「福島の被災者のためにも、自分たちが勝たなくてはならない」~水俣病被害者互助会 第二世代訴訟 2014.4.2

記事公開日:2014.4.2取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ 関根)

 「福島の被災者のためにも、自分たちが勝たなくてはならない」──。

 2014年4月2日、東京都千代田区にある連合会館にて、「水俣病被害者互助会 第二世代訴訟 判決報告集会」が行なわれた。今回は、3月31日に熊本地裁で言い渡された、3人の賠償認定と5名棄却の判決の報告と、原告のスピーチ、関係者たちの意見陳述を行なった。原告団は「大堂進原告に1億500万円(うち弁護士料500万円)の賠償が認められたことは喜ぶべきだが、決して勝利宣言とはせず、控訴して、8名全員が勝つまで戦う」と決意を新たにした。

 今回の判決が、もうひとつ水俣病である新潟水俣病の損害賠償請求第3次訴訟に与える影響について、弁護団の高島章弁護士は、「新潟水俣病では、11名が、国と昭和電工、新潟県を訴えている。今回、20年の除斥期間を争点から外していたのでホッとした。しかし、同居家族に認定患者がいないと認めないというのは、懸念材料になった」と語った。

■全編動画

  • 判決報告:被害者互助会第二世代訴訟 弁護団 山口紀洋氏(弁護士)、平郡真也氏(事務局)
  • あいさつ:被害者互助会第二世代訴訟 原告団 佐藤英樹氏(原告団長)、佐藤スエミ氏(原告家族)、大堂進氏(原告)、倉本ユキ海氏(原告)、西純代氏(原告)、花田昌宣氏(水俣病訴訟を支える会、熊本学園大教授)、他
  • 日時 2014年4月2日(水) 18:30~
  • 場所 連合会館(東京都千代田区)

熊本地裁での判決について

 水俣病の認定問題をめぐっては、2013年4月16日、最高裁がこれまでの認定基準を覆し、「公的資料がない」として請求を棄却していた溝口チエさんを、水俣病患者と認める判決を下している。

 溝口行政訴訟東京弁護団事務局の鈴村多賀志氏の司会で、集会は始まった。まず、弁護団事務局の平郡真也氏が判決概要(2014年3月31日熊本地裁言い渡し)を説明した。

 「原告8名のうち3名が水俣病認定、5人は棄却。認定者の1人は、慰謝料400万円、弁護士料40万円。もう1人は200万円、弁護士料20万円。3人目の大堂進氏は、胎児性水俣病と認定され、介護費用、遺失利益、慰謝料などで1億円、弁護士料500万円だった。

 「判定基準は、メチル水銀の高濃度の暴露歴、症状の特徴と、それらの因果関係の3つを挙げている。そして、昭和44年に限定していたメチル水銀の暴露期間を、49年1月までに延長したこと、症状の確認、因果関係の判断でも、潜伏期間は20年と言ったこと。発現の時期と自覚症状の発症時期など、評価するところはあった」。

 判決の中の肯定的側面を評価したあと、平郡氏は問題点を指摘した。

 「問題は、同居家族に患者がいないことを理由に、一部の原告の請求を棄却にした点だ。0.33ppm(体汚染上限0.1ppm)で、暴露を否定された原告がいる。責任論に関しては、今回、食品衛生法に基づく規制がなかったことを争点にしたが、否定した。判決は完全勝訴ではない、複雑な結果だった」と語った。

「納得できない」原告たちの声

 続いて、判決に関して、原告団長の佐藤英樹氏、原告家族の佐藤スエミ氏、原告の倉本ユキ海氏、西純代氏、大堂進氏が、それぞれ感想を述べた。

 各々、「判決には納得できない」とし、請求した原告全員を「水俣病患者である」と原告側の証人として証言した原田正純医師の証言を採用しない環境省の責任のなさ、損害賠償の低さなど、判決の理不尽さを訴えて、これからも続く裁判への支援を求めた。

 1億円の賠償が認められた大堂進氏は、障害のため、ほとんど話すことができない。しかし、「控訴されるかもしれない。どんな形であっても、伝えることが大切だ」と必死に声をふり絞って語った。

「福島の被災者のためにも、自分たちが勝たなくてはならない」

 続いて、水俣病被害者互助会事務局の谷洋一氏が、原因物質が微量でも発症すること、遅効性であることなど、水俣病の特性について説明した。

 「メチル水銀は脳障害で、時間とともに発症していく。デンマークの研究から、微量で影響することもわかってきている」。

 水俣病認定の困難さをそう解説するとともに、原発事故による放射能被曝の被害者の問題と共通点が多いことを指摘した。

 「今回のことは、誰でも被害者になることを示唆する。福島原発事故の被災者も、将来、似たような状況になるだろう。そういう意味でも、自分たちがここで勝たなければならない」。

 また、「環境省は、決して、環境を守るために取り組んではいないことが、今日、交渉に行って明らかになった。明日、チッソに行くが、彼らは『権利の乱用、時効、除斥だから知らない』と平気で言う。加害者意識はまったくない」と非難した。

新潟水俣病第3次訴訟につながる今回の判決

 水俣病訴訟を支える会の花田昌宣氏は、「水俣にすら行ったことのない、何もわからない被告と裁判官に、真実をわからせるための、相手に伝える努力をしたのだろうか」と自陣営の運動について、反省の弁も述べた。

 新潟水俣病第3次訴訟弁護団の高島章弁護士は、「不当判決だと思うが、新潟での裁判で『勝訴』を勝ち取ることにもつながる。熊本県と違って、新潟県知事の泉田裕彦氏は、原発だけでなく、水俣病でも尽力している」と述べ、新潟での訴訟の見通しについて期待感を表明した。

 続けて、新潟水俣病第3次訴訟弁護団世話役の萩野氏が、「新潟の認定患者は現在702名いる」と報告。「因果関係を患者側が証明できれば、症状が手足の感覚障害のみでも水俣病と認める」とした「新通知(2014年3月7日に環境省が関係自治体に通知した「水俣病の認定基準運用に関する新指針」)の誤りを明らかにしていきたい」と述べた。

控訴審で勝てる5つの理由

 訴訟弁護団弁護士の山口紀洋氏がマイクを握った。

 「昨日、原告メンバーと議論し、控訴を決めた。5対3は敗訴だが、大堂さんの1億円の賠償金は、今までで最高賠償額。これから生活保護も打ち切られ、賠償金は介護費用でなくなってしまうが、心強い結果だった」と話した。

 今後、続く控訴審は5つの理由で勝てると山口弁護士は言い切った。

 「ひとつ目は、控訴審ではモチベーション、モラルが高い。なぜなら、環境省は判決書を読んでいないとの一点張りだから。つまり、それは不正があり、彼らに自信がない証拠だ。

 2つ目は、今回の判決は、木を見て森を見ぬ内容だからだ。原告1人1人を分析しているだけ。裁判官は、現地の状況、当時の食生活の実情がわかっていないから説得力がない。

 3つ目は、棄却された人も、採決のあった人も、分け隔てなく原告同士の絆が強いこと。

 4つ目は、支援戦略。環境省の新通知に、行政訴訟などの外堀からも攻めている。

 5つ目は、溝口チエ訴訟で一審棄却から大逆転し、最高裁で認められたことだ」。

 最後に、主催者から翌日のチッソとの交渉と、午後の参議院議員会館での院内集会のスケジュールが告げられ、終会した。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です