「国民に命ずる項目があってしかるべき」!? 船田元・自民党憲法改正推進本部長が会見で「人権を抑制する」改憲案に言及 〜「国民が国を縛る」という憲法の存在理由を堂々否定 2015.4.28

記事公開日:2015.4.29取材地: テキスト動画
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(IWJ:石川優、佐々木隼也)

特集 憲法改正
※4月29日テキストを追加しました!

 「国の安全、国民の生活の秩序、そういうものを保つために最低限、国民にお願いする、場合によっては命ずる項目があっても、私はしかるべきだと思う」

 自民党憲法改正推進本部長の船田元(はじめ)衆議院議員は、2015年4月28日、日本外国特派員協会で記者会見し、「国が国民を縛る」とする驚くべき憲法解釈を披露した。

 国民が守らなければならない「法律」と違い、「憲法」は国民が国を縛り、権力者による力の濫用を防ぐために存在する。現に、憲法99条は、天皇や国会議員、公務員などに『憲法尊重擁護義務』を守らせるものであり、国民はその中に書かれていない。

 しかし、自民党が2012年4月に発表した改憲案では、ここに「全て国民は、この憲法を尊重しなければ ならない」とする一文が付け加えられている。さらに新設された改憲案99条には、「緊急事態宣言」が発せられた際には「国その他公の機関の指示に従わなけ ればならない」とする条文が盛り込まれている(※)。

 船田氏の発言は、本来「国民が権力の暴走に歯止めをかける」ための憲法を、「国の権力によって国民を縛る」ものへと変質させようとする自民党・安倍政権の「本音」をあらわしたものだと言える。

 こうした自民党改憲案の内容に、憲法学者らをはじめとして、各界各層から多くの批判の声があがっている。船田氏は「改憲案はあくまでメニュー。草案そのものが原案となることはまったくない」と強調するが、その発言は自民党改憲案の内容をしっかり踏襲している。

 船田氏は会見で、憲法改正の発議を2年以内に行なう考えを示した。安倍総理は2月4日に船田氏と会談し、憲法改正の国会発議とその賛否を問う国民投票の時期について、2016年の参議院選挙後が「常識だろう」との認識を示している。最初の改正テーマには、環境権、財政健全化(条項)とならび、この「緊急事態(条項)」が予定されている。

(※)自民党は「日本国憲法改正草案 Q&A(増補版)」の中で、「国等の指示に対する国民の遵守義務(99 条 3 項)を定めたのは、 なぜですか? 基本的人権が制限されることもあるのですか?」とする質問に対し、緊急事態においては「国民の生命、身体及び財産という大きな 人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることも あり得るものと考えます」と明記している。

■ハイライト

「新たな義務は書いていないが、家族・家庭を大事にしましょうとは書いた」

 会見質疑ではドイツのフリーランス記者が、「自民党の憲法改正草案は、国民が国家のためにいろいろしなければいけない、国民の義務が多いのでは?」との趣旨で質問。船田氏は、「草案はあくまでメニュー、そこから改正したいという部分を抜き出して、取捨選択をして野党の皆さんに紹介をする、そういうことを考えている」と応じ、さらにこう続けた。

 「義務が強調されているということですが、実際は新たな義務というものは書いてありません。強いていえば、家族・家庭を大事にしましょうというスローガンは書かせていただきました。

 新しい人権ということで草案には、環境権、犯罪被害者の権利、国民の知る権利、そういうことを付け加えたい」

「場合によっては国民に命ずる項目があっても、しかるべき」!? 憲法の存在理由を堂々と否定する自民党

 さらに、「自民党の憲法改正草案が、道徳に関する要素が多いのではないか?」 という指摘に対して、船田氏は次のように答えた。

 「私達(自民党)は、立憲主義から外れるということは考えておりません。立憲主義は守りつつも、それぞれの国の憲法にも、その国の国柄、国の性格、国民としての規範、いくつか見られます。我々の考えている草案でも国柄、国のルール、そういうものを付け加えることは、やってもいいのではないかと考えています」

 加えて、「国家が国民に命ずることが、自民党の憲法改正草案では多いのではないか?」という指摘については、「私の考えとしては、あまり、多くない方がいい、少ないほうがいい」としながらも、「国の安全、国民の生活の秩序、そういうものを保つために最低限、国民にお願いする、場合によっては命ずる項目があっても、私はしかるべきだと思う」と述べた。

 「命ずる項目があってしかるべき」という船田氏の発言は、憲法の存在理由そのものを否定している。

 憲法に詳しい伊藤真弁護士は、昨年7月5日の岩上安身によるインタビューで、法律が「国民が守らなくてはならないルール」である一方、憲法は「国家権力を縛るもの」だと語った。

 「国民が国を縛り、権力者による力の濫用を防ぐためにあります。憲法99条は、天皇や公務員などに『憲法尊重擁護義務』を守らせるものですが、国民はその中に書かれていません。守らせる側なのです。

 前文に『戦争をしない』『主権が国民に存する』とある通り、国民は主体となり、政府に戦争をさせないために、この憲法を守らせ、我々の自由を獲得するわけです」

 また、「改憲」論者でありながら、安倍政権の憲法改正には反対の立場を貫いている憲法学者・小林節氏(慶應義塾大学名誉教授)も、「権力の暴走に歯止めをかけるのが憲法だ」と断言する。

 「日本国憲法の存在理由を大多数の国民が正しく理解していない。誤解の象徴は、憲法記念日の市民集会での『憲法を守ろう!』という声。『(今だったら)安倍政権に、憲法を守らせよう!』としなければならない。借りたお金を返さない人などを罰する民法や、殺人者などを罰する刑法は、一般の国民が守らねばならない法律だが、憲法はそうではない。

 税務署や警察、さらには自衛隊などを自分の思い通りに動かせる権力を握る、その時々の政権が『暴走』しないように、歯止めをかけるのが憲法だ」

自民党が考える「憲法改正の議論における大前提」とは?

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