4月10日の日刊IWJガイドでも「東京都内4000人のネットカフェ難民につき住宅支援はたったの500戸!?」と、新型コロナウイルス感染拡大による東京都の休業要請によって、インターネットカフェに住む4000人が生活する場所を失うことが危惧され始めていることをお伝えした。
▲インターネットカフェ(Wikipediaより)
インターネットカフェへの休業要請は、当初4月7日から実施する予定だったのが一転、10日に休業要請する方針が明らかにされ、その後さらに国との調整によって遅れ、11日から要請の実施が始まった。しかし、7日の安倍総理の緊急事態宣言を受け、いち早く臨時休業に入ったインターネットカフェもあった。
例えば、「ネットカフェ DICE」は、4月8日17時から東京都・神奈川県・埼玉県の全17店舗で臨時休業を実施している。
総理の宣言、あるいは、その後の小池百合子東京都知事の要請の言葉を受けて、やむを得ず臨時休業を選択したインターネットカフェに対して難詰したいわけではない。事業者としては、インターネットカフェの営業の継続がコロナ感染の拡大になってはいけないと、損失を覚悟で、断腸の思いで決断したということだろう。
美辞麗句で飾られたSTAY HOME…首相とその取り巻きには見えないネカフェ難民と庶民の生活!
少し話はそれるが、この間に、若者に大きな影響力をもつミュージシャンの発言が世間の注目を集め、話題となっていた。4月9日、フジテレビ系「直撃!シンソウ坂上」に出演したミュージシャンのGACKT氏が「何かがあるとすぐ安倍さんのリーダーシップのせいにしたり、政策のせいにしたり、強制力のない非常事態宣言のせいにしたり、会社がやってるのを補償金が出ないせいにしたりしてるが、そんなことを批判してる場合か? 現状はもうそんなタイミングじゃないんだ」とコメントした。
この発言に同意する人たちは、ネットカフェ休業問題に関していえば、コロナ感染を防ぐために、臨時休業する店舗の選択を支持するだろう。
しかし、物事には必ず両面がある。ネットカフェの休業は、貧しさゆえにあえぎ、ネットカフェを住まいの代わりにせざるをえない人たちにとっては、上から目線の冷たい言葉に響くかもしれない。ネットカフェが閉められたら、今夜、身を寄せるがない、そうした人が確実にこの世に存在するのだということが、GACKT氏やその支持者の方々の脳裏からは、すっかり忘れ去られている。
GACKT氏の発言からは、コロナが蔓延することへの真剣な危機意識は伝わるものの、安倍批判や政策批判や補償金が出てないことなどへ文句を言うな、そんな批判をしている場合か、という安倍政権批判を封殺する狙いもむき出しとなっている。
一般の庶民の厳しい暮らし向きを顧みない冷たさは、安倍総理の言動からも見て取れる。
12日に、総理は「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます」とツイートした。
歌手で俳優の星野源氏が4月3日にインスタグラムやツイッターに「家でじっとしていたらこんな曲ができました」としてアップした曲「うちで踊ろう」に、「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」と呼びかけ、多くのミュージシャンやアーティストが答えて話題になっている。
- 星野源氏のインスタグラム(2020年4月3日)
- 星野源氏のツイート(2020年4月3日)
先の安倍総理のツイートは、星野氏が投稿した動画に、安倍総理が高級ソファーに座り犬と寛ぐ姿、優雅にコーヒーを味わう姿、読書する姿をあわせたものだ。
この安倍総理のツイートに対して批判が集まっている。
例えば、医師の木村知氏は「住居を失った人、失うかもしれない人。職を失った人、失うかもしれない人。収入を失った人、失うかもしれない人。心のゆとりを失った人、失うかもしれない人。身の安全を失った人、失うかもしれない人。この人たちの存在に少しでも思いを致すことができる人なら、こんな動画は間違っても投稿できない」と総理のツイートを紹介している。
また、弁護士のささきりょう氏は「ついに総理が開き直り、国民を怒らせに来たぞ」とツイートしている。
岩上安身は、自身のツイッターで安倍総理のツイートに以下のように直接、引用リツイートしている。
「いやいや、検査が過少なままでは、自覚症状なき感染者=ステルスキラーが動き回るのを食い止められないんだって。また人々が動き回っているのは、飲み会や友達と会うためではなく、今日の食い扶持を稼ぐためだから。休業を強いられているのに補償がなければ食うために動かざるを得ない。いい加減学べ!」
緊急事態宣言のもと、職場が突然、閉められ、休業手当も出ない状況において、多くの国民は、安倍総理のように優雅な休息時間を取れる状況ではない。
この国には、会社から簡単にクビを切られてしまうアルバイトやパート、派遣などで生活をしている人たちが何千万人もいる。「STAY at home」と言われても、仕事のために表に出なければ、即座に住まいを失い、食べることもできなくなる、貯金もない人たちが数多くいる。「ネカフェ難民」とはそうした貧しい人たちの一部なのである。彼らにとっては、インターネットカフェは家そのものなのだ。
その事実をよくご存知なのだろう。休業要請を受けたことでインターネットカフェの休業が拡がる中、「ネカフェ難民」を救うべく休業要請に抗して営業を続ける店舗があった。
「しばらくは営業を続けてくれるのか?」営業を続ける「ネットルームマンボー」に問いかける不安の声…人との距離が近いのは一部のネカフェだけではない! 稲葉剛氏は都内でもいまだに0人部屋の無料低額宿泊所が存在すると指摘!
