「住民に配布しないヨウ素剤、県立医大関係者は服用。これは刑事告訴できる」 〜佐々木慶子氏、蔵田計成氏ほか 2014.5.17

記事公開日:2014.5.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「福島の子どもの甲状腺がんは300倍の発症率なのに、国や県は、年間100ミリシーベルトまで安全、今の甲状腺がんは放射能の影響ではない、と言っている。しかし、75人の小児甲状腺がん患者は、高線量地域の被曝者たちだ。そして、彼らに配布しなかったヨウ素剤を、県立医大関係者やその家族には飲ませていた」──。

 2014年5月17日、東京都東村山市の東村山中央公民館で、シンポジウム「被災者に寄り添ってー 今福島から… 私たちは何ができるかを考える」が行われた。福島の現在について、郡山市在住の森園かずえ氏、「沈黙のアピール」呼びかけ人代表として福島県との交渉を続けている佐々木慶子氏らの話を聞いた。また、蔵田計成氏(ゴフマン研究会)が事故直後の福島県立医科大の動きについて、川根眞也氏(内部被ばくを考える市民研究会)がチェルノブイリ事故の被曝者の保養の価値について解説した。

 佐々木氏は「福島集団疎開裁判では、小中学生14人が原告になり、年間1ミリシーベルト以下の安全な場所に移してくれと訴えた。一審では、100ミリシーベルト以下は安全、ということで却下された」などと福島での闘いを話した。

 蔵田氏は「県立医大など、専門家集団の役割は、県民の命を守ることだ。職責の怠慢は追求されなくてはいけない。原発事故発災直後、三春町が独自の判断で安定ヨウ素剤を配布したことは、賞讃に値する」と語り、佐竹俊之弁護士は「医大関係者だけ、安定ヨウ素剤を服用したことに関しては、刑事告訴できる」と述べた。

 参加者からは「今は『戦時中』だ。治安維持法(秘密保護法)もでき、マスコミは大本営発表だけ。子どもたちは、福島で最前線に立たされている。前の戦争と同様、国は、官僚制という国体を守るために国民を殺していく。自分の子どもが殺されて、親が『よかった』と喜ぶ、そう言わされる時代が来るだろう。そして、生き残った人たちは『私たちは、国や御用学者に騙されました』と振り返るのだろう」という声が上がった。

■ハイライト

  • 講演 森園かずえ氏(福島県郡山市在住)/佐々木慶子氏(「沈黙のアピール」呼びかけ人代表)/蔵田計成氏(ゴフマン研究会)
  • 話 川根眞也氏(内部被ばくを考える市民研究会)ほか/質疑応答
  • 日時 2014年5月17日(土)17:30~20:30
  • 場所 東村山中央公民館(東京都東村山市)
  • 主催 517シンポジウム実行委員会

一番、悔やまれるのは無知だったこと

 福島県郡山市在住の森園かずえ氏は「震災当日、断水になり、それからの5日間、給水作業で(屋外に並ぶなどして)被曝した。原発に無関心だったことを反省している。3月中は地震の方が怖かった。しかし、3月から4月に、浜通り、中通りの住民がどれだけ被曝したかは想像に難くない」と振り返った。

 「4月25日、急に喉に激痛が走り、口の中の粘膜がはがれた。ぜんそくも再発。外出すると手足のしびれ、唇の腫れ、倦怠感もひどかった。そして、1年半の間、水のような下痢が続いた」と、自身の体調悪化を語った。

 森園氏は「今、『美味しんぼ』が騒動になっているが、鼻血などは当時から言われていたこと。一番、悔やまれるのは、自分が無知だったことだ。情報がわかっていれば、無駄な被曝をせずにすんだ。政府は棄民政策にひた走るが、声を上げ続けていきたい」と話した。

決して、事故は収束していない

 続いて、元教師で原発反対運動に長年携わっている、福島市在住の佐々木慶子氏が登壇した。福島県に対し、さまざまな申し入れや交渉を続けてきた「沈黙のアピール」は、すでに90回を超えている。

 佐々木氏は、まず、震災当時の様子を語り、「県外避難のほとんどは母子だ。彼女たちには、まだ6万円の住宅補助があるからいいが、それが打ち切られたら、どうなるか。逃げたと批判されたり、離婚に追い込まれた夫婦も多い。また、子どもを守るために避難した家庭でも、その子どもが、逃げたという罪悪感からノイローゼになってしまうこともある。普通に暮らしているように見えても、実際はとても複雑な状況がある」と実態を明かし、次のように続けた。

 「原発事故は、決して収束していない。廃棄物、汚染水問題は解決できない。年間数千億円が、大手ゼネコンなどの除染業者に流れているだけだ。8000ベクレル以上の指定廃棄物も、こっそり燃やしていたりする。また、東電は『高濃度の汚染水は、薄めて基準値まで下げて海に流す』と真面目に言っている」。

 「政府が、避難者に戻っていいと言っている理由は、補助金を打ち切るため。(この4月に避難指示が解除された都路地区がある)田村市では、早く帰ってきた住民には1人あたり90万円上乗せするといい、帰還する人が多い。逆に、自主避難者は冷遇される。避難した母子が、福島に帰郷する時の高速道路料金は無料。しかし、福島に残る父親が県外へ会いにいく時は有料なのだ」。

安倍首相の強気は、国民がそうさせている

 また、フクシマ・アクション・プロジェクトの事務局長でもある佐々木氏は、「2012年12月15日から17日にかけて、ビッグパレット福島(郡山市)で『原子力安全に関する福島閣僚会議』が、IAEA(国際原子力機関)と日本政府との共催で行われた際、IAEAに申し入れ書を手渡した」と語り、福島県との関係を強化するIAEAの活動を注視していく姿勢を見せた。

