「水俣病問題には社会が直面する普遍的テーマが含まれている。企業競争の激化を背景に、規制が緩められ、人々の生命が脅かされてはならない」──。
2013年10月13日、大阪市生野区のKCC(在日韓国基督教)会館において「チッソ水俣病関西訴訟最高裁判決から10年目を控えて MINAMATA 今の課題」が開かれた。関西訴訟において、行政の責任が認定されたにもかかわらず、補償、認定基準などで、今なお苦しめられる被害者の現状が浮き彫りとなった。
(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)
「水俣病問題には社会が直面する普遍的テーマが含まれている。企業競争の激化を背景に、規制が緩められ、人々の生命が脅かされてはならない」──。
2013年10月13日、大阪市生野区のKCC(在日韓国基督教)会館において「チッソ水俣病関西訴訟最高裁判決から10年目を控えて MINAMATA 今の課題」が開かれた。関西訴訟において、行政の責任が認定されたにもかかわらず、補償、認定基準などで、今なお苦しめられる被害者の現状が浮き彫りとなった。
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冒頭、大阪網かけ一座によるチッソ水俣病に関する基礎知識講座が行われた。その中で、この集まりについて、「チッソ水俣病関西訴訟(以下、関西訴訟)の最高裁判決における真意を確認し、その定義するところが実行されることを、求めるために行われてきた」と説明した。
続けて、この判決の中身に関して、「認定制度が切り捨てた原告団を、水俣病であると認めた。しかし、認定制度の問題点を検証し、誤りを正すことが必要であり、そのためには、前提となる被害の実態調査をきちんと行うべきである」と述べた。さらにもう1点として、「判決は、企業(チッソ株式会社)だけでなく、行政にも被害を拡大させた責任があることを指摘した。損害賠償責任はチッソだけが負う形だが、国、熊本県も賠償責任を負うことを踏まえた補償の仕組みを、構築し直す必要がある」とし、「現状において、そのいずれもが、なされていない」と指摘した。
関西訴訟判決の問題点については、「最高裁が認めた賠償金の額は、認定患者が補償協定に基づき受け取っている金額より低い。行政認定と司法認定とで、被害者が受ける待遇に差ができることになった。最高裁の真意は測りかねるが、司法認定を受けることと、行政認定を受けることに、差が歴然と残された」と説明した。
今なぜ、水俣病問題なのかについて、「われわれが直面している普遍的なテーマが含まれているからだ。自由競争社会において、企業活動を、いかに規制するかという問題である」と述べ、次のように続けた。
「グローバル化の流れの中で、企業の競争は激化している。競争の妨げになる規制は、極力取り除かれるよう、あらゆる分野で叫ばれている。しかし、その結果、 人々の生命健康が脅かされてはならない。政府は局面に応じて、適切な規制を行う義務が付託されている。だから、もし政府が規制に失敗すれば、その代償は小さくないのである。今のまま、水俣病の被害が切り捨てられれば、今後も同じことを許すことにつながる」。
村田三郎氏は、『メチル水銀を水俣湾に流す』という入口紀男氏の著書を紹介し、「水銀触媒法でアセトアルデヒドが作られるが、その過程で無機水銀が有機水銀になることが、1921年に科学雑誌に掲載されている、と書かれている。チッソは1932年から、水俣湾に無機水銀の廃液を流し始めたことから、排出する時点で、すでに無機水銀が有機水銀に変わることを知っていたことになる。だからこそ、『非常に犯罪的である』と述べられている」と指摘した。
村田氏は水俣条約の制定に関して、「安倍首相は『日本は水銀による被害を克服した』との発言をした。『福島の汚染水は0.3平方キロメートル以内に閉じ込めた』と同様のことを言っている。本当に破廉恥なことだと思う。私たちは、それに対して事実でもって、きちんと批判し、本当の意味で患者さんの救済、支援をしていかなければいけない」と述べ、新たな決意を表明した。
