「緊急事態条項」への認識を問う! 憲法を「眠らせ」ようとしているのは誰か 民主党は「ナチスの手口」に屈するのか?~岩上安身による単独直撃インタビュー 第601回 ゲスト 岡田克也代表 2015.12.25

記事公開日:2015.12.25取材地: テキスト動画独自
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(記事構成:平山茂樹、インタビュー・文責:岩上安身)

◆ヤバすぎる緊急事態条項特集はこちら!

※2016年1月21日テキストを追加しました!

 基本的人権を制限し、国会の事前承認なく、総理が予算措置まで行える――。そんな驚くべき内容が、自民党憲法改正草案に書き込まれている。第98条、第99条として新たに創設される、「緊急事態条項」がそれだ。

 政府に権限を集中する緊急事態条項は、大災害や大規模テロの際、一見、必要なものであるように思える。事実、2015年11月13日にパリで同時多発テロが発生した際、フランスのオランド大統領は、「非常事態宣言」を発令した。

 しかし、一部の識者が指摘するように、安倍総理が創設を狙う緊急事態条項は、いったん導入され、実際に発令されたら取り返しがつかない、極めて危険なものだ。「緊急事態」の期間に期限が定められていないことから、緊急事態条項を発令したが最後、立法権を含め、あらゆる権力が内閣に集中し、永続的に国家に属したままとなってしまう危険性がある。

 国民に公権力への服従を強制する項目もある。現行の憲法秩序は一時停止したまま、そのまま「眠らされ」てしまい、内閣が国会にはからずに一方的に出してゆく政令が、法秩序を形成することになる。

 「緊急事態」といいながら、その「解除」ができないので、独裁者となった総理は、永続的権力を握り、日本は民主主義が機能しない、永続的専制国家になってしまう。

 この緊急事態条項を巧妙に利用し、独裁体制を築いたのが、ヒトラーが率いたナチス・ドイツだ。ナチス・ドイツは、1933年2月28日、国会放火事件に乗じて「緊急事態宣言」を発令。共産党の国会議員や左翼運動の指導者など、プロイセン州だけでなんと5000人を逮捕した。

 このことから、ドイツ国内ではナチスに対する抵抗運動は弱体化。非常事態宣言のわずか1ヶ月弱後の1933年3月23日、ナチス政府に無制限の立法権を授与する授権法(全権委任法)が成立した。つまり、授権法が成立する以前、緊急事態宣言が発令された時点で、抵抗勢力の抵抗は押しつぶされ、ナチスの一党独裁への道は引き返せない状態になってしまったのである。

 当時、世界で最も民主的な憲法だったワイマール憲法は、こうして一時停止され、廃絶も改正もされることなく、眠らされてナチスの専制におきかわった。今度の参院選で自公を筆頭に改憲勢力が3分の2を取れば、日本国憲法を一条も改正することなく、現行の憲法制度を「眠らせる」ことができる。

 「ナチスの手口を学んだらどうか」――。2013年7月29日にこう発言したのは、麻生太郎副総理である。今の時点で振り返ってみれば、衆参で3分の2議席を獲得し、「明文改憲」によって緊急事態条項を創設するということが、麻生氏の言う「ナチスの手口」だったのではないか。また、それを可能とする緊急事態条項を含む自民党憲法改正草案を2012年4月27日の時点で用意していたのだ、ということが恐ろしい。「ナチスの手口をまねる」戦略は、周到に準備され、練られた戦略だったのだ。

 2015年12月25日、私は、民主党の岡田克也代表に、この「ナチスの手口」について直撃した。しかし、最大野党のトップから返ってきたのは、「色々と解釈はあるが」などという、なんとも煮え切らないものだった。

 岡田氏には、緊急事態条項に対する危機感はないのか――。しかし、このインタビュー後、岡田氏の発言に変化があらわれた。2016年1月16日にBS朝日で放送された番組内で、緊急事態条項の創設に対して、「法律がなくても首相が政令で国民の権利を制限できる。これは恐ろしい話だ。ナチスが権力を取る過程とはそういうことだ」と述べたのである。

