尖閣諸島の領有権を巡り、日中関係が悪化の一途をたどっている。11月23日、中国政府は東シナ海上空に「防空識別圏」を設定。圏内に尖閣諸島上空を含んでいたことから、日本政府が中国側に強く抗議する事態となった。
尖閣諸島の領有権に関して、日中間で見解が分かれるのが、問題の解決を将来の世代に託す「棚上げ」合意の有無である。1972年の日中国交正常化時、当時の田中角栄首相と周恩来首相との間で、「棚上げ」の合意がなされたという指摘がある。
元官房長官の野中広務氏は、今年6月3日、田中角栄首相から「尖閣諸島の領有権について日中双方が棚上げを確認した」と直接聞いた、と発言した。これに対し、菅義偉官房長官や岸田文雄外務大臣は「棚上げや現状維持で合意した事実はない」と反論。日本政府は、公式見解として「尖閣諸島について、領有権の問題はそもそも存在しない」という立場を一貫して取っている。
削除された「田中発言」
『チャイメリカ』『尖閣問題の核心』『尖閣衝突は沖縄返還に始まる』などの著作があり、日米中関係に詳しい元東洋経済新報社記者で横浜市立大学名誉教授の矢吹晋(すすむ)氏は、岩上安身のインタビューの中で、当時の外務省中国課長・橋本恕氏が、田中角栄首相の発言記録を削除したと指摘した。
矢吹氏によれば、外務省が公表している「田中角栄・周恩来会談」の記録では、尖閣諸島の棚上げを持ちかけた周首相に対する田中首相の返答が残されていないのだという。
矢吹氏は、大平正芳元総理の追悼文集『去華就実 聞き書き大平正芳』(大平正芳記念財団編、2000年)に収録された「橋本恕の2000年4月4日 清水幹夫への証言」における、次のような記述を引用した。
「周首相は『これ(尖閣問題)を言い出したら、双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わりませんよ。だから今回はこれは触れないでおきましょう』と言ったので、田中首相の方も『それはそうだ、じゃ、これは別の機会に』、ということで交渉はすべて終わったのです」
このように、田中角栄首相の側も、周恩来首相の「棚上げ」提案に対し、「それはそうだ」と合意していたというのである。矢吹氏は、「日本政府は、『尖閣諸島に領土問題は存在しない』という立場と矛盾するという理由から、田中角栄の発言を削除したままにしている」と説明。日中間で尖閣諸島に関する「棚上げ」合意は確かに存在し、約束を反故にして現状を変更しようとしているのは日本側であると指摘した。
※インタビューは他にも、沖縄返還協定と尖閣問題の関係、「防空識別圏問題」における米中の思惑、中国経済に深く依存した米国経済の実態「チャイメリカ」など、非常に多岐にわたりました。ぜひ、動画全編をご覧ください。
※インタビュー中に提示しました「米議会尖閣報告書は中国贔屓」というパワーポイント資料について、一部訂正いたします。資料に出てくる英文は、議会報告そのものではなく、ハーナーさんという矢吹先生の友人が書かれた解説記事になります。
安倍総理とNHKのウソには(悲しいことに)そろそろ驚かなくなっていますが、外務省が尖閣問題に関して史実をまげたことを言っているとは、ほんとうにあきれました。(よく考えてみたら、沖縄密約の存在も未だに否定しているのでしたね。)
また、尖閣問題に関する正確な情報を広く国民に知らせるべきメディアが、矢吹晋氏の著作を全く取り上げていないというお話をうかがって、自己規制の濃い霧のようなものが日本中に充満しているのではないかと感じました。5時間ものお話の後で、「言いたいことを言えたから、少し愉快です。」と矢吹晋氏が言っておられましたが、これと同じような感想を、岩上さんのインタビューでよく聞きますね。そのことからも、自由にものを言えない今の日本の雰囲気が感じられます。聞く耳持たずの人達は、同時に他人の口を封じようとする人達でもあります。12月まで、大事な情報をよく聞き、人にそれを伝える発言を、ひるまずに、できるだけ多くしていきたいと思いました。