【集団的自衛権】国民による「安保法制懇」立ち上げ 元法制局長官や憲法学者らが警鐘「民主主義がぶっ壊れている」 2014.5.28

記事公開日:2014.5.29取材地: テキスト動画
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(取材・記事:原佑介、記事構成:佐々木隼也)

 安倍総理は5月15日、自身の「私的な」懇談会である「安保法制懇」の報告書を土台として、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認の正当性を訴え、国民に理解を求めた。これに対し、「立憲主義の破壊に等しい歴史的暴挙である」として、元法制局長官をはじめとする、憲法や国際法、安全保障の専門家らが5月28日、「国民による」安保法制懇を立ち上げた。委員らは同日、参議院議員会館で記者会見し、それぞれの立場から解釈改憲を批判した。

■ハイライト

  • 阪田雅裕氏(元第61代内閣法制局長官)、大森政輔氏(元第58代内閣法制局長官)、樋口陽一氏(東大名誉教授・憲法)、小林節氏(慶応大学名誉教授・憲法)、長谷部恭男氏(早稲田大学教授・憲法)、最上敏樹氏(早稲田大学教授・国際法)、柳澤協二氏(元防衛省防衛研究所長、元内閣官房副長官補)、孫崎享氏(元防衛大学校教授、元外務省情報局長)、伊勢崎賢治氏(東京外国語大学教授・平和構築、紛争予防)、愛敬浩二氏(名古屋大学教授・憲法)、青井未帆氏(学習院大学教授・憲法)、伊藤真氏(法学館憲法研究所所長、弁護士)
  • 日時 2014年5月28日(水)9:30~
  • 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)

阪田元法制局長官「我々の言葉は犬の遠吠えだという歯がゆさがあった」

 元第61代内閣法制局長官の阪田雅裕氏は、この「国民安保法制懇」について「我々は反戦運動をしてきたわけでも、護憲運動をしてきたわけでもない。集団的自衛権の行使の是非についても、全員の意見が一致しているわけではない」と前置きしたうえで、「しかし、集団的自衛権を行使するとなれば、日本のかたちに関わる大問題だ。だからこそ、もし集団的自衛権を行使するのであれば、十分に国民的な議論を尽くした上で、憲法改正というプロセスによって国民意見を集約し、国民の覚悟を求める必要がある。我々はこの点で意見を一緒にしている」と、立ち上げの理由を語った。

 委員らは、安倍政権の進める解釈改憲に危機感と怒りを持ち、一人ひとりがテレビや集会の場でその不当性を訴えてきたが、相手は一政権である。阪田氏は、「安倍政権は強固な基盤を持っていて、我々の言葉は犬の遠吠えのように、訴えが届かないという歯痒い思いを持っていた」と胸の内を明かし、「国民安保法制懇で議論を重ね、解釈改憲が不当であるということを訴えていきたい」と語った。

 阪田氏は昨年9月18日、岩上安身のインタビューに応え、「憲法解釈は、日米安保とのかね合いといった外交上の問題から、軽々に変更してよいものではない」と厳しく指摘している。

国連の安全保障の議論で『国益』を問題にすること自体が不謹慎

 伊勢崎賢治教授(東京外国語大学総合国際学研究院)は、NGO、国連職員として、世界各地の紛争地域で紛争の処理、武装解除などに取り組むなど、国際平和維持活動の実務家として長いキャリアを持っている。

 伊勢崎教授は会見で、「安倍総理は『紛争地帯から日本人NGOワーカーなどを助けられない、9条が足枷だ』と言っているが、これは不謹慎なことだ」と指摘した。

 「人道援助の場合、軍民一丸となって、『正当防衛』というかたちで警護することになっているというのに、国連の安全保障の議論で、『国益』を問題にすること自体が不謹慎」。

 さらに、安倍総理が主張する米艦船に対する「駆けつけ警護」について、「現場ではこんな言葉はない。駆けつけて当たりまえ。国籍が違おうと、助けない部隊はない」と反論した。