今回IWJ記者は、その内の1つ「ネットルームマンボー」に直撃取材を行った。
記者「最初に他のインターネットカフェが閉まったことで、普段利用している店を利用できなくなった人が出たはずですが、利用客は増えましたか?」
受付の方「長時間の利用客が増えたと思います」
IWJ記者「利用客の方から不安の声など聞くことはありますか?」
受付の方「不安な方はいらっしゃるみたいで、結構言ってきますね」
途中、来店者があり、受付の方が「只今お席の方がいっぱいで3時台のご案内なんですけれど」「お待ちになられますか?」「決まったら呼びかけますので少々お待ちください」と答える声が聞こえた。取材をしたのは午後2時台だったので、来店者は1時間以上待つことになる。
IWJ記者「今、満室ということですか?」
受付の方「今もそうです、満室ですね。」
IWJ記者「満室の時間帯も結構増えましたか?」
受付の方「そうですね。ここは元から24時間で入っているお客さんが多いので、あんまり空くということがないです」
この店舗では、新型コロナウイルスの騒動が原因で、以前から「営業するのか?しないのか?」といった質問を受けることも少なくなかったという。今でも「営業しているのか?」「しばらくは営業を続けてくれるのかどうか?」といった質問が、1日に8件くらいあるとのこと。
都内に「ネカフェ難民」と呼ばわれる人たちが4000人いることを考えると、営業を続けるごく一部のネットカフェが、休業した店舗を利用していた人たちの受け皿となることは困難である。また、現在利用できている人も、今後は仕事がなくなり、支払いに支障が出ることも考えられる。問題はそればかりではない。
「ネカフェ難民」の人たちだけでなく、無料低額宿泊所で生活する生活保護受給者の人たちについても言えることだが、一人一人が自分だけのスペースとして利用できるが限られていることだ。
▲稲葉剛氏(2016年12月20日IWJ撮影)
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛氏に質問したところ、生活保護受給者が住む無料低額宿泊所(注①)には、都内でも20人部屋などというものがいまだにあるという。こんな過密状態では、感染が広がるリスクは避けられない。
※(注① 無料低額宿泊所:社会福祉法第2条第3項の第2種社会福祉事業の第8号にある「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」に基づき設置されている施設。宿所の提供のみ行う宿泊所、宿所と食事を提供する宿泊所などがある。入居者の多くが生活保護の受給者。中には、生活保護費を搾取する悪質な団体もある。
ハチの巣のように狭苦しい個の空間で、半ば「すし詰め状態」で生活している人たちの中に感染者がまぎれこんだら、瞬く間にその他の利用者や、そこで働く職員にも感染が拡大することが予想される。緊急事態宣言まで発令したのだから、結局のところ、国がホテルを借り上げるなどして、住まいのない人にも「3密」ではない居住スペースを用意する以外に道はないのではないだろうか?
