【特別寄稿】安倍総理4選と日米安保の「強化」を培う新型肺炎~ウイルス禍と中国包囲網再構築 2020.3.18

記事公開日:2020.3.18 テキスト
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(フリージャーナリスト 加治康男)

序- 錯綜する思惑

 中国・武漢発とされる新型コロナウイルス感染症が新型肺炎と呼ばれ、世界中の人々を震撼させている。

 日本は3月に入ると、一部では心理的な恐慌状態に陥った。スーパーの棚からトイレットペーパーが瞬く間に消えた1973年の第一次石油ショック、1989年昭和天皇死去に至る延べ5か月にわたる自粛に次ぐ自粛の異様な畏縮(いしゅく)騒ぎの光景が2つ、現在の状況に折り重なって見える。同調圧力に弱く、やすやすと総動員されてしまう危うさから抜けきれない日本人の欠点が今、突かれているのではないか。

 今回の新型ウイルスを巡る騒動は、グローバル化が進展して事態が錯綜し、全体像をとらえるのが難しい。ウイルス禍拡大防止に名を借り、首相がコロナ対策には何の役にも立たない「非常事態宣言」ができる新型インフルエンザ対策特別措置法改正案を持ち出し、これに共産党とれいわをのぞく野党のほとんどが乗って13日に可決した。

▲安倍晋三内閣総理大臣(2020年2月17日、衆議院予算委員会インターネット中継より)

 これは、自民党憲法改正案の「緊急事態条項」の実験台としたい安倍政権の思惑が透けて見えるし、中国共産党による一党支配体制潰しに本腰を入れた米国が軍事アセットとしての日米同盟をこの機にどう活かすか、治療薬やワクチン開発にしのぎを削る多国籍製薬企業と世界保健機関(WHO)の癒着疑惑など、複数のテーマが複雑に絡む。

 政権延命の突破口を見いだそうともがいてきた安倍政権は、特措法がすんなり通過したことで、安堵したに違いない。その先にあるのは2021年9月の安倍首相の自民党総裁連続4選だ。

 ロシアを訪問した自民党の世耕弘成参院幹事長は、3月6日付掲載のイズベスチヤ紙のインタビュー記事で、トランプ米大統領やロシアのプーチン大統領と良好な関係を築いている安倍晋三首相に対し「世界は辞めることを許さない」と発言。首相側近議員が新型ウイルス禍のただ中、さっそく「総裁連続4選に期待」とのアドバルーンを揚げた。

 安倍に4選まで許し、日本において超長期政権化を築かせようとする者は一体何者なのか?

 中国を徹底して封じ込めようとする米国の戦略を実現するにあたり、日本をこのまま長期間にわたり、ぶれることなく隷属させ続けようとするワシントンの強固な意思のあらわれと見るべきだ。米国へのさらなる従属、それが安倍政権の「使命」であり、レーゾンデートルでもあるからだ。

 新型コロナウイルス禍を巡って起きている、可視化されにくい一連の動きを探ってみる。

記事目次

非常事態の創出

 デジャヴ。既視感、場合によっては既知感とも訳されるフランス語だ。

 日本で起きている新型コロナウイルスを巡る上記パニック現象は、安倍政権の下で「かつて体験したように感じる」社会現象でもある。

 森友・加計スキャンダル追及と、政権交代を目指す保守新党・希望の党を立ち上げた小池百合子東京都知事が巻き起こした旋風に揺れに揺れた、2017年秋を思い出す。

 安倍内閣は北朝鮮の核実験・ミサイル発射により、有権者の間に蔓延した恐怖感を逆手に取り、空襲警報並みのJアラートで人々の不安を極限にまで煽り立てた。そして、大仰な「国難」という言葉を乱発しつつ、「国難突破解散」に踏み切り、総選挙で「圧勝」した。デジャヴの正体はこれである。

 安倍政権は2月27日、全国の公立小中高校、特別支援学校に3月2日から臨時休校するよう要請し、ほとんどの学校がほぼ一斉に春休みを前倒しにして休校に踏み切った。それは巨大な波紋を巻き起こし、人々を呑みこんでいる。

 在宅勤務が奨励され、街角は閑散としている。商業施設、ホテル、航空会社などは顧客激減で悲鳴を上げている。コロナウイルス対策は、中小零細企業の大量倒産、労働者の手取り収入の大幅減、低迷する景気への決定的打撃となるのは必至である。

 さらにプロ野球オープン戦は無観客試合を実施、選抜高校野球は史上初の中止、大相撲春場所も無観客開催となる前代未聞の事態に至った。各種のスポーツ大会、イベントや集会の軒並み中止が洪水のように報じられている。

