2016年最大の喫緊のテーマ!「国家を守り、人権を制限するのが国家緊急権。多くの国で権力に濫用されてきた過去がある」 〜岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー  2015.12.19

記事公開日:2015.12.19地域: テキスト 動画 独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・関根かんじ、文責・岩上安身)

特集 緊急事態条項

菅官房長官は15日の記者会見で、熊本地震に関連し緊急事態条項を「極めて重い課題」と発言。
⇒ 緊急事態条項の動画&記事を、会員以外の方にも、公共性に鑑み特別公開します!

※1月3日テキストを追加しました!

 2016年の参議院選挙を見据えて、安倍首相自身が口にした「憲法改正による緊急事態条項の創設」。改憲勢力がこの参院選で3分の2を確保し(すでに衆院では3分の2を確保している)、改憲の発議を行うと安倍総理自らが公然と目標に掲げたのである。

 憲法改正の発議は、一条ごとに行わなければならない。安倍政権の真の狙いは「本丸9条」であって、「緊急事態条項」は、その前哨戦に過ぎない、いわば「お試し」改憲である、などという話が与野党両サイドからまことしやかに聞こえてくる。

 これは大間違いである。万能のカード「ジョーカー」に等しい「緊急事態条項」は、その一枚を手にするだけで、憲法の他の条項を無にしてしまうことができる。安倍総理がヒトラーのような全権を手に入れてしまい、国民の反対の多い9条の改正などは必要なくなってしまうのだ。

 戦争や大災害などの非常時に、国家体制を維持するため、一時的に法の秩序を停止する権限が国家緊急権だ。その国家緊急権として、自民党の改憲草案に新設すると盛り込まれてるのが緊急事態条項で、「緊急事態の宣言があった時、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定できる」とある。行政府のトップが立法府の権限をも一手に握ってしまうということである。しかも、この自民党の緊急事態条項の草案には、いつ緊急事態が終わるのか、期限の縛りがない。事実上の戒厳令が永続化してしまう可能性がある。

 「国民が内容を知る前に、閣議決定で法律に代わる政令を出せる。それは民主主義に反し、権力分立にも反する」──日弁連災害復興支援委員会前委員長の永井幸寿弁護士は、2015年12月19日に行われた岩上安身によるインタビューの中で、自民党が「お試し改憲」として最初に進めようとしている緊急事態条項の危険性を鋭く指摘した。

<会員向け動画 特別公開中>

■ハイライト

■全編動画

  • タイトル 岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー
  • 日時 2015年12月19日(土)15:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)
▲日弁連災害復興支援委員会前委員長・永井幸寿弁護士
▲日弁連災害復興支援委員会前委員長・永井幸寿弁護士

 国家緊急権は大規模な自然災害やテロが起きた場合に必要、という見方を、永井氏は丁寧に反証を加えて否定する。

 「緊急事態において、国民ではなく、国家の存立を維持するためにあるのが国家緊急権だ。今の政府は、東日本大震災の記憶が消えないうちに、この国家緊急権を決めようとしている」。

 国家緊急権の歴史的背景と要旨を説明した永井氏は、大日本帝国憲法の下での国家緊急権の濫用や、ナチスが実質的な独裁を成し遂げた全権委任法の強行採決を容易にした、ワイマール憲法48条の国家緊急権発動の悪しき前例を振り返る。

 そして、「その悲劇の反省のもとに、日本国憲法では、あえて国家緊急権を定めなかったのだ。国家緊急権がない、ということは、現憲法の不備では決してない」と説明した。

 また、災害時における都道府県、市町村、関係公的機関の対応は、人権への強制権も含めて法律で細かく定めてあり、「すでに法律でお腹いっぱいの状態だ」と現状を説明し、国家緊急権で、災害時の権限を国に集中する必要はないと説いた。岩上安身は、「災害は口実で、緊急事態条項を創設する真意は、戦争の遂行のためではないでしょうか」と懸念し、テロや戦争の遂行と国家緊急権の関係を尋ねた。

 それに対して永井氏は、「国家緊急権は、テロで発動するに当たらない。なぜなら、テロは犯罪。大きな犯罪が起きても、平常時の統治機構は機能しますから」と明言した。

 そういえば、オウムによるサリン事件も、クーデターを企図した国家中枢へのテロ攻撃だったが、警察力で対応が十分可能だった。警察では実力不足などということはなく、むしろ問題だったのは不正確な捜査による冤罪が問題だった。松本サリン事件で冤罪事件を起こさず、犯人をオウム真理教と断定できていれば、その後の地下鉄サリン事件の凶行は防げていたはずである。

 国家緊急権は戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、あくまでも、「平常時の統治機構では対処できない非常事態」を想定していると永井氏は述べると、こう続けた。

 「対テロには、国民保護法、武力攻撃事態国民安全保護法の『緊急対処事態』で準備する。刑罰法規では、爆発物取締規則、刑法、ハイジャック防止法、テロ資金提供処罰法、組織犯罪処罰犯罪収益規制法が、すでにある」

 また、先の同時多発テロで、フランスでは国家緊急権が発動されたと報じられていることについては、「フランスの憲法上の国家緊急権には、大統領非常措置権と合囲(戒厳)があるが、今回は、法律による国家緊急権である緊急状態法を適用した。憲法が発動されたわけではない」と話した。

 岩上安身は、「日本の憲法に緊急事態条項が創設されたら、空洞化した国会は要らなくなる。自民党はナチスの手口を真似るのではなく、超えようとしていた。反原発、反安保法制のデモや集会の自由もなくなる。また、災害を理由に国家緊急権を創設することは、実際に地震や津波などの自然災害に被災された方々はもちろん、国民に対する大きな侮辱でもある」と力を込めてインタビューを締めくくった。  