4月8日発行のIWJ日刊ガイドでは、米国ハーバード大学公衆衛生大学院の社会疫学のイチロー・カワチ教授が、多くの研究結果から経済的弱者には基礎疾患が多いことが明らかになっていることを示しつつ、新型コロナウイルスによってニューヨーク州で多くの死亡者が出ているのは格差の大きさによると指摘したことをお伝えしている。住まいのある人たちへの感染拡大を防ぐためにも、政府は一刻も早く野宿を余儀なくされている人たちを保護すべきである。
大田区都議の藤田りょうこ氏は「ネットカフェの休業で住まいに困っている人たちに向けて「大田区では本日(4/12)17:00まで、相談を受け付けています。蒲田生活福祉課 03-5713-1706 明日もやってます」と約2000室のホテルがあることをツイートしている。
小池百合子東京都知事がすでに用意している部屋数では4000部屋には及ばない。お困りの方は大田区を頼って頂きたい。また、知り合いに困っている人を見つけた場合、是非、連絡先を教えてあげて頂きたい。
我が国の憲法98条では、憲法はこの国の最高法規(法律、命令、詔勅、国務よりも上)であることが明記されており、13条では自由権、14条では平等権、15条で生存権が補償されている。そして、99条では総理大臣を含む国会議員や裁判官を含む公務員などが憲法を尊重し擁護する義務を負うことが書かれている。この国で今、憲法は守られているといえるだろうか?
法律よりも条約よりも守られるべき憲法は国民の生きる権利を保障している! 行き過ぎた自己責任論は国民の命を危険に晒していないだろうか?
この国の憲法では、国民の生きる権利(生存権)が保証されており、政府は国民を生かす義務を負っている。生活が苦しいなら、政府に頼ることを恥だと思うようなことはあってはならない。
▲藤田孝典氏(2017年5月24日IWJ撮影)
聖学院大学客員准教授で反貧困ネット埼玉代表でもある藤田孝典氏は「政府が生存権保障もしない現状において、言論人や知識人がメディア戦略を軽視して、生活困窮者や市民をこれ以上の苦難に立たせるのは無責任だと思う。毎日毎日、大切な人が痛み苦しみ、死んでいる異常な社会。苦しみの中にいる人の声を最大化して、社会に伝えるべきである」とツイートで述べている。
前述の稲葉氏が代表理事を務める「一般社団法人つくろい東京ファンド」には、ネットカフェの休業により、居場所を失ってしまう人たちからの緊急相談が一週間で60人以上にのぼったとのことだ。
稲葉氏はまた「今回はその緊急事態宣言でネットカフェが休業になるので、そこから出される人をどうするかというのが一番の喫緊の課題だった」と語る稲葉氏は、コロナ禍に加えて、不況が深刻化し、職を失い、家賃が払えず、さらに住まいを失う人が今後、増えてゆく可能性について警鐘を鳴らした。「すでに不況が深刻化しているので、今アパートやマンションに暮らしていても、家賃が払えなくなるという方が今後増えていくんですね。ですので、その人たちが住まいを失わないための支援も必要ですし、住まいを失ってしまった後の住宅支援ももっともっと拡充しないといけないと思います」「今回の緊急事態宣言で、一時的にビジネスホテルに入った方も5月6日までと決まっており、5月6日以降どうするのかということが今課題になっていると、稲葉氏は現状を説明し、「その人たちにちゃんと住宅を支援しろということを今言っているところです」と述べた。
現在、とりあえず当面は衣食住に困っていない人もコロナ不況により今後どうなるか見通しが立たない。
人々が声を上げれば、状況は変えられる。言葉にはまた、状況を変える力がある。ネットカフェを出なくてはならなくなった人々を受け入れる部屋は、当初は100室しか用意されていなかったが、その後、2000室へ増えている。
それでも、問題は尽きない。4月末時点では、ネカフェ難民だった人たちの1割にあたる約500人が、東京都からビジネスホテルの居室の提供を受けることができた。しかし、東京都内の滞在が6カ月未満の人たちの支援については、東京都ではなく、区や市の生活保護と生活困窮者自立支援制度の窓口が担当しており、この場合は、都が用意したビジネスホテルではなく、相部屋の無料低額宿泊所などに案内される場合もあるという。その上、初期費用、宿泊費、電気代、食費などの費用がかかるという。福祉事務所が紹介する施設の中には20部屋もあるとのことだ。相部屋の施設に移されれば、感染リスクは上がり、ネットカフェが休業する意味がなくなってしまう。20人部屋など論外だ。
現在の日本では自己責任論が過剰に強調されているが、それでは貧しい人、多くの庶民の人の暮らしぶりは改善しないだろう。困っている人はくじけることなく声を上げ、今現在困っていない人も、明日は我が身かもしれないと、その声をしっかりと受け止める時に来ているのではないだろうか。