(再掲)「今は、政府の交渉を全面的にバックアップすべき時」 イスラム国邦人殺害予告事件について、岩上安身が元在シリア大使・国枝昌樹氏に聞く~ 岩上安身によるインタビュー 第507回 ゲスト 国枝昌樹氏 2015.1.22

記事公開日:2015.1.22取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・平山茂樹)

特集 中東
※公共性に鑑み、期間限定でフルオープンにします。

 イスラム国による、日本人2人の殺害予告映像が公開されてから約1日半。日本政府は、ヨルダンの首都アンマンに現地対策本部を設置し、中山泰秀外務副大臣をリーダーとして、懸命な情報収集を行っているという。

 どのようなルートで政府がイスラム国側と接触しているかという点は明らかとなっていないものの、菅義偉官房長官は1月21日午後の会見で、「第三国や部族の長、宗教団体の長、ありとあらゆる(接触の)可能性の中で全力で取り組んでいる」と語った。

 安倍総理は、ヨルダンやエジプト、トルコなど、関係各国への協力を要請。岸田文雄外相も20日夜、米国のケリー国務長官と電話協議を行い、情報提供や早期解決に向けた協力などで支援を求めた。

 元在シリア大使で、中東情勢、特にイスラム国の動向に詳しい国枝昌樹氏は、「人命尊重を第一に考え、政治的な立場はどうであれ、今は政府の交渉を全面的にバックアップすべき時だ」と語る。

 イスラム国による今回の犯行と、安倍総理による中東歴訪、とりわけイスラエルのネタニヤフ首相との会談は、関係しているのか。そもそも、イスラム国は、日本をどのように見ているのか。イスラム国の過激な思想の源流とあわせ、1月22日、岩上安身が話を聞いた。

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■全編動画

  • 日時 2015年1月22日(木) 10:00~

邦人殺害予告事件~イスラム国の目的とは何か

岩上安身(以下、岩上)「本日は、在元シリア大使の国枝昌樹さんにお話をうかがいます。大変な事件の最中、『イスラム国の正体』という新刊が出版されることになりました。我々は、イスラムの過激派、過激思想を知らないわけにはいかないと思います。

 まずは、今回起きた事件について。総理が中東を歴訪中に起きました。どのようにご覧になっていますか?」

国枝昌樹氏(以下、国枝・敬称略)「湯川さんは昨年(2014年)の8月から、後藤さんは昨年の11月からイスラム国によって人質にされています。通常イスラム国は、人質によって何かを得ようと考えます。

 今回の目的は何か、それがひとつのポイントです。それから、彼らはタイミングを選ぶ。人質という商品の価値が一番高い時に、売ろうとするのです。イスラム国のプレゼンテーションは、安倍総理の言葉と一部重なるので、アピールする部分はあるかもしれない」

岩上「政治的な効果も狙っているのではないでしょうか」

国枝「お二人の命を救済するために、政府が全力をあげていると聞いています。私が一番申し上げたいのは、政治的な立場はどうであれ、今は、政府の交渉を全面的にバックアップするという姿勢を国民として取るべきです。

 ですから、今は、政府の批判をしたり、政府のあげ足を取ったりするべきではないと思います。政府の交渉に信頼を置いて、冷静に見守ることです。イスラム国は、日本国民の反応を、必ず見ているわけですから」

「安倍総理による中東歴訪との関連は薄い」

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岩上「身代金というのは分かりやすいと思うのですが、彼らの政治的思惑は何なのでしょうか」

国枝「彼らはこれまで、その場対応型の姿勢を示してきました。ですから、どの時点から安倍総理の中東訪問をキャッチしていたのか分かりませんが、可能性としては低いと思います。

 2億ドルのチャンスが出た時、『これはチャンスだ』ということで、3日後に今回のような状態になったのだと思います。その間に、この画像を作った、と。画像が杜撰だという指摘もありますし、案外、その場対応なのではないでしょうか。

 今回の1億ドルずつ、というのは、米国のフォーリー記者と同じ金額なんですね。ですから、日本は、米国と同様に見られている、ということではないでしょうか。

 私達は、日本としてはこれまで、イスラム国と接触することはほとんどなかったので、イスラム国が日本に敵視感情を持っていないだろう、と思っています。しかし、今回の事件で明らかになったのは、そうじゃない、ということなんですね」

岩上「安倍政権批判は、今のところは控えよう、ということでしょうか」

国枝「総選挙で自民党に投票した方も、そうでない方も、今は、政府のやっている努力をバックアップし、静かに見守るべきだと思います」

日本政府が取るべき対応とは

岩上「イスラム国にとって、日本はどう見えているのでしょうか」

国枝「日本はよく知られています。企業進出が盛んですし、現場レベルでは多くの情報が流れています。米国と日本の関係というのも、よく知られています」

岩上「イスラム国は残酷で許しがたい、という共通理解があるとはいえ、各国と協力する時、それぞれの国が国益を追求するのだと思います。日本としては、どういった国益を追求すべきなのでしょうか」

