「災害時に、国家緊急権は役に立たない」緊急事態条項・反対派の永井幸寿弁護士との議論で、賛成派の小林節氏に「地殻変動」 ~国家緊急権を徹底討論! 2015.10.21

記事公開日:2016.4.16取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山格章)

※緊急事態条項に関する記事を公共性に鑑み、ただいま全編特別公開中!

特集 緊急事態条項
菅官房長官は2016年4月15日の記者会見で、熊本地震に関連し緊急事態条項を「極めて重い課題」と発言。

※12月2日テキストを追加しました!

 「あの人たちに、その制度(国家緊急権)を与えたら、国体護持のための行動に動き出しかねない」──当初、国家緊急権の創設に理解を示していた憲法学者の小林節氏は、議論を重ねる中で、憲法を無視して物事を進める安倍政権のやり方を振り返り、「私は楽天主義者だった」と発言。最後には、「災害時に、国家緊急権という概念を持ち出さなくてもいい」と明言した。

 2015年10月21日、東京・千代田区の霞ヶ関コモンゲート西館にて、「災害対策を理由とする【憲法改正】についての報道及び関係者向け意見交換会 ~緊急事態条項「国家緊急権」の創設は必要か~」が行なわれた。被災者支援に携わる有志弁護士の会が主催し、兵庫県弁護士会の永井幸寿氏、慶應義塾大学名誉教授の小林節氏をゲストに迎えた。

 小林氏は、国家緊急権創設に賛成の立場から論を進めた。「震災は戦争と性質が同じ。普通に機能している社会が一気に壊され、社会が機能しなくなる。一番大事なことは攻撃を止めるということ。止められないなら、攻撃から逃げること。そして、残された人的・物的資源をフルに使って、早く国民生活を最低限機能するように戻す。これが緊急対策として国家権力がやるべきことです」。

 一方、災害関連法規に詳しい永井氏は、国家緊急権創設に反対を唱えている。「政府が国家緊急権を持てば、緊急事態ではないのに使ってしまう。いったん握った権力を離さない。あるいは、過度な人権制限をする。災害時には、事前に整備した法律で対処できる。国家緊急権は、政府が濫用する危険がある」と懸念を示した。

 小林氏は、国家緊急権の目的やそのシステムについて、「目的は国体の維持ではなく、主権者国民が幸福に暮らすことを前提として、社会の状態を維持回復すること。そういう観点から非常事態を宣言した場合には、部分的に憲法は停止される。すなわち、国家権力を内閣総理大臣に集中し、被災地域の復旧に全力を尽くす。復旧がおよそ済んで、日本国全体として機能する状態になれば、速やかに解散総選挙して、内閣による対処の正当性を政治的に審判する。そこまで憲法に書いておく」と説いた。

 永井氏は反対の姿勢を崩さない。「日本政府がいったん国家緊急権という強大な権力を握った時、その後、容易に手離せるのか疑問だ。日本の場合、国会は議院内閣制で、多数派が政府を形成する。その多数派が(自制的に権限を)コントロールできるのだろうか。また、今の最高裁は、基本的には政府に追随する判決しか出さない。これで国家緊急権ができてしまったら、その傾向はなおさら強まるだろう。憲法のシステムとして、国家緊急権を作ることについては、私は大変な危惧を持っている」。

 さらに、東日本大震災当時、宮古市で支援活動をした永井氏は、「国に法の権限を与えても、まず、被災地の状況はとても把握できない。その人たちに判断権を委ねると間違いが起こるし、国の判断を現場で待っていたら、生死の間際にある命は待ってくれない。災害時に国のトップに権限を与えることは間違っていて、自治体の首長に権限を与えるべきだ」と主張した。

 小林氏は、過去2年間、安倍政権と付き合う中で憲法を論ずることの虚しさを感じたと言い、「ああいう内閣を政権交代で排除して、憲法が機能する国に戻さなければならない」と熱を込めると、総括する形で、「非常時に法律を作る必要はない。今ある法律を正しく執行すればいい。平時の統治機構がきちんと機能していれば、何があっても大丈夫」と述べて、この議論の過程で自身の考えを改めたことを表明した。

