「平和と民主主義の危機を、国民に知らせる役割を放棄している日本のマスメディア」 ~孫崎享氏講演会 2014.6.7

記事公開日:2014.6.7取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「安倍首相は、集団的自衛権を使えば、あたかも日本のおじいさんやおばあさんが助かるかのように、イラストを見せてアピールした。私は、日本は本当に悪い指導者を持ったものだと思った」──。

 2014年6月7日(土)、岡山市の岡山県総合福祉会館で、元外務省国際情報局局長、孫崎享氏の講演会「憲法改悪反対・秘密保護法廃止を目指して」が行われた。縦横無尽な孫崎氏のスピーチは、安倍政権の暴走政治に起因する、日本の危機的状況を総花的に論じるもので、新聞やテレビへの厳しい批判の側面を持ち合わせていた。

 孫崎氏は、日本のメディアが報じなかった、最近の重要ニュースを次々に紹介。ニューヨーク・タイムズや外国特派員協会が、日本の状況に懸念を表明していることについて、「日本の新聞やテレビよりも海外メディアの方が、よっぽど安倍政権を真面目に批評している。市民は『正しい情報』を探し出す努力が必要だ」と訴えた。

 孫崎氏は、5月8日のニューヨーク・タイムズ紙が、「日本の平和主義憲法」とのタイトルで、安倍晋三首相が憲法解釈で集団的自衛権の行使容認を図ろうとしていることを、社説で批判した件を紹介し、その内容を次のように要約した。

 「安倍首相は今、自衛隊を海外で使おうとしている。これは新たな流れだが、本来なら、それをやるには憲法を改正しなければならない。だが、安倍首相は、憲法の解釈でもって変えようとしており、それは民主主義の過程を覆すものだ。日本という民主主義国家は存亡の淵に立たされている」──。

 このように述べた孫崎氏は、「米国の代表的新聞に、こういった社説が載ったことを、どれだけの日本人が知っているだろうか」と、満員の客席に向かって挙手を求めるも、ほとんど手は上がらなかった。

 「2009年9月に民主党の鳩山由紀夫政権がスタートした時、日本の新聞やテレビは、『米国メディアが鳩山首相を悪く言っている』とさんざん騒いだのに、ニューヨーク・タイムズのこの一件は、さっぱり報じられなかった」。

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  • 講演 孫崎享氏(元外務省国際情報局局長、元防衛大学校教授)「憲法と平和・国防」
  • 日時 2014年6月7日(土)15:30~17:00
  • 場所 岡山県総合福祉会館(岡山県岡山市)

外国特派員協会が「今の日本」に声明文

 また、昨年12月23日、天皇陛下が満80歳の誕生日の記者会見で、「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法を作り、さまざまな改革を行って、今日の日本を築いた」と発言されたことにも触れ、「実に不可思議な会見だった。普通だったら、陛下は自分の時代のことをお話になるはず。(わざわざ日本国憲法に言及された)陛下には、かなりの思いがあったに違いない」と述べた。

 「メディアの中で、少なくともNHKニュースは、この件を扱っていない」と続けた孫崎氏。「(NHKは)陛下のあの発言がニュースに流れると、安倍政権が困るから扱わなかったのだ」と口調を強め、日本の新聞とテレビは、日本の平和と民主主義が危機に直面していることを、国民に知らせなければならない役割を放棄している、と喝破した。

 「福島第一原発事故の、その後の検証報道にしても、事故は津波ではなく地震によるもの、という見方に説得力が感じられる。前衆議院議員の川内博史氏は昨年3月、東京電力以外の人間では初めて、事故後の福島第一原発1号機の内部に入り、『地震説』の根拠になり得る映像を撮ってきた。だが、日本の新聞・テレビは、この件も無視した」。

 さらには昨年11月に、当時審議入りの段階にあった特定秘密保護法案について、日本外国特派員協会がルーシー・バーミンガム氏の会長名で声明文を発表したことに言及。

 「会長は『秘密保護法は、報道の自由と民主主義の根本を脅かす悪法だ。撤廃あるいは大幅修正を勧告する。開かれた社会での調査報道の神髄は、政府の活動に関する秘密を明らかにし、伝えることにある』という声明文を出している」と述べ、「特派員協会の会長が、声明文を出すこと自体が異例なのに、日本のメディアはこの件についても、ほとんど伝えていない」と懸念を示した。

 孫崎氏は、今の日本の危機的状況を作っている「犯人」の1人はメディアだ、と訴える。「サッカーの試合結果のニュースは100パーセント信用していい。天気予報も、精度が上がったから80パーセントは信用できる。だが、政治情勢に関する報道の信頼度は、せいぜい20~30パーセントぐらいではないか」。

秘密保護法が日米軍事一体化を支える

 特定秘密保護法について、孫崎氏は、外務省時代の国際情報局長職の経験から、「私は各国のスパイと接触してきて、『この情報は、洩れると厄介なことになるから注意してほしい』と言われたことはあった。しかし、『あなたの国には秘密保護法がないから、重要な情報を渡さない』と言われたことは一度もない」と強調。同様のことを、元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)も発言している、とした。

