多摩地域の地下水の有機フッ素化合物(PFAS)汚染問題で、2022年11月と12月に国分寺市で行われた2会場の血液検査の中間報告となる記者会見が、2023年1月30日(月)、立川市にて行われた。
IWJは12月3日の血液検査の様子を取材した。その結果ということになる。詳しくは、以下の記事を御覧いただきたい。
統計学的解析を行ったのは、京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授だ。今春までに約600人分の調査結果の分析を手掛ける予定だが、今回はすでに終了したうちの、87人分の結果を中間発表した。
専門家の立場で、この会の活動を当初から協力してきた、京都大学医学研究科の小泉昭夫名誉教授からは、これまでのPFAS汚染調査の実態と今回の血中濃度の結果についてのとらえ方、世界の基準値をめぐる動向についての解説があった。
今回、中間報告が発表された87人の内訳は、21歳から91歳で、平均年齢は66.8歳。女性53名、男性34名。居住場所は国分寺市が最も多く65名、小平市11名、小金井市4名、武蔵野市4名、東大和市1名、八王子市1名、立川市1名だった。
測定は、PFAS13種類を対象とし、組成のうちの主な4つのPFOS・PFOA・PFHxS・PFNA(いずれも有害性の高い有機フッ素化合物)についてまとめた。濃度は国際的に議論されているng/mL(ナノグラム・パー・ミリリットル)で記載している。
PFASはこれまでの欧米を中心とした健康への悪影響の研究から、免疫を弱める健康影響、脂質代謝異常、胎児や子どもの発育障害、腎がんなどに十分な根拠があるとされている。
小泉名誉教授らは、血中濃度のとらえ方として、ドイツのヒト・バイオモニタリング委員会(HBM委員会、指針はHBM-Ⅱ)と全米科学工学医学アカデミーが、健康リスク予防のために提唱しているガイダンス値を参考に、PFOS・PFOAの合算値に注目して比較してほしいとした。
HBM-Ⅱでは、健康に悪影響が起きうるPFOS・PFOAのガイダンス値を個別に定め、PFOSは血中濃度20ng/mL、PFOAは10ng/mLとしている。
全米科学工学医学アカデミーでは、7種類のPFASの合計値で20ng/mLを超える患者へは特別の注意を勧めている。
測定値については、2ng/mL未満では健康影響はなく、2ng/mL以上~20ng/mLでは、感受性の高い集団(妊婦など)で悪影響の可能性がある。また、20ng/mL以上では、脂質代謝異常の検査、甲状腺ホルモンの検査、腎がんの徴候や症状の確認、精巣がんや潰瘍性大腸炎の症状の評価を勧めるとのこと。
今回の調査では、「途中経過で、最終結果ではない」と前置きの上、結果としては、ほぼすべての参加者からPFASが検出された。
その中でも特に、血液検査全体(87人)のうち65人を占める国分寺市民のPFAS血中濃度は、高いと言わざるを得ない結果であることが明らかになった。国分寺市からの参加者の血中濃度は、環境省が2021年に行った全国3地点で行った検査の平均値と比較して、3倍以上の結果となったのである。
87人のうち、HBM委員会のガイダンス値(HBM-Ⅱ)を超えたのは、PFOSで21人(全体の約24%)、PFOAで6人(約6%)だった。
全米科学工学医学アカデミーのガイダンス値を超えたのは、4つのPFASでは74人(約85%)だった。さらに、PFOS・PFOA合計値では36人(約41%)だった。
「調査としての数は十分か? この結果から明確に言える結論は?」との記者らの質問に、原田准教授は「国分寺市の地域の特性をみるのでサンプリング調査としては十分」とした上で、「多摩地域、とりわけ国分寺市(民)の血中濃度は高いと言える」と明言した。
これに対して小泉名誉教授は、「アメリカの医療ガイダンスの基準からみると、医療ケアが必要と言える。少なくとも20%位の人がいる」と補足した。
また、原田准教授は「曝露源は主に水道水と考えられ、それに加えて食品や土壌からの曝露の程度に対しても調査が必要」とし、「今回の調査結果は直近の曝露を示すことができるが、PFASが体内に蓄積し排出されにくい性質から、過去の汚染状況は、より高かったことを考える必要がある」と指摘した。
東京都は、2020年に国が水質基準の暫定目標値を50ng/Lに定めるまでは、PFOS・PFOAが100ng/Lレベルで検出されていた箇所があったにもかかわらず、それまで何も対応をしてこなかった事実がある。
- 東恋ヶ窪浄水所・府中武蔵台浄水所出口の有機フッ素化合物検出状況(東京都水道局)