国枝「総理のイスラエルでの会見と、イスラム国の動画発表とを、あまり結びつける必要はないと思います。こういったことを、淡々と事実として受け入れることが重要だと思います。空爆が続き、イスラム国も苦しい立場に追い込まれています」

岩上「日本政府は、どういった対応をとるべきなのでしょうか」

国枝「我々としては、空爆に参加できないわけですから、人道支援の分野で支援することです。日本として、やることをやる。裏取引はしない。これは、誰も反対できないことだと思います」

「シャルリー・エブド事件」をどう見るか

岩上「イスラム国が急拡大していくなかで、今年(2015年)に入り、シャルリー・エブド事件、そして今回の邦人殺害予告事件と、たて続けに起こりました」

国枝「シャルリー・エブド事件の時、フランス人の友人に聞くと、シャルリー・エブドを買ったことはなかった、と。

 彼によれば、積極的に購入はしないけれど、社会に涼風を吹かせるものではある。そのことに対する挑戦に対しては、怒りを表さなければならない、ということでした。一方、犯人の側は、孤児で、就職が難しく、社会で孤立していました」

イスラム国の過激思想、その源流を探る

岩上「私達は、イスラム過激派のことをテロ組織と言って片付けてしまいますが、彼らがなぜそういう行動を取るのか、知る必要があると思います。イスラム過激派は、一過性のものではなく、なぜアメーバのように次から次へと出てくるのでしょうか。

 新刊の中で、このあたりのご事情を解説されていますね。イスラム国を、『現代のハワリージュ派か』とご指摘されています」

国枝「体制から弾圧されてきた過激な異端派です。常にコーランに則る、まさに原理主義派と言われるべき存在です。

 7世紀の感覚で言うと、『神の教えに従わないものを殺す』というのは、道徳的なものだったんですね。イスラム国は、1300年の経過を無視して、こうした原理主義的な教えに回帰しようとしています」

岩上「国枝さんは、この御本の中で、タイミーヤ理論というものをご紹介されています」

国枝「モンゴルがバグダッドを攻略し、イルハン国が生まれたことがきっかけでした。イルハン国の指導者が、イスラム法を逸脱した生活をしていることを批判したのが、タイミーヤです。

 もう一人、重要なのが、サイイド・クトゥブ、という人物です。エジプトのナセル政権によって処刑されるのですが、それは『ナセル政権は不信心だ』と批判したためです。彼の『道標』という本は、イスラム過激派のバイブルとなります」

岩上「アルカイダは、こうした流れと無縁ではないんですね」

国枝「ビンラディンが学生の時、パレスチナ人教育者アブドゥッラー・アッザムとつながりを持ち、先ほどのサイイド・クトゥブの革命理論を教えられました」

ミシェル・ウェルベックの新刊『服従』に見る、グローバリズムが席巻した後の世界

岩上「シャルリー・エブド事件のタイミングで、ミシェル・ウェルベックが『服従』という小説を発表しました。極右のルペンとジハーディストが対立をする、という世界を描いています。格差が拡大したなか、極右やジハーディストのような勢力が台頭しているのでは」

国枝「日本とヨーロッパの違いとして、ホロコーストというものがあります。ヨーロッパの若者はみな、ホロコーストについてしっかり学ぶことになっています。なぜなら、ナチスは民主的な社会の中で生まれ、それがホロコーストにつながったからです。

 悪魔的な状況を、社会の細部、小さな芽の段階で対処しなければならない、というのが、ヨーロッパの教育なんですね。では、はたして日本はそうなっているんでしょうか。戦前の日本でも、政権に対する国民の支持がありました。

 フランスでは、マリー・ルペンのような存在をマジョリティにさせてはいけない、という感覚はきちんと機能しています。しかし、アフリカ人やアジア人など、民族的なマイノリティーに対する差別意識は、いまだに根強く残っているんですね。

 経済的な安定性、そして自らの立ち位置が認められる社会、そういうものがきちんと機能する必要がありますね。そうでない限り、社会の悪魔的な状況というものが、繰り返し噴出することになるでしょう。

 今回の件については、日本の大使館というのは、意外と情報網を持っているんです。ただ、公表できないだけで。私は、無事に解決できる可能性は、あると思っています。はじめから、希望を失ってはいけません。今は、政府をバックアップする時です。

 シャルリー・エブドの風刺画については、イスラムに限らず、異文化に対して理解しようとする姿勢が必要だったと思います。しかし、だからといって、襲撃するのはもちろんよくありません。たかが3万部の発行部数ですから、批判するなら、買わなければいいだけの話です」

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  1. うみぼたる より:

    シャルリー・エブド事件とカタールマネーとの関係性はあるのでしょうか。つながりそうなキーワードを並べるに過ぎないのですが、事件が発生した1月7日以降、フランスの株価が上昇しています。

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