導入賛成だった小林節教授も方向転換──国家緊急権の危険性

岩上安身(以下、岩上)「国家緊急権について、日弁連災害復興支援委員会の前委員長、永井幸寿(こうじゅ)先生にお聞きします。永井先生は阪神淡路大震災で神戸の事務所が全壊。それをきっかけに災害問題に取り組んで20年です」

▲阪神淡路大震災のただなかで助け合う人々
▲阪神淡路大震災のただなかで助け合う人々

永井幸寿氏(以下、永井・敬称略)「東日本大震災では、日弁連の災害対策本部の副本部長として12~13本の被災者支援法を作り、4万件の法律相談、原発賠償や二重ローンの解決にADR(裁判外紛争解決手続)を手がけました」

岩上「東日本大震災では、地震、津波、原発と、何年たっても元の暮らしに戻れない苦しみが今も続いています。そして、来年の参議院選の最大イシューの可能性がある国家緊急権について、永井先生は大変にお詳しいと知りました。最近、国家緊急権は必要だと長年主張してきた小林節氏と、永井先生とのディベート(2015年10月21日)が行なわれました。結果、小林氏が永井先生の論旨に得心され、『国家緊急権は不要だ』と自説を撤回しました。これには感動しました」

永井「小林先生はとても潔い方で、私も感動しました」

東北大震災の記憶が消えないうちに国家緊急権を決めようとしている自民党

永井「国家緊急権導入の動きですが、与党自民党は、まず憲法9条を改正しようとしたが、96条(憲法改正の手続きについて定める条項)改正規定を緩和させての9条改正に挫折した。その後、安保法制の際に、集団的自衛権行使を容認するという解釈改憲を成功させたので、明文改憲(同意できる条項から改正)の後、9条改正へと進める方針にしています。

 当初、明文改憲で、環境権、財政条項、国家緊急権が候補に上がり、昨年の衆議院議員のヨーロッパ視察から、環境権を入れると乱訴が増えるということで、ならば、東日本大震災の記憶が消えないうちに国家緊急権を決めてしまおうと、方針を変えたと言います。国民を慣らすのが目的の『お試し改憲』ですが、最初にやる緊急事態条項が、むちゃくちゃ危険なのです」

岩上「緊急事態条項は、トランプの『ジョーカー』に等しい万能カードだ、と。今の自民党は、天才的詐欺師集団みたいですね」

永井「それまで緊急事態条項に触れなかった安倍首相が、11月の衆院予算委員会で発言して、改憲の方向が明らかになりました」

岩上「実は9月28日、自民党総裁選後に、安倍首相は記者クラブしか入れない自民党の記者会見で、参院選の公約で明文改憲を明らかにしたんです。緊急事態条項をまずやると明言しました。ところが産経以外、大手紙はこの発言をほとんど報じなかった。そのため約1ヵ月半、緊急事態条項の問題性、危険性は国民の意識に上がりませんでした。マスメディアのせいで、1ヵ月半、空費したのです。

 共産党の志位委員長にインタビューをした時、私は『緊急事態条項阻止も訴えるべきだ』と伝えましたが、『うしろ向きだ』と言われました。それくらい政治家にも危機感が足りない。マスコミ操作で政治意識が弛緩させられている。今、国民にとって緊急事態が迫っていると、むしろ国民の側から『国民緊急事態宣言』を出すべきです」

永井「11月13日、パリで同時多発テロが勃発しました。フランスが国家緊急権を発動したので、日本でも緊急権の議論がわき起こりました。しかし、共産党以外の野党は反対しない。なぜなら、大学の法学部でも教えないので、国家緊急権の内容がわかっていないからです。憲法では、国家緊急権を明確に否定しています。災害、テロのために必要なのか? そうではない。(多くの人が)自民党の国家緊急権の危険性を知らない。今の憲法には国家緊急権が欠落している、との指摘もあるが、間違いです。ちゃんと審議をしています」

非常事態に、国民ではなく国家を優先するのが国家緊急権

永井「国家緊急権とは、戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構で対処できない非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するため、立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止し、非常措置をとる権限です」

岩上「つまり、国家のために権力を集中し、国民は服従しなければいけなくなる。緊急だけれど、内実はファシズムですね」

永井「その通りです。基本的人権とは、人が自立的な個人として、自由と生存を確保し、尊厳を持って生きるために不可欠な利益のことです。人権とは憲法や天皇に与えられたのではなく、人間ゆえに当然に有する権利であり(固有性)、公権力(行政・立法・司法)によって侵害されない権利であり(不可侵性)、人種、性、身分の区別なく、人間であることで当然に享有できる権利であるということ(普遍性)です」

岩上「自民党議員には、天賦人権説の否定を公言する人もいます(片山さつき議員)。天賦人権説に対するのは王権神授説です。天皇(王)が恩寵として、臣民に人権を与えたというものですね」

永井「それは、天皇が主権者で、国民の権利は与えられたものだから法律で簡単に奪える、という考え方ですね。天賦人権説は、人として生まれたら、人権は憲法より上位になるというものですから、憲法でも法律でも人権を奪うことはできません。これは、今まで多くの人々が闘って血を流して得た権利です。それを覆すことになる国家緊急権は、まさにクーデターなのです。

 人は生まれながら自由かつ平等で、生来の権利を持つ(基本的人権)。この権利を確実なものとするため、社会契約を結び、政府に権力の行使を委任(国家の役割)する。つまり国家とは、基本的人権を実現させるために作られた機能です」

国家緊急権は諸刃の剣。多くの国で軍人や政治家に濫用された負の歴史がある

永井「かつて国家権力が強大になり、権力の濫用で人権を侵害してしまったため、国家を立法、行政、司法に分離独立させ、相互に牽制させました(権力分立)。その趣旨は、権力の濫用から国民の権利を守ることです。