 岡田氏の認識が、どの時点で改まったのかは定かではない。しかし、いずれにせよ、岩上安身のインタビュー後、年をまたいで岡田氏が緊急事態条項とナチスの独裁をつなげて考えるようになったことは事実である。

 そして、こうした正しい危機認識を野党第一党の代表が表明するようになった、その変化自体は大いに歓迎すべきことである。

 「緊急事態条項」を創設したあとに、9条改正をめぐる攻防も何もない。現行の憲法制度自体が「眠らされ」てしまい、抵抗の手段も根拠も、我々は失う。強大化した国家権力は、躊躇なくあらゆる実力をもって、国民のこれまで現行憲法下で当然に認められてきた権利の主張や抵抗をねじふせるだろう。

 以下、2015年12月25日に私が行なった、民主党・岡田克也代表へのインタビューの模様を掲載する。1ヶ月前であることにご留意いただきたい。政治家は変わる。変わりうる。良い方向に変わらせられるかどうかは、有権者次第である。

■イントロ

  • タイトル 岩上安身による民主党・岡田克也代表インタビュー
  • 日時 2015年12月25日(金)12:30〜
  • 場所 民主党本部(東京・永田町)

「憲法9条改正が本丸」「緊急事態条項はこれからの議論」・・・岡田代表の認識は本当に正しいのか?

▲民主党・岡田克也代表

▲民主党・岡田克也代表

岩上安身「来年の参院選では争点がたくさんあると思いますが、マスコミが完全にスルーしている隠れ争点の『明文改憲』、そして、その最初に盛り込まれる『緊急事態条項』について、岡田代表はどうお考えなのでしょうか? 賛成なのか反対なのか? 反対ならばどう阻止するとお考えでしょうか?」

岡田克也代表(以下、岡田・敬称略)「まずその前に・・・。緊急事態条項もありますが、憲法9条の改正こそが、安倍総理の目指す究極のものだと思います。総理は、限定的な集団的自衛権の行使は憲法上認められるんだと言っていますが、目指しているのは限定のない集団的自衛権の行使だと国会で言いました。

 私は参院選の結果によっては、憲法9条の改正につながることを最大の問題だと言っているのです」

岩上「なるほど。現状の議席を見ると、改憲の発議に必要な3分の2の議席数を、衆議院は与党だけですでにクリアし、参議院に関して言えば残り11議席という状態です」

岡田「議席で言うと、今は、5年前の参院選で我々がある程度の議席を確保しているので、議席数はこのような配分なのですが、2013年の参院選が繰り返されたら、必ず与党で3分の2に達してしまう、という状況です」

岩上「心配なのは、民主党の議員のなかに改憲派がおり、中には緊急事態条項に賛成の議員もいます。彼らが離党して改憲勢力に加わってしまうという懸念があります」

岡田「それは想像力たくまし過ぎです。緊急事態条項は、中身はこれからの議論ですから」

岩上「例えば民主党の山尾志桜里衆院議員は、2011年の衆議院憲法審査会で、3.11を踏まえて、『非常事態に危機にさらされる国民の生命財産等の人権を守るため、内閣総理大臣に権限を集中して人権を制約することが必要だ』などと発言しています」

岡田「具体的にどういう要件で権限を集中するのか、ということについて白紙委任しているわけではありません。もちろん一定の権利の制約は緊急事態においてはあるかもしれませんが、それは何をどのように制約するかという議論があってのものです」

 山尾議員はこういう風に言われたかもしれませんが、それは一般論として言っているだけで、それだけをもって人権が制約されるような印象は違うと思います。彼女は人権感覚が非常にある方なので、それを前提として発言をみていただきたい」

岩上「であればなおさら議論と説明が必要になってきますよね?」

岡田「それはこれからの議論です」

岩上「しかし自民党は2012年から改憲草案を示して、そのなかに緊急事態条項もずっと入っていました。『これからの議論』というのはちょっとどうでしょうか?」

岡田「私は、総理が目指しているのは憲法9条の改正だと確信していますが、『緊急事態条項だと国民に受け入れられやすいのではないか。そこから入れば容易に改憲できるのではないか』という安倍総理の『誤解』があると思います。それは、総理が憲法の本質を分かっていないからです」

 『権力を規制する』というのが憲法ですから、緊急事態だからといって何でもできるわけではない。改憲で盛り込むにしても、そこには要件をきちんと書き込まなければならないわけで、安倍総理の甘い考えのもと改憲草案通りになるということは考えられない」

残りたった11議席! 民主党はこのままむざむざと、夏の参院選で改憲勢力に3分の2議席を取らせてしまうのか?