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■ハイライト

■全編動画

  1. 災害対策を目的に憲法改正を行い国家緊急権を創設することの是非
    • 賛成の立場から 小林節氏(慶應義塾大学名誉教授)
    • 反対の立場から 永井幸寿氏(兵庫県弁護士会弁護士)
  2. パネルディスカッション
    パネリスト:小林節氏、永井幸寿氏/進行:杉岡麻子氏(第二東京弁護士会弁護士)
  3. 質疑応答・意見交換 被災者支援に携わった関係者等
  • 日時 2015年10月21日(水) 13:00~
  • 場所 霞ヶ関コモンゲート西館(東京都千代田区)
  • 主催 被災者支援に携わる有志弁護士の会

自民党は通りやすいところから「お試し改憲」を狙う。それが「国家緊急権」

 国家緊急権創設に賛成の立場という小林氏は、「3.11直後、自民党の『憲法改正マニア』と呼ばれる先生(議員)から、いい話があると連絡があった。憲法改正では国民にアレルギーがあるので、なじみやすいところから『お試し改憲』していくには、国家緊急権がいいという話だった」と語り始めた。

 災害と戦争は、普通に機能している社会が一気に機能しなくなるという点で、性質が似ていると話す小林氏は、「大切なのは攻撃を止めること。止められないなら逃げること」とし、そういう緊急時に国家がとるべき対応は、残された人的資源、物的資源などをフル活用して、最低限の国民生活を回復させることだと述べた。

 通常ならば、国会で議論して法律を作り、予算をつけ、政令という形で行政現場に降ろしていく手順を踏む。「だが、予期せぬことが起きた場合、揉めている時間はない。その間に、刻々と人は死んでいくから。こういう時こそ大権発動だ。『責任は俺が取る、俺がやる』という独裁体制を敷かないと、迫ってくる害悪に対抗しにくい」と小林氏は力を込めると、このように続けた。

 「権力分立と人権保障の例外として、非常事態には、内閣総理大臣に大権を集中して、ある意味では法治主義も無視して対処し、その危険が去ったら解除する。ただし、これはある意味、非常に危険なことだから、憲法条文上の根拠がなければならない。

 戦争および天変地異の時に、国家が非常大権を一元的に行使する必要は、現実にあったし、これからもあり得る。だから、私は白紙の上に憲法を書くならば、『国家緊急権はあった方がいい』という立場を取る。今日の出席者の弁護士の方々は、東日本大震災の時に現地に入って、現行法制度で、緊急的な対応を実際に担った人たちだ。この会合が、生産的な結論を得られる場であればと願って参加した」

事前に法を整備すれば、災害には対応できる

 阪神淡路大震災で被災経験がある永井氏は、それから約20年、災害関連法規について関わってきた立場から、国家緊急権創設に反対を表明する。まず、国家緊急権の定義について、「戦争・内乱・災害など非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するために、人権保障と権力分立という憲法秩序を一時止める制度。平常時と異なる行政権への権力の集中や、人権の強度の制約を容認する」とした。

 永井氏は、国家緊急権の危険性を「(政府が)いったん握った権力を離さない。緊急事態でないのに使ってしまうこと。あるいは、過度な人権制限をすることだ」と指摘。その上で、大日本帝国憲法にあった国家緊急権、が日本国憲法にはない理由を、「第一は民主主義。政府の一存で行使できる権力を持たせるのは、民主主義に反する。次は立憲主義。『非常』という口実で政府の自由判断を大きくすると、憲法が破壊されてしまう。3つ目は、憲法の制度。いざという時は、臨時国会や緊急集会を召集すればいい。最後が、法律等の整備。事前に法律を整備しておけば対処できることだ」とし、濫用の危険から国家緊急権を憲法に規定していないことを、重ねて強調した。