 3月3日に私が訪ねた、普段は東京からの客でにぎわう関東地方北端の温泉街は、ゴーストタウンと化していた。行楽地にはとにかく人影がない。

 2つの原爆投下と徹底的な空襲により、ほぼすべての都市が焼け野原にされた75年前の第二次大戦敗戦。それに続く少なくとも数年間、日本の戦前戦中世代は飢え、寒さ、虚脱と絶望にさらされた。格差拡大が叫ばれながらも、アジア、アフリカの途上国と比較すれば、モノが溢れ、かつてない利便さと快適さを享受している現代の日本人は今、戦後最悪ともいえる不安と恐怖感にさらされている。操作され、生み出された緊張感の覆う日本社会において、安倍首相は国会で特措法を通過させ、非常事態宣言をいつでも発令できる準備を整えた。

日本型集団主義と緊急事態条項

 戦前来、日本人が未だ克服出来ない個性亡き集団主義や瞬く間に総動員されてしまう気質が改めてむき出しになる中、この日本の「戦後民主主義」の脆弱さにつけ込んでいるのが、党改憲案4項目の中でも緊急事態条項に執着する政権与党・自民党である。

 安倍政権は韓国、イタリア、イランと比べて日本の感染者数の少なさを主張する。それは政府が感染拡大を抑止するために最優先されるべき検査体制の充実、とりわけ感染確認のためのPCR検査を怠っているためであろう。

 感染症対策の基本である、「検査による早期発見」をおざなりにして、感染者数を見た目だけ少なく見えるように抑える。安倍政権らしい、姑息なやり方である。その一方で、特措法改正によって、国会の事前承認なしの非常事態宣言を手中にすることには熱心だった。

 世界の世論を形成する米国の有力週刊誌、とりわけニューズウィーク誌はコロナ危機を特集し続けている。複数の緊急特集号は売り切れ、3月2日発行の同誌カバーストリーは「HHS Secretary Azar Warns Coronavirus Risk Could ‘Change Quickly,’ Says ‘Prepare for the Worst, Hope for the Best’.(アザール米保健福祉省長官、コロナウイルスのリスクは「急速に変化し得る」と警告、「最悪の事態に備え、最善を期して欲しい」と呼び掛ける)」だ。

 安倍政権とつながる同誌は、政権の非常事態宣言を容認し、総裁4選を後押ししているようだ。安倍氏の母方の祖父、岸信介元首相がA級戦犯として収監されていた巣鴨プリズンから釈放後間もなく、当時のニューズウィーク誌東京支局長に「英語のレッスン」名目で接近され、同誌外信部長の知己を得て米政財界はじめCIAと深く結びついて以来の「腐れ縁」であろう。

 米諜報機関からの潤沢な資金援助で1955年の保守合同がなされ、2年後に岸内閣が誕生した。2019年末、同誌の元米諜報機関員と称するコラムニストは「優に合格点」と評価し、「もしかして歴代最高の首相?」と安倍氏を持ち上げて、連続4選の布石を打っていた。

 ただし、安倍政権と米国の権力とは常に緊張関係にある。ここでは詳述を避けるが、戦前回帰を志向する、現人神天皇カルトの皇国史観と復古主義が少しでも具体的に芽生えれば安倍グループは直ちにお払い箱となる。ウイルス禍の機に乗じた緊急事態宣言の乱用はもってのほか。「『1947年平和憲法の条文には一切手を付けるな』との沙汰」に従う限り、ウイルス禍に限定した非常事態の宣言は黙認される。これを一番自覚しているのが安倍晋三氏自身であろう。第一次安倍政権は教育基本法への教育勅語の趣旨一部復活、旧日本軍の従軍慰安婦への組織的関与の否定などで憐れな末路を辿った。

「コロナ漬け」で憤怒を薄める

 製薬企業との根深い癒着体質を糾弾された世界保健機関(WHO)は、2月末に感染拡大リスクについて世界全体の評価を「非常に高い」に引き上げた。これに呼応して、日本では政府お墨付きの専門家たちが「潜伏期間中ですら他人に感染し、両肺に急激な異変を起こす前例のない特異なウイルス」、「拡大防止の成否はこれから1~2週間が瀬戸際」との見解を打ち出し、メディアは「東京オリンピックの延期、中止も」と報道し始めた。ところが「瀬戸際の時期」が3月9日に到来すると安倍首相は「今が正念場」と言葉をすり替えて先送りにした。

 こんな中、「武漢封鎖」という荒技によって一定の「封じ込め」にひとまず「成功」したらしい中国を除き、新型ウイルス感染は世界各地で拡大を加速させている。日本だけでなく世界各国が他国民の入国制限や他国に滞在した自国民の隔離、渡航制限、さらには国境封鎖などに動き、そうした自由な人の行き交いの遮断に拍車がかかっている。

