第7回 中部エネルギー市民会議(~原子力発電を語る~) 2013.2.10

記事公開日:2013.2.10取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部/奥松)

 2013年2月10日(日)13時30分から、名古屋市東区の名古屋文化短期大学で「第7回 中部エネルギー市民会議(~原子力発電を語る~)」が行われた。原子力発電について、推進側、反対側が同席して話し合う、しかも電力界者の社員が参加するという、全国でも珍しい形のシンポジウムとなった。

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■全編動画 2/3 ※冒頭6分無音です。ご了承ください。

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  • 第1部「電力の安定供給と原子力発電の安全性向上の取組みについて」
    平岩芳朗氏(中部電力 経営戦略本部部長)/福本一氏(中部電力 原子力本部部長)
  • 第2部「原子力発電を語る」
    伊藤隆彦氏(日本原子力文化振興財団 理事長、元中部電力 代表取締役副社長 原子力発電担当)/飯尾歩氏(中日新聞社 論説委員)
  • 進行 萩原喜之氏(中部エネルギー市民会議 事務局)

 まず、中部電力の平岩氏が、電力の安定供給について講演を行った。「再生可能エネルギーを増やした場合、例えば山の中に設置した場合は、送電線も作らないと、それを電力システムの中に取り込めない。風力発電のように発電量に大きな変動がある場合、需要のマッチングのため、既存の発電所の出力を調整しなくていけない」など、電力の流通や安定供給の問題点を、図を用いながら、わかりやすく解説した。

 次に海外から資源を調達する際のリスクとして、「エネルギー資源が特定の地域に偏在していることや、資源の埋蔵量自体が減少するリスク」「資源国の政治情勢が安定しないことや、軍事情勢が緊迫化するリスク」「新興国のエネルギー需要の急増や投機資金がエネルギー市場に流入することで、資源価格が上昇するリスク」の3点を挙げた。また現在抱えてる問題として、多くの原発が停止していることにより、高経年(老朽化した)火力発電所がフル稼働しなくてはならず、従来よりも故障が多くなっている点を指摘した。

 以上のことから、平岩氏は「資源の多様化を図って、オプションをいろいろ用意するのが大事。エネルギーの選択肢をバランスよく維持していくことが重要である」と結論づけた。さらに、「福島の事故により、被災者の方々が大変なご苦労をされている。それを真摯に受け止めて、浜岡原発に関しては、安全の向上を高めていきたい」と、今後の姿勢を語った。

 次に、中部電力の福本氏が、安全性向上の取り組みについて、以下のように解説した。「地震対策としては、従来から想定されている東海地震はもちろん、東南海地震、南海地震、マグニチュード8.7クラスの地震が3連続で起きることも考慮し、岩盤の揺れの強さを800ガルと見積もっている。中部電力では、自主的に耐震目標を1000ガルと想定して、建屋内の約5000箇所の配管、電線管にサポート改造を行い、2008年3月にすでに完了している。津波対策としては、海抜22メートルの防波堤を建設中で、さらに緊急時海水取水設備により冷やす機能を確保。仮に敷地内が浸水しても建屋内には浸水しない対策を施し、確実に原子炉を冷温停止状態に導く。非常用電源として、海抜40mの高台にガスタービン発電機(免震構造)と燃料タンク(地下式)を設置するなど、何重にも渡ったバックアップ電源を確保する。これらすべての完成は、2013年12月を目標としている」。

 会場の参加者から「知り合いの専門家に聞いたところ、『それぞれ固有振動数の違うものが繋がれているため、配管が1000ガルに耐えるのは難しい』との意見だった」と疑問を投げかけられると、福本氏は「タービンと原子炉を繋ぐ配管は、わざとL字型に曲げたり、耐性を強くしている。万が一、損傷が起こっても、原子炉側で弁を締めてタービン側と縁を切り、原子炉側に閉じ込めることになっているので、対応可能だ」と答えた。

