの隠蔽体質を鋭く批判し、低線量被曝に警鐘を鳴らした。
休憩を挟んで、堀潤氏が登壇。「今日、アメリカのサンオノフレ原発の取材から戻ってきた。サンオノフレ原発は、6月7日に廃炉が決まった」と、最新ニュースを報告。昨年のアメリカ留学中に、自身が製作した映画のシーンを上映しながら、講演を行った。