ロシア大使殺害テロ、「ヌスラ戦線」が犯行声明。ロシアのスプートニクが伝える。これが事実だとすると、シリア「内戦」における外部からの介入による代理戦争の構図が激変する可能性がある。
- ロシア大使殺害テロ、「ヌスラ戦線」が犯行声明(スプートニク、2016年12月21日)
(岩上安身)
※2016年12月22日のツイートを再掲しています。
ロシア大使殺害テロ、「ヌスラ戦線」が犯行声明。ロシアのスプートニクが伝える。これが事実だとすると、シリア「内戦」における外部からの介入による代理戦争の構図が激変する可能性がある。
アル=ヌスラ戦線とは何者か。もともとはアルカイダの一味であり、欧米からはテロ組織としてみなされたり、欧米が支援すると言われる自由シリア軍のような「穏健派の反体制派(反アサド派)」の同盟者として評価されたり。
実際、アル=ヌスラ戦線は、アサド政府軍と戦ってはいる。シリアにおける反体制派、反アサド政権派であることは間違いない。その一方で、ISからは「我々の支部である」と言われたりもする。アル=ヌスラ戦線は否定しているが。
実際のところ、過激度合いなど色合いに違いはあるにせよ、スンナ派のサラフィー・ジハーディーという点で、ISもアルカイダも、そのアルカイダの一部であったアル=ヌスラ(アルカイダからは離脱したと称している)も、そう大きくは変わらないと思われる。
NHKなどでは、アレッポの戦いで、ロシアに支援されたアサド軍の猛攻に、じりじりと撤退する「反体制派」と報じられているが、その「反体制派」が、ISなのか、アル=ヌスラ戦線のようなアルカイダなのか、自由シリア軍なのか、ぼかされている。
今回の声明が確かなものであり、アル=ヌスラ戦線が、アレッポの戦いで敗退したことを恨み、アサド軍をバックアップしているロシアに一撃を加えるつもりでこの駐土ロシア大使暗殺を企て、実行したなら、とんでもない逆効果となってしまうだろう。
ISは、誰にとっても「敵」と映りうるが、アル=ヌスラ戦線は、微妙な立ち位置にある。正体がアルカイダの分派と明らかである限り、欧米は容認できないはず。
ところが、アメリカ、そして湾岸諸国やトルコなどは、実際のプレゼンスはなきに等しい「自由シリア軍」などの「穏健派の反体制派」の「同盟者」という扱いで、こっそりアルカイダの一部であるアル=ヌスラ戦線を支援してきた。
アメリカにとって、シリアでの戦いは、第一義的には「テロリスト=ISやアルカイダのようなイスラム過激派」との戦い、とされるが、実際のところ、中東におけるロシアの橋頭堡の役割を果たすアサド政権を打倒することが、隠された、真の戦略的目標だった。
ISを叩く口実で、その一方でISの兄弟分であるアルカイダの一部のアル=ヌスラ戦線に支援してきた欧米および中東のスンナ派諸国のダブルスタンダードは、今回のテロ事件で、IS同様にアル=ヌスラ戦線を標的せざるをえなくなり壁に突き当たった。
事件直後のトランプの、ロシア大使へ哀悼の意を表明するとともに、「この地上からテロリストを一掃する」とした宣言は、この暗殺事件が、これまでのわかりにくいダブスタを解消して、ロシアとの共同戦線を構築する格好の口実となりうることを示した。
その意味では、この事件は、選挙期間中から「ロシアと組んでISを攻撃して片付ける」と明言していたトランプの姿勢を、結果として後押しをする形になる。オバマ政権が演じてきた、ややこしい矛盾したダブスタ戦略は、終わりを告げるかもしれない。