 非効率だが、あえて権力を分離し、摩擦を生じさせ、権力濫用から救う。人は権力を握りたがり、濫用する性向があります(ジョン・ロック)。これは人間性の深い反省、政治の現実の認識に基づく大人の制度なんです。だから、立憲主義で憲法が国家権力を縛るんです」

岩上「それは教育が影響しますね。明治憲法では、国民を『天皇の赤子』として、子どもの状態に置いて、お上は素晴らしいと信じ込ませた。お上の言うことだけを聞け、と。マッカーサーが『日本人は12歳の子ども』と指摘したのは正しかった」

永井「だから、こういうことを学ばせないといけません。民主主義社会は国民が主権者だから、相当、教養がないといけない。社会や法律のあり方を知らなければならない。大学の文系をなくすなど、民主主義の基本にまったく反することです。

 一番大事なのは、基本的人権。これを実現するために国家を作った。濫用しないために、権力を分立させた。その人権思想の真逆が、人権を制約し、権力を国家に集中させる国家緊急権です。フランス革命前の絶対主義王制と同じで、とても危険です。

 国家緊急権の誕生には、ひとつに英米法型マーシャル・ロー(戦時法規)がある。これは不文法で、国民が軍の法規命令や刑罰権に服して、通常の裁判権の排除と法の支配停止に陥ります。その元になったのは南北戦争。アメリカ自体が戦場となり、司法、立法、行政官が、司令官に帰属したことに起因します。

 もうひとつがフランス、ドイツの大陸法型です。大陸法型は国民主権に対抗し、国王の権力を例外的に保留するために生まれた対極の制度で、支配する側から見る構造です。ワイマール憲法、大日本帝国憲法、自民党の国家緊急権が、それに当たります。

 国家緊急権は諸刃の剣ですが、危険性の方がはるかに大きい。歴史的にも不当な目的や期間延長、過度の人権制限、司法の抑制(自主規制)など、多くの国で軍人や政治家に濫用されてきた歴史があるのです」

▲二・二六事件に対する戒厳令発令に伴い、九段の軍人会館(後の九段会館)に設置された戒厳司令部。
▲二・二六事件に対する戒厳令発令に伴い、九段の軍人会館(後の九段会館)に設置された戒厳司令部。

岩上「むき出しの権力が出た時、司法権力は萎縮しがちです。人権を制限し、反対勢力を弾圧する。緊急と言いながら、恒久的なファシズムの持続も延長で可能になる。原発を抱えて戦争しようとする日本。そんなバカな目的で国家緊急権を濫用しかねない。第二次大戦の時の敗戦は『国敗れて山河あり』でしたが、今度大戦争となった場合、日本は『国破れて放射能あり』になってしまいます。そんなところに誰も住めません」

ナチスの独裁は国家緊急権を使って成し遂げた

永井「ドイツは、第一次世界大戦に敗れ、その反省から大統領を直接公選制にし、20歳以上の男女が選挙を持つ、当時もっとも民主的なワイマール憲法を作りました。

 しかし、ナチスが独裁を手にできたのは、ワイマール憲法48条に『大統領が、公共の安全・秩序に重大な損害が生じる恐れがあるとき、人身の自由・意思表明の自由など、7ヵ条の基本権全部または一部を一時停止できる(緊急大統領令)』とあったからです」

岩上「ナチスは全権委任法(授権法)で独裁を確立したというが、実は、その前に緊急令で権力を手中にした。二段階で独裁支配を確立した、というわけですね。多くの国民は、この程度なら大丈夫だと安心していたら、二度と立ち上がれなくなってしまった、ということですね」

永井「全権委任法とは、国会の立法権を政府に移すことですが、そんな法律は普通、議会では通りません。それを1934年2月、国会議事堂の放火を共産党の犯行とし、国家緊急権を使い、自由に制限を加え、令状なしで逮捕拘束を可能にしました。

 これにより、ヨーロッパで一番勢力のあった対抗野党(共産党、社会党)が壊滅。その後の選挙で共産党が81議席を得るも登院が許されませんでした。ナチス党も過半数を獲得できませんでしたが、強引に全権委任法が強行採決され、独裁を確立したのです」

岩上「ナチスは政権を取って、あっという間に独裁を成し遂げた。国会議事堂放火事件も「偽旗作戦」です。ひるがえって、今、日本の状況を見ると、参議院では11議席しか与野党の差はありません。野党の中にも改憲勢力は少なくない。同時多発テロ事件に見舞われたパリでは、令状のない捜査や逮捕が何百件も起きており、報道もされません。国家緊急権が決まれば、なし崩しに反対勢力を弾圧できるようになるかもしれない」

永井「ナチスは不当な目的で大統領令を発動、反対する政治勢力を弾圧しました。全権委任法では独裁期間を延長し、法律で3年と決められていたのが反故に。人身、表現の自由も束縛しました」

災害には使えない「戒厳」を実施、関東大震災の朝鮮人虐殺の一因に

永井「大日本帝国憲法は、元々、国家権力が強大に制定されていました。そこに国家緊急権が加わった。

 8条緊急勅令は、議会閉会中、法律に変わる勅令を発する。また閉会中、国家保持のため、緊急の需要に対応するため緊急財産処分が可能に。戒厳は天皇が宣告、統治の相当部分を軍事官憲に移行する。一度も行使されなかったが、戒厳を超える『非常権』もありました。

 緊急勅令を正常時でも濫用した。治安維持法の重罰化改正法案は審議末了で廃案になりましたが、緊急勅令で成立させました」

岩上「政治家は、『(法律は)小さく生んで大きく育てる』といいます。今、次々と危険な法律が生まれています。治安維持法が緊急勅令で改悪されたように、国家緊急権も同様に使われることが考えられます」

