「自動車」「保険」分野で日本が米国に大幅譲歩 TPP日米事前協議が決着 ~甘利明TPP担当大臣会見・事務方による記者ブリーフィング 2013.4.12

記事公開日:2013.4.12
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文字起こし:IWJ大西雅明)

特集 TPP問題

 日本のTPP参加の「入場料」とされる「自動車」「保険」分野で、ほぼ米国の要求をのむ形で、日米事前協議が決着した。日米両政府は4月12日(金)、事前協議の合意文書を発表、18時より内閣府本庁舎で甘利明TPP担当大臣が記者会見を行った。発表された合意文書によると、自動車分野では、米国の(輸入する日本車にかける)関税撤廃までの期間は、最大限に後ろ倒しされるとしている。加えて文書では、乗用車は5年(トラックは10年)としている、米韓FTAにおける米国の関税撤廃までの猶予期間を「実質的に上回る」ことを確認したとしている。

 この自動車分野での日本側の大幅な譲歩について、甘利大臣は「参加が遅れた分だけ、主たる交渉国である米国の注文も多いんだと思います」と語った。日米両国は、今後も自動車分野について、TPP交渉と並行して、二国間交渉を行なっていく。

■記者会見

■合意内容についての、玉木靖 外務省経済局参事官と宗像直子 経産省通商政策課通商機構部長による記者ブリーフィング

 また、もう一つの「入場料」とされる「保険」分野については、同日午前、麻生金融担当相が閣議後に行われた会見で、日本郵政傘下のかんぽ生命のがん保険など新商品の申請を、当面認可しないことを表明。米国はこれまで、かんぽのがん保険参入に懸念を示し、日本で約8割のシェアを持つ米国の保険会社(アフラック)などへの配慮を求めていた。13日付のロイター通信によると、実質、米国側へ譲歩するかたちになったことについて、麻生大臣は「たまたま(交渉参加と)日が重なっただけ。(今回の判断が)TPPと直接関係するわけでない」と説明した。

 日米両国の合意文書によると、この「保険」を含め、「透明性/貿易円滑化」(貿易手続き)、「投資」、「知的財産権」、「規格・基準」(工業製品)、「政府調達」(公共事業など)、「競争政策」「急送便」「衛生植物検疫措置」(食品の安全基準)の9つの分野でも、「自動車」分野と同じく、TPP交渉と並行して、日米の二国間で協議していくことが合意されている。

※【4月15日更新】甘利大臣会見の全文文字起こしと、日本政府が発表した日米事前協議の合意文書を掲載しました。

【政府発表資料】

※内閣官房HP「TPP関係情報」より

・資料1「日米協議の合意の概要」(平成25年4月12日)

・資料2「日米間の協議結果の確認に関する往復書簡(仮訳)」(平成25年4月12日)

・資料3「自動車貿易TOR(仮訳)」(平成25年4月12日)

【甘利大臣会見全文文字起こし】

甘利「本日、日米両政府間で、我が国の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加に関する日米間の協議が、成功裏に終了したことを確認を致しました。今般の合意の内容は、具体的には、お手元に配布してあります資料の通りですが、概要を簡単にご説明を申し上げます。また、後々詳細は、事務方から説明をさせます。

 まずTPPでは、包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認するとともに、日米が経済成長の促進、二国間貿易の拡大及び貿易投資等のルールのために共に取り組んでいくこととしております。この目的のため、日米はTPP交渉と並行をして、いくつかの分野における非関税措置に取り組むことと致しました。

 また、今般の協議では、米国が長年懸念を継続して表明してきました自動車分野につきましても、協議が行われました。その結果、まず両国政府は、TPP交渉と並行して、日米間で自動車貿易に関する交渉を行うことと致しました。

 さらに、本年2月の日米の共同声明に基づきまして、今後のTPP交渉の中で、1.米国の自動車関税が、TPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃をされ、かつ最大限に後ろ倒しをされること、及び、2.この扱いは、米韓FTAにおける米国の自動車関税の取り扱いを実質的に上回るものとなることを確認を致しました。

 これは、米国にとってセンシティブな自動車関税に関して、米国としての交渉上の立場が示されたことに対して、我が国としてもこれを確認をしたものであります。

 同時に、我が国にとってセンシティブな農産品に関しまして、TPP交渉において、そのセンシティビティを認識しつつ、日米が緊密に共に取り組んでいくことを確認を致しました。以上が今般の日米合意の大まかな概要であります。

 総理がTPP交渉参加を表明されたときに述べられたように、TPP交渉への参加は、アジア太平洋の成長を取り込むことにつながるものでありまして、また米国をはじめとする国々と、アジア太平洋における新たなルールを作り上げていくことは、日本の国益になるだけではなく、アジア太平洋地域全体に繁栄をもたらすものであります。

 今般の合意は、こうしたTPP交渉参加の大きな意義を踏まえて行われたものであります。なお、国民の皆様がご心配をされるといけませんので、1点補足をさせていただきます。先ほど申し上げました非関税措置に関する日米間の交渉では、衛生植物検疫措置が取り上げられることになりますが、これは日米間の合意の注意書きにありますように、WTOの衛生植物検疫措置の適応に関する協定――SPS協定と申しますが――このSPS協定上、各国に認められている権利に基づいて取り組んでいくということになります。

 これが意味するところは、非関税措置に関する交渉は、各国が人、動物、または植物の生命または健康を保護するために必要な衛生植物検疫措置を取る権利を有していることを前提に行われるということであります。