 一方、北京は「中国は発生源ではない。我々も被害者だ」と西側からの非難に激しく反発する。中国外務省の中からは非公式ながら「ウイルスは米国から持ち込まれた」と‟反撃”に転じるツィートが発せられた。日本ではそれを「無責任」、「言い逃れ」と受け取り、かえって中国人への憎悪と忌避を促す風潮が醸成されている。

 桜を見る会、IR(統合型リゾート)、政権擁護のための露骨な検事総長昇格狙いの東京高検検事長の定年延長など一連の疑惑、汚職、不正への憤怒は「コロナ漬け」を一カ月も続ければ有権者の脳裏から薄らいでゆくのではないか。

 日本の有力ポータルサイトの「首相が全国の小中高校に臨時休校を呼び掛け、どう思う?」との質問には、調査最終日となった3月9日現在、延べ22万超の回答が寄せられ、「安倍政権のコロナ対策を支持」は54.4%で、不支持43.2%を11.2ポイント上回る結果が出た。支持率は4日前の53.4%から増加し、不支持との差も10ポイント以上広げた。

 さらに3月上旬から半ばにかけての主要メディアによる世論調査では直近の安倍内閣の支持率はほとんどが微増との結果が出た。ところが共同通信社の調査結果は「安倍内閣の支持率は49.7%で、2月の前回調査から8.7ポイント上昇。不支持率は38.1%」だった。安倍氏と側近たちは破顔一笑、小躍りしたに違いない。「株価急落、金看板に黄信号 安倍政権『発足以来の危機』」などの報道を蹴散らした格好だ。

 しぶとい、本当にしぶとい安倍政権は、マスメディアへの直接的操作や、政権に批判的な報道をするメディアへの攻撃を通じて世論を操作し、その結果、3月8日のNHKの日曜討論は、ついに野党議員を一人も出さないという一党独裁広報番組と化した。厚生労働省のツイッターはテレビ朝日の「モーニングショー」を名指しで批判、その批判が実は間違いを含んでいて炎上するという失態を演じているが、動揺する気配も見せていない。

 「一斉休校」が、果たしてコロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける有効な手段だったのか、弊害の方が大きかったのではないか。その点について、ネットやSNSでは鋭い批判が数々見られるが、それでもマスのレベルで見たときは、総理の思いつきに過ぎない「大胆な決断」が、「やってる感」を醸し出し、一定の支持を得てしまっているのが現実だ。粗い政治手法が、細やかで思慮に満ちた意見を蹴散らすのに、またしても成功してしまっている。

政権は果たして崩壊の瀬戸際か

 今、通常国会中の解散の可能性が静かに浮かび上がってきている。

 4月に予定されていた中国の習近平国家主席の国賓来日は、予想通り「延期」という名の「中止」で落着した。日本政府は卑屈にワシントンに媚びながら、新型肺炎の蔓延を機に、有権者の不安、恐怖を政治的に利用し、「断固として国民を守る決意と姿勢」をアピールしようとしている。

 消費税増税による「リーマン級」の景気の失速、GDPのマイナス成長に加え、コロナショックと続く初動のミスや株価急落。安倍政権の本来ならば奈落の底へと沈んで当然の支持率を、「勝ちの見込めるレベル」にまで引き上げようと図る。工作が奏功して支持率が「回復」したところで解散総選挙を「断行」する。自公が過半数を維持すれば、安倍氏の自民党総裁4選はにわかに現実味を帯びる、というシナリオである。

 再び「国難突破」を絶唱して「安倍1強」が修復、再生され、総裁4選が実現した場合、安倍政権は最長あと4年半続く。首相は「米国に押し付けられた占領憲法の改正は私自身の手で成し遂げる」と、実際には実現を米国から禁じられ、叶うことのない悲願を、この国の極右層からの支持をとり続けるためだけに唱え続けることになる。

 病的に劣化した安倍政権は、2月27日までは崩壊の瀬戸際にあるように見えた。だがまだ足は徳俵には触れていない。日本の戦後レジュームの骨格をなすポツダム宣言を「詳らかには存じない」と悪びれず答弁する無知、質問に立った野党議員に「そんなこといいじゃないか」などと常習的にヤジを飛ばす無恥。この「胆力」と「横着さ加減」は「改憲はナチスの手口を見習ってはどうか」と公言した麻生太郎副総理と双璧をなす。

 在任期間最長にもかかわらず、「歴代最愚の宰相」との罵声も浴びせられているこの人物は、傲然と居直っている。「『改憲禁止』指令を厳守し、『100%米国とともにある』と言い続け実行していれば、ワシントンは『こんな使い勝手の良い奴はいない』と頭をなでてくれる。スタンスを変えない限り、見限られることはない」。こう確信しているようだ。

