「全住民分のヨウ素剤を備蓄しているのは大熊町だけ」 〜フクシマ・メディア・コンベンション記者会見 2014.5.18

記事公開日:2014.5.18取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「原子力規制庁は、安定ヨウ素剤の備蓄と配布に関して、『各自治体で独自に対策を立てること』としている。にもかかわらず、19自治体は『政府から指示されていない』と回答した」──。

 2014年5月18日、福島県須賀川市のレストラン「銀河のほとり」で、フクシマ・メディア・コンベンションによる記者会見およびワークショップ「311後の報道・情報~あの時人々はどう動いたか?」が行われた。福島県内の全市町村(59件)と県外の近隣自治体(171件)に対して、原発事故の初期被曝を軽減する安定ヨウ素剤の備蓄状況と配布体制について尋ねたアンケートの結果を、記者会見で発表した。また、引き続き行なわれたワークショップでは、前双葉町長の井戸川克隆氏、原発事故取材を続けているおしどりマコ氏、福島県に対する交渉を続けている佐々木慶子氏らも参加し、原発事故に直面した自治体のあり方について議論が行われた。

 井戸川氏は、自身が実名で登場し、発言内容が波紋を呼んだ『美味しんぼ』問題に絡んで、次のように話した。「国から避難指示が出た時、(自分は)放射能から逃げろという意味だと理解した。県には、住民を守るためのアドバイスや対応をしてほしかった。それをちゃんとやっていないのに、漫画の内容で文句を言うのは勇み足。あの時、県は何をやったのか」。

 参加者からは「低線量被曝について意識調査をしたら、ほとんどが『長期的に影響はある』という答えだった。みんな知識に飢えている。しかし、考えることを放棄している人も多い」などの発言があった。

■全編動画 1/2 記者会見
※音声と映像が途中からズレおります。ご了承ください。

■全編動画 2/2 ワークショップ

  • 記者会見
  • ワークショップ 井戸川克隆氏(前双葉町長)/おしどりマコ氏(漫才師)/佐々木慶子氏(沈黙のアピール)ほか
  • 日時 2014年5月18日(日)17:00~21:00
  • 場所 穀物菜食レストラン 銀河のほとり(福島県須賀川市)
  • 主催 Fukushima Media Convention

新たな放射能汚染への備えはできているのか

 はじめに主催者代表の渡部直紀氏から、この企画の第1回と第2回を主催したNPOから分離して、別団体としてフクシマ・メディア・コンベンションが発足したことや、活動内容などが報告された。そして、「これから40年以上続く福島第一原発の廃炉作業、汚染水漏えい、地盤沈下や地震による施設倒壊のおそれなど、まだまだ新たな放射能汚染が懸念される。だが、政府からは、それに対するマニュアルもプログラムも公表されていない」と前置きし、前回のワークショップであぶり出された課題のひとつ、各自治体の安定ヨウ素剤の備蓄と配布状況について、アンケートを行った集計結果を発表した。

 アンケートの対象は、福島県内すべての市町村に加えて、放射能汚染の影響を受けると思われる、関東地方を含む230の近隣自治体。そのうち、回答は40件(17.4%)から得られた。全住民分の安定ヨウ素剤の備蓄があったのは、福島県大熊町のみ。「備蓄あり」と回答したのは、南三陸町、大子町、常陸大宮市、松本市、吉田町。在庫なしは27自治体。その他が50、無回答2だった。

 浜岡原発から19キロ離れた静岡県の吉田町では、40歳未満を対象に「8万錠の在庫あり」。長野県松本市は、40歳未満の住民11万人分と、観光客など2万人分を備蓄していた。

 渡部氏は「原子力規制庁は、安定ヨウ素剤の備蓄と配布に関して、各自治体で独自に対策を立てること、としている。にもかかわらず、19自治体が『政府から指示されていない』と答えている。また、大熊町はじめ、PAZ区域内(原発から半径5キロ圏内。予防的防護措置準備区域)の自治体は、程度の差はあれ、ヨウ素剤の備蓄はある」などと話した。

安定ヨウ素剤の配布は国任せ

 配布条件については、「政府の指示による」との回答が全体の40%にあたる16自治体。なお、原発から50キロ圏内の13自治体は「配布の必要なし」と答えている。配布方法については、24自治体(60%)は「計画なし」。計画があるのは、被曝対策のある松本市と大子町だった。配布対象者は「国の指示による」と、20自治体(50%)が答えた。

 安定ヨウ素剤の備蓄と配布に関しては、国のガイドラインには強制力はないため、自治体の判断に任されている。ちなみに、回答はなかったが、福島県いわき市では、すでに市民へのヨウ素剤配布を行なっている。

「副作用の懸念」は配布しなかったことへの言い訳だ

 次に、井戸川克隆氏(前双葉町長)、おしどりマコ氏(漫才師)、岩田渉氏(市民放射能測定所)、佐々木慶子氏(沈黙のアピール)、森園かずえ氏(原発いらない福島の女たち)らも参加したワークショップになった。