 そして、国連が今一番問題にしていることとして「住民の保護」をあげた。伊勢崎教授は、「ルワンダの100万人の虐殺を前に、国連PKOが何もできなかったことがトラウマになっていて、反省している。あの時は中立性を重んじたことで何もできなかったが、それもあって住民保護は南スーダンやコンゴで住民保護は慣例化されている」と述べ、安倍総理の想定する集団的自衛権の行使例の非現実性を指摘した。

「米軍機が来て脱出する」というプランは、どこの大使館も持っていない

 元外務省情報局長・孫崎享氏は、「日本の民主主義の危機が深刻度を増している。なぜ、民主主義の危機を犯しながらも、解釈改憲が行われなければならないのか」と問題提起した。

 駐イラン大使なども務めた孫崎氏は、「安倍総理は海外にいる邦人の保護の必要性を前面に訴えているが、各大使館は、邦人がどう逃避するかのプランを持っている。しかし、『米軍機が来て脱出する』というプランは、どの国の大使館も持っていない」と証言し、これを集団的自衛権の話にするのは問題のすり替えだ、と主張した。

 安倍総理が掲げる「ミサイル防衛」もシステム的に機能しないとし、「安倍総理や、安保法制懇が事例として挙げているものはほとんど緊急性がなく、日本が入らなければいけない問題ではない」と断言。それでも安倍政権が拙速に集団的自衛権を進める理由として、「集団的自衛権は、米軍の傭兵になるシステムだ」と分析した。

 孫崎氏によると、2005年に日本と米国との間で結ばれた「日米同盟 ~未来のための変革と再編」の中で、日本の集団的自衛権の方向性が示されているという。

 そこには、「地域及び世界における共通の戦略目標を達成するため、国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は、同盟の重要な要素となった。この目的のため、日本及び米国は、それぞれの能力に基づいて適切な貢献を行うとともに、実効的な態勢を確立するための必要な措置をとる」と記載されている。

 孫崎氏は、この規定に基づいて集団的自衛権の議論は進められているとし、「基本的には集団的自衛権は、米軍の傭兵になるシステムだ。日本の安全に資するものではないのに、なぜ日本の民主主義に背くのか。それは米国のためだ」と強調した。

 米軍と傭兵となった日本が、尖閣を巡り中国との間で武力衝突があった場合、米軍は助けてくれるのか。日本の大手メディアは米国が「尖閣は日米安保条約の適用範囲である」と言明するたびに大きく報じてきたが、孫崎氏はこれまで一貫して、「米国は日本を助けない」という分析にたっている。

 4月25日に行われた講演会でも孫崎氏は、「尖閣は日米安保条約の適用範囲である」との米国側見解は、「米政府が1971年から、ずっと言い続けていること」と指摘。安保5条の条文では、「米議会の了解を得られなければ、米軍は出撃できない決まりになっている」という内容になっている点を紹介した。

覆される戦後の憲法解釈

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「【集団的自衛権】国民による「安保法制懇」立ち上げ 元法制局長官や憲法学者らが警鐘「民主主義がぶっ壊れている」」への3件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    頓珍漢なコメント失礼します。
    TPPで国家戦略特区をカムフラージュしたみたいに、
    集団的自衛権で、 京都の米軍基地や三沢の無人偵察機をカムフラージュしているように思えるのですが。
    カムフラージュというよりも、次から次へと押し寄せ奪おうとするやり方が、津波のよう。

  2. @JunjiHattoriさん(ツイッターのご意見より) より:

    ひぇー、安倍首相の集団的自衛権って、憲法だけでなく、国際法上からも国が持つ許された権利じゃない!米軍の傭兵になるシステムだ!

  3. 笠間雄三 より:

    集団自衛権行使容認のため憲法解釈を変更するとの閣議決定がされましたが、それは単なる閣議決定であり、何らの拘束力も持つものではありません。ただ、閣議決定は取り消させたほうがよいので、これから大々的な全国規模の反対運動を起こすよう呼びかけていただけませんか?「100万人集会」など。その行動により、集団的自衛権行使容認派がいかに間違ったことをしたか自覚してもらわないといけません。ともかく、粘り強い反対運動を通じて安倍政権は退陣してもらいましょう。

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