 現実的な災害時の対策について永井氏は、「まず、参議院の緊急集会がある。衆議院が解散中に大地震が起きた時は、参議院を国会の代わりに招集して、国会の措置を取らせる。10日以内に衆議院の同意が得られない場合は、法律などは効力を失うことになる」。

 「2番目は政令の罰則。もし、永田町で直下型地震が起きて、参議院の緊急集会さえ招集できない時は、内閣の政令で対応するしかない。それには厳重な要件で、法律の委任がある場合は罰則を制定できる、としてある。3つ目は法律。伊勢湾台風に基づいて作った災害対策基本法がある。国会が機能しない時、4つの項目に限定して、物価・物品の配給などで内閣が政令を制定できる制度だ。それは、次の国会で承認を得られない場合は効力を失う」と説明した。

災害をダシにして、憲法を改正してはならない

<ここから特別公開中>

 永井氏は、災害時に国家緊急権は役に立たないと語る。「災害時に国家緊急権が問題になるのは、直後の応急対策。通常の災害対策は、過去の災害を検証し、それに基づいて将来の災害を予想して準備をする。国家緊急権は、災害発生後、一種の泥縄式で対策を立てるということだ。これでは現実的には対処できない」。

 東日本大震災の時、原発近くの病院に寝たきりの高齢者180人がいた。3月14日に避難を開始したが、原発を迂回して6時間かけて避難する過程で50名が亡くなった。永井氏は、この事例について、「原発では災害が起きないことが前提だったため、避難ルートの作成、車両ドライバーの確保、スクリーニング会場や高齢者の収容施設などの対策を事前に立てていなかった。これは、現にある法制度の運用や、事前準備がまったくなされていなかったことが原因なので、災害が起こった後に憲法を停止しても対処はできません」と話した。

 永井氏は、現実に被災自治体の首長と直接面談して話を聞いたという。「皆さん異口同音に言うのは、市町村が主導する権限についてだ。市町村が主導して、国には後方支援してほしいということ。市町村を信用して、お金の裁量権を広くしてほしい、と。実際、災害対策基本法の第一義的責任は市町村にある」。

 さらに、17の弁護士会及び弁連、被災した地域あるいは被災者を支援している地域でも、国家緊急権を憲法に制定することに反対、または不要の声明を出しているとし、「基本的には、災害時の大原則は現場が大事だということ。被災者から話を聞いて対策を立てる。その対策に基づいて、災害時には被災地に一番近い自治体が対応するのが、もっとも被災者に対して迅速で効率的な支援になる。災害をダシにして、憲法を改正してはならないと考える」と力を込めた。

安倍政権に国家緊急権を与えれば国体護持に走る

 パネルディスカッションに移った。「国家緊急権があっても解決にならないという具体的な事例が、ほかにもあるか」と訊かれた永井氏は、「釜石の悲劇」を紹介した。

 「釜石に鵜住居防災センターという避難所があって、そこに避難した240人が亡くなってしまった。そのセンターは平地にあったが、本来の避難場所は高台。避難訓練の時、高台の避難場所では高齢者が参加しないからと、参加率を上げるために平地にあった鵜住居防災センターに避難していたのだ。これは釜石市も認めていた。センターを作った翌年に避難訓練をして、101人が集まった。その8日後、東日本大震災が発生して244人が集まり、流されてしまった。これは誤った法律あるいは制度の運用に基づいて発生したものと考えられる。このようなことは、憲法を停止しても対処できない」

 司会者に意見を求められた小林氏は、「現場の事情は話のとおりだと思う。準備体制をきちんと作り、きちんと発動する前提で、憲法構造はどうあるべきかの話を私はしたい。私自身の結論は、一時的に権力を統合しないとスピーディに動かないということだ」と述べた。

