自民党静岡県議 天野一氏「浜岡原発をどうするかは、静岡県民で判断する」 〜第9回 中部エネルギー市民会議 2014.5.22

記事公開日:2014.5.22取材地: テキスト動画
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 「原子力規制委員会が、浜岡原発の安全性を認めて再稼働を容認しても、最終的な判断をするのは静岡県であり、静岡県民だ。そのために、県民投票を実施することも働きかけていく」──。自民党静岡県議会最大会派の長老、天野一(はじめ)氏は、このように言明した。

 2014年5月22日、名古屋市中区の中部大学名古屋キャンパスで、「第9回 中部エネルギー市民会議 〜浜岡原発を地元県議はこう見る」が行われた。自民党静岡県議の天野一氏が出席し、浜岡原発を抱える静岡県の現状と課題について語った。また、元名古屋市長の松原武久氏との対談の中で、天野氏は「県議会では福島原発事故の検証をしているが、国は重要な情報を隠匿している。吉田所長の調書もそうだが、国民に本当の情報を出していない」と指摘した。

 この日は冒頭で、浜岡原発のリスクと特殊性をわかりやすく解説したDVD『浜岡原発の今とこれから』を上映したのち、天野氏のスピーチ、天野氏と松原氏の対談へと進行した。静岡県内の超党派議員の勉強会用に作成されたこのDVDは、浜岡原発で事故が起こった場合、日本の東西をつなぐ交通の大動脈である東海道新幹線、東海道本線、東名高速道路、新東名高速道路、国道1号線、静岡空港が立入禁止区域となる可能性がある、と警告している。

■全編動画

  • DVD視聴
  • 天野一氏(自民党静岡県議)と松原武久氏(元名古屋市長)との対談
  • 意見交換(質疑応答)

「100%の安全はない」という福島の教訓

 静岡県内の超党派の県議会議員と市町村議員による「原発・新エネルギー検討勉強会」が作成したDVD『浜岡原発の今とこれから』の上映から会議は始まった。

 DVDでは浜岡原発の立地の特殊性について、「浜岡原発には過去の大地震の痕跡、何本もの断層が確認されています。浜岡原発の敷地内を走る複数の断層群はH断層と呼ばれています。浜岡原発敷地内には、原子炉建屋とタービン建屋をつなぐ配管、海から冷却水を運ぶための配管が縦横に走っており、地震の際にはその両端が違うタイミングの揺れに見舞われるのです」と語られている。

 また、福島第一原発事故を受けて、「2012年に提出された国会事故調査委員会最終報告書の中で、福島第一原発において、津波到達以前に配管の破断があった可能性が指摘されています。地震や津波の際には、複数の重要施設が同時に動かなくなる恐れがあり、敷地内を断層が走る浜岡原発は、特に危険なのです」と指摘している。

 浜岡原発で事故が起こった場合の周辺地域への影響については、福島第一原発事故の立入禁止区域と同じ半径20キロと半径30キロの円を、浜岡原発を中心に表示。「この部分には、日本の東西をつなぐ交通の導線が集中しています。東海道新幹線、東海道本線、東名高速道路、新東名高速道路、国道1号線、そして、静岡空港。すべてが浜岡原発から30キロの圏内にあるのです。地震大国である日本は、交通網の地震被害復旧について、東日本大震災の時にも大きな力を見せました。しかし、立入禁止区域の中では何もすることができないのです
」と、日本の大動脈が分断される危険性を示した。

 DVDの最後では、「東日本大震災、そして福島第一原発の事故。私たち日本人に突きつけられたのは、『100%の安全はない』という当たり前の事実でした。ひとたび原子力事故が起これば、農業、漁業、観光業をはじめ、すべての経済活動が大きな被害を受けます。私たちが代々つちかってきたコミュニティが破壊され、あたり前の生活が失われてしまうのです」と深い憂慮が示されている。

 そして、「一方で、原子力発電に頼らない選択をすれば、新エネルギー産業の一大拠点として、また、廃炉技術開発の中心地としての発展の可能性もあるのです。私たちは未曽有の原子力事故の時代を生きる人間として、この問題を真剣に考えていかねばなりません。それが、この地で生きる未来の世代への義務であり、責任なのです」と締めくくられた。