永井「戒厳は、戦争や事変、内乱を要件にしていましたが、脱法的に拡大されて、内乱でもない『日比谷焼打事件』、『2.26事件』、そして自然災害の『関東大震災』でも適用されました。

 戒厳令があっても変えず、緊急勅令を拡大解釈して組み合わせ、関東大震災では戒厳で自警団を軍の下部組織にし、朝鮮人を殺害したんです。本来、災害に使ってはいけない戒厳を実施したため、虐殺が起きたんです」

緊急事態条項は必要ない! 「国家緊急権」の危険性を慎重に考慮している日本国憲法

永井「だから、日本国憲法を作る際、ナチスや大日本帝国憲法の経験で、あえて国家緊急権を設けなかったのです。そのかわり、災害時のために参議院の緊急集会と政令の罰則を作りました」

<ここから特別公開中>

永井「衆議院解散時の災害発生の際は、内閣は参議院の緊急集会を開催でき、緊急集会で採られた措置は、次の国会開催後10日間以内に衆議院の同意なき場合は失効(憲法54条2、3項)。緊急集会もできない場合には政令で対処する。政令には、法律の委任がある場合を除いて罰則を設けることができない憲法73条6号も整備しました」

岩上「もし、永田町で直下地震などが起きたら、霞ヶ関の官庁も官邸も無事ではないでしょう。その時は、誰が指示を出すのでしょうか?」

永井「国家緊急権とは、平時の統治機構で対処できない非常事態を言います。平時とは、選挙で議員を選び、国会で審議し、法律を作り、裁判所が審判することです。それが機能しない状態は、まず考えられません。関東大震災でも第二次世界大戦中でも、選挙は行なわれました。国会が壊滅することは空想に近い。過去に参議院の緊急集会は、緊急事態とは別件で2回あり、政令の罰則に基づき災害対策基本法を制定しましたが、適用はまだ一度もありません。

 憲法に設けなかった意味は、こういうものです。昭和21年7月15日、帝国憲法改正案委員会議事録の金森国務大臣の答弁に、『1. 民主主義。民主政治を徹底させて国民の権利を擁護するためには、非常事態に政府の一存で行う措置を防止する。2. 立憲主義。非常という口実に、政府の自由判断を大幅に残しておくと憲法が破壊される可能性がある。3. 憲法の制度。特殊な必要があれば臨時国会を招集。衆院解散中は参議院の緊急召集で対処できる。4. 法律などによる準備。特殊な事態に濫用されないよう、平時から政令制定で完備する』とあります。

 濫用防止のため、国家緊急権は憲法に制定しない。平常時から厳重な要件で、法律で整備するとしている。一度、権力を握るとどうなるかわからないから、というのが日本国憲法の考え方です。

 平成23年の憲法審査会で、自民党の近藤三津枝衆議院議員は、『大災害が国政選挙の公示日直前に発生した場合、法律で選挙期日の延長と議員の任期延長ができるか』と質問しました。当時の野田佳彦首相は『できない』と応じた。近藤議員は『非常事態の想定が現行憲法でなされていない』と続けました。

 でも、これは前述したように明確な間違いで、参議院の緊急集会が求められます。参議院選挙直前では衆議院が機能し、参議院は非改選議員がいて、定足数1/3を満たし、国会開会は可能です。衆・参W選挙直前は、参議院非改選議員での緊急集会が可能。衆議院任期満了の選挙直前でも(68年間で1回のみ)公選法の改正で早めに選挙を実施、任期満了と就任を同時か、衆議院が機能しない時は国会に代替する緊急集会の請求は可能です。

 憲法は最高法規。簡単にいじってはいけない。まず、法律の運用。それでダメなら憲法解釈で対処する。それでもダメなら、憲法改正をするべき。つまり、緊急時の疑問は、法律の改正または憲法の解釈で解決できるんです」

岩上「それで気になるのが『議員の任期延長ができるか』という件です。非常事態に国家緊急権で任期が延長できるようになれば、終身議員状態になって、永続的な緊急事態宣言になりかねない。恐ろしいことですが、いかがでしょうか」

永井「民主主義社会では治者と被治者は同じ、というのが原理原則です。立場交代の可能性がないとおかしい。終身議員は民主主義に反します」

岩上「ワイマール憲法も改正したのではなく、事実上、効力を失っていった。日本国憲法も、それと同じことになる。大変なことです」

緊急事態条項で、被災地以外の自由を奪うのは悪質

永井「災害時の、法律による制度はとても完備されています。非常事態の布告は内閣が行い、立法権が内閣に移ります。国会閉会中や衆議院解散中、臨時会の招集及び参議院緊急集会を請求する時間がない場合、4つに限り緊急政令を制定できる。

 1. 生活必需物資の配給、譲渡、引渡の制限禁止。2. 物の価格、役務そのほか給付の対価の最高額の決定。3. 金銭債務の支払いの延期、権利保存期間の延長。4. 被災者の支援にかかる外国からの救助の受け入れ(災害対策基本法109条の2)。政令には刑罰を付せ、直ちに国会の臨時会招集か参議院緊急集会を求め、国会承認がない時は失効する」

岩上「阪神淡路大震災の時も、東京は平時でした。東日本大震災でも関西は普段通りだった。激甚災害でも影響を受ける地域は限定されるのに、緊急事態法を日本全国に適用することは悪質ですね。被害のないところの自由まで奪ったら、生産活動もうまくいきません」

