「この法案は、日本の行方を左右する」 ~憲法講演会「知られざる秘密保護法案の秘密 ~この国の平和・民主主義が危ない~」 井上正信氏 2013.11.9

記事公開日:2013.11.9取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 関根/奥松)

 「国民主権、民主主義を破壊する。基本的人権、知る権利、報道の自由を、安全保障のために制限する。つまり、公益および防衛の秩序を強調する、自民党改憲草案とまったく同じ内容だ」──。

 特定秘密保護法案について、井上正信弁護士はこのように指摘した。また、同法案とセットになった日本版NSC設置法案、さらに来年、国会に上程される国家安全保障基本法案についても問題視し、「集団的自衛権を正当化させ、アメリカと共に戦争準備を押し進める法案だ」と述べた。

 2013年11月9日(土)、岡山市北区の岡山弁護士会館で、岡山弁護士会憲法講演会「知られざる秘密保護法案の秘密 ~この国の平和・民主主義が危ない~」が開かれ、井上正信弁護士が講演を行った。井上氏は日弁連秘密保全法制対策本部・副本部長を務める。

■全編動画

  • 主催あいさつ 近藤幸夫氏(岡山弁護士会 会長)
  • 講演 井上正信氏(広島弁護士会、日弁連秘密保全法制対策本部 副本部長)
  • 質疑応答
  • 行動紹介
  • あいさつ
  • 日時 2013年11月9日(土)
  • 場所 岡山弁護士会館(岡山県岡山市)
  • 主催 岡山弁護士会告知

特定秘密保護法案は情報公開の流れに逆行

 井上正信氏は「すべての弁護士会は、2年前から特定秘密保護法案へ意見表明をし、反対してきた。なぜなら、日本の行方を左右する重要な法案だからだ」と切り出した。「日本政府ほど、情報を秘密にしている国はない」と述べて、在外公館のワインリストの公開是非や、沖縄の米軍基地を巡る密約を外務省が廃棄した西山事件を例に挙げ、「むしろ今は、秘密を減らし、もっと情報公開をすべきだ」と主張した。

 井上氏は「今回の法案は、第1次安倍内閣や麻生内閣の秘密保全法と、同じ部署の官僚が作っている」と指摘し、次のような問題点を挙げた。「まず、秘密を扱う関係者の範囲が拡大していくこと。自衛隊では最初の10項目が、防衛大臣が細かく指定して234項目になる。さらに、そこから3万件を秘密指定とし、それが陸海空自衛隊や施設ごとに積み重なり、最後には17万件あまりになってしまう」。

 「外交で国家安全保障に関することは、すべて秘密になる。TPP交渉の内容は守秘義務が4年間だが、それも反故にされるだろう。特定有害活動はスパイ活動に関すること。そして、テロ活動。つまり、政治的敵対者はすべてテロリストになる」と話し、2010年10月の警視庁国際テロ捜査情報流出事件を取り上げた。「これは、警視庁が全国のイスラム教徒の個人データ、団体、教会について、尾行や聞き込みで調査したり、微罪でひっかけて内部情報提供者に仕立てたりして、テロとの関連を調べ上げていたというもの。警察内部からの資料流出で明るみに出た」。

懲役10年、罰金1000万円の重罪。法改正で死刑の可能性も?

 井上氏は「現在、特別管理秘密が41万2931件あり、細目化したら100万件以上になってしまう。その名称すら、秘密の管理運営に支障を来すため、秘密である」とし、特定秘密取得罪について話した。

 「特定秘密に近づく人は、常に犯罪者になる可能性が大きい。特定秘密の管理を侵害する行為はすべて犯罪。秘密を知ろうとするだけで罰せられ、懲役10年、罰金1000万円。両方科せられる場合もある。法改正で死刑にするかもしれない。うっかりミスの過失でも罰せられる。特定秘密に近づくあらゆる行為を処罰し、網の目を張り巡らせる。『秘密を話してほしい』と言うことは煽動になるため、言論の自由もなくなる」。

言論の自由を封じ、原発情報も特定秘密に

 「大きな問題は、取材・報道の自由、知る権利を侵害すること。知る権利とは、国民主権、民主主義の証だ。国民が政府の行為を知り、世論を形成し、方向を変えさせる。これは主権者の義務だ。そのための情報収集や権力監視を、報道機関に任せてきた」と井上氏は言う。