作為疑う声も浮上

 CDC(米疾病管理センター)によると、2月半ばごろまで、米国での今季(19年秋から20年冬)のインフルエンザ感染者数は最低2900万人、死者1万6000人超とされていた。ところが2月末までには、死者の中に新型コロナウイルスの患者が含まれているとの推測が出てきた。数の上ではインフルエンザとは未だ大きな隔たりはあるものの、3月に入ると米国でも新型ウイルス感染者と死者数は急増している。

 これを機に、日本を含む西側オルタナティブメディアには、新型コロナウイルス感染の蔓延には何らかの作為があるとの疑問が出てきた。

 2001年米同時多発テロ直後の米国で起きた炭疽菌事件。

 2018年には英国で「プーチン政権関与濃厚」と西側主流メディアが伝えた「ロシア製神経剤テロ事件」などが起きた。

 第一次大戦以来、米英を含む世界各国の軍事・諜報機関は、戦場だけでなく、破壊工作に使うため、細菌をはじめとする生物化学兵器の研究・開発に乗り出してきた。とりわけ第二次大戦後は、CIAから米国防情報局(DIA)に至るまで、これを武器に暗躍したという「黒い霧」が取り沙汰され続けてきたのは事実である。

 第二次大戦中、中国人捕虜を生体実験し、生物化学兵器の開発を試みた日本の第731部隊を率いた石井四郎中将は戦後、機密実験資料を米国に渡すことで戦犯訴追を不問に付された。実験資料の受け入れ先が現在のUSAMRIID(米陸軍感染症医学研究所)だった。USAMRIIDは韓国、日本を含め世界中に多数サテライト施設を設けている。さらに米国防総省傘下機関と関係する米国の大学が、中国の中国科学院武漢ウイルス研究所と協力関係にある武漢大学と提携しており、中国人ウイルス研究者が米国のスパイとなっていた可能性もあると指摘する論者もいる。

 一方、戦前、陸軍と密接な関係にあった国立伝染病研究所から戦後分割された予防衛生研究所は、石井中将を部隊長とする陸軍軍医学校防疫研究室に「軍医」や「技術者」として深く関わった面々の最大の再就職先となった。予防衛生研究所は1997年に「国立感染症研究所」(感染研)に改名し、いまに至る。

 横浜に停泊したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対応で後手、後手に回ったと厳しく批判されている日本政府に隠された意図、サボタージュはなかったのか?感染経路不明ないわゆる市中感染がなぜ世界各地で次々に起きているのか? なぜ日本では新型コロナウイルス感染を判定するPCR検査が進まないのか?

 上の事実は、新型コロナウイルス感染の蔓延を巡るこのような多くの問いや不可解さを解く手掛かりになる。

 実際、日本政府が検査体制の不備を口実に新型コロナウイルス感染拡大に手をこまねいているとの怒り、不満の声が噴出している。ただ現時点では、何らかの組織的な作為の存在を検証するは極めて困難と言わざるを得ない。

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中国封じの再構築

 話は飛ぶ。

 2016年6月に発足し、外交政策を反米、親中露へと劇的に転換したフィリピンのドゥテルテ政権は2月11日、1992年に完全撤収した米軍を事実上再駐留させ、日本の自衛隊、オーストラリア軍も参加する米比合同軍事演習を可能にする「訪問米軍の地位に関する協定(VFA)」の破棄をワシントンに通告した。

 半年後に効力を持つこの破棄通告は、東アジアのパワーバランスを変える革命的な軍事外交の転換となった。地政学の地図が大幅に塗り替えられた。

 2018年末には、この伏線として、ロレンザーナ国防長官が日米安保条約に相当する米比相互防衛条約の見直しを比関係当局に指示し、条約破棄も視野に入れていると語っていた。今回のVFA破棄は米国との全面決別の「前奏」と見るべきである。

 ワシントンに背を向けるドゥテルテ政権と米政府との仲を必死に取り持とうとしたのが安倍政権だ。2016年10月、日本政府はドゥテルテ大統領を国賓として招いた。背後にワシントンの指図があったことは容易に推察できた。同大統領は親日ぶりと日本との友好関係強化をアピールして、ワシントンの矛先をかわした。

 安倍政権は焦っていた。

 前年の2015年9月にはワシントンの意を汲み、集団的自衛権行使を合憲として容認した上で新安保法制を強引に成立させ、米軍と統合される自衛隊部隊をフィリピンに派遣し、実質駐留させる準備を仕上げようとしていた矢先に反米政権が発足したからだ。