 最後に、「(川内原発に近い)衆院鹿児島2区の補欠選挙の出口調査では、61%が原発の再稼働に反対だったが、そのうちの89%の人は再稼働容認の候補者に投票していた。やはり、目先の利益で票は動く。安倍首相がイケイケドンドンなのは、彼が悪いのではなく、国民がそうさせているからだ」と強調した。

ヨウ素剤配布にブレーキ、山下俊一氏の発言

 次に、蔵田計成氏が登壇。まず、発災当時の福島県立医科大の行なった、安定ヨウ素剤配布について話した。

 「福島県立医大の職員のうち、40歳未満の1100人と、その他関係者を合わせて約2900人がヨウ素剤を服用した。しかし、入院患者600名、外来患者1500人には、ヨウ素剤の配布はしなかった」。

 蔵田氏は「原発事故発災後、県立医大は、すぐにヨウ素剤配布チームを発足させ、県に配布の指示を仰いだが、回答がなかった。そして、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一氏(当時)が、『安定ヨウ素剤で甲状腺がんが防げるというのは誤解。ヨウ素剤信仰にすぎない』などと院内で発言した。ここから福島県の安全方針が大きく変わったのだ」と強調し、「山下氏は第1級戦犯だ」と糾弾した。

ヨウ素剤26万錠を追加入手しても配布せず

 「福島県は、最初の水素爆発(3月12日)の時、ヨウ素剤6万8000錠を所有していた。さらに、26万錠、追加入手もした。これをすぐに18歳以下の子どもに配布していたら、何人の子どもたちが甲状腺被曝から救われたか」と、一瞬、涙声になった蔵田氏は、「もし、原発を再稼働するなら、国民1人当たり最低2錠のヨウ素剤を配布しておかなくてはならない」と続けた。

 「3月15日、浪江町の空間線量は毎時350マイクロシーベルトあった。即死する年間線量の半分に値する。また、葉もの野菜ではキロあたり100万ベクレルを計測した。災害対策本部は、それらを確認した上で、秘匿していた」。

 「原発から60キロ圏内の福島大学付近で測定した、2011年3月の1平方メートルあたりの放射性物質は、ヨウ素248万ベクレル、セシウム合計20万ベクレル、テルル120は218万ベクレル。ヨウ素が突出して多い。いかに、ヨウ素剤の服用が重要だったか」。

 このように次々と指摘した蔵田氏は、「スピーディーのデータを受けながら消去した福島県の対応は、許されない」と力を込め、「しかも、被曝後のスクリーニングを、ヨウ素剤服用の基準にした。めちゃくちゃな対応だ」と憤った。

放射性物質を体から抜くと、健康はとり戻せる

 休憩後、このシンポジウムの実行委員である、環境ジャーナリストの青木泰氏が、医大関係者だけへの安定ヨウ素剤配布の問題、『美味しんぼ』に対する政治家やメディアの過剰反応について、短くスピーチした。

 続いて、川根眞也氏が、チェルノブイリの被曝者について報告した。被曝した子どもの体調が、保養で良くなることが確認されているといい、「0歳で被曝し、7歳で甲状腺異常、心臓疾患もあった少女は、保養54日目くらいから急に改善。最終的にはニトログリセリンも要らなくなった」と実例を挙げた。「ベラルーシでは、体重キロあたり20ベクレル以上、セシウムの被曝があると、国費で保養に行ける。対象者は毎年4万5000人。また、健康被害のまったくない地域を探し出して、食材などを調べたら、汚染は0ベクレルだった」。

 さらに、「汚染地帯に住む14歳の少女は、肺に腫瘍があり、手足も痛んで寝られなかった。安全な食材を供給する食事プロジェクトを半年間行なったところ、手足の痛みも肺の具合もよくなった。また、ウクライナの農家では、セシウム吸収を防ぐカリウム肥料を使っていない。それでカリウム肥料を使用したところ、(農作物へのセシウム移行が減り)頭痛、関節痛が激減した」などと報告した。 

年間97回、M6以上の地震がある日本。原発はありえない

 質疑応答になり、福島でのIAEAの動きについて聞かれると、佐々木氏は「福島県環境創造センターというものを作って、IAEAの出先機関が常駐することだけはわかっているが、活動内容はまったくわからない。福島県にも情報がない。IAEAの動きは外務省のみが握っている」と答えた。

 健康情報新聞編集長の上部一馬氏が、民間研究者の八木下重義氏による、GPS解析を使った巨大地震の予測について話した。

 「GPS解析によれば、東日本大震災で、東日本は5メートルほど太平洋側に、関西方面は北西に引っ張られた。八木下氏は過去20年にわたって地殻変動と地震の震度の関係を調べており、M6以上の地震は、発生1週間前にわかるという。5月5日、東京千代田区で震度5弱を記録した地震も、予測が的中した。茨城、千葉、東北は、まだ危険だという。つまり、M6以上の地震が年間97回もある国で、原発はありえない」と力説した。

 蔵田氏は「2007年のウクライナの死亡率トップは、66.3%心臓系、がんは13%、リクビダートル(原発復旧作業者)の8割が循環器系で死亡している。しかし、御用学者たちは『チェルノブイリでの死亡者は37名だけ、関連で発症するのは甲状腺がんだけ』と言っている。情報を遮断し、自分たちに都合のいい数字を作って公式見解にするやり方だ」と述べ、その上で、「福島でも同じようなシステムを作るため、福島県は300億円の予算で福島県環境創造センターを建設、すべての情報を囲い込もうとしている。そのトップにいるのが、IAEAだ」と指摘した。

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