永井「さらに、内閣総理大臣への権力集中。国民に物資をみだりに購入しないよう要求。関係指定行政機関の長、地方公共団体の長、執行機関、関係指定公共機関・地方公共団体に必要な指示の指示。防衛大臣に自衛隊法8条に規定する部隊の派遣要請。警察庁長官を直接指揮監督し、一時的に警察を統制。市町村長、都道府県知事に対し、居住者避難のための立ち退き、または屋内退避のための勧告・指示をすることができる。

 人権制限に関する法制度では、都道府県知事の強制権として、1. 医療、土木建築工事または輸送関係者を救助する業務に従事させる。罰則もある。2. 救助を要する者。その近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる。3. 病院、診療所、旅館等を管理し、土地家屋物資を使用し、物資の生産、集荷、販売、保管もしくは輸送を業とする者に物資の保管を命じ、収用できて、罰則がある。4. 職員に、施設、土地、家屋、物資の所在、保管場所に立入検査させることができる。罰則あり。これは憲法18条の苦役に当たると問題になったが、政府は『該当せず』としました」

災害で重要なのは現場。災害対策基本法でも第一次権限は市町村にある

岩上「原発事故の場合、放射能の影響の有無で議論が分かれます。個人の避難の権利はどうなるのですか」

永井「それも審議の過程で問題になりました。現実の災害では、本人の意志を尊重して同意がある場合、ということです」

岩上「第二次世界大戦の時、都市圏には空襲があったが、市民は消火活動に動員させられて、地方に逃げることもできず、大勢の人が亡くなりました。それに似たものを感じます。本来、災害時には国ではなく、地方自治体を重視すべきというのは、非常事態はローカルなこと、との前提だからでしょうか」

永井「そうです。被災者に一番近いところが権限を持ち、対処するのがもっとも迅速で効果的だからです。災害で一番大事なのは現場です。現場に対処できるのは市町村なんです。災害対策基本法も、市町村に第一次の権限があり、その次に都道府県、さらに国の後方支援というシステムになっています」

岩上「それを、国家が国家緊急権で、その趣旨を引っくり返してしまう。全然、被災者のことは考えていません。『国家を疑え』というのが憲法の精神ですが、ますます国家緊急権は詐欺に思えますね」

永井「さらに、市町村長にも強制権があります。設備物件の占有権、所有者、管理者に対して、物件の除去、保安その他必要な措置をとることができる。居住者に避難のための立ち退きを勧告、指示することができる。警戒区域を設定、立ち入りを制限、禁止、退去を命じることができる。他人の土地建物その他工作物を一時使用し、土木石材その他物件を一時使用もしくは収用できる。現場の災害を受けた物件の除去、その他必要な措置をとることができる。住民または現場にある者を応急措置の業務に従事させることができる。

 これらを考慮したら、災害時に国家緊急権は必要ない。すでに十分、検討され整備されているんです。海外では、明確に災害時の国家緊急権を定めた国は少ない。ドイツでは、各州の憲法にも別途、定めてはいますが、憲法の国家緊急権はとてもシンプルです」

岩上「これだけ見ても、日本には法律があり過ぎます。上手な運用ができていないだけだ。サボータジュしている役人がいるのを、『憲法が不整備だから』と言いがかりをつけて、責任の所在をすり替えている」

災害時に命を救うのは事前準備。災害後に国家緊急権で憲法を停止しても意味がない

▲東日本大震災「双葉病院事件」の悲劇を振り返る永井弁護士
▲東日本大震災「双葉病院事件」の悲劇を振り返る永井弁護士

永井「駒澤大学名誉教授の西修氏は、『1990年から2008年制定の93ヵ国の憲法すべてに国家緊急権があるが、日本にはない』と言う。しかし、日本では憲法との関係を十分審議し、実質的に災害時の国家緊急権に相当する制度を法律で制定しているのです。

 国家緊急権の定義に『憲法で定めた権限』とは書いていない。今回のフランスの非常事態法は、憲法ではなく、法律で発せられた権限です。災害時に国家緊急権が必要なのでしょうか。災害対策とは、事前の予防措置、直後の応急対策、事後の復旧対策という3本柱で成り立っています」

岩上「今まで、災害直後の緊急対策ばかりを議論していましたが、予防も復旧も大事で、そこに国家緊急権が必要なのか、ということですよね」

永井「その通りで、国家緊急権は、直後の応急対策のみの強権です。災害対策の原則で、準備していないことはできません。過去の災害を検証し、それを元に将来の災害を予想し、効果的な対策を準備するべきです。

 東日本大震災の双葉病院事件を例に挙げると、寝たきりの高齢者180人のうち、避難移動中に50人が死亡しました。避難対策を作っていなかったからです。国には防災基本計画の策定義務があり、これに従って指定行政・公共機関は行政業務計画を、地方自治体は地域防災計画、原子力事業者は防災業務計画の策定が義務づけられている。自治体の長は、防災教育や訓練実施の義務があります。

 ところが、地震で原発事故は起きない前提だったので、双葉病院では屋外に出るマニュアルしかなかった。自治体、国及び事業者らが、避難ルート、スクリーニング会場、避難所、高齢者・障がい者の収容避難所の確保など、事前準備をしていなかったために起こった悲劇なんです。法律が整備されていたにもかかわらず、まったく運用されていなかった。だから、災害の後に憲法を停止しても、何の意味もありません。

 釜石では、釜石市鵜住居(うのすまい)防災センターに244人が避難、津波で全員死亡した事件があります。本来の避難場所は高台にあり、高齢者の防災訓練の参加率が低かった。それで、訓練には平地にある建物(危険が去った後の仮住居用)を使用し、釜石市も了承していた。しかし、市はそこが正式な避難場所ではないことを告知していなかったんです。(多くの人が訓練と同じようにそこに避難したため)不適切な訓練で多数の命が失われた悪しき例です。