 アンケートの集計結果を振り返り、井戸川氏は「ヨウ素剤は防護のために飲ませるべきだ。日本で盛んに言われるヨウ素剤の副作用は、配布しなかったことへの言い訳。海外では、副作用は問題にされていない」と述べた。参加者からは「安定ヨウ素剤の有効期限は3年ほど。住民は、その備蓄や、事前配布を要請できる。しかし、今は薬事法などがネックになっている。福島県だけの条例を作ればいいのではないか」などと発言があった。

 原発立地から5キロ圏内のPAZや、30キロ圏内のUPZ以外の地域でも、ヨウ素剤の備蓄、事前配布はできる。それを裏づけている、「避難計画に即した公共施設では、ヨウ素剤の備蓄と配布、住民への周知をする」という政府のガイドラインが紹介された。ある参加者は「粉末状のヨウ素剤の使用方法には困難さがある」と述べ、丸薬だけではないヨウ素剤もあることから、その扱いについて懸念を述べた。

電力会社や国はヨウ素剤の議論で責任をごまかす

 井戸川氏は「電力会社や国は、ヨウ素剤の些細な議論に世間の目を導き、もっと大事な根幹部分には目が向かないようにしている」と話した。おしどりマコ氏は「このワークショップやアンケートの目的は何か。安定ヨウ素剤を備蓄させるためなのか。次の原発事故への対応を考えるためならば、医師会や薬剤師会への調査も必要だ」と指摘した。渡部氏は「目的は2つ。まず、被曝対策としてのヨウ素剤の周知。もうひとつは、ヨウ素剤備蓄への対応を通して、国や県、自治体の責任を自覚させること」と答えた。

 他の参加者からは「国や県、自治体に依存ばかりしてはダメ。ヨウ素剤は個人で所持し、勉強すべきだ」という意見があり、井戸川氏も「自治体の職員の数は全人口に対して約1%だ。(事故の際には)まず、避難誘導や避難場所の確保などがあり、自治体職員にヨウ素剤配布の時間や労力はない」と補足した。

逆手にとった「避難をさせられない宣言」を

 休憩後に再開したワークショップで、井戸川氏は「避難をさせられない宣言」について話した。「福島の実態を見たら、逃げられない。自分は避難しない、ということを、再稼働同意者の県や自治体に内容証明で通知しておきなさい、と講演などで話している」。

 「前もって、自分の意志表示をしておき、『それで再稼働して事故があった場合、県や自治体に損害請求を申し立てる』と宣言しておくこと。なぜなら、憲法に基づいた権利、基本的人権、生存権などには、総理大臣も行政も介入できない。裁判所しか判断できない。それも踏まえて、『どうしても再稼働をするなら、原発施設を避難させろ』と言いなさい、と勧めている」。

 井戸川氏は「みなさん、行政を恐れることはない。条例規則にないことは、行政にはできない。法律を知ることだ。国が自治体に避難計画を作らせるということは、再稼働への同意が前提にある。だから、それを否定するとよい」と力を込めた。

住民の直談判が一番こたえる

 おしどりマコ氏が井戸川氏に、「町長時代、何に一番プレッシャーを感じたか」と尋ねた。井戸川氏は「自分がやると言ったことができず、住民に説明しなくてはいけない場合だ。住民との直談判が一番きつい。だから、皆さんのところの市町村長には、住民をどう守るんだ、ヨウ素剤どうするんだ、と聞いておくといい」と回答し、「ただし、国会議員は立場が変わると簡単に前言を翻すからダメ」と、野党時代に国会で初期被曝について質問していた、自民党の森まさこ議員を批判した。

 行政との交渉経験を重ねている佐々木氏は、「逃げ回る首長はいるが、『住民の声を聞くのが、一番大事な役所の仕事だ』と訴えるのが効果がある」と話した。

なぜ、自治体が避難計画を作るのか

 井戸川氏は「原子力災害対策特別措置法は、原子力災害の防止と原子力災害から国民の命、財産を守るために制定されている。この法律で守ってくれるなら、逃げる必要がない。国が、国民に『逃げなさい』と言うこと自体がおかしいことになる。一営利企業のために、国が自治体に避難計画を作れと言うのは、そもそも間違いだ」と主張した。

 「震災当時、こうしておけばよかった、というのはあるか」と尋ねられると、井戸川氏は「避難した時、携帯が使えず、情報が集められなかったのが厳しかった」と振り返り、さらに、「非常時の、町民との役割分担をしておくべきだった。町民が一斉に(どうしたらいいのかと)町長の自分を見てしまった。役割分担を決めておき、自治体と町民が一体となって町を守る、一緒になって動く運命共同体にするべきだ。そのための防災計画だ」と見解を語った。

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