 休憩後は、中部エネルギー市民会議事務局の萩原氏を司会に、日本原子力文化振興財団の伊藤氏と、中日新聞社の飯尾氏との対談となった。萩原氏は、今回の対談の意義について、「多くの市民が、科学者、技術者、政治家、マスメディアなどの、専門家に対する不信感を抱いている。自分で何とかしたくても、できないもどかしさが不安として現れている。不信感は信頼の欠如。不安感は自立の欠如。中部エネルギー市民会議では、地域のことは地域で決める自治、ガバナンス、これまで語られて来なかった倫理、規範、哲学を取り上げていきたい。技術論だけでなく、人の心の問題も重要な要素ではないかと思い、立場の違う二人に話してもらうことにした」と語った。

 飯尾氏はまず、「中部電力は中部の電力会社。中日新聞も、元は中部日本新聞で、中部の新聞社。同じ地域の中で機能を果たして行きたい。原発を使うのかどうかという以前に、結局ゴールは一緒」と、連帯を強調した。

 伊藤氏は「原発事故後、東京の友人から問い合わせが相次いだ。大丈夫だ、と伝えたが、夫婦で沖縄まで逃げた人もいる。それくらい心配だったのだろう。リスクを避けるために、新たなリスクを生むこともあるが、そういう心配を持った人を責めるわけにはいかない」と、原子力業界の人間として、不安を生じさせてしまったことに反省の意を示した。その上で、「マスメディアでは、こんな重大事故の後、再稼働などありえない、という意見と、エネルギー事情を考えるといたしかたない、という意見の対立がある。最大の要因は、安全に対する説明が十分ではないこと、ではないか?」と述べた。

 そして、「最終処分地の問題、核燃料サイクルの問題、賠償額を算定すればコストは割高ではないのか、という意見がある。著名な文化人も反原発を訴える。首相官邸前でも多くの市民が抗議している。このような状況で、原子力関係者は、どのように安全対策をとり、国民にどう説明していくか。業界全体の課題である」とした。

 伊藤氏は、いわゆる「安全神話」は「推進」と「反対」の硬直的な二項対立にも原因があるのではないか、と分析し、「浜岡原発の場合は、規制の要求の前に、新しい知見を入れながら自ら対応した。ところが、推進派と反対派の対立が激化している状況では、事業者側が何かを改善しようとすると、『今まで安全だと言っていたのに』と追求され、一度安全とされたことは、自ら否定できなくなる、というジレンマに陥る。それが改善を鈍らせる」と指摘した。

 飯尾氏は「どこの電力会社も国家を語り、どうしても国策対地域になる。けれども、地域でエネルギーを考えることも必要ではないか? 賛成、反対では噛み合わない。市民の一部が、原子力が必要と考えるならば、それもありうるのでは?」と新たな視点を提示した。

 司会の萩原氏は「中部電力も対話を始めている。ただ、すべてホーム戦。市民団体も同じで、反対派は反対派で集まる。ぜひアウェイ戦を」と、価値観の違う者同士の交流を勧めた。ここで、平岩氏も加わり、電力会社と一般家庭の接点について、「家を作っても、建設業者を経由して電力会社と契約するなど、市民には電力社員の姿が見えない。だが、数年後には、他の電力会社の電力が買えるような制度ができて、競争も生まれていくだろう。一般の電力消費者と、どうコミュニケーションを図っていくかを、社内でも議論している」と述べた。

 伊藤氏は「どう市民の一人ひとりの声をつなげていくか? 今日の生活、明日の生活、子供を守ること。きちんとした情報知識に基づいて議論していくことが大事だ。専門家たちは、自分の専門と社会との利害関係を越えて、専門家としての矜持をもって情報を出すこと。大事なことを、感情だけで決めてはいけない。一歩一歩進んでいくしかない。今日は、意義のある一歩二歩であったと思う 」と議論を振り返った。

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