東京都下の水道水が危ない! 米軍と自衛隊の基地による汚染か!? 市民団体が多摩地域住民273名分の血中PFAS濃度調査結果を第2回中間発表。全体の61%が米国指針値超え!~4.5「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」記者会見 ―報告:原田浩二 京都大学准教授 2023.4.5

記事公開日:2023.4.14取材地: テキスト
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(取材・文、IWJ編集部)

 全国的にも汚染の実態が明らかになってきている有機フッ素化合物(PFAS)による環境汚染。沖縄県や神奈川県などの米軍基地周辺での汚染の実態が報じられるなか、2019年、横田基地がある多摩地域の地下水汚染が新聞報道で明るみになった。

 2023年4月7日、「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」が実施している多摩地域住民の血中PFAS濃度調査の第2回目の中間報告がオンラインで発表された。

 同会のオンライン記者会見で、調査の分析を行っている京都大大学院の原田浩二准教授が2回目の分析から見えてきた汚染の実態を説明した。原田准教授は、PFAS汚染と横田基地との関連性は「疑う余地がない」と述べ、国や地方自治体による調査を求めた。

 同会の国分寺市での血液検査の様子と第1回目の中間報告の記者会見については、以下のIWJの記事を御覧いただきたい。

第2回目の調査結果について説明をする京都大学大学院医学研究科 環境衛生学 原田浩二准教授 写真提供:多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会

  • 日時 2023年4月5日(水)13:30~15:30
  • 場所 ZOOM

「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」第2回中間報告で、採血に参加した多摩地域住民の273名ほぼ全員からPFASが検出される!

 「多摩地域の有機フッ素化合物(PFAS)汚染を明らかにする会」による2回目の中間報告では、同会が1月30日に発表した第1回中間報告(87名)を含む、273名分の結果が明らかになった。調査には、21歳~91歳までの多摩地域住民が参加し、平均年齢は65.7歳、女性178名、男性95名であった。ほぼ全員からPFASが検出された。

 調査参加者の居住地は19市町村に及んだ。内訳は、国分寺市79名、立川市41名、福生市24名、羽村市23名、青梅市19名、あきる野市18名、瑞穂町18名、小平市15名、小金井市12名、ほか10市町村である。

 調査結果の分析は10名を超える9市町での状況を中心に行われた。原田准教授からは、10名以上とした根拠として「その地域の、ある程度の(汚染の)傾向がつかめる」から、と説明があった。

▲1月に立川市の病院で行われたPFASの血中濃度を調べる採血検査。(撮影:IWJ)

ドイツHBMⅡと全米科学工学医学アカデミーの指標を用いて分析

 原田准教授ら分析チームは、今回の調査において、13種類のPFASを測定し、主な組成のうちの4つのPFAS(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA)について分析結果をまとめた。

 血中濃度の評価には、ドイツのヒト・バイオモニタリング委員会(The German Human Biomonitoring Commission)が提唱する指針値「HBM II」(※1)と、全米科学工学医学アカデミー(NASEM)(※2)が、健康リスク予防のために提唱している指針値が参考として用いられている。

(※1)ヒト・バイオモニタリング(HBM、Human Biomonitoring)とは、人体における化学物質の新しい測定方法。各国でHBMが行われているが、ドイツのHBMの特色は、ドイツ環境省がドイツ化学工業会と協定を結び、企業が製造 する化学物質について、その分析標準品と分析方法の提供を得ている点にある。
 ドイツHBMの特色として、2種類の値「HBM Ⅰ」と「HBM II」が設けられている点があげられる。「HBM Ⅰ」は、それ以下であれば、特に影響等はないと考えられる値、「HBM II」は、それを超えると、健康影響があると考えられるレベルであり、緊急に曝露低減策をとる必要がある値である。
参考:
・中山祥嗣「世界のHuman Biomonitoringと日本の課題:実践と政策応用」https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/25/11/25_11_80/_pdf/-char/ja
・マリケ・コロッサ-ゲーリング「欧州及びドイツにおけるヒト・バイオモニタリング- 健康な未来のための科学と政策」 https://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2021/12/HBM-Lecture-2021_with-J-translation_final-1.pdf

(※2)全米科学工学医学アカデミー(NASEM、NationalAcademy of Science、Engineering、and Medicine)は1863年設立。科学、工学、医学の進歩を促進するために、独立した客観的な助言することを目的とする非営利の非政府組織である。6000人以上の各分野の専門家が所属している。
参考:
・NationalAcademy of Science、Engineering、and Medicine https://www.nationalacademies.org/

 HBM-Ⅱでは、健康に悪影響が起きうるPFOS・PFOAの指針値を個別に定め、PFOSは血中濃度20ng/mL、PFOAは10ng/mLと公表している。

 全米科学工学医学アカデミーでは、7種類のPFASの合計値で20ng/mLを超える患者へは特別の注意を勧めている。

 分析チームは、調査対象者に送る報告書の中で「PFOS,PFOA,PFHxS,PFNAの合計値と健康影響がよく研究されているPFOS+PFOAの合計値をそれぞれ皆様に報告しています。報告値のうちPFOS+PFOAの合計値に注目して、以下の値と比較してください」と、血中濃度のとらえ方と考え方を示している。

