【第696号-698号】岩上安身のIWJ特報! 「トランプ関税」の衝撃波が世界を襲う! 貿易政策と安全保障政策の融合!? 逆に米国と同盟国に、経済破綻と社会崩壊の危機が迫る!? 岩上安身によるエコノミスト・田代秀敏氏インタビュー 第1弾(その1) 2025.10.1

記事公開日:2025.10.1取材地: テキスト独自
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(文・IWJ編集部)

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 政治の世界で「ハネムーン期間」と言えば、新政権がスタートして最初の100日間のことを指す。政権の発足直後は、期待値から支持率が高くなる傾向があり、マスメディアは厳しい批判的報道を控え、国民との間でしばし蜜月が続くという意味だ。

 2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任し、第2次トランプ政権が発足した。通常ならば、野党やメディアも新政権への批判を控える期間(4月28日までの100日間)のはずが、世界を揺るがす「トランプ関税」の衝撃によって多方面に混乱と不安が巻き起こり、トランプ政権の支持率は低下。「地獄のハネムーン」の様相を呈している。

 2025年5月2日、岩上安身はエコノミストの田代秀敏氏にインタビューを行った。

▲田代秀敏氏(2025年5月、IWJ撮影)https://bit.ly/429LBaj

 田代氏は、予測不能の「トランプ・ショック」の中を生き抜くには、トランプ氏の世界観を深く知ることが重要になるとして、若きトランプの姿を忠実に再現した映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』を紹介。ヒントになるエピソードから彼の人物像を分析した。

※『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
https://www.trump-movie.jp/

 若き日のトランプ氏は、勝つためにはどんな手段でも使う、有名なユダヤ系悪徳弁護士、ロイ・コーンと出会い、3つのルールを叩き込まれる。それは「攻撃! 攻撃! 攻撃!」「何も承諾せず、すべて否定する」「常に勝利を宣言し、決して負けを認めない」というものだ。

 田代氏は、「トランプ氏は人間を『殺す側(キラー Killer)』と『負ける側(ルーザー Looser)』の2つに分けていて、相手を罵倒する時には必ず『ルーザー』と言うんです。パウエルFRB議長に対しても、『こいつはビッグ・ルーザーだ』って言いましたよね。彼が『ルーザー』って言葉を使う時は、『俺は、こいつをキルする(殺す、打倒する)』と言っているわけです」と説明した。

 これらがドナルド・トランプという人物の、人生を貫いてきた哲学であり、現在のトランプ政権の哲学でもある、という。

 続いて田代氏は、今年4月2日にトランプ大統領が「相互関税」を課すことを発表した際、ホワイトハウスが公表したファクトシートから、次の一文を引用して示した。

 「今日の行動は、我が国が他国を扱うように、我が国を扱うよう、他国に対して求めるだけである。これが黄金時代(ゴールデン・エイジ Golden Age)のための、私達の黄金律(ゴールデン・ルール Golden Rule)だ」。

 このトランプ大統領の言葉について、田代氏は、「他の国々、日本とか中国などに対して、『俺達がお前達を扱うように、お前達も俺達の国を扱え』という。仰天しました。ゴールデン・ルールというのは、『自分がその人からしてもらいたいと思うことを、あなたがその人にしなさい』というイエス・キリストの教え(倫理的な行動指針)です。これは、キリスト気取りですよ」と呆れた表情を浮かべた。呆れるのは当然で、イエスの言葉とは、似てはいるが、中身が逆さまである。これではまるで「反キリスト的」黄金律ではないか。

 田代氏は、さらにこのように続けた。

 「世界中にはいろんな国があって、貧しい国もあるわけです。そこに対しても、『俺達アメリカがやるように』、同じようにしろと言っている。できるわけないじゃないですか。もはやアメリカは、世界のどの国に対しても、保護者でもなければ指導者でもない。対等のライバル。同盟国も関係ない、と言っているわけです」。

 米国のミシガン大学が長年行っている統計データの分析では、消費者の経済状態に対する信頼感を示す「消費者信頼感指数」が、トランプ大統領の就任から100日で、1970年代の2回の石油危機や、2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)、2010年から2012年の欧州債務危機、2020年から2023年の新型コロナ・パンデミックなどに匹敵する、急激な落ち込みを示している。

 加えて1年後の物価上昇率の予想値(インフレ予想)は、トランプ就任後の100日間で、やはり世界金融危機や欧州債務危機、新型コロナのパンデミックの時と同程度まで上昇した。

 トランプ関税の主な目的は、アメリカ経済の保護であり、関税の引き上げによって輸入の抑制と輸出の増加を実現し、国内の産業活性化につなげる狙いがあるとされる。

 実は、他国も同じようにしろ、というトランプ流黄金律に従って関税を高めれば、米国からの輸出は減る、という矛盾が存在しているのだが、そんなことはお構いなしである。他国が米国のように関税を同等に高めれば(そんなことができるのは中国くらいだが)、即、関税戦争、あるいは本物の戦争や、レジーム・チェンジの工作が行われるだろう。世界中の国々も知っているから、誰も、米国と同様に対米関税を上げたりしない。