 逆に、同じ釜石市で小中学生2921人が助かった奇跡もあります。市教育委員会が、津波教育がされていないことに危機感を持ち、防災教育を充実させていたのです。それで中学生たちが『津波がくる』と警告を発して街を回った。

 防災教育で教師たちの意識改革をした群馬大学の片田敏孝教授は、『想定にとらわれるな。最善を尽くせ。ハザードマップを信じるな。率先避難者たれ。懸命に逃げる姿が周囲の命を救う』と説いていた。命を救うのは、法律や制度の適正な運用による事前準備なんです」

▲津波より流されたJR仙石線の線路。本来軌道があったのは高さ2mの土手の上であった撮影者の位置。画像右手の海側から押し寄せた津波は線路のあった土手を越え、奥に見える家屋も飲み込んだ。
▲津波より流されたJR仙石線の線路。本来軌道があったのは高さ2mの土手の上であった撮影者の位置。画像右手の海側から押し寄せた津波は線路のあった土手を越え、奥に見える家屋も飲み込んだ。

岩上「素晴らしい。災害のことは地元の人たちが一番わかっていて、国家の命令に従うことは大間違いだということですね」

永井「民主党の山尾志桜里衆院議員は、『非常事態に危機にさらされる国民の生命財産、人権を守るため、内閣総理大臣に権限を集中して人権を制約することが必要。災害では予想できない事態が生じるので、国家緊急権を導入せよ』と発言しています。何度も言いますが、国家緊急権は、人権を守るための制度ではなく、『国家を守るために人権を制限する制度』なんです」

テロと国家緊急権のまやかし「テロは犯罪。犯罪は、国家緊急権の発動対象ではない」

岩上「今まで言われていた『災害での有事』は口実で、真意は戦争のためではないでしょうか? そして、テロと国家緊急権はどうなるのでしょう?」

永井「テロのために国家緊急権を創設すべきではない。テロは自然災害とは異なり、中立性の保持や平和的解決への努力によって予防できる。国家緊急権は憲法には規定せず、法整備で準備する。テロ対策は予防が重要です」

岩上「テロは自作自演もある。満州事変の発端となった柳条湖事件。これは満鉄が爆破された事件ですが、実は日本の関東軍が引き起こし、中国側に罪をなすりつけた謀略でした。ベトナム戦争の引き金になった米軍のトンキン湾事件。これも米軍により自作自演の『偽旗作戦』でした。テロは常に疑ってみるべきです。国家緊急権で言論や報道を規制しようとするなら、なおさら怪しむべき。これは陰謀論などではなく、歴史の事実です」

永井「対テロについては、法律は国民保護法、武力攻撃事態国民安全保護法があり、『緊急対処事態』で準備しています。内閣総理大臣は災害対策本部長になり、都道府県に措置をとる指示ができる。必要があれば防衛大臣に自衛隊の出動を求められる。さらに自然災害同様、人権制限に対する強制権もある。刑罰法規も爆発物取締規則、刑法、ハイジャック防止法、テロ資金提供処罰法、組織犯罪処罰犯罪収益規制法など盛りだくさん。共謀罪の話があるが、それはテロとは関係ありません。

 そもそも、国家緊急権はテロで発動するに当たらない。国家緊急権は、平常時では対処できない緊急時、戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、『平常時の統治機構では対処できない非常事態』に使うもの。でも、テロは犯罪です。犯罪が起きても、平常時の統治機構は機能していますよね」

岩上「米国は9.11以降、愛国者法などを作り、アフガン、イラク戦争へ突入していきました。自民党改憲草案も、そういうことをする口実作りに思えます。『国家・権力者の犯罪のために国家緊急権を要請する』とした方が的確ですね」

▲愛国者法に署名するブッシュ前大統領
▲愛国者法に署名するブッシュ前大統領

国家緊急権は、国民を思考停止にする手段となる

永井「フランスでは憲法上の国家緊急権で、ドゴール大統領が1回だけ使った大統領非常措置権と、いまだ実施のない合囲(戒厳)があるが、今回の同時多発テロでは、法律による緊急状態法を適用しています。ですから、仏政府がテロに対して憲法を発動した、と思うのは間違いです。

 フランスの緊急状態法は、テロよりも大きな内乱や武力の衝突、暴動を対象とし、異議申し立て手続きも可能。テロでの令状なしの捜索、集会禁止の立法事実はない。人身、表現の自由の趣旨で、日本が容易に真似すべきではありません」

岩上「今、フランスで国家緊急権を使っているから、と同調しようとするのは大きな問題ですね。同時多発テロ直後、オランド大統領はISの空爆に踏み切った。それで誰が利益を得るのか、もっと慎重に検討すべきです」

永井「今回、フランスは軍隊を派遣したり、大統領府に要人を集めるデモンストレーションで、テロを防げなかったことをごまかそうとする意図が見え隠れします。凶悪犯罪が起こると、国民も為政者も規制側に立つが、冷静に判断すべきです」

▲緊急状態法を適用させたフランスのオランド大統領
▲緊急状態法を適用させたフランスのオランド大統領

岩上「国家緊急権は、国民を思考停止に落とし込む手段になり、とても危険です。冤罪の可能性もある。やり返した後に間違いがわかっても取り戻せない」

永井「テロに関して言えば、国家緊急権を発動する状態ではありません」

「流言飛語を防ぐため」なら報道規制も可能に

永井「自民党の国家緊急権案は、非常事態があった時、内閣が宣言して法律に変わる政令を出せる。事後、国会承認を要するとあるが、承認が得られない場合に失効するとは書いていません(99条2項)。財政処分も同様。大日本帝国憲法にすら、事後において失効する旨の記載はありました(8条2項)。それよりもひどい。

