【IWJブログ】米国が見せた2つの顔―。オバマに突き放される安倍“スネ夫”政権~孫崎享氏インタビュー 2013.7.19

記事公開日:2013.7.19 テキスト
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(構成:IWJテキストスタッフ富田充、IWJ佐々木隼也、文責:岩上安身)

 昨年(2012年)、石原慎太郎氏の尖閣購入発言から、一気に日中関係が緊迫化する間、ひそかに日本の背中を後押しし続けたのが、米国のネオコン、保守派、とりわけアーミテージのグループだったり、保守系シンクタンクだった。

 そもそも、石原慎太郎氏の「尖閣購入」という火つけ発言のお膳立てをしたのは、米国のヘリテージ財団という保守派のシンクタンクであり、彼はそこで、日中両国の間に山と積もった民族対立の枯れ葉の山に火を放ったのである。そうやって日中間の対立を煽っておきながら、いざナショナリスティックな安倍“スネ夫”政権が誕生すると、米国の「表の顔」は一変した。

 米国に忠実な「あなたたちの忠犬ポチが返ってきましたよ!」と、「日本は戻ってきました Japan is Back!」というスローガンを掲げて訪米した安倍政権に対して、オバマ米大統領は、非常に冷たい対応に終始したのである。中国に対して強硬な姿勢を見せれば、ボスであるジャイアン(米国)の機嫌がよくなるとばかり思ってたら、あてがまったく外れたのである。

 ところが、ジャイアンがスネ夫に、「俺たちの共通の敵だ」と吹き込んでいた中国のトップが訪米した時は、どうだったか。6月7日(現地時間)、習近平中国国家主席を米国側が招いて行なわれた(中国が訪米を要請したのではない。米国が招いたのだ。安倍総理は訪米を要請して、1月に断わられ、2月にようやく実現した)米中首脳会談では、米国政府は、西海岸のパームスプリングスにある最上級の保養所をセッティングし、習主席を手厚く歓迎。オバマ大統領自ら東海岸から駆けつけ、2日間にわたり、正味8時間にもわたって会談した。共同記者会見も晩餐会も開かれなかった、2月22日(同)のワシントンでの安倍総理との日米首脳会談とは雲泥の差だった。

 米国の見せた2つの顔について、6月17日、私のインタビューに応えた孫崎享氏は、「米国は、中国に対してラブコールを送るために、日本に対してことさらに袖にしている」と解説した。

 日米首脳会談のあと、米国の姿勢に不安を感じた安倍総理は「日本には米軍基地があるから…」などとのコメントをして、米国の歓心をつなぎとめているのは基地頼み、日米同盟に必死にすがっている姿勢をうかがわせたが、その点が話題になると、孫崎氏は「米国にとって重要なのは、その相手国が米国にとって儲かる市場を抱えているかどうかだけ」と、米国の関心を明言。中国に熱い眼差しを向けるオバマ大統領は、人口減と消費の成熟が顕著な日本の市場には、もはや魅力を感じていない、との見方を示した。

 保守派の安倍総理は、オバマ政権から「負の遺産」と見なされている。日本の大手メディアの報道姿勢は米国従属型だ──。岩上と孫崎氏は、今の日米関係のきしみについて、ストレートに言及。「最悪なのは、日本が米中の共通の敵に回されてしまうこと」といった発言も飛び出した、注目のインタビューとなった。

※以下、インタビュー報告ツイートのまとめに加筆・訂正したものを掲載します。

■ハイライト

口実はテロ防止、「大監視社会」を操るのは誰?