 また、遺伝子組み換え作物に関しましては、米側として提起する事項には含まれていないとの説明を米側より受けております。当然、我が国と致しましても、食品の安全・安心に関する基準は、しっかりと守ってまいります。この点に関しましては、是非ご安心をいただきたいと考えております。

 日米間で合意を得ましたことにより、今後米国内での所要の国内手続きの終了、及び他のTPP交渉参加国による同意の最終確認を経まして、我が国のTPP交渉参加に関する米国政府による米議会への通知が行われることと承知を致しております。

 米国による90日の議会通知プロセスが完了したのちに、我が国はいよいよTPP交渉に参加を致します。国益をかけた交渉、特に、遅れて交渉に参加する我が国にとっては、厳しい交渉になることが見込まれますが、アジア太平洋における新たなルールを作り上げていくという大きな目標を実現すべく、最強の体制の下に、TPP交渉に主導的に取り組んで行きたいと考えております。私からは以上です。

【質疑応答】

TBSカンノ「総理の参加表明からほぼ1カ月が経ち、ようやく合意にたどり着いたわけですけども、今の率直なご感想を聞かせていただきたいのと、アメリカの自動車の分野などでかなり譲歩なさられたのかなと見受けられますけども、どのようにお感じになっているか聞かせてください」

甘利「交渉ごとは、私もかつて色々と参加した経験がありますけども、どの交渉もなかなか一筋縄ではいきません。参加が遅れた分だけなかなか、交渉相手国も多いですし、主たる交渉国であるアメリカの注文も多いんだと思います。

 しかしながら、そこそこ2国間で経済対応をしてきました中での関心事項である、ということが中心でありました。日本側から言えば、一発回答が来るのが一番うれしいわけでありますけども、相手があることでありますから、こちらから何かものが返ってくる。また、それについてこちらからボールを投げるということが、この往復があった。その経緯が今日までの経緯であろうと思っております。

 日本が、かなり譲歩を取られたかどうかということはですね、これからTPPが成立をしなければ、その大部分は、実行されないわけになりますんで、これから、アメリカ以外の残っている国の了解も取りつつ、一刻も早くアメリカ政府が議会通知をして、90日ののちに、正式参加が認められるように、しっかりと残りの交渉をしていきたいと思っております」

NHK「アメリカの議会通知の目処はいつごろなのか教えていただきたいのと、残りの3カ国について、そちらから同意が得られる目処も教えていただきたい」

甘利「残っている国、そしてアメリカ。アメリカはですね、一通り、他国の了解が取られたのちに直ちに議会通告を行われるんであろうと思います。いつ行われるかは、先方の意思でありますから、できるだけ早く行われることを期待を致しております。

 残りの国との交渉であります。そのアメリカとの、政府との事前交渉が妥結合意しましたものですから、残りの国についても、事前交渉に関して加速したいと思っております」

NHK「マランティスさんのところに、日本の参加をできる限り速やかに円滑に促進するために取り組んでいく用意ができている、とあります。それはアメリカから何らかのプッシュをしてくれるということなんでしょうか?」

甘利「日米間の事前交渉の実現のためには、日本がとにかく参加をしていかなきゃならない、という前提がありますから、そりゃアメリカとしても、これまで流した汗が報われるためには、日本が入っていかなければ、そしてTPPが成立しなければならないということでありますから、それなりの努力はしていただけると期待を致しております」

東京新聞「3-2のところで、米韓FTAの取り扱いを実質的に上回るということなのですが、同等ならまだしも上回るということになった背景を説明していただきたいのと、これはひいては高い入場料ではないかという批判を自工会から浴びかねない。そこらへんについてお伺いしたい」

甘利「米韓FTAで、アメリカの自動車の関税を撤廃するまでの期間が、米韓で合意されているわけでありますが、それよりも長い期間を取ってくれということであります。どれくらいかということは、これからのTPP交渉の中で決まっていくわけでありますけれども。

 アメリカが最もセンシティビティであるというふうに言っている部分でありますから、それだけ日本からの輸出に対するある種脅威を関連業界が強く感じていることだというふうに思っております。

 とにかく、一番恐らく最後の3カ国になるんでしょうか。ほかの国と一緒に入っていればですね、もうちょっと…、という気持ちは無きにしも非ずでありますけども、二国間のFTAと同等プラスアルファというところでありますから、許容範囲ではないかというふうに思っております」

ジャパンタイムス「確認なのですが、アメリカは、議会の通知というのは、ほかの3カ国が了解をしてからでないとしないということでよろしいですか?アメリカの日本に対するTPP参加の支持というのはどういうレベルのものなのですか?」

甘利「アメリカは、ご案内の通り、政府と議会の関係。日本は、条約を結ぶというのは、政府の専権事項であって、それを議会承認で批准されるということになるわけでありますが、アメリカの場合は日本と若干違って、議会の力関係も承認をする段階で、日本とは少し違うようであります。

 そこで、米政府としては、二国間の事前協議、日本を入れることについてOKということでありますけども、議会通知ルールというのがあります。どこの国に対しても、アメリカはアメリカ以降に入った国に対しては、他の国から了解が取れたのちに直ちにするということになっているようであります。

 でありますから、政府間では事前協議の合意が成り立ちました。で、他の国から異論が出ないと確認されたのちにただちに議会通知をするというルールになっているようであります。でありますから、アメリカが、日本との関係でですね、改善点を実現するというためには、他の国が了承しないと通知ができないということは、アメリカにとっても他の国が賛成するということが自国の国益につながっていくのではないでしょうか」

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

■視聴者ツイートまとめ

■実況ツイートまとめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です