「鼻血バッシングで、健康被害を口にできない空気が生まれる」 〜『美味しんぼ』騒動を考える緊急集会 2014.5.23

記事公開日:2014.5.26取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)

 「何が証明されて、何が証明されていないのか、冷静に向き合わなくてはならない」──。

 2014年5月23日、東京都千代田区の参議院議員会館にて、「緊急集会『タブー化』していいの? 被ばくと健康 ~『美味しんぼ』騒動を考える」が行われた。集会では、放射線の専門家や、福島原発事故の国会事故調査委員会元委員、弁護士、宗教学者、福島在住者、避難者らが、この問題についてそれぞれの視点から意見を述べた。一連の騒動で矢面に立った双葉町の前町長、井戸川克隆氏も参加した。

 小学館の週刊『ビッグコミック・スピリッツ』で連載中の人気漫画『美味しんぼ』(原作・雁屋哲、作画・花咲アキラ)の「福島の真実」編で、福島取材を終えた主人公が鼻血を出す描写があること、実名で登場する前双葉町町長の井戸川氏が「鼻血は被曝のせい」と語っていることに関して、一部の閣僚や医療関係者から「風評被害を煽る」「被曝と鼻血の因果関係はない」などの批判的な発言があり、福島県や双葉町が抗議文を出す事態となっている。

 一方、このような状況に、「表現の自由の侵害、福島の住民が健康被害を口にできない空気が生まれる、と懸念する意見もある」と、司会の満田夏花氏(FoE Japan)は述べた。

記事目次

■ハイライト

  • 鼻血論争について/言論の自由と『美味しんぼ』問題/低線量被ばくと科学の役割/福島からの声/避難者からの声
  • 発言 海渡雄一氏(弁護士)/福島在住の母親(電話参加)/福島から東京に避難した母親/西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)/崎山比早子氏(高木学校、元国会事故調委員)/島薗進氏(上智大学神学部特任教授・グリーフケア研究所所長)/井戸川克隆氏(前双葉町長)
    司会 満田夏花氏(FoE Japan)
  • 日時 2014年5月23日(金)
  • 場所 参議院議員会館 (東京都千代田区)
  • 主催 美味しんぼ集会実行委員会

「鼻血」だけが集中砲火を浴びる

 満田氏は冒頭、今回の集まりに関して、「『美味しんぼ』の『福島の真実』という連載。福島原発事故の被害を幅広く取材し、農、食、健康について訴えるという、ドキュメンタリー作品のような漫画である。このシリーズから、『原発事故の責任は誰がとるのか』『被害者を救う責任が、国にはあるのではないか』という問いかけを感じた。これらについて、これを機に議論が起きるのは、いいことだと思う」と述べ、次のように続けた。

 「ところが『鼻血』という、ある意味センセーショナルなシーンが切り取られて、政府によって批判され、マスコミが報道する状況が続いている。一番憂慮されることは、原発事故の被災者が、これにより健康異常に対して声を上げられなくなることだ。そこで、このバッシングが持つ問題を、表現の自由、科学のありかた、被曝との因果関係という切り口で、各界の第一人者に発言していただく」。

表現の自由の侵害は、すでに始まっている

 次にマイクを握った海渡雄一氏(弁護士)は『美味しんぼ』を読んだ感想を、「土壌改良の取り組み、農産物の汚染値が下がってきていること、会津の美味しい料理など、農産物の安全を訴えている内容がかなりの部分を占めている」と述べた上で、「にもかかわらず、『鼻血』と『福島には住めない』という発言、こういう部分だけが切り出されて、一部の専門家やジャーナリストが『けしからん』と言って大騒ぎになることに、意図的なものを感じる。こうした問題を声高に叫ぶ人たちの中には、自ら権力を持ち、健康被害の事実を隠蔽したいと考えている勢力が存在することを、忘れてはならない」と指摘した。

 今回、この漫画をバッシングした専門家たち対して、海渡氏は「どうして鼻血だけを取り上げるのか。甲状腺がんなど広範な健康問題が、今後どうなっていくのかについても、見解を述べるべきではないか。少なくとも甲状腺がんについては、政府も因果関係を、肯定も否定もできていない」と話した。