 「目的は国体の維持ではなく、主権者国民が幸福に暮らす前提として、社会の状態を維持回復すること。そういう観点から、権力分立構造、人権保障の憲法構造のバランスを考えたら、権力が手続きを取り、非常事態を宣言した場合には、部分的に憲法は停止される。すなわち国家権力を内閣総理大臣に集中し、予算と法律の根拠を抜きに、総理大臣が最終的に全責任を負う前提で、総理大臣には辞表を書いてもらい、その上ですべての被災地域の公務員に対して、あなたの持てる知識と良心と、管轄下にある資材・資源を有効に用いて対策させる」

 このように語った小林氏は、「被災地で一番大事なことは、復旧道路が一本通ることだ。復旧道路上に傾いた家が飛び出しているなら、ブルドーザーで排除するしかない。持ち主の意思を確認している暇はないでしょう。その際、かなりの私有財産が犠牲になるので、簡便な行政的な認定で補償する制度まで、憲法の中に書いておく」とした。復旧が進んで、国全体が機能する状態になったら、速やかに解散総選挙を行い、それまでの内閣による対処の正当性を政治的に審判するとし、国家緊急権の目的やシステムを明確にしておくことを重ねて強調した。

 さらに小林氏は、安倍政権の対応にも触れた。「国の維持が目的ではなく、国民を守るために、ということを永井先生は強調されたが、私もその発想は立憲主義者同士で同じである。私が過去2年間、現内閣と深刻に議論して、一切無視されて押し切られた経験からすると、あの人たちにその制度(国家緊急権)を与えたら、国体護持のための行動に動き出しかねない」。

 憲法9条の下での海外派兵はありえないが、安倍政権は現に押し切ってしまう、と憂慮する小林氏は、「憲法を論ずることの虚しさをすごく感じたが、だからこそ、ああいう内閣を政権交代で排除して、憲法が機能する国に戻さなければならないという熱意に燃えている。その点で、永井先生と私はそんなに矛盾していないとも思う」と語気を強めた。

政府がいったん国家緊急権を握れば離さない

 永井氏は、政府に強力な権限を与えることを危惧する。「一度、国家緊急権という大きな権力を握った日本政府が、それを容易に離すのか疑問だ。権力を握った後に、回復するシステムがきちんと保持されていなければ。日本の場合、国会は議院内閣制で、その多数派が政府を形成するので、多数派が暴走せずに権力をコントロールできるのか。また、基本的に政府に追随する判決しか出さない今の最高裁なので、国家緊急権ができてしまったら、その傾向はより深まるだろう」。

 これを受けて小林氏は、「つまり、われわれ2人の違いは、権力に対する楽天主義か悲観主義かだ。私は楽天主義者だった。しかし、この2年間で、いやというほど悲観主義者にされてしまった。だけど、私はそう悲観してもいない。3割程度の得票で7割の議席を取れる選挙制度を、政策を度外視した自公連合が活用して、政権を握って正当性を主張しているだけだから。彼らに学んで、次は5割程度の票が集まるはずだから、それをまとめれば、8割の議席を今の政権と反対の人が持つことになって、憲法秩序を取り戻すことができる。現権力者に対しては悲観的だが、国民全体に対しては逆に希望的だ」と語った。

 非常事態宣言だから「この国は俺のもの」という政権が生まれる危険性を、今、私たちは体験しているという小林氏は、「私は補償の規定まで憲法に書くと言ったが、今の政権では、きちんと機能するあてがないと弁護士の先生方に言われると、それもそうだなと思う。だから、非常に揺れている」とし、「憲法の使い方が下手な国民のままで、まして、自民党側から『お試し改憲』の提案として出てくるものは、ろくなことにならないだろう。今の段階では反対することになる。現行法の運用をきちんとしましょう、というのは永井先生のおっしゃる通りだ」とスタンスを変えた。