 「だが、これからは公務員が口を閉じ、広報からしか情報を得られない。内部告発も困難になり、取材行為自体が犯罪になってしまう。特定秘密は誰も知らないから、『未必の故意』で冤罪を作れる。マスコミの生命線は切られ、権力を監視する機関から、監視される機関になり下がる。対テロ対策ということで、原発関連の情報も秘密に指定される」と警鐘を鳴らした。

自民党改憲草案と根は同じ

 「この法案を作ったメンバーは警察官僚。防衛と外交秘密があるが、防衛秘密は自衛隊法にあるので、新しくこんな法律は要らないのだ」と断じた井上氏は、「スパイ防止、テロ防止が警察の役割で、中心になっているのが内閣情報調査室。内閣官房副長官は3人いて、その下に内閣管理官がいる。内閣官房には31万人いて、一番秘密を持っている」と、法案作りの舞台裏を解説した。

 さらに、「憲法とのかかわりでは、この法案は国民主権、民主主義を破壊する。基本的人権、知る権利、報道の自由を、安全保障のために制限する。つまり、公益および防衛の秩序を強調する、自民党改憲草案とまったく同じ内容だ」と断じた。

 「裁判を受ける権利も制限される。特定秘密は中身が知らされないため、起訴された人は何が問題になっているのかわからない。罪刑法定主義の否定だ」と、司法のあり方まで変わる危険性を訴え、「国民の代表である国会議員の国政調査権も否定する。官僚が、国会と国会議員をコケにしている構図だ」と批判した。

携帯電話の履歴開示義務まである「適正評価制度」の恐さ

 次々と法案の問題点を挙げていく井上氏は、「適正評価制度は、この法案が一番狙おうとしているところ。国家公務員、都道府県の警察官、防衛産業、研究機関、大学などの職員が対象になる」とし、具体的に自衛官の例を挙げた。

 「現在、自衛隊24万人の職員のうち、調査対象にあたる自衛官が5万人もいる。携帯電話の履歴は開示義務がある、などの誓約書を書かされて、配偶者、親族、同居人、交友関係、所属団体などが調べられる。ある意味、国民全部をスパイと見なしている」と指摘した。

安倍首相の執念。日本版NSC設置法案と国家安全保障基本法案

 井上氏は、NSC設置法案についても説明した。「日本版NSC(国家安全保障会議)とは、具体的な軍事作戦などを立てる、アメリカの戦争司令部がひな形になっている。集団的自衛権行使の支柱だ。官僚50~60人で組織され、制服組自衛官一佐クラスが内閣官房に入った組織になる」。

 「この5月、内閣官房に準備室を立ち上げていた。長島純空将補が内閣官房審議官に就任し、われわれの知らないところで、すでに組織作りは着々と進んでいる。さらに、日本版CIA設置の計画もある。つまり、戦争政策を進めるためには、機密軍事情報を官邸に上げなくてはならない。かつ、アメリカの情報を漏らしてはならない。それで、特定秘密保護法案と日本版NSC法案をセットにした」。

 井上氏は「これらの法案は、第1次安部内閣でできなかったので、安倍首相は執念を持っている。また、国家安全保障基本法案が、来年、国会に上程される。集団的自衛権、武器輸出を可能にするなど、国家改造基本法に等しいものだ。自衛隊法改正、有事法制など、内閣法制局を飛び越せる内容になる」と危機感を示した。

まだ廃案に持ち込める、特定秘密保護法案

 「安倍首相は『情報漏えいのリスクが高まっている』と国会で答弁したが、最近15年間で、情報漏えいは5件しかない。今のままでシステム管理をしっかりすれば、情報は守れる。安倍首相は、集団的自衛権を行使したいから、アメリカから情報を取りたいだけだ」と井上氏は言明した。

 最後に、「安倍政権は、とにかく早く法案を成立させたいと焦っている。時間がかかれば、ボロが出るからだ。日弁連は『憲法に反する法律をつくる必要はない』と主張してきたし、この法案に対する世論も激変している。まだ、廃案に持ち込める勝機はある」と力を込めた。

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