記者会見同日の午前中には、環境省によるPFAS専門家会議が立ち上がり、原田准教授も参加したが、PFAS汚染の実態や国際的な議論を踏まえた国内の暫定目標値の見直しなどの議論は始まったばかりだ。
- PFAS に対する総合戦略検討専門家会議(第1回)の開催について(環境省、2023年1月23日)
国内の水質の暫定目標値(50ng/L)について、行政はそれ以下に下げているから問題ないとする見方について、記者に問われた小泉名誉教授は、「WHOの報告書(水質ガイドライン)は非常に緩く、低収入国や中収入国でも対応できるような基準になっている。WHOは『これ以上悪くならないように設けるのであって、先進国に使ってもらっては困る、自国のエビデンスを作れ』と言っている。日本政府は自分のエビデンスを作って目標値を作るべき」と、目標値策定をめぐる考え方を指摘した。
「この結果を深刻に受け止めているか?」との問いに、原田准教授は次のように断言した。
「感情ではなく、明らかに高いのは事実。米国アカデミーでも医療ケアが必要とする数値が出ているので、今後はそれも反映させていくべきだと思っている。
国はPFOS・PFOAを合計した数値を設定したい動きがあるが、PFASの種類はたくさんあり、類似の毒性のあるPFHxSを合算するなどが必要になってくる。現行の50ng/Lより厳しくなるということであり、規制値の見直しはもっと進める必要がある」
汚染源として、横田基地との関連を記者から問われる場面もあった。
原田准教授は、汚染源がどこにあるかの調査を、国や自治体に求めることの重要性を、次のように述べた。
「これまでの米国基地や日本の基地で、泡消火剤を使っているところではPFOS汚染が起こるというのは常識的な話で、疑うことに余地はない。研究者は基地がPFOSと関係があるとはわかっているが、汚染源を特定するのは非常に難しく、一市民や一研究者が特定できるものではない。
沖縄県の玉城デニー知事が決断したように、基地周辺のボーリング調査などが必要だ」
一方、原田准教授のこの答えについて、小泉名誉教授からは「汚染源が横田基地と特定できるわけではない。東京の場合、半導体工場の汚染もわかっている。沖縄(基地)や大阪(工場)の汚染状況どちらにも似ているので、かなり複雑。地形も複雑だ。基地と工場などのcomplex(複合)汚染と言える」と補足があった。
また、血中濃度の結果を受けて、3名の国分寺市在住の方が登壇し、次のように語った。
金沢学人さん(45歳、PFOS・PFOA合算値 24.7ng/mL)「生まれてからずっと(高濃度のPFASが検出された東恋ヶ窪浄水所の)水を飲んできた。水の美味しい町と思い、育ってきた。それを取り戻してほしい。沖縄でも活性炭を使った浄化というのをやっていると聞いた。美味しい水を取り戻すように願っている」
高木比佐子さん(75歳、PFOS・PFOA合算値 23.4ng/mL)「たまたま検査のチラシを見て血液検査に参加した。国分寺市には45年在住。美味しい水が誇りだった。7~8年前から病院で脂質(代謝)異常と診断され、不思議がられていたが腑に落ちた思い。娘も飲んできた。水は命の元なので、原因を究明してもらいたい。そのためにこれからも協力していきたい」
中村紘子さん(80歳、PFOS・PFOA合算値 36.0ng/mL)「水道水はなぜ汚染されたのか? どこから汚染されたのか? この場では決着がつかないということになりました。東恋ヶ窪浄水所の近くに住んでいますが、私の結果は87人中のベスト10に入ります。去年の健康診断では腎機能に異常があった。娘のことも心配している。想像はしていたがそれが現実となり、ショックでたじろぎました」
「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」事務局の根木山幸夫氏によると、今後、同会は3月までに、残り8会場の採血検査を済ませ、約600人分の血液検査の全面的な分析に入る予定とのことだ。結果発表は5月以降の予定。
根木山氏は、地域の医師や専門家を含めた医療専門のワーキンググループを作り、医療ケアなど可能な限り進めていきたいとしている。また、疾病との因果関係を調べるにあたって、保険適用外で費用がかかるため、新たな募金を考えているとのことだ。
さらに「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」は、沖縄のPFAS問題で活動している市民団体とも引き続き、情報共有など連携を取っていくとのことである。