地方自治体の首長にこそ、災害直後は権限を与えるべき

 被災時に宮古市で支援に携わった弁護士が、その体験をもとにコメントした。「自治体の危機管理課に呼ばれて、こういう場合どうしたらいいか、という相談をいくつか受けた。たとえば、津波で傾いた家がある。自衛隊は瓦礫を壊そうとしているが、『俺の家に入るな』と立ち塞がった住民がいる。それを退けて、家を壊していいのか、という話。これは、災害対策基本法をきちんと読めばオッケーとわかる。すでに法律になっている。ただ、そういったことを判断する時に、小さな地方自治体ではわかっていないし、訓練もできていないので判断に迷うのだ」。

 災害が起きると、まず、被災地は情報から孤立する。そして、国は全部の情報を把握しきれない。「被災地には住民に直接選ばれた首長がいるのだから、災害直後は首長に権限を与えて、責任を持って地域を守ってもらう。もし、変なことをすれば、すぐに首を切られるわけだから、地方自治体の首長にこそ、災害直後は権限を与えるべきだと思う」と、この弁護士は話す。

 一方で、国はどうか。震災当時、岩手県の沿岸の街では、県との連絡すら電話回線1本、FAX1台のやりとりだったという。「震災から1週間を過ぎても、宮古市は国との連絡を無線でやっていた。そんな状態で、国に法の権限を与えても、まず被災地の状況はとても把握できない。その(政府の)人たちに判断権を委ねて判断されると間違いが起こるし、生死を分けるような判断を、国が下すまで待ってたら命は救えない。災害時に国のトップに権限を与えることは間違っている。自治体の首長に権限を与えるべきだ」。

 これらの話を聞いた小林氏は、「教えていただくことばかりで異論はない。ただ、国家緊急権が不要なのではなく、どさくさ紛れに国家緊急権規定を入れましょう、という『お試し改憲論』はいらないということ。今、国家、政府に対する信頼が崩れている。そういう時に、崩してしまった人々が、チャンスだと言って(国家緊急権を)出してくることが不気味だ。国家は主権者国民の幸福を増進するためにあり、それが正しく機能するために、緊急権論もあると思っていたが、提案している人たちがやっていることを見ると、(本来の趣旨から)ずれている気がする。この機会に国家緊急権をという『お試し改憲』に、私は明確に反対する」と宣言した。

非常時には「政府のやりたい放題」になる自民党改憲草案

 話題は、国家緊急権が盛り込まれた自民党改憲草案に移る。小林氏は賛成できないと明言し、「権力側がこの国を守ると言って、緊急事態を宣言したら、行きっぱなしになる。この中に補償、賠償の条項を入れること、緊急事態が去ったら総選挙をすることをきちんと書かないと、構造的にも不安だし、条文としても不出来だ」と斬り捨てた。

 永井氏は、改憲案の不備を指摘する。「非常事態が発生した時、内閣は閣議にかけて、緊急事態の宣言を発するのが98条。99条には緊急事態の宣言が発せられた時は、内閣は国会の法律と同一の政令を制定できると書かれている。つまり、立法権が国会から内閣に移行する制度だ」。

 永井氏が危惧するのは、緊急事態の発動要件だ。どういう場合に憲法を止められるのか。これが改憲案には列挙されておらず、「法律で定める」となっている。そうすると、国会の過半数で、憲法を止める場合を決めることができて、どんどん条件を拡大できるという。

 「そして、緊急事態の期限についても定めがない。むしろ、100日を基準にして更新できるという規定がある。さらに、内閣は法律と同等の効力を有する政令を制定できる。これは、のちに国会の承認が必要だと書いてあるが、国会が承認しない時、どうなるのかについての効力規定がない。大日本帝国憲法の緊急勅令ですら、事後に帝国議会の承認がないと、将来に向かって効力を失うと書いてあった」