岩上安身「今日、まずお聞きしたいのは『PRISM』の問題です」

孫崎享氏(以下、敬称略)「こういうことが行なわれていると、岩上さんも私も想定していた。インターネットを駆け巡る個人情報に、米国政府が目をつけていることは、十分に察しがついたからです」

*『PRISM』とは、米国政府が極秘に進めてきたプロジェクトで、当局がグーグルやヤフーといったインターネット業者のサーバーに直接アクセスし、個人情報を集めるもの。この6月に、米国人エドワード・スノーデン氏(元アメリカ合衆国中央情報局(CIA)職員)に内部告発された。

岩上「米国のメディアの反応ですが、スノーデン氏のリークの虚偽性を指摘している記事は見当たりません。日米ともに報道の姿勢は、スノーデン氏の行動は許されるか、スノーデン氏とは一体何者か、といったものですから。従って、PRISMが本当に行われていることは、もはや間違いありません」

孫崎「(米国の国防総省の機関紙で、軍関係者への影響が大きい)星条旗新聞の書き出しは、『われわれは何を食べ、何を買い、何をグーグルで検索しているか、見られている』でした」

岩上「星条旗新聞は、どんなトーンで伝えていましたか」

孫崎「淡々としていましたよ」

岩上「多分、米軍関係者も不愉快に思っているのでしょうね。自分たちだって監視されている可能性があるわけですから。大体、監視している主体が、はっきりしていない点が不気味です。オバマ大統領の個人情報さえ見られる可能性があると言われています」

孫崎「話は横道にそれますが、先般のボストン爆破テロも謎だらけ。どこで爆弾が作られたかという話が、ちっとも出てきていません。あの問題は、徹底的に調べる必要があると思っていますが、ともかく米国政府の言い分は、『もはや個人テロが起こる時代なのだから、われわれの監視は妥当だ』というものです。

 先週、EU(欧州連合)の法務関係者が、米国政府に回答を迫っている。『対EUでも、個人情報の収集を行っているのか』と。EUは今回のサミットでも、この問題を取り上げると言っていますが、わが日本の安倍総理は、何と言うのでしょうか。これがもし、ロシアや中国が行なっていたならば、日本人の間に火がつくのは確実。でも、米国だから、全然そうなっていない。スノーデン氏の問題に対して、日本で声を上げている閣僚はいません」

岩上「米国は、ご主人様の国ですから」

孫崎「とにかく、米国の戦略の実態がこれだけ明らかになってくると、『またか』と、げんなりしてしまう」

岩上「私は、ソ連崩壊の時期に、内戦状態のグルジアに取材に行きました。その時に驚いたのは、CIAの行動の早さ。現地で私が会った米国人は、国務省の人間と称していましたが、周囲がはっきり言っていたように、彼らは明らかにCIAでした。大統領側と首相との間に入って、橋渡しみたいなことをやっていました。ロシアよりも早く入っている」

孫崎「そうしたグルジアの反ロシアの集会に、彼(=ボストン爆破事件の容疑者)が出席している。そういう場所に行っているのに、ああいう爆破事件を起こしているというのは、どうにも解せない。改めて、ボストン爆破テロ事件を、ちゃんと調べなければならないと思います」

稼がせてくれれば、価値観の違いなど何のその

岩上「さっきも少し触れましたが、米国の大統領まで監視されるとなると、監視している主体はどこなんでしょうか」

孫崎「現時点で確実に言えることは、米国社会は、もはや1パーセントの富裕層のための国になっている、ということです。ビジネスは国家と対等どころか、国家より上の存在。ビジネスが国家よりも強くなっている。すべての問題が、この視点で説明が可能です。TPP(環太平洋経済連携協定)もそうです。ビジネスが、国家を訴えるんですから。(PRISMには)1%の人たちが、残りの99%の人たちを見張っていて、『勝手は許さない』と脅している、という説明が成り立つと思います」

岩上「今回は、スノーデンという人が亡命した点が、実に興味深い。通常、亡命というのは『不自由な国』から『自由な国』へ行く。彼にとって、米国からの亡命が、『不自由な国』から『自由な国』への亡命に相当するんですね」