 初外遊した北京で2016年10月20日、ドゥテルテ大統領は「軍事的にも経的にも米国から離脱する」と宣言し、日本の首相官邸、外務省、防衛省を狼狽させた。2016年10月末の訪日の際も、首脳会談に先立つ東京での講演で「外国軍は2年以内に出て行ってもらう」と名指しは避けながら米軍に再撤収を求めた。

 2020年2月、ついに米国からのフィリピンの離別が断行された。

 安倍政権が、ドゥテルテ政権と矢継ぎ早にトップ交渉に臨んだのは、ひとえに暗礁に乗り上げかけたフィリピンとの軍事連携の突破口を開きたいとの焦りからだった。

 ドゥテルテ初来日から3カ月も経たない翌2017年1月には、安倍首相がフィリピンを公式訪問。トランプ米大統領の初来日直前の同年10月末にドゥテルテ大統領は再び日本に招かれた。日比間で1年間に3回首脳同士が互いに公式訪問し、多国間会議でのサイドライン会談を含めると計4回も首脳会談を行ったのは異例中の異例だ。だがその後は、火が消えたように首脳間交流はぴたりと途絶える。

フィリピンの親中転換と米の転覆工作

 今や日本の首相官邸や外務、防衛両省ではドゥテルテ政権への憎悪が渦巻いているのは確実。ワシントンがまた日本政府を駒として使い、フィリピンへ意趣返しとして、ドゥテルテ政権転覆を再度企てることが予想される。

 2018年11月20日、中国の習近平国家主席はフィリピンを初めて公式訪問した。前日の同19日、マニラで発刊されている3つの新聞に「中比関係の新たな未来を共に切り開こう(Open up new future together for China-Philippines relations )」と題した習主席の英文メッセージが掲載された。

 この中で、最もワシントンと東京の神経を逆なでしたのが、「中国は引き続きフィリピンと防衛、麻薬取締、テロ対策及び法の執行で協力を深め、中比両国の発展及び地域の平和と安定のために健全な環境を育成する」の件であったはず。この提言を受ける形で、マニラでの習主席とロドリゴ・ドゥテルテ大統領との首脳会談後の共同声明には次のような文言が盛り込まれた。

 「中比両国は防衛と軍事協力が二国間関係の核心であると認識し、テロ対策、人道的支援、災害対応とその軽減、平和維持活動の分野での具体的な協力を通じて、…『防衛協力に関する覚書』を共に履行する」

 このように1年以上も前に中国とフィリピンは防衛協力を決定的に深化させ、フィリピンでの軍事プレゼンス強化を狙う米国や日本の目論見は打ち砕かれていたのだ。

 ワシントンに抗うドゥテルテ政権は、当然のことながら、米破壊工作機関による転覆の対象となる。同政権発足後、フィリピン国軍や公安当局は早い時期から、中東諸国を含む国外のジハーディスト、イスラムテロリストらのマレーシア・ボルネオ領やインドネシアのカリマンタン島、スラゥエシ島などからフィリピン南方海域を経由してのミンダナオ地方への潜入が加速、拡大しているのを確認していた。

 先に触れたように、ドゥテルテ大統領が中国にテロリストの「侵入口」となっているミンダナオ島南方のスールー海域での合同軍事訓練を呼びかけたのはこのためである。また、冒頭の習近平メッセージに「防衛」と並んで「テロ対策」が主要協力事項として盛り込まれたのも中国がドゥテルテ政権を破壊工作から守るとの宣誓であった。

 2017年5月23日、火の手はドゥテルテ大統領のモスクワ到着とともに上がった。

 フィリピン南部ミンダナオ地方で過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うイスラム武装勢力とフィリピン国軍との戦闘がエスカレートしたため、同大統領は公式訪問先のロシアでIS掃討を理由にミンダナオ地方全域に戒厳令を布告。フィリピン政府は第二次大戦以降最大規模となり3000人近い死傷者を出した戦闘の終結を宣言するまで5カ月を要した。

 中国、ロシアとの関係強化を進めるドゥテルテ氏のフィリピン大統領としての初訪露とプーチン政権との軍事提携を含む蜜月ぶりのアピールはその反米路線の総仕上げと言えた。「フィリピンの反逆」に米国とその同盟国が手をこまねき傍観するはずがない。

 1000人を優に超える戦闘集団となったIS系イスラム武装勢力は2016年末までには、ミンダナオ島南ラナオ州マラゥイ市とその周辺地域でフィリピン国軍と散発的ながら激しい戦闘を繰り返すようになっていた。

 同年5月23日付米有力紙デジタル版は、首謀者の一人とされたイスニロン・ハピロンの潜伏先が判明したとの情報提供を受けた比国軍部隊が現場に赴くとそこに多数の武装集団が待ち受けており、これを機に戦闘は一気に反乱へとエスカレートしたと報じた。情報提供時刻はドゥテルテ氏一行のモスクワ到着時間と重なっていた。

