「原子力規制委員会のさじ加減で、再稼働が判断される状態では危ない」──。
2014年4月26日、名古屋・新栄の多目的スペース「parlwr/パルル」において、「第8回 中部エネルギー市民会議 ―中間報告&意見交換」が行われた。2012年、中部電力を含む登壇者を招いて、全7回の会合でエネルギー問題、原発問題について議論してきた中部エネルギー市民会議は、1年をかけて中間報告をまとめた。今回の会合では、さまざまなスタンスの中間報告寄稿者や参加者の間で、活発な意見交換が行われた。
参加者たちは、「エネルギー自給率を上げる議論がほしい」「再稼働の理由は電気の安定供給だと言うが、その前に人の命を優先すべきではないか」「バイオマスは、太陽電池の10倍以上の敷地がいる。経済性と資源の問題がある」「環境、経済性もあるが、防災の視点からの議論も必要だ」など、多彩な議論を続けた。
- 中間報告(事務局から)
- 振り返り&これからについて(参加者の皆さんとの意見交換)
- 進行 萩原喜之氏(中部エネルギー市民会議 事務局)
再稼働は避難計画が解決してから
中部エネルギー市民会議事務局の萩原喜之氏が、同会議立ち上げに至った経緯を簡単に語り、元中部電力原子力部勤務で同事務局の今尾忠之氏は「福島事故の後、立場を超えて、エネルギー問題での情報共有の場、意見交換の場を作るという趣旨は、それなりに達成できたと思う」と述べた。その上で、「中部電力に、組織の立場(経営戦略部と原子力部長)で参加してもらい、反対派の意見も多数聞いた。ただ、参加人数が減っているのが、今後の課題だ」とした。
「福島原発事故の発災当時、菅首相が『浜岡を止めろ』と言ったのは、浜岡原発をスケープゴートにするためだと思った」と述べたのは、元名古屋市長の松原武久氏。現在の政府のエネルギー政策について、「避難計画が解決しないのに、再稼働を進めるのはおかしい。省エネルギー、街のコンパクト化、暮らし方を変えること。この3つは、言葉は違っても同じことだ」と語った。
名古屋学院大学学長の木船久雄氏は「10年間様子を見てから、原発の再稼働を考えてはどうかという意見もあったが、電力会社はみんな、経営的に10年もたない。今は、北海道電力が一番危ない。破綻したら税金投入で国営化しかない。そして、火力に代えたら電気代が2割上がる。このような現実的な問題を、まず、検討しなければならない」と述べた。
ドイツの電力公営化と市長誓約
名古屋大学特任准教授の杉山範子氏は、ベルリン留学体験からの意見を述べた。「ベルリンでは、電力供給をスウェーデンのヴァッテンフォール社に発注。契約が切れたのをきっかけに公営事業化を試みたが、実現しなかった。今、ドイツでは、電力事業の公営化が大きな議論になっている」。
そして、欧州委員会で2008年から始まった市長誓約に触れて、「2020年までに、温室効果ガスを20%削減する誓約だ。5600を超える市の市長がサインをしている」と、ドイツのその取り組みを評価した。
議論には広い視野と共通したゴールが必要
次に、中部電力の平岩芳朗氏が「電気供給の多面的な議論が必要。燃料の安定供給、電気コスト、再生可能エネルギーの情報の共有化、再生可能エネルギーのインフラの拡充、CO2増加の問題、原子力の安全性の問題など、議論に柔軟性を持たせることが必要だ。極力、客観的なデータを皆さんと共有化して理解を深めたい」と意見を述べた。
未来につなげる・東海ネットの大沼淳一氏は、「冷静な議論が難しい。信頼感を持ってフェアな話し合いの努力をすることが必要だ」と述べ、愛知淑徳大学教授のブイ・チ・トルン氏は、「議論には、広い視野と共通したゴールが必要だ。継続性を持たせて、市民を巻き込む工夫を」と話した。
核廃棄物、避難に触れていないエネルギー基本計画
さらに意見交換は続き、「賛否両論あって、意見がぶつかった場合の着地点とは?」との問いには、「お互いひとつでも接点をみつけて、それを積み上げていくこと」という答えが寄せられた。
元NPOの参加者からは、「回を追うごとに、市民の参加者が減っていった。理由は、信頼が伝わらないことではないか。登壇者たちのプロ意識が邪魔して、市民には伝わらないコミュニケーションになってしまっている」との意見があった。
また、賛同人の山田寿男氏は「政府のエネルギー基本計画の原案を作った京都大学の植田和弘教授は、このエネルギー基本計画では、核廃棄物のことや避難の問題は先送りしたと認めている」と述べ、「エネルギーの変遷とは、金の流れが変わること。エネルギー自由化で主役が変われば、人が集まり、技術が開発されて流れが変わる。今は、その途上にある」とした。
ドイツの脱原発、理由は「原発は反倫理的」だから
休憩後、大沼氏が、原子力市民委員会でまとめた『原発ゼロ社会への道』について話した。「原発は反倫理的な技術ではないか。その出自は、ドイツ倫理委員会の提言『倫理は科学や経済より優先する』にあり、メルケル首相は、それで脱原発を決めた。もし、福島事故で良かった点があるとすれば、市民の間に専門家信仰がなくなったことだ」などと述べた。
萩原氏は「中部エネルギー市民会議も、原子力市民委員会も、(さまざまな意見を否定しない姿勢ゆえに)脱原発派と原発推進派の両方から、うさん臭い存在と見られるようになってしまった。しかし、社会を良くするためには、双方の意見を取り入れないとできない」と主張した。
ドイツ倫理委員会メンバーのミランダ・シュラーズ氏のもとにホームステイしていた杉山氏は、「ドイツには地震や津波はないが、テロやミサイルなどの危険がある。それも、原発を止める理由になった」とコメントした。
大学で教鞭をとる参加者は、「福島の廃炉はものすごい被曝労働になる。これをどうやっていくか、80人の学生たちに尋ねたら、約1割の学生が『囚人にやらせればいい。徴兵ではどうか』などと答えた。若い人たちの倫理観がおかしくなっている」と語った。
元中日新聞記者の関口氏が「電力の安定供給も大事だが、人材の安定供給、開発も重要だ。技術論になったら、『それは誰が担うのか』という観点も欠かせない」と述べた。