 このように改憲案の危うさを指摘した永井氏は、どういう場合に、何に関して、国会に代わる法律ができるのか、限定の列挙がまったくないことを問題視する。「先ほどの災害対策基本法では、4つの事項についてだけ政令が制定できる。ところが、これは何の限定もない。選挙法も制定できる。あるいは、表現の自由もここで制限できてしまう。場合によっては、治安目的で戒厳令も制定できる。すべての事項について政令を制定できて、しかも国会の統制がないとなると、本当に独裁的な授権法になってしまう」。

自らの地殻変動を明かす小林氏「災害時に国家緊急権は不要だ」

 小林氏は、「3.11をきっかけにして、自民党は国家緊急権が必要だと言い始めた。逆に言い返してあげたらいい。国家緊急権があったら、3.11後が今より良くなったのか、と。全然関係ない。現行法制度について、現場の人たちが熟知して、それに則った準備がなされていたら問題はなかった。自民党の議員たちは、3.11でみんなが国家緊急権の必要性を認識した、と僕に言っていたが、今よくわかった。これは必要ない。必要ない議論はしないことだ、と言い返せる」と明言した。

 最後に小林氏は、今日の話を総括する形で、「災害時に国家緊急権という概念を持ち出さなくてもいい。ここで教えていただいた。私も本当に勘違いしていた。国家緊急権で、行政権に権力を統合して、法律も予算も何もかも内閣がやってしまえという話だが、それらは長い平和の中で、この国がまともに機能してきた結果、すべて準備されている」と力を込めた。

 非常時に法律を作る必要はなく、今ある法律を正しく執行すればいいのだと語る小林氏。「ことが起きてから1ヵ所に権限集中して、何でもやるのでは遅い。平時の統治機構がきちんと機能すれば、何があっても大丈夫な国。その時に、急に非常大権で総理大臣が大元帥みたいになって、突撃ラッパを吹いてもどうにもならない。勘違いしていた私が言うのはなんですが」と話すと、この会合で、自分の中で地殻変動が起きたことを率直に表明した。

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“「災害時に、国家緊急権は役に立たない」緊急事態条項・反対派の永井幸寿弁護士との議論で、賛成派の小林節氏に「地殻変動」 ~国家緊急権を徹底討論!” への 4 件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    災害対策を理由とする【憲法改正】についての報道及び関係者向け意見交換会 ~緊急事態条項「国家緊急権」の創設は必要か~(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/271317 … @iwakamiyasumi
    「国家緊急権」の真の目的は「合法的に」独裁を認めるということです。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/663116003715379200

  2. あのねあのね より:

     安倍内閣に於ける憲法改変は絶対にあってはならない。憲法改変により一院制にしようという誤った考え方をしている点はもちろん、日本的と云う言葉をマイナスイメージで使う日本が心底大嫌いな橋下徹との関係を考えたときに、安倍内閣は独断で外国へ日本を売り渡す為に権力の掌握を目指しているとしか考えられないからである。
     権力の集中させ安倍の意志だけで日本の植民地化を完全に成し遂げようとしているのではないのか。かつての中米や南米やアジア、アフリカの独裁政権のように、アメリカ合衆国に搾取され国力を削ぐために近隣諸国と常に戦争をする国にし、宗主国のアメリカ合衆国の方針一つで安倍や後の自民党独裁政権を作る為の憲法改変ではないのか。格差の拡大政策や国民管理し調教するの諸法の立法、急に増えた猥褻を理由にした不当な逮捕や警察が勝手に連想しただけでの少年の逮捕と家裁送りをし保護観察処分にしたことなどを見るにつけ、独裁は“粛々と”進んでいることは明らかだ。

  3. 河村大典 より:

    備えあれば憂いなし。この一言に尽きる。緊急事態法など日本国政治の失態を隠ぺいするだけのものである。

  4. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「災害時に、国家緊急権は役に立たない」緊急事態条項・反対派の永井幸寿弁護士との議論で、賛成派の小林節氏に「地殻変動」 ~国家緊急権を徹底討論! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/271317 … @iwakamiyasumi
    「私は楽天主義者だった」と小林氏。それほど危険な法案だ。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/676174539693285376

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