孫崎「ウィキリークスの問題でも、同じことが起こりました。今回は、香港政府がスノーデン氏を引き渡すことに対して、市民が反対していますから。果たしてどうなりますか」

岩上「さて、先日、中国の習近平国家主席とオバマ大統領が、米国で会談をしましたが、その歓待ぶりが尋常ではなかった。日本には『(米中による)第2の冷戦の始まり』を唱えている人たちがいますが、彼らは、この現実をどう説明するのでしょうか。

 一方で、これとは真逆だったのが、2月の訪米時の安倍総理の扱われ方です。共同記者会見は行われず、夕食会もなく、ランチでもオバマ大統領は水を飲んだだけ。過去の会談と比べても、非常に冷淡な扱いを受けた」

孫崎「米国が相手国に求めるのは、自分たちが儲けられるか否か、ということだけなんです。言い方は悪いけれど、オバマ大統領は、これまでの大統領の中で一番お金を集めるのが上手い。

では、そのお金はどこから集まったか? 草の根運動で資金集めなどと言われていますが、結局はウォール・ストリートからなんです。オバマ大統領の政治は、ウォール・ストリートと米国産業界を背負ったものであることを、忘れてはなりません。

 米国は相手国を見る際、いわゆる価値観の差などはどうでもいいんです。対中国の場合もしかりで、米国にとって重要なのは、中国が儲けられる国であるか、ということです。

 米国は日本に対し、『あなたはわれわれの『奴隷』でしょ? ホスト同士で話をしている時に、『奴隷』は関係ない。対等な立場じゃないんだから』という思いを持っている。そして、オバマ大統領は、日本の『歴史問題』を重視している。これは、日米関係の悪化を回避したいからではありません。中国を怒らせて、対中関係が悪くなるのを危惧しているんです。つまり、米国から見ると、保守派の安倍総理は『負の遺産』でしかない。

オバマか、アーミテージか

孫崎「数週間前、『週刊朝日』の仕事で、『ニューヨークタイムズ』の東京支局長と話をしました。彼は『あなたたち日本人は、なぜ軍産複合体的な人たちが米国の代表だと思っているのか』と質問してきた」

岩上「アーミテージ氏(元国務副長官)たちですね」

孫崎「支局長は『アーミテージ氏的な人、イコール米国ではない』と強調していました」

*リチャード・リー・アーミテージ氏(元国務副長官)は、知日派の代表的存在。日本経済新聞が、ことあるごとにアーミテージ氏を日本に招き、世間に向かって発言させることでも有名である。

岩上「唐突ですが、ひょっとして、米国と中国は、自分たちの絆を深めるために、日本を共通敵に仕立てた方がいいと考えているのでは」

孫崎「かつて、キッシンジャー氏がそれをやった」

岩上「ただ、そういう最悪のシナリオも考えられる一方で、相変わらず米国が日本の背中を押しているフシがあります。

今年の3~4月、米韓の合同演習によって、北朝鮮が過激な反応をしましたが、この時から、自民党幹事長の石破茂さんが『敵基地攻撃論』を言い始めた。米国の後ろ盾がなければ、こんなことは言えない。その一方で、安倍総理が訪米しても、冷たくあしらわれるという現実がある。一体、どう解釈すればいんでしょう。安倍総理も気の毒だなぁ、と思えてしまいますが」

孫崎「だからもう、アーミテージ氏の言うことを聞いて、それで満足しているようではダメなんです。だって彼、オバマ大統領の側じゃないんだから。オバマ大統領は、自分に関係ない次元のことなら、日本とアーミテージ氏の交流に口を挟まない。日本への関心なんて、もはや薄らいでしまっているんですから。

しかし日本が、自分が大事にしているテーマにまで足を踏み入れてきたら、つまり中国を怒らせるようなことをするのであれば、『自分は黙ってない』というのが、オバマ大統領の日本に対する基本姿勢です。

 安倍総理が『米国と対立する』と言っていたならば、訪米でのあの冷遇もしかたないと思う。しかし、『すべてを、あなたがた米国に捧げる』と言っているのに、冷たくされた。この現実は非常に重い。日本の大手メディアはなぜ、この問題をもっとクローズアップしないのか」