岩上「緊急事態条項の問題点はたくさんあります。国会の事前同意なし、基本的人権の制限、法律と同じ効果を持つ政令の制定が可能になる、総理が予算措置を行える、『緊急事態』の期間に制限がない、衆議院の任期が延長できる、地方自治がなくなるなど、もの凄い内容です」

岡田「ええ、とんでもない内容です。憲法は『国民を権力行使者から守る』ものだという基本が分かっていないから、こうした議論に耐えない案しか出てこないわけです。これがそのまま国会に提出されるとか、国会で通るなんてことは我々は考えていません」

岩上「しかし、残り11議席ですよ。改憲勢力が3分の2議席を握り発議され、今のようにメディアも無警戒な状態で、護憲派も9条だけを議論し、その一方で『ジョーカー』のような万能カードである緊急事態条項を、油断のなかで通してしまったら大変なことになりますよね」

岡田「私は、自民党の中でもまともに議論したら『これ(緊急事態条項)はやばい』という声が圧倒的だと思いますよ。だけどもし安倍総理が国会に出してくるということであれば、我々はとても受け入れるわけにはいかない」

岩上「岡田代表は『本丸は9条』とおっしゃいますが、出城のように見える緊急事態条項も阻止するというお考えですか?」。

岡田「3分の2議席を取らしたら、今の安倍政権は何をするか分からない。だから参院選は大事なんです」

「色々と解釈がある?」~緊急事態条項は「ナチスの手口」ではないのか

岩上「『一人一票裁判』の升永英俊弁護士はこの問題に危機感を持ち、新聞に意見広告を出しました。内容は、緊急事態条項はナチスの手口と同じだというもの。ナチスは全権委任法で権力を掌握したと思われがちですが、実はその前の緊急事態宣言が決め手だったんです。

 ナチスは選挙期間中に、この宣言に基づき共産党の国会議員や左翼運動の指導者など、プロイセン州だけで五千人を逮捕したのです。麻生さんが言った『ナチスの手口』とはこの事だったのではないでしょうか」

▲升永英俊弁護士が新聞各紙に出した意見広告

▲升永英俊弁護士が新聞各紙に出した意見広告

岡田「そこは色々と解釈があるのでは・・・。

 条項の『衆議院の任期を延長することができる』というのは、我々も言っています。選挙ができなくなる程の大災害で、参議院だけで国会を回すとなると、それもマズい——こういう議論をしている。衆議院を残すのが民主的なのかどうかは議論の分かれる所ですが」

岩上「災害対策の専門家である永井幸寿弁護士は、災害時に緊急事態条項は不要だと言っていますが」

岡田「被災地の衆院議員は残し、その他の地域は選挙するという選択肢もあるのではないでしょうか」

岩上「いえ、自民党案には任期延長と・・・」

岡田「自民党案を前提に議論する必要はないです」

▲岡田克也代表は「緊急事態条項」よりも「9条改正」が本丸だと言うが・・・

▲岡田克也代表は「緊急事態条項」よりも「9条改正」が本丸だと言うが・・・

「共産党と我々では考え方は相当違う」~共産党を含めた野党共闘の可能性はほぼゼロ!?

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  1. 河村大典 より:

    岡田代表の苦肉の選挙対策ががうかがえます。選挙協力をすべきだという声と、共産党とは組めないという声に合致した選挙戦術の話しであると思います。しかしこれでは野党統一を望んでいる国民には理解できないと思います。要は野党共闘をするのは自公に勝つための手段なのではないのでしょうか。つまり最大の目標は自公の候補者に勝つことなのです。それは民主党に落胆してし選挙に行かなかった有権者を戻すことにもつながります。恐らく自民党と民主党の立場が逆であったらどんな手段でも使って政権をとりに行くでしょう。岡田さんが新進党にいた時に水と油といわれた自民党と社会党が政権をとったのです。選挙選に勝つということは理論ではなく行動なのです。また、参議院は政権を選ばないといっていますが民主党政権誕生も参議院が逆転することから始まったのではないのでしょうか。

  2. 横山 太一郎 より:

    民主党の岡田氏の話で
    この様な考えは甘くはないでしょうか?
    何でも常識のない安倍政権ですよ
    何をするか分からないと思いますよ
    (転ばぬ先の杖で)ではないですが早く手を打つべきです。

  3. 横山 太一郎 より:

    民主党が認める、認めなくても自民党は強行採決でも何でもしますよ。

  4. 清沢満之 より:

    ※公共性に鑑み、ただいま動画全編公開中!

