「国家として、メルトダウンしかかっている」混乱が続くウクライナ、プーチン大統領の次なる戦略とは~岩上安身によるインタビュー 第536回 ゲスト 法政大学教授・下斗米伸夫氏 2015.5.7

記事公開日:2015.5.7取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJ・平山茂樹)

特集 IWJが追う ウクライナ危機
※全編映像は会員登録すると御覧いただけます。 サポート会員の方は無期限で、一般会員の方は記事公開後の2ヶ月間、全編コンテンツが御覧いただけます。 一般会員の方は、22/5/8まで2ヶ月間以内に限り御覧いただけます。
ご登録はこちらから

  「ウクライナという国家は、すでにメルトダウンしかかっている」――。『プーチンはアジアをめざす~激変する国際政治』、『アジア冷戦史』などの著者で、ロシアとウクライナの政治情勢に詳しい法政大学教授の下斗米伸夫氏は、いまだ東部で混乱が続くウクライナの現状について、このように語った。

 昨年2014年2月に首都キエフのユーロマイダンで騒乱が発生し、ロシアに近かったヤヌコビッチ政権が崩壊して以降、ウクライナは、先の見えない暗闇の中にいる。

 今年2月12日、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領がリーダーシップを取り、プーチン大統領、ポロシェンコ大統領を交えた協議で停戦の合意(ミンスクⅡ)がなされた。しかし、その後も、ウクライナ東部においてウクライナ軍と親ロシア派の対立状態は継続したままだ。4月20日からは、米軍とウクライナ軍による合同演習も開始され、これにロシアが「ミンスク合意に違反する」と強く反発するなど、1年以上にわたる混乱が収拾する気配はない。

 このようなウクライナを、安倍総理が訪問し、ポロシェンコ大統領と会談を行う予定であることが明らかになった。また、国別では最大の2500億円の支援を行う予定だという。5月4日、テレビ朝日が報じた。

※テレビ朝日 2015年5月4日 独自 安倍総理、ウクライナ訪問へ 首脳会談を検討

 これに先立つ4月27日、日米ガイドラインが18年ぶりに改定された。集団的自衛権の行使が盛り込まれ、自衛隊による米軍支援の地理的制限が取り払われるかたちとなった。自衛隊と米軍の一体化が、格段に進んだ格好だ。

 集団的自衛権が行使されることにより、自衛隊は、米軍とともに混乱が続くウクライナに行くことになるのではないか。ガイドラインの改定、日米首脳会談の直後の安倍総理のウクライナ訪問は、そのようなケースを想定させるのに十分なものだ。

 ウクライナは今後、どうなるのか。そして、ウクライナをめぐり、米国とロシアは、次にどのような戦略を選択するのか。5月7日、岩上安身が話を聞いた。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年5月7日(木) 13:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

訪米を終えた安倍総理、次はウクライナ訪問か?

岩上安身(以下、岩上)「総理が米国で、日米新ガイドラインや安保法制、TPPなど、国会での審議を経ぬまま、米国と勝手に約束してしまいました。自衛隊が行く先として、中東、そしてウクライナがあげられます。そのウクライナ情勢について、本日は法政大学教授の下斗米伸夫先生にお話をうかがいます」

下斗米伸夫氏(以下、下斗米・敬称略)「米国が一極支配の力を持っていたのは、一般的には1990年代と言われますが、実は1945年ではないか、と思います。それから考えると、現在の米国の力は、当時の半分くらいになっています。その代わり、ロシア、中国、インド、ブラジルの、BRICsが台頭していますね」

岩上「米国を頂点としてG7が世界を支配してきました。しかし現在、G20が台頭してきました。にもかかわらず、日本はいまだにG7の体制を盲信し、米国に追従する姿勢を崩さずにいます。

 訪米を終えた安倍総理が、次にウクライナを訪問すると報じられています。オバマ大統領は、日米首脳会談後の共同会見で、『日米両政府で、ウクライナに対するロシアの侵略に対抗する』と、ロシアを敵視する発言をしています。このことからも、米国は、対ロシアの戦いに、日本を巻き込もうとしていることは明らかだと思います。

 今回の日米ガイドラインの改定で、ウクライナへの自衛隊派遣が可能になるのではないでしょうか」

下斗米「私は、まだ、自衛隊が米軍とともにウクライナに行く、というところまでは考えていません。重要なのは、ミンスク合意後のプロセスに、米国がどう関与するか、ということです。集団的自衛権というよりも、ロシアをも組み込んだ、集団的安全保障の枠組みが作られるのではないでしょうか。

 しかし、日本がウクライナに拠出する2500億円という額は、IMFよりも大きいものです。この点について、政府はきちんと国民に説明をするべきでしょう」

日本がウクライナに資金援助をしても意味がない

岩上「まず、ウクライナ危機とはどういうものか、ということから振り返っていきたいと思います。そもそも、ウクライナ語とロシア語というのは、どのような点で違いがあるのでしょうか」

下斗米「もともとは同根なんですね。ウクライナの『クライナ』は『すみっこ』という意味で、普通名詞です。『ウクライナ』という仕組みを作ったのは、ロシア革命時のレーニンです」

岩上「キエフのユーロマイダンで『クーデター』があり、その後、ロシア語の使用禁止、という事態になりました」

下斗米「クリミアの住民は、ほとんどウクライナ語が分かりませんでした。言語をめぐる争いは、アイデンティティをめぐる争いです」

岩上「ウクライナ国民の平均年収は、ロシアの5分の1程度、と言われています。これは、月に2万円強、という金額です。非常に貧しい暮らしを強いられています」

下斗米「オリガルヒが、国家の富の8割を独占していますが、彼らは税金をほとんど払っていません。そこに、日本が資金援助を行っても意味がありません。ロシアは、それなりに政経分離をし、オリガルヒを権力から引き離しました。しかし、ウクライナではそれができていません。オリガルヒでないと、政権に関与することができません。ですから、常に政争が起きるのです。

 IMFが170億ドルの資金援助をすると言っていますが、これはウクライナの安定にとって有害です。日本がやるべきことは、資金援助ではなく、人材の育成や、エネルギー技術の提供といったことではないでしょうか。日本が払ったお金は、結果的に、ガス代として、ロシアのガスプロムに回ることになります」 

冷戦後、ロシア研究をやめてしまった米国 「政権中枢にロシアに関するブレーンがいない」

(…サポート会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です