岩上「これまでも、ずっとそうですが、日本の大手メディアは、米国の要人の発言内容の一部だけを取り上げて、重要なところを伝えない。米国にこれだけ冷たくされているのに、一体誰に対して忠義立てしようというのか。はっきり言って、馬鹿なんじゃないかと思います」

日本に芽生え始めた「北朝鮮化」の可能性

岩上「今の日米同盟のきしみを考える上で参考にしたいのが、大昔の日英同盟の空洞化です。日本は日露戦争に勝利したことで、世界の列強から警戒される存在になった。それを受けて日英同盟は改訂され、『日本が米国とコトを構えた場合、英国は日本に味方しない』という項目が加わり、第四次日英同盟は空洞化することになります。この歴史的事実に照らすと、米国が日本に対し、『中国とコトを構えた場合、自分たちはあんたたちを守らない』と言い出すシーンが目に浮かんでしまう。

 こんな時、山縣有朋は、日露戦争のあとだというのに、日英同盟による後ろだてがなくなった日本のことを考え、180度発想を転換し、これまでの敵と手を握る日露同盟を画策するんですね。山縣有朋は好きな政治家じゃありませんが、これはすごいリアリスティックな戦略転換だと思う。今、日米同盟が頼りなくなってきている時に、逆にロシアや中国などに目を向けられる戦略家がいるだろうか」

孫崎「少し別の言い方をすれば、かつて、英国は日本との間に日英同盟を作ってくれた。でも、米国が台頭し、日本に対し日英同盟の破棄を迫った。それを受けて、日本が破棄した。今、それと同じ構図が、中国の台頭を背景に、日米中の間に生まれても不思議ではない状況なんです」

岩上「目の前に迫ってきている感がありますが、そういう不安定な状況の中で危惧されるのは、中国は日本への大きな怨恨を抱いている、ということ。そこを日本側が刺激すれば、中国の側に日本を攻撃する、正当化の口実を与えてしまう。それなのに、日本の反中右翼の人たちは、わざわざ中国の神経を逆なでするような発言ばかりしている。これはもう、国益の損失どころの話ではありません」

孫崎「ナショナリスト的な人たちが国を悪くする代表例は、北朝鮮だと思います。かつて、北朝鮮は韓国と大差なかった。でも、ナショナリストの国であるがために差が生まれた。『自分たちは絶対に正しい。邪魔するやつは力で排除する』という姿勢を貫いたための結果で、同じことが今、イランで起こっているんです。やっかいなのは、ナショナリストには罪悪感がないという点。自分たちは正しいことをしていると、信じきっている。これは、日本のナショナリストにも言えることで、だからこそ危険なんです」

岩上「このままでは、近い将来、日本は米国に見放され、新たに同盟を結ぶ国も見当たらず、どんどん内側にひきこもっていって、挙句の果てには、北朝鮮のような孤立した国になるのではないか、という懸念さえ考えられます」

孫崎「民主党の野田さん(元首相)は、ほとんど外国に行ったことがありません。外国に行ったことのある人は、自分の国を客観的に見られる。外国のことをわかっている層が、極端に薄くなってきたことも、今の日本の危機的状況の原因です。安倍さん(首相)だって、そんなに外国に詳しいわけではないですから。

 そこには、『素晴らしいものが、海の向こうに存在するに違いない』という発想が、いつのまにやら日本人から消え失せてしまったことが響いていると思います。つまり、今の日本人は、どこかで『自分たちが世界一だ』と思っているんです。それだけに事態は深刻です」

岩上「それは大きな勘違いですよね。80年代の日本は、まだ冷戦体制下で、米国の庇護の下にあったから、いい思いができた。でも、冷戦が終わったとたんに、必要がなくなり、見捨てられ、むしり取られるようになった。これからは、どんどん食べられてしまいますよ。米国に」

孫崎「私もそう思う。ただし、これまでは、日本人の庶民は食べられずに済んでいました。今後は、その限りではありません」(了)

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