有害性、がん等健康被害が指摘されている(※IWJ注)PFAS(ピーファス:有機フッ素化合物)の、東京都多摩地域の水質汚染調査結果の記者発表が、2023年12月1日、立川市で行われた。会見では、汚染源が米軍横田基地の可能性が極めて高く、汚染は現在も拡大中と見られることが明らかになった。主催は「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」(以下「明らかにする会」)。
(※IWJ注)有害性、がん等健康被害が指摘されている:全米アカデミーズが連邦政府からの要請を受けて2022年にまとめたガイダンスでは、動脈硬化などの原因となる脂質異常症、腎臓がん、抗体反応の低下(ワクチン接種による抗体ができにくい)、乳児・胎児 の成長・発達への影響について、「関連性を示す十分なエビデンスがある」とした。また、乳がん、肝機能障害、妊娠高血圧症、精巣がん、甲状腺疾患または機能障害、潰瘍性大腸炎について、「限定的または示唆的なエビデンスがある」とした。
今年12月、WHOは「有害性指摘のPFAS 一部物質について発がん性評価引き上げ」を発表、PFOAについて、4段階ある分類のうち最も高い「発がん性がある」に2段階引き上げ、PFOSについては、上から3番目の「発がん性がある可能性がある」に初めて位置づけたと公表した。
- 「PFAS」とは? 世界の規制状況・健康への影響は?(NHK、2023年4月10日)
- 有害性指摘のPFAS 一部物質について発がん性評価引き上げWHO(NHK、2023年12月5日)
多摩地域では地下水にPFASが、国が水道水の暫定目標値とした50ng(ナノグラム)/L(※)を超えて検出。東京都は濃度が高い井戸で、水道水源としての取水を2019年途中から停止している。しかし、汚染分布の詳細な位置、深さなどは公表されず、発生源は明らかでない。
※1ng=0.000001mg
そうした中で2020年1月、「米軍横田基地近くの立川の井戸から1340ng/Lの高濃度のPFAS検出」の報道があり、衝撃を受けた「横田基地の撤去を求める西多摩の会」メンバーらが、京都大学・小泉昭夫名誉教授等を招いた学習会等を経て、22年「明らかにする会」を立ち上げた。
同会は京都大学・原田浩二准教授と小泉名誉教授と共同で、22年11月から23年6月、多摩全域30市町村の住民791人の血液検査を実施。ほぼ全員からPFASが検出された。特に4種のPFASの合計では、「健康被害の恐れがある」とされる米国アカデミー指針値20ng/Lを超える値が、全体の46%で、立川市では74.4%、国分寺市では93%という値が検出された。
横田基地の下流とされる東側地域に血中濃度の高い人が集中し、横田基地はPFASを含む泡消火剤の大量漏出を認めているため、「横田基地など汚染源の特定と除去が必要」と原田准教授は指摘した。
こうした状況を受け、東京都調査で明らかになっていない、汚染の領域的な拡大状況を明らかにし、対策につなげるため、今回の水質調査が行われた。
記者発表では、原田准教授が調査結果を報告。調査は、明らかにする会と原田研究室が、2022年12月から23年9月、多摩地域の地下水(井戸・湧水)、表層水(河川・水路・池水)、底質、土壌の採取を実施。地下水140、表層水10の検体から、13種類のPFASを測定し、主に濃度が高いPFAS(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNAなど)について分析した。
その結果、「ほぼ全ての検体からPFASが検出」。中でも立川市の平均値が最も高く、最高濃度は立川市西部の浅井戸(深度30m以下)で、これは3,102ng/L、暫定目標値の62倍にも達した。立川市では浅井戸が高濃度、深井戸(深度30m以上)は比較的濃度が低く、周辺の国分寺市、昭島市は深井戸が高濃度だった。「浅井戸の汚染は発生源が近隣」で「深井戸の汚染は上流から由来」と考えられるため、「立川市西部の高濃度の汚染が、周辺の深い地下水の汚染を引き起こしている」ことが示唆された。
原田准教授は各種分析を踏まえ最後に「PFASは地下水を現在も移動」「PFHxSは今国分寺市あたり。PFOSも移動中。次はどこに行くのか」「今後、この汚染がどう広がっていくか早く考えないといけない」と警鐘を鳴らした。
続いて、明らかにする会が発表した「多摩地域PFAS水質調査を受けた緊急声明」では、調査結果から「横田基地が最大の汚染源」と指摘、「多摩地域住民に対する体内汚染の実態調査」「根本的な汚染源調査とその対策」等を東京都と国に要請した。
質疑応答で「国分寺市の深井戸の汚染度が高いのは、横田基地の影響の可能性が高いのか?」の質問に、原田准教授は、「国分寺の西側からの可能性が高く、実際立川に高濃度地点がある。横田基地か判断するには、基地中の地下水の情報が必要。周辺の調査で上流に汚染源がないと判明すれば領域は絞られる」と、汚染源特定の方向を示した。
また、「PFOSとPFOAは、化学物質審査規制法(化審法)で製造・販売の中止や使用自粛が進み、今後減ると考える人もいる。しかし今後ゆっくり地下水の浸透が進み、濃度が高くなる地域もあるなら、『PFAS汚染は終わった話ではない』のでは?」の質問に、原田准教授は次のように答えた。「まさに今、地下水にPFASが入ると、流れきるのはいつかが問題。大阪で同じ場所でPFOAを10年追った際に、10年で減ったのは半分。であれば、濃度1000ng/Lなら、何年かけたら暫定目標値の50ng/Lを下回るのか? 減るのは間違いないが、その過程で周辺に50ng/L超の場所を広げる可能性もある。だから今早めに状況を確認し、止められるなら中心的な所を止めないと、問題は拡大する可能性がある」。
詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。