 そして、表現の自由に触れ、「こういう事態だからこそ、原発事故による被曝、健康問題について、誰もが自由に意見を表明できる環境の維持が大切である。それは、自由で民主主義的な社会の根幹だ。とりわけ、社会の中に意見の亀裂が生じている問題、まさに、今回のような問題に関して、意見の公表の自由を守ることができなくなれば、最終的な事実の確定、これに基づく公共的な政策の策定が歪んでしまう。表現の自由の侵害は、民主政治を破壊すると言うが、すでに起き始めているのかもしれない」と懸念を示した。

『美味しんぼ』に抗議するなら、きちんと調査してほしい

 電話で参加した福島県伊達市在住の女性は、「漫画の表現が、どうしてここまで問題視されるのか理解できなかった。『福島の真実』編を読んだが、とても愛情あふれる内容で、福島の郷土料理、海や山の幸がよく描かれていて、本当に懐かしかった」と感想を述べた。

 鼻血に関しては、「因果関係は認められないと、自分でもわかっている。他人に話したことはないが、うちの子どもも鼻血を出したことはある。今回の騒動は『風評被害を助長させた』と騒ぎになっているが、政府や行政から次々と抗議が出されたことが、風評被害を助長させたのだと思う。福島県も抗議文を送るなら、今起きていることに目を向けて、きちんとした調査をすべきである」と語った。

 福島から東京に避難している女性は、「事実を事実として取り上げるのであれば、一人ひとりに向き合い、被災者のためにきちんとした検査を行っていなければならない。そうした検査が行われていないから、こういった騒ぎになる。だから、被曝の健康診断を、きちんと受けられるようにしてもらいたい。私は大人だから、自分の判断で血液検査をした。その結果をもとに、健康を維持していくための努力ができる。しかし、幼い子どもたちはどうだろうか。その子どもたちの心の声まで抑えるようなことは、すべきでない」と訴えた。

放射線による人体への影響に、しきい値はない

 西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)は、「実際に、政府がやってることは催眠商法と同じ。たとえば、靖国神社に参拝して(近隣諸国の反発を招き)危険を煽って秘密保護法を作るとか、集団的自衛権を議論している。原発では『安全神話』を謳っていたが、事故を起こして安全ではないことが知れてしまうと、今度は気持ちの問題にすり替えて『安心神話』を作ろうとしている。ICRP(国際放射線防護委員会)は、嘘も100万回言えば本当になる、というスタイルでやっているのだ」と、それぞれの対応を批判した。

 さらに、「専門家会議と称する人たちの内実は、ICRPの報告に詳しいというだけである。彼らは患者も診ていない、放射線を使って、自分で被曝しながら仕事をしているわけでもない。がんの専門家もいない。メンタルケアのスペシャリストもいない」と指摘。

 「私は5月18日に、札幌市でがん患者のメンタルケアに関して講演した。メンタルケアに関連して私が調べた限り、ストレスで鼻血が出るという医学報告は一例もない。ストレスを感じると、不眠や食欲減退、場合によっては鬱になる可能性もある。しかし、こういった身体症状の中に、鼻血が出るという報告はない。だから、鼻血が出るのが精神的なものだということ自体、きわめて非医学的な意見である」と述べた。

被曝のブラックボックス

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「「鼻血バッシングで、健康被害を口にできない空気が生まれる」 〜『美味しんぼ』騒動を考える緊急集会」への3件のフィードバック

  1. @kannamitsutaさん(ツイッターのご意見より) より:

    IWJが記事にしてくれました。いつもながらしっかりとした記事に感謝。

  2. @Chikara1112さん(ツイッターのご意見より) より:

    「美味しんぼ」の取り上げ方もまずいのよね。その辺きっちりしないとこれすらも戯言に見える。
    /「鼻血バッシングで、健康被害を口にできない空気が生まれる」 〜『美味しんぼ』騒動を考える緊急集会 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/141347

  3. @ClubBJEさん(ツイッターのご意見より) より:

    長いけど読もう。大事です。ー「鼻血バッシングで、健康被害を口にできない空気が生まれる」 〜『美味しんぼ』騒動を考える緊急集会

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