・2ng/mL未満:健康影響はない。
・2ng/mL以上~20ng/mL:感受性の高い集団(妊婦など)で悪影響が出る可能性がある。
・20ng/mL以上:脂質代謝異常の検査、甲状腺ホルモンの検査、腎がんの徴候や症状の確認、精巣がんや潰瘍性大腸炎の症状の評価を勧める。

▲2022年12月に国分寺市の病院で行われた採血検査の様子。(撮影:IWJ)

多くの国分寺市民・立川市民のPFAS血中濃度が、ドイツHBM-Ⅱと全米科学工学医学アカデミーの指針値を上回る!

 1月に公表された国分寺市民の血中濃度が全米科学工学医学アカデミーの指針値を大きく上回った第1回目の調査結果に続き、第2回目の調査結果でも、多くの立川市民のPFAS血中濃度が全米科学工学医学アカデミーの指針値を超えて高い傾向にあることが分かった。

 273名のうち、ドイツのHBM-Ⅱに照らして41人、全米科学工学医学アカデミーの指針値で4つのPFASの合計が167名、2つのPFAS(PFOS、PFOA)の合計で、84名が指針値を超えていた。

PFAS汚染と横田基地との関連性は「疑う余地はない」!

 記者会見では、マスコミ各社から質問が相次いだ。

 PFAS汚染と横田基地との関連性について問われた原田准教授は、「疑う余地はない」との見解を示した。

原田准教授「これまで世界中の米軍基地からPFASが検出されてきていることから一般論としても(PFAS汚染と米軍が駐留する横田基地との関連性は)疑う余地はない。多摩地域の水道水汚染、地下水汚染があり、その位置関係から汚染源の一つとしていえる」

▲横田飛行場空撮(2021年、撮影:ブルーノ・プラス 、wikipediaより)横田基地は立川市、昭島市、福生市、武蔵村山市、羽村市、瑞穂町の5市1町にまたがっている。在日米軍司令官、在日米空軍司令部、第5米空軍司令部、第5米空軍第374空輸航空団、アメリカ沿岸警備隊極東支部が所在する。航空自衛隊航空総隊司令部と航空自衛隊航空戦術教導団司令部も横田基地内に所在している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E7%94%B0%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E5%A0%B4

▲国内最大級の米空軍基地である横田基地の第374空輸航空団の司令官・アンドリュー・L・ロッダン大佐(横田基地Webページより

 「思っていた以上に汚染が広がっていたのか?」との問いに対し、原田准教授は「もっと広がりがあるのではないか」と述べ、「多角的な調査が必要だ」と訴えた。

原田准教授「多摩地域全体で、もっと広がりがあるのではないかと思う。今回、立川のデータが出てきました。これから2月3月に実施した他の地域の結果が出てくる。もっと多くの地域でPFAS汚染があることが分かってくると思う。今回の調査では横田基地の西側でもある一定程度の汚染があることも分かった。あらゆる汚染のルーツがあることを鑑みて多角的な調査が必要だ」

 PFASの種別についての質問に対し、原田准教授は「PFOS、PFHxS」と、「PFNA、PFOA」では、多く使われる場所が違うと説明した。

原田准教授「PFOS、PFHxSは泡消火剤などで使用。半導体や金メッキ加工でも使われる。軍の基地、飛行場、半導体、メッキ工場などから出る。PFOAについては泡消火薬剤には混入しているが、一方フッ素樹脂を製造・加工する工場などで使用されている。PFNAはPFOAと同じくフッ素樹脂に関係する工場で使用されることが多い」

 PFNAについては、環境中に出た時に生体濃縮がされる傾向にあること、魚など身近な食事を通じて摂取している可能性も高く、食品からのPFAS摂取について触れる場面もあった。フッ素系ワックスなどにも使われているという。

▲「1988年9月10日のイエローストーン火災の際、消防士がマンモスのホットスプリングス複合施設の構造物に泡を吹き付けた」(wikipediaより)。人体への残留性の高いPFOSを含む泡消化剤は化審法の改正により、2010年4月より製造・使用等が規制(事実上の禁止)されている。

現在、個人が血液検査を受けられる機関がない! 若い世代のPFAS汚染は「年齢を重ねると血中濃度が高くなる」ため、しっかりした検査体制が必要!