    2015/10/21 「災害時に、国家緊急権は役に立たない」緊急事態条項・ “反対派” の永井幸寿弁護士との議論で、”賛成派” の小林節氏に「地殻変動」!~ 『国家緊急権』を徹底討論!
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/271317

    2015/12/19 安倍政権が改憲で狙う「緊急事態条項」の “途方もない危険性” ~日本で今、一番詳しい永井幸寿弁護士に訊く! 岩上安身による “超重要全国民必聴” インタビュー!(動画)
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662

  5. 西遠寺 透 より:

    民主党党首の岡田さんは、大局的な見かたをされ言葉を選んで話されています。残念なことですが世が世なら総理になられていたでしょう。お話に見え隠れした「議席数を守ること」をまず第一に考える守りの姿勢ですと、選挙で政府与党の「攻めの姿勢」にいとも簡単に既存の議席を奪われるでしょう。政府与党は急ぎすぎで、安全保障も危ういなと思っている人の中には、いっそ自民党を支持して堕ちるところまでおちようとニヒルに考える人もでてくるでしょう。それは戦前の進歩的な思想家にみられた「転向」と相似しています。
     さて、選挙を2016年7月に控え、野党でありながら自民党政権にすりよる「おおさか維新」の動きは、維新との政策協議をしてきた民主党にも影響があるでしょう。どこであっても党を割るのは骨肉の争いになります。同じ事をする気概が民主党「右派」にあるのかどうかといえば、無いでしょう。その民主党「右派」が期待を寄せる「自民党の良心ある人々、具体的には岸田派でしょうかー」は、与党を割る覚悟があるかといえば殆ど無いでしょう。公明党もまた然りです。
     選挙は、日本の政治が主権がどちらかといえば知性でなく「感情で動く」ものであることを如実に示します。熱のこもった候補者とその支持者と、対極にある無関心・無投票層。選挙で関心を惹くのは、減税か増税か、景気対策、そして補償・補助金です。経済効果はたてまえ口上は省庁の作文にゆだねますが、主権者の「感情」に直に訴えるもので、普段政治に無関心の人にも正論による理屈よりもはるかに強い説得力あを持ちます。
     民主党は野党勢力を結集して政権交代をめざすつもりが本当にあるのでしょうか。
     たとえば日本共産党が党の歴史を尊重しつつ、その党名と、綱領を一部変更し、野党第一党をめざし野党の主導権と一定数の国民の支持を得たとき、民主党は野党第二党に格下げする恐れを全くいだかないのでしょうか。自民党とさしてかわなぬ「野田政権」の影がまだある民主党には、野党共闘のための妥協と、与党候補を落選させる大規模な政治運動をする責任があると思います。

    今回の選挙は、もちろん憲法改正をかけた選挙です。

    主権者はもう少し考えてみようじゃないか!  私自身の自戒をこめて。

  6. 西遠寺 透 より:

    民主党には、今年、日本共産党との共闘をすすめてほしいと思います。今年の参議院選挙は日本社会の命運を左右する選挙ですので民主主義を貫く2党の協力を、「歴史的共闘(略称 れっきょう)」、と呼びのがふさわしいと考えます。

  7. よかちょろ より:

    野党第1党の党首としては頼りなさを感じました。具体的な選挙戦略の話もなし。
    安倍政権にやられっぱなしだという自覚はあるんでしょうか?
    野党が結束しなければ狂気の政権を止めることはできませんので、もちろん民主党にも頑張ってほしいですが、どうも党首自身に策がないように見えます。それは危機感の欠如の裏返しであるかもしれませんね。

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