「日本はスパイ天国」「中国のスパイに対する防止策」ーー。特定秘密保護法の推進論に頻繁に使われるフレーズだが、前者は半分正解、後者は全くのでたらめである。
11月21日、約半年ぶりに岩上安身のインタビューに応えた孫崎享氏(元外務省国際情報局局長・元駐イラン大使)は、「秘密保護法は日本発ではなく、米国の要請だ」と喝破する。
インタビュー冒頭、「過去10年くらい、秘密が漏れて日本の外交・防衛にマイナスになるような大きな事件があったか」と問いかけた孫崎氏は、様々な観点から、この法案の真の目的と狙いを分析した。
「秘密を守りたい」はずの日本政府がスノーデン事件では沈黙
スノーデン元CIA職員が提供した機密文書から、NSA(米国家安全保障局)が、日本を含め外国の首脳の電話を盗聴したことが判明し、世界中に波紋を呼んでいる。
ドイツ、フランス、ブラジル、スペインなど世界各国の首脳が米国に猛抗議するなか、日本は菅官房長官が「米国政府に事実確認はしない」「全く問題ない」と静観する構えをみせている。
孫崎氏は、「日本政府は『秘密を守りたい』として秘密保護法まで考えているなら、本来どこよりも先に、スノーデン事件に真剣に取り組まなければならないが、全く取り組む姿勢がない」と指摘し、「つまりこの法案は日本発ではなく、米国の要請だということが推定される」と語った。
国会審議の前に、米国に法案成立を約束
孫崎氏は、この法案が「米国の要請」だと分析する根拠としてもう一つ、ケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官が来日し、日米両政府が10月3日に開催した外務・防衛担当閣僚協議会(2プラス2)での「ある決定」を挙げた。
会議後の記者会見で発表された「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて
」と題する共同文書には、「情報保全を一層確実なものとするための法的枠組みの構築における日本の真剣な取組を歓迎」と明記されているのだ。
孫崎氏は、「国会が議論する前に、日本側は米国に対し『秘密保護法を作る』ということを約束してしまっている」と解説した。
【外務省HP】
「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて」
外国には特定秘密を提供することができる!?
そして孫崎氏は、この法案の最大の問題点、「米国の要請」たる確固たるゆえんを提示した。
公開されている同法案の条文案を見ると、第9条に「必要であれば外国の政府に特定秘密を提供することができる」と明記されている。この「外国」が主に米国を指すのは明らかだ。
本質は自衛隊を米国の指揮下に置くための地ならし
では、米国は秘密保護法で一体何を狙っているのか。孫崎氏によれば、前述の「2プラス2」が、米国の戦略を知るうえで非常に参考になるという。
「2プラス2」の共同文書では、「集団的自衛権を歓迎する」「日米の軍事的な相互運用性を高める」と書かれている。そこから読み取れることは、「自衛隊が米国の指揮下に入り、共同オペレーションをする。その時に、米軍と同等の軍事機密が必要になる。自衛隊の米軍の下請け化が目的」というのが孫崎氏の分析だ。
日本は「米国」にとっての「スパイ天国」
しかしこうした分析に対して、「日本はスパイ天国」「中国のスパイに対する防止策だ」との反論が、賛成派のなかには今だに根強い。
孫崎氏は、自身のインテリジェンスの専門家としての経験から、「日本は中国や北朝鮮に対する防諜は、世界的にみても非常に高い水準だ」と語り、「日本は中国のスパイ天国」との賛成派の論を否定した。
その一方、日本が唯一防諜ができない国があるという。孫崎氏は、米国がCIAの予算の30%を費やして日本に仕掛け続けてきた「工作」の歴史を語った。