「福島第一原発で、今、とても危険だと思うのは、1号機と2号機の間の排気塔。毎時25シーベルトという高線量で人が近づけないが、この塔には何ヵ所も亀裂や破断がある。倒壊したら、とても怖い」──。
2014年3月22日、茨城県土浦市の土浦市民会館で、おしどりマコ氏とケン氏を招き、トークイベント「暴く!東電の実態 語る…福島の今」が行われた。3.11の福島第一原発事故を契機に、東京電力の記者会見などに出席し、福島の現状や、被曝の問題を追求し続けてきた両氏が、最近の活動を語り、2月に視察したドイツとベラルーシの模様なども報告した。
マコ氏は、昨年夏の参院選以降、東電から福島第一原発に関する情報が出てこなくなったことや、原子力規制委員会の検討会が、原発再稼働に向けたものばかりになってきたことに懸念を示した。さらに、今年2月、福島第一原発の地下水から500万ベクレルのストロンチウム90が検出されたニュースについて、「この地下水の採取は昨年7月。安倍首相が、東京オリンピック招致のために『汚染水はコントロールされている』と語ったIOC総会の前に、東電は数値を知っていた」と指摘した。
自民党圧勝で、東電と規制委員会の空気が変わる
2011年の原発事故以来、東京電力の記者会見に継続的に出席してきた、おしどりマコ氏とケン氏は、「参院選が終わった2013年の8〜9月頃、東電のスタンスが変化した。福島第一原発の事故収束や、柏崎刈羽原発の再稼働に関して、『国が一歩前に出る』という政府の発言があってから、記者会見の雰囲気が変わってきた」と言う。
マコ氏は「会見担当の東電の尾野氏は、私がどんなに厳しい質問を浴びせても、記者会見が終わったあとに話に行くと、『ちゃんと答えられなくて、すみません』など、感じ良く対応してくれた。ケンが欠席した時は、『旦那さん、体調を崩されたのですか』などと、気遣ってくれたこともあった。それが、『僕は知りません』『東京電力として、お答えしないことに決まりました』など、素っ気ない返答が多くなり、そして、本当に情報が出てこなくなった」と振り返る。
500万ベクレルのストロンチウム、IOC総会の前に検出
マコ氏は、原子力規制委員会で行なっている検討会のひとつ、汚染水対策検討ワーキンググループも、昨年の秋頃から失速し始めたと語る。「いつものことだが、東電は数字を出してくるのが大変遅い。再三の要請にもかかわらず、地下水のストロンチウムの値がなかなか出て来なかった時、東電が『数字に信頼性がなかったので』と言い訳を続け、更田豊志委員が猛烈に怒ったことがある。『信頼性がないのなら、それをひと言書いて出せばいいことだ』と。ところが、昨年の11月以降、このワーキンググループの会合は、しばらく開かれなくなり、今では回数も激減した」。
「最近の規制委員会の検討会は、原発の再稼働関係のものばかり。福島第一原発に関する会合は、ほとんど開かれない。あまりに触れないので、IWJの記者がそれについて質問すると、『当分、予定はない』との返答だったという。内部情報によると、『原子力規制委員会は民主党政権の時にできたので、自民党は、今のメンバーを決め直したいぐらいの勢い』なのだという」と述べ、政権交代以降、風向きの変化がさまざまな部分に及んでいることを証言した。
さらに、マコ氏は、2014年2月6日に、福島第一原発で採取された地下水から、ストロンチウム90が1リットルあたり500万ベクレルも検出されたことに触れた。「東電は『あまりにも高い数値で、測定に誤りがあると思い、すぐに発表しなかった』と言うが、この地下水を採取したのは、2013年7月5日。9月に、安倍首相が東京オリンピック招致のため、IOC総会で『汚染水はブロックされている』とプレゼンする以前に、東電はこの結果を把握していた」と指摘。「しかも、メディアでは、これが大きなニュースとして扱われない」と憤った。
福島原発作業員が恐れる、危険な排気塔
マコ氏は、福島第一原発で収束作業をしている人たちから、情報提供などの協力があると言い、「自分で独自に調べておかないと、追求できない。東電の会見では『どうせ、君たち、調べられないだろ?』という感じで、何も出てこない」と語った。
その上で、「今、一番危険だと思うのは、1号機と2号機の間の排気塔。ここの根元が、毎時25シーベルトという高線量。この塔の中間部分には何ヵ所も亀裂や破断があるが、人が近づけないので補修ができない。もし、倒壊して1号機や2号機に倒れこんだら、とても怖い。作業員の人たちも、地震のたびに緊張している」と危惧した。
