2022年10月14日、午後5時より、東京・衆議院第二議員会館にて、「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」の主催により、出版記念講演会「非戦の安全保障論~ウクライナ戦争以後の日本の戦略」が開催された。
著者である柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)、伊勢崎賢治氏(東京外国語大学教授)、加藤朗氏(元桜美林大学教授)、林吉永氏(元空将補、防衛研究所戦史部長)の4名が、それぞれ新著について語った。
伊勢崎氏は、「憂鬱な国内の話題から始めたい」とした上で、以下のように語った。
「『弁護士ドットコムニュース』の9月30日付の投稿で、僕もここで、はじめて、これが起きたことを知ったんですけど、実は、その1日前、9月29日に、日弁連の人権擁護大会というのがあり、そこで、テーマとして『デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める』などの4つの決議案を採択したと。
- 日弁連人権大会 デジタル社会の制度設計要求など4決議採択 アイヌ民族の権利保障巡り一時紛糾(弁護士ドットコムニュース、2022年9月30日)
そのうちのひとつが、アイヌに関わる問題なんです。正確に申しますと、公害対策・環境保全委員会アイヌ民族権利保障プロジェクトチームが提案した『アイヌ民族の権利の保障を求める決議』。僕は、諸手をあげて賛成したいと思いますけど。
- アイヌ民族の権利の保障を求める決議(日本弁護士連合会、2022年9月30日)
この採決では、その大会で、『日本の安全保障上の観点から、国際交流委員会から委員長名での総意として反対意見が出され、そこで紛糾した』と。
で、日弁連の、本当に悔しいんですけども、泣けてくるんだけど、その言い分というのが、ここに載ってます。日弁連国際委員会の総意として読み上げられた反対意見は以下の通りなってます。
『アイヌを含めた少数民族の権利保障は、非常に重要なテーマであることは、当委員会としても理解しております』と、この前書きの下で、『しかしながら当委員会としては、本案』、つまり、アイヌの権利を守るという決議、『に対して、以下の理由により反対せざるを得ません。
本案は、固有の漁労、狩猟の権利等、主権国家の権利・権益に関わるような権利保護のあり方が提唱されており』、まあ、そうでしょうね、『政治・外交的には非常にセンシティブな問題であって』、そうでしょうか?『この時期に、日弁連会長の名で、宣言・声明を出すことは、将来にわたりロシアの領土的侵攻(北海道、北方四島)の口実として利用されるおそれが』あると。
『ロシア(以下、旧ソ連を含む呼称として使用します)の領土主張や領土的侵攻が、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として実行されてきたという、過去の歴史的事実を看過することはできません』。
これは別に、右翼団体が言ってるわけじゃなくて、日弁連の委員会が言っているんです。
『これまで、アフガニスタン、チェチェン、南オセチア(ジョージア)、シリア、クリミア(ウクライナ)、ドンバス(ウクライナ)等は、すべてロシアが、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として、領土的侵攻を行ってきたものです』。
これは事実誤認がありますので、後でちょっとコメントしたいと思います。
『現下の国際情勢に鑑みれば、日本の安全保障上、このような声明がロシアによる領土的侵攻等の政治的口実として悪用されることが強く懸念されます。
以上の理由により、当委員会としては本案に反対いたします』
こういうものです。そのちょうど5日後、これでちょっと文書を知り合いの弁護士から手に入れましたけど、4人の弁護士がこの委員会に対して、公開の質問状を出した。それからの進展はありません。
一体総意って何ですか? 日弁連の中の国際交流委員会の総意って何なんですか? これは問題です」
そして伊勢崎氏は、次のように、この問題の核心を語った。
「国家の安全保障の理由として、国家の中で、例えば日本みたいな一番わかりやすい緩衝国家、アメリカのための、その辺境に住む、つまり、仮想敵国に一番近いところに住む人たち、北海道ではアイヌの人たち、まあ南は沖縄です、この人たちの権利を抑制しなきゃいけないんですか? 国家の安全保障のために? それを日弁連が言うんですか? 違った考え方があるはずです。(中略)
確かに、その辺境の人たち、民族自立とか固有の権利を守るために独立みたいな運動は起こるでしょう。それは本土である我々がいじめるからです。違いますか?
それは独立されたら困るけれども、高度な自治を認めてあげればいいじゃないですか。ノルウェーの『サーミ』のように。少数民族です。
逆に味方につけることが安全保障じゃないんですか? そういう考え方もあるはずでしょう? 何でそっちをとれないんですか、我々は。
バカの一つ覚えみたいに軍備増強。特にそういうところです。違った考えを提唱しましょうよ。
それを実践している国はあります、実は。それがノルウェーです。アイスランドです。(中略)
冷戦時代、ノルウェーはアメリカも頼らざるを得ないロシアとの信頼醸成の要(かなめ)だったわけです。戦争しないように。
そういう役割を日本が担えないんですか? 沖縄・北海道を完全非武装化することによって。
別に、これは『日米同盟は廃棄しろ』まで、そこまでは言いません。この段階では。
そういう考え方を実践している国があるんです」
講演会の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。