後藤達哉氏は、まず、Fさん訴訟に触れ、「関西訴訟の原告のひとりがFさんで、裁判の結果、Fさんも水俣病患者であると司法が認定した。ところが、国、熊本県はFさんを行政認定しなかった。その理由として、『司法の言う水俣病と、行政で言う水俣病は、概念として違うものである』と言ってきた。当然、これには納得できないことから、Fさんは行政訴訟を起こした。国と熊本県に対して行政認定の義務付けの請求をしたのである」と説明した。
Fさん訴訟の判決について、「大阪地裁では、関西訴訟最高裁判決と同じ真っ当な判決が出た。つまり『Fさんは水俣病であるから認定せよ』という判決である。ところがその後、大阪高裁で『認定しなかったことに問題はない』という不当な判決が出た。それに対して、4月16日に最高裁判断が出た。結論は『大阪高裁に差し戻し』であった」と、敗訴となったことを説明した。
後藤氏は「しかしながら、最高裁は、この判決で2つの重要なポイントを示した」とし、「まず、二重基準について。『司法と行政は別であるという理由はない』として、水俣病はひとつであることを明確に示した。2つ目が、 昭和52年の判断条件の否定である。やや煮え切らない表現であることは否めないが、『52年判断条件は、迅速かつ適切な判断を行うための基準を定めたものとして、その限度での合理性を有すると言える』と示した。国は『52年判断条件が完全に否定されたわけではない』と開き直っているが、基準として不十分である、と示されたことは事実である」と述べた。
続けて後藤氏は、Iさん訴訟について、「 Iさんは、関西訴訟で水俣病であると認められ、その後、行政認定された。そこで、Iさんはチッソに対して補償金の請求を行う。しかし、チッソは行政認定を受ける前に、関西訴訟によって一定金額の給付を受けているとして、『損害は関西訴訟で填補されたから、チッソとして払う必要はない』と言ってきた。この点について、補償協定に基づく給付と、実際にIさんが司法認定により受けた給付では1千万円ほど差がある。したがって、補償金との差額分は給付を受けられるというのが、Iさん側の主張である」と説明した。
この訴訟の結果について、後藤氏は「平成22年に、大阪地裁で請求棄却の判決が出た。控訴、上告したが、上告も棄却されて、Iさんの訴訟については司法の判断が確定している。この、Iさん訴訟の問題は、決してIさんの問題だけではない。関西訴訟の原告として、少ないながらも一定の給付を受けている人が、これから行政認定されると、チッソは協定に基づく支払いを拒むことが想定される。チッソの対応はおかしい。どう考えても不公平である。弁護団として、同様の境遇にある方の訴訟を手伝って、何とかこの不公平を正していきたい。チッソに対する怒りの声を上げていきたい」と力を込めた。
鈴村氏は「Fさん訴訟と同じ時に、溝口さんも勝訴判決を得ることができた。つまり、52年判断条件で切られた溝口さんにも、最高裁は『水俣病患者として認めなさい、義務づけなさい』という判決を出した。ただし、私たちは『溝口さんが認定されました。おめでとう』で終わらせる気は毛頭ない。52年判断条件によって棄却された方々が、何万人もいる。Fさんや溝口さんが言いたいことは、『52年判断条件では患者は救えない』ということである」と話した。
水俣病患者の認定に関して、「52年判断条件は、4つのパターンを示しており、この4つに当てはまらない人を、行政は今まで機械的に切ってきた。それについて、最高裁は『4つのパターンにおいて認定された方に対しては、もう一度、見直す必要はない』と言った。そして、次にFさんや溝口さんを認めたことからわかるように、『この4パターンに合わないからといって、機械的に切ってはいけない』と明確に言っている」と、最高裁判断からの認識を示した。
現在の環境省の動きについて、「4つのパターンに合わなかったFさん、溝口さんが水俣病と認められたので、5番目のパターンを作ろうとしている。しかし、この5つ目のパターンをどうやって作るのか、まったく明らかにしない。それを今考えている役人は、就任して1年程度である。これまでに関わってきたわけでもないのに、被害者や関係者の話を聞かず、官僚が勝手に5番目のパターンを決めようとしている。これは、どうしてもやめさせなければいけないし、こういうことを許してはならない」と語気を強めた。