イスラム法学者・中田考氏が駐トルコ・ロシア大使殺害事件を解説! 「トルコは今回の事件に対して非常に難しい対応を迫られている」―日本のマスコミには絶対解説できないトルコとロシアの思惑 2016.12.21

記事公開日:2017.1.12取材地: テキスト動画
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(取材・文:須原拓磨)

特集 中東
※1月16日テキストを追加しました!

 「アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな。この惨劇に加担する者たちを殺して死ぬ。アッラーフアクバル」――。

 2016年12月19日、トルコの首都・アンカラで、駐トルコ・ロシア大使のアンドレイ・カルロフ氏を銃殺したトルコ人の警察官メヴルット・メルト・アルトゥンタシュ氏(22歳)は、そう叫んだ。「アッラーフアクバル」は、「アッラーは偉大なり」を意味する、イスラム教の祈りの言葉だ。

 カルロフ大使は、写真展の開会式でスピーチをしている最中に、突如として、背後から銃で撃たれた。この事件をうけ、12月21日、東京都内で、イスラム法学者で元同志社大学教授の中田考氏が、「日本のマスコミには絶対解説できないトルコとロシアの思惑」と題して講演を行なった。

▲アンカラでのロシア大使殺害を報じるロシアの通信社「スプートニク」

▲アンカラでのロシア大使殺害を報じるロシアの通信社「スプートニク」

 同日21時39分、ロシア通信社のスプートニクは、「ファタハ・アルシャム(旧:ヌスラ戦線)」がこの事件について犯行声明を発表したことを報道。この件に関しては、12月22日にIWJ代表・岩上安身が連投ツイートしているので、「岩上安身のツイ録」をぜひ御覧いただきたい。

 また、岩上安身は、これまで中田考氏へ単独インタビューを幾度も重ねている。是非、以下のURLよりアーカイブを参照されたい。

■ハイライト

プーチン大統領とエルドアン大統領が「犯行は、トルコとロシアの関係を壊そうと企む者による」と口をそろえるも、実は「ロシアとトルコの関係が非常に危うい」!?

 中田氏はこの事件は「歴史に残る事件」と位置づけたうえで、「大使というのは、外交儀礼上は、天皇、あるいは首相のカウンターパートなわけです。ですので実は、日本の大臣たちよりも偉いんです。大使というのは、要人なんです」と事件の重大性を語った。

▲講演を行なうイスラム法学者で元同志社大学教授の中田考氏

▲講演を行なうイスラム法学者で元同志社大学教授の中田考氏

 この事件をうけ、ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は、「犯行は、トルコとロシアの関係を壊そうと企む者によるものだ」と明言。両者の発言の意図について中田氏は、「ロシアとトルコの関係が非常に危ういから。盤石なのであれば、そもそもこんなことを言う必要はない。神経質になってこういうことを言っている」と評した。

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ギュレン運動が事件に関与した証拠は!? 中田考氏「証拠をつかんだとは思いにくい。推測によって言っているんだろうとしか思えない」

 エルドアン政権を支える与党・公正発展党に属しているカニ・トゥルン議員はアルジャジーラの取材に応え、「犯人にシリアのイスラーム主義者と接触したとの情報はない。(犯人は)ギュレン運動の残党の可能性が高い」とし、穏健派のイスラム主義勢力「ギュレン運動」がこの事件に関与しているとの見方を示している。

▲米国に亡命中のギュレン師。教育、社会奉仕、宗教間対話を重視する「ギュレン運動」を指導している(写真・Wikipedia)

▲米国に亡命中のギュレン師。教育、社会奉仕、宗教間対話を重視する「ギュレン運動」を指導している(写真・Wikipedia)

 「犯人にシリアのイスラーム主義者と接触したとの情報はない」という発言について中田氏は、「(犯人が)22歳と若いので、それなりに簡単に過去を追える。そもそも警官ですので、雇う前から身元調査をしている」と述べたものの、「(ギュレン運動が関与しているという)証拠をつかんだとは思いにくい」と指摘。「推測によって言っているんだろうとしか思えない。ギュレン運動しかありえないからそうなんだ、という論理だ」と話した。

 ギュレン運動について中田氏は、「ギュレン運動は、トルコのイスラム主義運動で、最も強大な力がある運動。しかも、非常に穏健なイスラム運動と言われてきた」と説明する。

 中田氏によると、エルドアン政権が権力を握ってから、ギュレン運動とエルドアン政権との亀裂が非常に深まっており、特に決定的になったのが、今年の夏のクーデターで、このクーデターによって、ギュレン運動は、トルコの国内ではテロリスト組織として認定されたという。

犯人はエルドアン政権のコアな支持者!? 「エルドアン政権が苦しい立場に置かれている」

 また、中田氏は、トルコが今後、この事件に対して難しい対応を余儀なくされる可能性があることにも言及した。

 「今回、暗殺を起こした人間は、おそらくエルドアン政権のコアな支持者です。それは、対外的に言われては困ることなんです。エルドアン政権のコアな支持者が、そこまでロシアを憎んでいるという話をされると、当然、まともな外交関係ができないですよね。少なくとも口には出せないです」

 そのうえで、「ところが、(エルドアン政権の)コアな支持者なわけですから、犯人の言った『アレッポを忘れるな、シリアを忘れるな、残虐行為をやっている人間は殺してしまえ』というのは、エルドアン政権のコアな支持者の本音なわけです。ですので、そうむげに扱うわけにもいかない。なので、できるだけ目をそらさせるしかない」との見解を示し、エルドアン政権が苦しい立場に置かれていると主張した。

ロシア、トルコ両国の国民の反応はいかに――中田氏「犯人に同情する気持ちが、トルコ国民の方には結構あります」

 講演後、この事件に対するロシア、トルコ両国の国民の反応について中田氏に話をうかがった。

(…会員ページにつづく)

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