私たちは国に決定権を委ねていいのか

 続いて、このDVDを制作した天野一氏が登壇した。天野氏は「福島原発の事故までは、原子力発電所の決定は国に任せておけば、事故は起こらないだろうと、うかつにも、この問題に真正面から取り組んでこなかった」と話し始めた。

 「しかし、福島原発事故を見て、私たちは国に決定権を委ねていいのか、市民県民一人ひとりが自覚して、原子力発電所の立地を決定することが必要ではないか、と考えるようになった。そして、統一地方選挙の前、なんとしても4年間は浜岡原発について県民と一緒に考えようと、政治活動の一番の主眼に置いて取り組んできた」。

 今、静岡県で何が起こっているかについて、天野氏は次のように語った。「3.11後、放射能を帯びたということで、お茶が売れなくなった。さらに、去年は伊豆半島のシイタケが(放射性物質の検出で)大打撃を受けた。農産物は影響を受け続けている」。

 さらに、「工業に関しては、日機装の工場は、静岡県牧之原市から石川県の金沢に移転した。自動車のスズキは、牧之原に50万坪の工場と関連の下請け工場を作る予定だったが、浜岡原発の問題があったため、浜松に新しく作ることになった。もし、浜岡原発のリスクが回避されるなら、工場も会社も進出してくる可能性がある。しかし、再稼働するなら周辺の工場はどんどんいなくなる。 3.11以降、静岡県は雇用も新規の立地企業も激減して、これからどうするかという問題も抱えている」と、深刻になりつつある状況を報告した。

浜岡原発の再稼働。選択肢を県民に

 浜岡原発の再稼働について、天野氏は「将来どういう形にするのがいいかを、国に委ねるのではなく、自分たちで判断する。必要ならば、県民の住民投票をやってもいい」と話す。

 「なぜなら、これは経済の問題だけでなく、子どもの未来に関わってくるからである。したがって、県民に再稼働の選択の機会を与えることを、静岡県は考えてもいいのではないかと思う。今、自民党は、安倍総理を筆頭に、原発の輸出や再稼働を進めようとしているが、静岡県議会は党の枠を越えて、県民の将来を考えて議論したい。そして、個人がしっかり判断できるようにしたい」と主張した。

「夢と希望を与える廃炉」という考え方

 天野氏は廃炉にも言及した。「廃炉は、マイナスイメージがすごくある。しかし、勉強を重ねて、廃炉作業は簡単な作業ではないことがわかった。おそらく100年以上かかり、雇用は2000人以上必要となる」。

 その上で、「格納容器の中にある6000体以上の燃料棒の管理をどうするか。津波、地震で水源がダメになった時、福島と同じ事故が起こる可能性もある。だから、どんな状態でも管理できるように、水冷と空冷が一緒にできる場所を確保する必要がある。そして廃炉にするなら、子どもたちに夢と希望を与える廃炉にしたい。目先の経済だけではない、原子力発電所のリスクがなくなって、本当にのびのびと産業も生活もできる地域にしたい」との考えを示した。

原発事故時の緊急避難は「不可能」

 次に、天野氏と松原氏との対談になった。司会の萩原氏が「国は原発事故の(避難)スケジュールは、地方自治体が作りなさいと言う。しかし、できているところは少ないのではないか」と尋ねた。

 松原氏は「作りようがない。浜岡原発周辺では90万人が避難しなければならない。SPEEDIに関しては、どこが把握して、どのタイミングで予測を出すのか。それは自治体にどのように伝えられるのか。そして、避難計画があっても、避難命令や勧告を出すのはどこか。国か県か市町村か」と疑問を並べた上で、天野氏に「どのような状況になっているのでしょうか」と問いかけた。

 天野氏は「避難訓練のシュミレーションをやった。非常に難しい。各自治体の首長さんは『不可能だ』という。地方自治体では、とても無理。道路の問題も含めて、『不可能だから避難はできない』と言っている」と応じた。

 さらに、「静岡県議会では福島原発事故の検証をしているが、国は情報を隠匿している。重要なことを公表していない。吉田所長の調書もそうだが、国民に本当の情報を出していない。このような体質も、原子力発電所問題の背景にある」と話した。【IWJテキストスタッフ・花山/奥松】

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