「原子力推進側の都合が悪いと、活動家にされる」
マコ氏とケン氏は、2月24日から3月15日まで、IPPNW(核戦争防止国際医師会議)に出席するために、ドイツとベラルーシを訪問。ベラルーシではミンスク市とゴメリ市を訪れたが、予想外の放射線量の低さに驚いたという。「特に、ゴメリ市の屋外はとても線量が低く、0.01~0.04マイクロシーベルト毎時という値。屋内の方がむしろ高く、0.09~0.10マイクロシーベルト毎時。泊まったホテルのベットの上が一番高い、という皮肉な結果も出た」などと報告した。
「現地の医師の言葉で印象に残ったのは、『私は、ただ研究しているだけなのに、原子力について都合の悪い結果を出すと、活動家扱いされてしまう』というもの。私たち自身も、つい、そういう見方をしてしまいがちだが、それではフラットな議論ができない。原子力推進派の研究者の中にも、『今回の日本の対応はひどい』と言う人もいる。偏った数字の出し方などは、結局、自分に跳ね返って、自らの活動を締め付けることになってしまう」と述べて、公平な視点を心がけることを力説した。
ドイツの脱原発活動に学ぶべきもの
滞在期間中、3月11日を挟んだこともあって、ドイツではさまざまなデモが行われていたという。「シュツットガルフという街のデモの印象は、ピクニックのような明るさだったが、現地の人は『それは、力のないデモだから。本当に力のありそうなデモは、警察がしっかり監視し、放水などをすることもある。そして、メディアも伝えない』と教えてくれた。よその国のことを声高に伝えることはするが、自分の国のことはあまり伝えない。そういう点では、日本のメディアとあまり変わらない。だが、日本と違うのは『国民が怒るかどうか』だと痛感した」。このように述べたマコ氏は、「日本人に足りないのは、知識と怒り」だと強調した。
ドイツの脱原発活動のリーダー、20~30名を集めた座談会も取材している。マコ氏は「日本では、活動している者同士が分断される話もよく聞くが、ドイツでは『意見が違うのは当たり前。でも、原発をなくしたいという思いは一緒。(考えが違っても)時々、一緒に動くのは問題ない』という人が多かった。『ドイツでも、昔は足を引っ張り合って、脱原発運動が弱体化した。ここまで来るのに30年かかったが、日本も、それぐらいしたら成熟するのではないか』という意見もあった。30年は長過ぎると思うが…」と、感想を述べた。
初期被曝量の推定に、医療者用コントロールバッジを
次にマコ氏は、原発事故後の住民の初期被曝量の推定について、興味深いアプローチを紹介した。「病院で働く、特に放射線関係の医療従事者は、事故前からガラスバッジを付けて、作業被曝量を管理している。ガラスバッジは、コントロールバッジと呼ばれるものと対になっていて、まったく同じものなのだが、ガラスバッジは測定者個人に装着し、コントロールバッジは、その病院内や施設内に置く。そして、(ガラスバッジの測定値)ー(コントロールバッジの測定値)=(作業被曝線量)、つまり、コントロールバッジでバックグラウンドを測定している」。
「原発事故後に、コントロールバッジを作っている会社から、福島県の医師に、次のような内容のプリントが送られてきた。『この度、お客さまよりご返却いただきましたコントロールバッジの測定値は、通常の環境下より高い値を示しておりました。この要因のひとつとして、福島第一原発事故に伴う自然放射線量の増加が考えられます』。原発事故に伴う自然放射線量の増加、という記述は意味不明で問題だが、各地の施設に存在していたコントロールバッジの値は、有用なデータではないか。住民の、事故直後の初期被曝を推定する材料として有効活用されるように、今後も働きかけを行っていく」。
普段、何を買うか、どこへ行くか。 その選択が社会を変える
最後にマコ氏とケン氏は、「3.11直後の初期被曝や、現在の食品の汚染状況などの情報は、私たちが本当に知りたがらないと、出てこない。社会を変えるには、政治や選挙だと思いがちだが、何年かに1回の投票では、なかなか変わらない。むしろ、毎日が投票(意思表示)だと思えばよい。普段、何を買うか。どこへ行くか。その選択が、すでに1票になっている。私たちは、『知りたがりの怒りんぼ』にならないといけない」と、会場に集まった人たちにメッセージを伝えた。