日本政府はTPPでどこまで譲歩を重ねるのか。産経新聞の11月4日付の記事によると、政府・自民党は「聖域」であるコメの関税率について、現行水準の778%を段階的に500%代に引き下げる方針を固めたという。
これが事実であれば、日本の農業の影響は甚大であり、政府の「聖域を守る」という国民への約束は破られることになる。11月5日午前8時45分から行われた、閣議後の定例会見で甘利明TPP担当大臣は「具体的にそういった報告は受けていない」と述べた。
また読売新聞の5日付の記事では、米国が日本車にかけている輸入関税の撤廃が、協定発効から20年程度先となる公算が大きくなったという。読売新聞によれば、日本は5~10年での撤廃を求めていたが、「TPP交渉の(中の)最も長い期間で撤廃」するという日米合意を基に、米国が歩み寄りの姿勢を見せていないためだという。
米韓FTAでは、米国は韓国車の輸入関税(2.5%)を発効後5年目に撤廃で合意されており、報道が事実であれば、日本は韓国に比べ、長期的に不利な条件を強いられていることになる。
この懸念について甘利大臣は、こちらも「報告を受けていない」としながら、「米国とは日米並行協議という、日米間の取り決めがある。それを無視するわけにはいかない。関税がなくなるまでの期間を理不尽に長く取らないという作業が必要になる。日韓と比較すると、韓国の場合は、自分のもの(米国車にかける輸入関税)も手放した。しかし日本は手放すものがない。その点が韓国とは異なる」と回答した。(下に続く)
- 日時 2013年11月5日(火) 8:45~
- 場所 内閣府(東京都千代田区)
韓国よりも不利な条件を強いられる日本
確かに韓国は米韓FTAで、発行日に米国車にかける輸入関税8%を4%に引き下げ、発効後5年目に撤廃するという条件で合意している。一方日本は、米国車への輸入関税は1978年に「関税定率法」により撤廃している。日本は「手放すもの」がないと言える。
しかし甘利大臣はこの日韓の差をもって「日本の方が条件は優位だ」とは述べていない。米国からの輸入車に対して、そもそも日本側は関税をかけていない。他方、米国側は日本車に対して韓国よりも長期にわたって関税をかけ続ける。不平等で、さらに韓国よりも不利な条件なのは明らかだ。
日米並行協議は政府内でも情報共有に差
会見でIWJは日米並行協議について質問した。並行協議は、米国が日本に投資をする上で弊害となる様々な規制について議論する二国間交渉であり、甘利大臣は10月24日の参院予算委員会で、並行協議の成果はTPP交渉の妥結と同時決着であり、「TPPが決着しないと、(日米)2国間の交渉もほごになる」と述べている。
それほどTPP交渉と密接に絡み合い、「知財」など、TPPと重複したテーマを扱っているにも関わらず、内閣府のTPP政府対策本部は、「並行協議は外務省主導であり、協議の内容まで連携できていない」としている。
この現状について甘利大臣は、「同時決着というのは、日米間で取り決めたルール。米国からすれば、並行協議を成功させなければ一つも(実を)取れないということになる」と前置きしたうえで、「TPP室(政府対策本部)はもともと外務省から出ているもので、鶴岡首席交渉官はまさに外務省の人間そのもの。そこはきちんと(外務省と)連携を取っていく」と語った。
しかし、「最初から全てを共有するもの、TPP室の中で承知して進めていくものなど色々ある。各項目について、全ての参加省庁が同時に同じだけの情報量を共有して進めていくやり方ではない」と語り、政府内での連携が万全ではない状況を明らかにした。
国家戦略特区が閣議決定
特区始動後も追加の規制緩和
会見では他に、この日の午前に閣議決定された「国家戦略特区」について、「スタートとしては100点満点で85点の出来だ」と評価。「残りの15点」については、特区が動き出すにつれて、新たに必要な規制緩和項目が明らかになってくることから、「追加の規制緩和を迅速に採択できるかどうか」と述べた。