 この背景に「自国第一主義(アメリカ・ファースト)」というエゴイスティックな理念があることは明らかで、世界第一の経済大国アメリカの関税強化は、世界経済の混乱や株価の乱高下をすでに招いており、中・長期的には自由貿易体制をつぶし、世界中の国々を大不況の沼に沈ませかねない。

 「これまでの歴史的クライシスは、不幸にして起きてしまった。政治は、こういう危機をいかにして回避するか、そのショックをいかに和らげるか、腐心するものだけど、トランプ大統領は、経済危機を積極的に起こしている」

 田代氏はこのように述べて、ホワイトハウスが人為的に、米国に「不況+物価上昇=スタグフレーション」を起こしていると指摘した。

※40年間続いた米国債の価格上昇が、下落へ! 世界一米国債を保有する日本には、巨大な含み損が発生! 米国債務は対GDP比100%を超え、利払い費だけで、米防衛費を超過!「アメリカの、世界に対する覇権を支えている財政システムが、大変動を起こしている」! 岩上安身によるインタビュー第1195回ゲスト エコノミスト・田代秀敏氏 第2弾 前編 2025.6.8
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/527763

※「世界を牛耳っていた米国が、世界を牛耳ることができなくなってきた。米国の国内の経済等が崩壊し始めてきている。ここにトランプ大統領が出てきた意義がある」~2.19 戦争をさせない1000人委員会・立憲フォーラム2.19院内集会「トランプ政権とわたしたち――日本の進むべき道」―講演:孫崎享氏(元外務省国際情報局長) 2025.2.19
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/526541

記事目次

  • 「人間は2種類。殺す奴(キラーズ)と負ける奴(ルーザーズ)」と豪語するドナルド・トランプも、かつては倒産寸前の不動産会社でくすぶる「負け組」だった!
  • 「俺達(米国)が君ら(他国)を扱うように、君らも俺達を扱え」というファクトシートの恐ろしさ! もはや同盟国も関係なく「勝つか負けるか」の世界へ!
  • 極悪弁護士ロイ・コーンが若き日のトランプに教え込んだ3つのルール。「攻撃あるのみ! 相手の主張は全否定!(たとえ負けていても)常に勝ったと言い張る!」
  • 第2次トランプ政権の発足からわずか90日で国民の信頼感指数はガタ落ち! 国際金融危機などの歴史的クライシスと肩を並べる低い数字を叩き出してしまう!
  • ドナルド・トランプは歴史的アジテーター? 大統領に就任したらインフレ予想が一気に危機レベルへ!「こんな国で商売したいと思う人、いるんでしょうか?」
  • 徴税機能を持たないアメリカ連邦政府の財源は、各州が収める関税! その関税への不満から起きた内乱が南北戦争。「つまり、あれは関税戦争だったんです」

「人間は2種類。殺す奴(キラーズ)と負ける奴(ルーザーズ)」と豪語するドナルド・トランプも、かつては倒産寸前の不動産会社でくすぶる「負け組」だった!

▲ドナルド・トランプ第45・47代米大統領の大統領公式肖像(2025年6月2日撮影)(White House、Wikimedia Commons)https://bit.ly/4fSDTac

岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。トランプ政権が発足して、およそ100日が経ちました。

 この100日間というのは、アメリカではハネムーン期間と言われていまして、メディアも、市民も、新しい政権が誕生したということを祝福し、あまりネガティブなことは言わない、批判をしないという期間なんですね。

 ところが、非常に高い支持率だったトランプ政権は、もうすでに支持率が落ちてしまい、不支持率の方が上回っているという状態(※1)になっています。

 これは、およそこのような統計が取られて、戦後になってからなんですけれども、わかる範囲では、史上初めてのことだと。

 中でも、(トランプ政権が打ち出した)関税政策は、国内だけじゃなくて、全世界を巻き込んで、振り回しているわけです。

 この4月の初めに言い出し始めまして。それから、関税を『今度、下げる』と言ってみたり、『90日待つ』と言ってみたり、あるいは中国に対して『もっとかける』と言ってみたり。そのたびごとに、マーケットが上下動するという(ボラティリティーが高くなる)。

 しかし、これは情報を持っている人間にとっては、たいへん美味しいわけです。

 この関税政策というのは、対中国を狙い撃ちにした覇権闘争であり、帝国としてのアメリカを続けて、拡大したいという思いと、表裏一体なんです。

 それだけ非常に巨大なテーマ(を考えること)と、我々の生活防衛を、どうしていくのかということ、このインフレを、どうしたらいいのかというテーマとも、つながっている。大変複雑で、マクロのレベルと、ミクロのレベルと、両方の眼を持っていないとわからない。

 こういう問題は、やっぱり、この方にお話をうかがわなければいけないと思っております。IWJではおなじみの、エコノミストの田代秀敏さんです。田代さん、よろしくお願いいたします」

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