 その後、米中央情報局(CIA)元職員が、米国が極秘に個人情報の大量収集を行っていたことを暴露した「スノーデン事件」に話題が及ぶと、「米国は自国のみならず、日本、ドイツ、フランスをも盗聴の対象にした。これを受け、メルケル独首相はオバマ米大統領に抗議を行った。仏大統領もしかりだった。では、日本政府はどうだったか? なんと、『米国に聞いて調査する』だった」と述べ、「米国が『はい、盗聴していました』と認めるわけがない」と苦笑した。

 孫崎氏は、日本はそれほど「秘密」を重視する国ではないと指摘し、「そんな国が秘密保護法を作った理由は、米国に(作れと)言われたからだ」と力を込めた。

 孫崎氏は、日米安全保障条約の第5条にある規定について、「日本の施政下に誰かが攻撃した時には、日米双方は自分に攻撃されたのと同様と理解して、自国の憲法に従って行動をとる」と説明した上で、「たとえ、集団的自衛権の行使が容認されても、日米間に『新たな合意』が生まれるわけではない」と強調。「尖閣諸島の問題があるから、集団的自衛権の行為容認が急務という話も嘘だ」とも話した。

 そして、「集団的自衛権の行使容認が必要な理由は、日本の自衛隊が米軍と一緒に戦えるようにする点にある」と発言。孫崎氏は、自衛隊は今、米軍の傭兵にされつつあると指摘し、「普通の傭兵はお金をもらうのだが、日本は毎年5000億円を払って、さらに傭兵になろうとしている」と続けた。

 さらに、「米軍と自衛隊が一緒になるということは、米国が日本に対し、一緒に軍事行動を展開するのに必要な情報を提供せざるをなくなることを意味する。そこで、『提供した情報を漏らしてもらっては困る』という理由から、米国は日本に対し、秘密保護法の制定を求める運びとなったのだ」と述べた。

抑止力論は空言

 米国が自衛隊を傭兵として使っていく方針は、2005年10月に日米間で交わされた「日米同盟:未来のための変革と再編」という、やはりメディアがほとんど取り上げなかった重要文書の中に示されていると、孫崎氏は説明した。「集団的自衛権の行使容認の話が持ち上がったのは、第1期・第2期の安倍政権時代だ」と語り、「自衛隊が米軍の傭兵になる話が出なければ、秘密保護法は本来、必要にはならないものだ」と指摘した。

 その上で、秘密保護法の主管官庁は内閣府の内閣調査室である、と強調。「ここは警察官僚が中心の場所。つまり、警察官僚が中心になって作られたのが秘密保護法であり、これは、警察官僚が日本の政治の前面に出てきたことを意味する」と訴えた。

 孫崎氏は、多くの国家間で「情報隠ぺい合戦」が勃発したら、世界の安全は保てなくなると警鐘を鳴らす。「すでに『核兵器の時代』になってしまっている以上、ある日突然、ロシアが米国を核で攻めたら、米国は確実に消滅する」。

 孫崎氏は、米国がいくら兵力の優位性をアピールしても、「核の時代」では攻撃されたらひとたまりもないことを重ねて強調。巷間聞かれる、いわゆる「抑止力論」は、今の時代ではさほど意味がないことを力説した。

 「米国がロシアから攻撃を受けないための真の有効策は、『われわれは、あなたの国を攻撃しない』ということを証明してみせることだ」。孫崎氏はこう力を込め、「米国はロシアに対し、軍事力の配備や戦略などの情報をすべて開示しなければならない」とした。

「正しい」と思う情報を積極的に広めてほしい

 そして、1970年代以降は、米国とロシア(旧ソ連)の間に大型のスパイ事件は発生していないことを紹介。「米国は、ロシアのみならず中国に対しても、『敵』への情報開示こそが最大の安全策であることを知っている」と強調した。孫崎氏は「中国もまた、4月に訪中したヘーゲル米国防長官に対し、自国の軍事力の要である航空母艦『遼寧』を2時間にわたって視察させている」とも述べた。

 講演の終盤で孫崎氏は、「集団的自衛権の行使容認は、米軍のために行うもの。特定秘密保護法は、自衛隊を米軍のために使う実態を隠すために作られたもの」と重ねて強調。「(5月15日の会見で)安倍首相は、集団的自衛権で、あたかも日本のおじいさんやおばあさんが助かるかのようにアピールしたが、私はあれを見て、日本は本当に悪い指導者を持ったものだと思った」と表明した。

 その上で、「私たち市民は、3.11のフクシマショックから『正しいことを見極める力』の大切さを学んだ」とし、客席に向かって、「市民には『正しい情報』を探し出す努力が必要。それは新聞やテレビに頼っても無理だ」と訴えた。

 「無料で利用できるソーシャルメディア(SNS)の活用は有効だ。私はツイッターをやっており、フォロワーは約7万人いる。市民は、気になる有識者からどんどん情報を取得してほしい。そして、その情報が正しいと判断したら、積極的に拡散してほしい。今や誰もが、情報発信者になれる時代なのだから」。

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「「平和と民主主義の危機を、国民に知らせる役割を放棄している日本のマスメディア」 ~孫崎享氏講演会」への2件のフィードバック

  1. @mkshigaさん(ツイッターのご意見より) より:

    アフガン戦争時 福田首相は輸送機を出すよう米国から言われたが拒否、責任をとって辞任
    2014/06/07 【岡山】憲法改悪反対・秘密保護法廃止を目指してー孫崎享講演(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/145525

  2. @megumegu1085さん(ツイッターのご意見より) より:

    知らせる役割を放棄しているというより国民へ知られないように操作している

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