 さらに、政令で規定できる内容の縛りもない。人権でも何でも政令で制定でき、国会の立法権を内閣に移譲するのと同じ。国家緊急権の内容を国会の過半数をもって法律で定められるので、テロ、大規模なデモやストライキ、インフレなど、憲法を停止できる条項をどんどん加えられる。改憲の困難さを反故にし、拡大解釈で何でも追加できます。自然災害の際、治安目的で戒厳も制定できる。流言飛語を防ぐために報道規制もできる。また、期間の制限もない。100日を基準に継続を予定していますが、あまりにも長過ぎますし、かつ延長も可能となっています。

 閣議決定で、国民が内容を知る前に、法律に変わる政令を出せるんです。先の安保関連法改正では、野党の修正もあり、国会審議での与党の答弁や他の情報があったので、反対世論が盛り上がりました。そういうこともなくなる。民主主義に反し、権力分立にも反します。ナチスの全権委任法にあたる独裁条項です」

岩上「そうなると国会は要らない。私も逮捕でしょうね。自民党はナチスの手口を真似るのではなく、超えようとしていた。反戦、反原発、反安保法制のデモ、集会の自由も適用範囲にされてしまう。NHKもマスメディアも、この危険性を取り上げないわけです」

9条改正より怖い、国家緊急権で「総理が独裁者になること」

永井「自衛隊が海外に行って武力紛争になった時、国内で動乱がなくても、戒厳を制定できます。すると、治安出動で武器を持った自衛隊が、関東大震災での自警団のように、NPOを末端組織に組み入れることもあり得ます。戒厳では、司法の権限を国防軍審判所に移すことも考えられます。

 軍隊を作る以上はルールを守らせるシステムが必要で、軍法会議は必須です。今の自衛隊は、比例の原則(必要不可欠の行為・防衛と比例する限度においてのみ行使できる原則)で、実質は警察と同じです」

岩上「緊急権発動で、報道を制限して事実を覆い隠し、社会を思考停止状態にする。そういう状況下で、やみくもに戦争に突入する可能性がある。でなければ、ここまで周到に用意する必要はありません。日本は、『原発を抱えて戦争』ですよ。しかも、ナチスも大日本帝国も国家主権だったが、今回は米軍の下部組織として、です。日本はアメリカにとって都合のいい戦争マシーンになるんです」

永井「少なくとも日本では、総理が独裁者になります。これは憲法自体を破壊する行為で、9条改正より怖い。14(※1)、18(※2)、19(※3)、21条(※4)、その他の基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならないと記載があるが、現内閣が自己抑制をするでしょうか。臨時国会も開かず憲法軽視、解釈改憲をする内閣にまったく期待はできません。司法も違憲判決を出すとも思えません」

  1. (※)
  2. 第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
    1. 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
    2. 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
  3. 第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
  4. 第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
  5. 第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
    1. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

災害をダシにした国家緊急権の議論は、被災者への大きな侮辱

永井「緊急権の発動時に期限を決め、緊急権行使に調査権、責任追及の制度も設けるなど、厳格に要件を定めた国家緊急権にすれば立憲主義にかなう、との意見もある。しかし、現在のように為政者がスルーすれば、すべて終わりです。

 仮に法律を作ったとしても、裁判所が正しく機能しないでしょう。ある憲法学者は、立憲的コントロールで復元力があれば可能ではないか、と言う。確かにアメリカは何度も国家緊急権を発動したが、厳格な権力分立と司法審査権は機能しています。

 ニューディール政策では国家緊急権で、ルーズベルト大統領が議会を通さずに大統領令を作った。それに対し、連邦裁判所は片っ端から違憲判決を出した。司法権は完全に機能した。米国は立憲的コントロールによる復元力があるので可能なんです」

岩上「よく『日本の司法は、憲法を裁く組織ではないからできない』と聞きます」

永井「アメリカの裁判所も同じシステムですが、運用する人が違うんです。もうひとつ、米国民の意識には、イギリスから独立して憲法を自分たちで作ったという自負がある。

 ところが日本は議院内閣制で、国会の多数派が政府を形成。司法の統制は政府追認、判断回避、公共の福祉により人権制約大で、国家緊急権で統制機能は喪失する。日本は、文化水準は高いが、独立や革命の歴史がありません。縦社会、中央集権になじみ、人権意識は低い。国を監視する、警戒するという意識は薄い。ゆえに立憲的コントロールの復元力はなく、一度あちらに行ってしまったら、もう戻れないでしょう」

岩上「独立宣言を書いた第3代アメリカ大統領のトーマス・ジェファーソンは、『報道の自由のないところに民主主義はない。報道の自由を拒む政府は人民の手でひっくり返せ』と言いました」

▲トマス・ジェファーソン公式肖像画
▲トマス・ジェファーソン公式肖像画

永井「初代アメリカ大統領のジョージ・ワシントンも同じで、彼は『王様になれ』と請われた。しかし、大統領になり、2期で辞めました。その慣例が現在も続いています。彼は、ローマ時代の独裁官で、戦いに勝っては(地位を返上して)農夫に戻ることを繰り返したキンキナトゥス(※)を尊敬していました。シンシナティという地名の語源です」

  • (※)
  • ルキウス・クィンクティウス・キンキナトゥス(紀元前6世紀)は、共和政ローマ前期に登場する伝説的人物。当時ローマは対外的に周辺部族と緊張関係にあった。東部のアエクイ族、南西部のウォルスキ族がローマに攻めてくると、自ら農作業を行っていたキンキナトゥスは元老院より独裁官に指名される。そして独裁官として軍勢を率いて敵を打ち破ると、半年の任期である独裁官の地位を16日間で返上。また紀元前439年に平民階級が反旗を翻そうとしている際にも再び独裁官に就任するよう要請され、反乱を抑えると再び返上、農作業を行う身に戻ったという。この彼の謙虚な行動はその後のローマ社会で長く語り継がれた(Wikipediaより)
▲ローマ時代の独裁官で、戦いに勝っては農夫に戻ることを繰り返したキンキナトゥスの像
▲ローマ時代の独裁官で、戦いに勝っては農夫に戻ることを繰り返したキンキナトゥスの像