 1990年代からフィリピンでテロ、誘拐などを繰り返しているアルカイダ系イスラム過激派組織「アブサヤフ」は、アフガン戦争帰りのジハーディストを中核に創設された。米国はフィリピン政府を介してこれを支援、育成した末、「アブサヤフ」掃討をアフガニスタンに続く対テロ戦争第二弾と位置付け、それを口実に1992年に完全撤収していた米軍をフィリピンに再駐留させた。

 「フィリピンにIS領を!」を旗印にした2017年マラゥイ反乱を首謀したマウテグループは「アブサヤフ」と一体化しており、フィリピン当局はこのグループがドゥテルテ政権を揺るがすことを目的に米国の同盟国サウジアラビア、カタールなどから大掛かりな支援を得ていることを突き止めていた。ドゥテルテ大統領が折に触れ、「CIAよ、私を殺したければ何時でも殺せ!」と毒づいたのはこのためである。

米国のIS支援と新型ウイルス禍

 フィリピン政府は、2017年10月23日にマラウィ反乱の終結宣言を出した。だが2020年3月現在、ミンダナオ地方全域を対象とした戒厳令は維持されている。実際、2018年12月末、マラウィ市と並ぶフィリピン・ムスリムの中心都市コタバト市のショッピングモールで約40人が死傷した爆破事件が発生。2019年初には比最南端スールー州ホロで20人余りが死亡、約100人が負傷したキリスト教会爆破事件があり、「イスラム国(IS)・東アジア州」を名乗る過激派組織が犯行声明を出すなど、無差別テロは絶えることがない。

 フィリピン国軍は、半年近くに及んだ反乱鎮圧で、米国製の高性能武器を多数押収。インドネシア、マレーシアなど近隣イスラム諸国だけでなく、サウジアラビア、イエメン、チェチェンなどからの参戦者を確認した。

 バンコク在住の米国人地政学アナリスト、トニー・カタルッチは「マウテグループ、アブサヤフはともに、サウジアラビアとカタールの支援によってテコ入れされたアルカイダの国際テロネットワークの『延長コード』。新兵は両国に資金提供された『マドラサ(イスラム学院)』の世界ネットワークを通じ供給されている。長年にわたるサウジとカタールによる国際テロへの支援は、米国の提供する物資や政治的支援によって可能になっている」とし、「マウテとアブサヤフの活動はこのパターンにピタリと符合する」と明快に説いた。

 米政府や米軍の高官の中には、イスラム国(IS)が米国に直接、間接に支援されたことを明かした人物が少なからずいた。政府の高官らが保身のため発言を必要以上に自粛しようとし、真実を明かさない日本では考えられないことだった。

 今年2月21日に開かれた年次のミュンヘン安保会議で、米国の代表者たちは「中国が西側の最大の脅威だ」と露骨に口にした。米国がEU諸国に対し「中国ファーウェイの第5世代(5G)通信技術を使うな」と圧力を掛けてきたのは周知の通りだ。米国防総省に至っては「中国と戦う新兵器を開発する必要がある」と強く主張してきた。

 「この新たな兵器の1つこそ、生物化学兵器の新型コロナウイルスなのでは?」との疑念が生じても、あながち荒唐無稽とは言えないほど、米国は5G技術を警戒し、中国の台頭に対して、理不尽にいきり立っていたのである。

中国、韓国、フィリピンの対応

 中国が新型ウイルスの危機から脱出し、さらに覇権を拡大することはワシントンにとっては悪夢そのものである。

 習近平主席はウイルスとの戦いを「地政学的な危機」ととらえたのか、1月23日に武漢を閉鎖し、有事態勢に入った。感染拡大に強硬手段を講じたこの非常対応は、中国政府がウイルス禍を外国による破壊工作と見なしているとの憶測も生んだ。

 一方、米政権はこの3月に米国で米ASEAN首脳会議開催を予定している。だが、ASEAN加盟10カ国中参加を表明したのは3カ国だけという。フィリピンのドゥテルテ政権が反米主義と非同盟運動を率いたマレーシアのマハティール政権を後継しつつある。米国の対ASEAN外交は破綻寸前である。

 さらに「米韓同盟消滅」は保守の朴槿恵政権時代から取り沙汰されてきた。韓国の最リベラルの文在寅政権が、「米国の統治」からの離脱を胸の内に秘めているのでは、という疑いは、そう簡単には消えない。

 15日未明現在、本土で感染者8万3094人、うち死者3221人の中国、感染者2万4747人、うち死者1809人のイタリア、下記のイランに続き、韓国はそれぞれ8162人、75人。イタリアに続いていた感染者は3月1日から倍増した。