 IWJ記者は、若い世代に対するPFAS汚染の影響について質問をした。

IWJ記者「20代の参加もあるが、若い世代の数値をどうとらえているか?今後年月を経て、どうなっていくと考えているか?血液検査の必要性は?」

原田准教授「今回20代は21歳が2名、30代が13名参加した。年齢を重ねると血中濃度が高くなる。はっきりとした説明はできないが、今現在、若く、血中濃度が低くても、今後は上がっていく。特にPFASの影響は、妊娠可能な年齢の女性にはあると言える。妊娠時に血液から入って、子どもの発達、生まれた直後の体格のみならず、その後の免疫含めて影響があるのではないかというのは、最近の研究結果からも分かっている」

 原田准教授は、血液検査の体制、仕組み作りが必要だ、との見解を示した。

原田准教授「血中濃度を調べる血液検査は簡単ではなく、そもそも個人でやってくれる機関は今のところない。血中濃度の高くなりそうな地域においては、検査するような体制、仕組み作りが必要なのではないか」  

 原田准教授は、若い世代がPFASに晒されながら年月を経ていくことについては、どこからどれだけ、身体に入ってきているのかを把握する必要があると強調した。

原田准教授「米国においても、もとは水道水の目標値が200ng/Lから70ng/L、その後PFOS 0.02ng/L、PFOA 0.004ng/Lと(指針値の)数値が下がってきて、(現在PFOS、PFOAともに4ng/Lで法整備化が進んでいる)中で、今の(日本の50ng/Lという)数値が十分じゃない、となる可能性がある。

 若い人たちが過ごしていく上で、水道水やほかの経路からの摂取を含めて、どれだけ我々の身体に入ってきているのか、どこから入ってきているのか?しっかり把握する必要があり、その情報を市民に提供する必要がある」。

女性のPFAS汚染について、閉経後血中濃度が上がるリスク、子どもへの影響が懸念される!

 IWJ記者は、月経によって数値が下がることがあるか、などの女性の月経と閉経におけるPFASの影響についても質問した。

原田准教授「PFASがどうやって入ってきて排出されるかについては研究をしてきた。20~40代の男性と女性で比較するとPFOS、PFOAの血中濃度というのは女性の方が低い。それは月経の影響があるといえる。50~60代になるとその差は少なくなっていく。

 しかし、それならば若い女性の血中濃度は低いのだから、より安全なのか?というと、子どもへの影響を考える時、子どもはより低い濃度でも影響を受けると考えられており、ドイツのHBM-Ⅱでは、妊娠可能な年齢の女性については、PFOS 20ng/mL、PFOA 10ng/mLの半分の、PFOS 10ng/mL、PFOA 5ng/mLと厳しい勧告値となっている」

調査に参加した小金井のある家族のPFAS血漿濃度調査結果では、同じ家族の中でも数値にばらつきがある、という結果に! 都心の外食で昼食をとる家族より、小金井の自宅で調理した弁当を食べる家族の方が高い結果に!

 今回の調査に参加した、小金井のある家族では、同じ家族の中でも数値にばらつきが出ている。

 4つのPFASの合計が24.7ng/nLと、最も高い値が出た夫は、毎日、家で調理した弁当と水筒を持参するなど、小金井の水を利用している比率が妻よりも高い。小金井市の水などが汚染されているとすれば、汚染に晒されている時間が長いことになり、その影響があるかもしれない、と家族は述べる。

 今回の指針値でいえば、20ng/mL以上で、「脂質代謝異常、甲状腺ホルモン、腎癌、精巣癌、潰瘍性大腸炎の検査・症状の評価を勧める」水準に相当する。

 4つのPFASの合計が11.4 ng/mLと、最も低い値が出た妻は、長年、日中は都心に出て働き、昼食は外食することも多く、小金井市内にいる時間が夫よりも短い。ただし、原田准教授が言うように、女性の場合は、月経でPFASが排出さるので、男性よりも血漿中のPFAS濃度が低くなるという要素もある。

 それでも指針値でいえば、2ng/mL〜20ng/mLの範囲に入っており、まったく懸念がないわけではない。

 息子は4つのPFASの合計が15.1 ng/mLと、両親の間の値となった。20代にしてすでに20ng/mLに近づいていることは、今後、どれだけ汚染に晒されることになるのか、懸念される。

PFAS汚染の実態を把握するためにもっと広く検査をすべき!

 今回の調査結果の分析を通して見えてきたのは、PFAS汚染の実態は、水道水、井戸水、河川、土壌、農作物や食品など、あらゆる方向で調査を積み重ねることでしか把握できない、ということだ。

 原田准教授は、水道水が汚染されてきたことは都の調べでもわかってきているとした上で、都のデータはPFOS、PFOAの数値だけで、他のPFASの数値の公表はしていないことを指摘した。

 土壌、井戸水を含む水、食品、あらゆる経路からPFASを取り込んでいる可能性があることから、「地方自治体としても、どういったところでPFASが使用されていたか、調査されていない、見過ごされているかもしれない場所の調査が求められているのではないか」と、原田准教授から提言があった。

 同会の血中PFAS濃度調査は、5月末~6月上旬頃で残りの調査参加者の分析を終え、多摩地域住民の約600人分全員の分析結果を公表する予定だ。

 記者会見の資料は、以下の原田浩二准教授のサイトで御覧いただけます。

 IWJの全国に渡るPFASについての取材記事は、以下をご参照ください。

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