岩上「阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、暴動や略奪などを行なわず、すぐに助け合いをやったりして、日本人の民度はとても高い。だけど、本当に程度の低い政府、程度の低い権力を持っているんです」

永井「私は愛国者で、国土、国民、文化を愛しているが、政府、議会、裁判所の国家は、愛する対象ではありません。政府は、私たちのためにあるものです。

 国家緊急権制定に反対する意見表明を、17の県弁護士会が表明しました。反対理由は、すでに法整備されている、国家緊急権は災害には役立たない、国家緊急権を憲法に含める危険性などです。災害やテロをダシにして、憲法を改正してはなりません」

岩上「災害に国家緊急権を持ち出すことは、被災者や国民に対する大きな侮辱です。永井先生、どうもありがとうございました」

IWJのこうした取材活動は、皆様のご支援により直接支えられています。ぜひIWJ会員にご登録いただき、今後の安定的な取材をお支え下さい。

新規会員登録 カンパでのご支援

一般会員の方で、サポート会員への変更をご希望される場合は、会員ログイン後、画面上部の会員種別変更申請からお進み下さい。ご不明の際は、shop@iwj.co.jp まで。

関連記事


7件のコメント “2016年最大の喫緊のテーマ!「国家を守り、人権を制限するのが国家緊急権。多くの国で権力に濫用されてきた過去がある」 〜岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー

  1. 永井幸寿弁護士のお話を拝聴しました。結論にあたる「災害やテロをダシにして憲法改正してはならない」にいたるまで、18章からなる体系的な構築です。緊急事態条項について、法律には素人の私にも分かりやすく、知らないことも多々あって、眼から鱗が落ちる内容です。とくに第2章の「緊急事態条項の定義」は、繰り返し強調されても過ぎることの無い危険性を孕んでいます。
    第4章の「系譜」で、英米法と大陸法を分けて問題を整理されるところがとくに面白く拝見しました。近代以前からある王権神授と近代の天賦人権説を法体系の中で組み立てることにおいて、日本国憲法は緻密な論理を駆使していると理解いたしました。
    12章以降は主に災害と国家緊急権についてで、現場を知って仕事をしている永井さんの言葉には強い説得力があります。穏やかで物腰が柔らかい永井弁護士の、今回のお話は、「緊急事態条項」について、単行本一冊以上の内容をもつように思います。

    1. 確かに棄民党の改憲草案は、「ざけんな」という他ないような人権抑圧であり、「民主主義」の欠片もありませんが、現行憲法を「手放しで」賛美するようでは、壊憲派と上手く闘えないと思います。

      「公共の福祉」って「定義が曖昧な言葉」だと言わざるを得ませんし、9条を額面通りに受け取ると「非武装中立」でなくてはならないので、却って「必要最小限の武装規模」が決め難くなり、militant連中のツッコミ所になっていると、私は考えます。抑も占領下に施行された法令なので、「軍隊」に関する規定は無くて当然でしょう。

      裁判所が行政、つまり自民党に逆らえないし、「最高裁判事の国民審査が有名無実」の悪しきsystemだって、自民党に有利な時期に恣意的に解散できる法案だって、女性天皇&宮家を認める為の皇室典範廃止だって、更には「同性婚」だって「婚姻は両性の合意に基づいてのみ成立」という文言があるから、改憲が必要になります。

      「護憲」ではなく、「平和と人権の尊重」というスローガンが正しいのではありませんか

  2. 岩上さんがゲストの言葉を一々ちっとも分かりやすくもコンパクトにもなっていない表現で反芻するのが鬱陶しいです。
    やめてください。

  3. 急事態条項。当に憲法破壊そのものです。ナチス ヒットラーの全権掌握、そのものです。    絶対に許してはいけない。   これを許せば、民主主義は破壊される。

  4. 先の、東日本大震災ですら、緊急事態法的に必要だっただろうか。  10万人の自衛官の緊急出動、消防、警察、全国の自治体の緊急援助。全て、既存の法律、制度で、対処出来た。   この上の制度必要だっただろうか。 制度の問題で無く、あまりにも事態が急で大きすぎた。  私は各関係者に感謝致します。  この様な事態を逆手に取り、政権が全権を掌握するなど絶対に許せない。  この様な言い訳に憲法改悪賛成党、絶対に許せない。 

  5. >災害には使えない「戒厳」を実施、関東大震災の”朝鮮人虐殺”の一因に

    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/関東大震災虐殺事件

    >テロと国家緊急権のまやかし「テロは犯罪。犯罪は、国家緊急権の発動対象ではない」

    【米国オレゴン州にあるマルヒュア国立自然保護区の本部が武装した150人近い市民に占拠された。武装した市民は「連邦政権の圧政」に抗議を表明し、これから先も他の自治政府の建物を占拠し、市民らに対して抗議に加わるよう呼びかけると宣言している。】
    http://jp.sputniknews.com/us/20160104/1403036.html#ixzz3wHAAj1vZ

  6. 「緊急事態条項」を憲法に盛り込むことの恐ろしさは、「2016/01/11 岩上安身による升永英俊・弁護士インタビュー ~緊急事態条項について」http://iwj.co.jp/wj/open/archives/281877を合わせてご覧になるべきと存じます。
    そして、その恐ろしさを実感し、阻止いなくてはならないことを明確に示しております。
    「猿の惑星氏」の岩上氏へのいちゃもんは吹っ飛んでしまいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です