 フィリピンの主要英字紙は1月末、「比当局、東南アジア初の感染者を確認」と報道。3月9日現在の感染者は50人未満だったが、ドゥテルテ大統領は「公衆衛生の緊急事態」を宣言し、マニラ首都圏の全学校を同14日まで休校にするよう指示した。12日にはマニラの封鎖に踏み切っており、今後の感染爆発を厳戒している。マニラではあの楽天的なフィリピンの人々が日本人並みの緊張感を漂わせている。「自分たちが標的になった」と直感したかのようだ。

 米国と貿易戦争で激しくぶつかりあっている中国の国内でコロナウイルスが突然出現し、同様に米国に敵対するイランも15日午前現在、感染者1万3938人、死者724人。新型ウイルス禍が急拡大しているこの事実も、地政学的な緊張の構図と重ね合わされる。

 国際的協調がこれほど必要な時はないのにもかかわらず、第三次大戦勃発の可能性が一部で取り沙汰されるのは、そうした「偶然」と無関係ではない。

欧州での急拡大どう見る

 一年前の2019年3月下旬。中国の習近平国家主席は王毅外相らを引き連れてイタリアを訪問。習主席は「インフラや港湾などの分野で協力を深めたい」と述べ、イタリアとの連携強化に意欲を示した。コンテ首相との会談後、中国が推進する広域経済圏構想「一帯一路」で協力する覚書を交わした。

 イタリアと中国はかつて古代のシルクロードで結ばれ活発な貿易で繁栄してきた。マッタレッラ大統領と会談した習主席は「古代のシルクロードを再生させたい」と提言。同大統領も「(一帯一路は)両国のビジネスの協力を増やす枠組みになる」と歓迎した。

 中小企業の倒産、高い失業率など厳しい経済環境にあるイタリアは一帯一路への協力で中国から巨額の投資を呼び込み、経済活性化の起爆剤にしたいとの思惑があった。だが、欧州連合(EU)は中国を「競合相手」として重要インフラへの影響力拡大を懸念し、イタリアと中国の接近を警戒。米国家安全保障会議(NSC)も「中国のプロジェクトに正当性を与えるべきではない」と猛反対した。

 2020年3月。感染拡大に歯止めのかかった中国に替わり、新型コロナウイルスによるパンデミックの中心となった欧州。感染爆発はまずイタリアで始まる。そしてフランス、スペイン、ドイツへと燎原の火のように広がった。

100%米国とともに

 1950年6月の朝鮮戦争勃発直前、米国の対共産圏包囲網には朝鮮半島は含まれていなかった。トルーマン米政権でNATO結成に尽力したディーン・アチソン国務長官(当時)は1950年1月、極東地域でもアリューシャン、日本・沖縄、フィリピンに対する軍事侵略に米国は断固として反撃するとの演説を行った。この「不後退防衛線」はアチソン・ラインとして知られる。

 台湾、朝鮮半島、インドシナ半島については明確な介入についての意思表示を行なわなかったため、これが朝鮮戦争の誘因になったとされ、休戦後の1953年10月に米韓相互防衛条約が締結されて韓国は上記「防衛線」に正式に組み込まれた。

 フィリピンの米国からの離脱でアチソン・ラインに大きな穴が開いた。韓国の動向次第では東アジアのパワーバランスは決定的な変更を余儀なくされる。安倍政権は2012年末の再登板後直ちに、在韓米軍撤退の可能性に備えるかのように米国、オーストラリア、インドとの防衛協力強化を目指す「セキュリティダイヤモンド構想」を打ち出し、それは「自由で開かれたインド太平洋戦略」へと展開した。ただし、ハワイに司令部を置く米太平洋軍が米インド太平洋軍と名称変更したことからだけでも、安倍構想とは名ばかりでそれが米国の指令であったことは明々白々である。

 第二次安倍政権が発足した2012年12月にはフィリピンの米国からの離脱はまったくの想定外であり、日本政府は現在、躍起になって米国のアジア戦略の抜本的見直しに100%従属してついていこうとしている。

新型コロナ禍巡る日米連携

 実際、新型コロナウイルス禍を巡る日米の対応はこの国際政治の動向と同時並行して進められている。

 米国は3月5日のカリフォルニア州に続き7日にはNY州が緊急事態宣言を出した。CDCなどの保健当局は「新型ウイルスの米国内流行は『不可避』」と警告。2月24日にコロナウイルスへの緊急対策案を議会へ送ったトランプ大統領は3月13日に感染拡大を受けて国家非常事態を宣言し、最大500億ドルの連邦政府の災害用基金を州政府などの支援に使うと発表した。

 民主党だけでなく、政権与党の共和党内からも議会を中心にトランプ大統領の消極姿勢と対策の不十分さに大きな批判の声が上がっていたための非常事態宣言と見られる。金融、軍産、石油メジャー、ITを主流とする米国の支配層はトランプ政権に新型肺炎の対策に「本腰を入れるよう」強く促した模様だ。その結果はどうだったか。

 米FRBと米国政府は、500億ドル(約5兆4000億円)にも及ぶ財政出動し、ゼロ金利まで政策金利を引き下げ、7000憶ドル(約74兆円)もの量的緩和政策を行うなど、あらゆる施策を打ったものの、NY市場はまったく好感せず、週明け16日は午前9時半の開場とともに、2250ドル安をつけ、サーキットブレーカーが発動、15分間、取引停止となった。

 一方、安倍政権は1月31日、新型コロナウイルス感染症対策本部設置を閣議決定。上記のように2月27日には安倍首相が第15回対策本部会合で公立小中高校の「一斉休校」を要請した。その衝撃の激烈な波及ぶりは冒頭触れた通りだ。首相の取り巻きは中国人の入国禁止措置を尊大な言動で要求し、日本の人々の「反中感情」の高まりを煽りたてた。

 新型コロナウイルス禍の場合、厚生労働省の公表によると、3月1日の国内感染者239人が4日にはクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客の感染者700人余りが加えられた結果、一時1000人を超えた。国内の死者は5人から12人になった。この数字が修正された10日午前現在、感染者は514人(前日比26人増)、死亡者は9人(同2人増)だ。

 WHOによると、国外の状況は日本時間16日午前現在、新型コロナウイルス禍は141の国・地域で16万9390人に及び、うち6420人が死亡した。1日現在の感染者は8万4468人、死者は2913人だった。中国の世界全体での死者比率は急減しているが、10日現在、それでも約8割を占めている。欧州での爆発前の3月初めには98%にも達していたため、パンデミックとの表現に疑問符を付ける論者もいた。

 こんな中、米国では3日、トランプ大統領が日本人の米国入国制限を検討するかのような発言を行った。これに対し、菅義偉官房長官は4日の会見で打ち消したものの、欧州に対して行った入国制限が、日本に対しても行われる可能性がないとはいえない。

 いずれにせよ、安倍首相はワシントンに付き従い、総裁4選と中国包囲網再構築に向けぎりぎりの勝負に出たようだ。ただし、後者が奏功する見通しは立っていない。

ASEANの離反

 自衛隊法の一部改正をはじめとする安全保障関連二法案が参議院で可決されていわゆる新安保法制が成立し、戦後の歴代政権の維持した専守防衛路線が根底から覆されたのが2015年9月。その3カ月前、安倍首相は「安保法制は南シナ海の中国が相手なの。やる(法案を通す)と言ったらやる」とオフレコ発言。新安保法制の主たる狙いが南シナ海での中国との有事を想定し、自衛隊を米軍とともに集団的自衛権の行使に備えさせることであると打ち明けていた。

 このような経緯の下、安倍政権は南シナ海を軍事拠点化した中国の脅威をことさら煽り立て、この脅威に直に対峙すべくフィリピンの旧米海軍基地スービックに自衛隊を米軍とともに実質駐屯させるため比政府と交渉を進めてきた。しかし、ドゥテルテ比政権は今や安倍政権を冷笑するかのように自衛隊が米軍に付き従いスービックを拠点に中国を封じ込めたいとの意向を一蹴してしまった。

 EUを離脱した英国は近く南シナ海に面したブルネイかシンガポールに英海軍基地を設けると伝えられる。太平洋に領土を持つかつての欧米列強である英仏両国が東アジアに回帰したところで、韓国、フィリピンの欠は到底埋まることはない。

 日本政府がNATOに事実上加盟し、米国のほかオーストラリアに続いて英仏とも準同盟関係を結んだとは言え、対中国包囲網が再構築され、強化される保証はない。

 シンガポールのリー首相は2017年、「米国を選ぶか、中国を選ぶか二択の時代が到来した」と語った。ASEAN諸国の大勢は親中国、ないしへ中立と向かっている。

 この状況はワシントンと日本の安倍政権をはじめとする「米同盟国グループ」にとって到底受け入れられないものであろう。

 イスラムテロリストによるフィリピンのドゥテルテ政権転覆の企てに続き、今度は新型コロナウイルスという目に見えない、国力を次第に衰退させる新兵器で中国に攻撃が仕掛けられたのではないか、との疑念が打ち消しても、打ち消してもまた生じてくる。証拠に欠けるとはいえ、陰謀論として一笑に付すことができるかどうか。まだ断定はできない。

 新型コロナウイルス騒動の裏に眼を光らせ、この騒動を地政学的な「好機」とするような動きがあれば、注意を払う必要がある。

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