7月8日、午後7時ごろから、IWJ事務所より、岩上安身による元外務省情報局長・孫崎享氏へのインタビューを生配信した。
8日午前11時半ごろ、奈良で参院選の応援演説をしていた安倍晋三元総理が銃撃され、午後5時3分に死亡が確認された。この衝撃的な事件を受けて、今回のインタビューは、安倍元総理の銃撃事件から始まった。参院選2日前の凶行という重要性に鑑み、急遽、フルオープン配信に変更された。
冒頭、岩上が、安倍元総理クラスの政治家の応援演説のスケジュールは、記者クラブの番記者をのぞいて、報道関係者でも情報をつかむことはかなり難しいと説明した。
IWJの中継市民は、この現場の次の街宣のポイントで待機していたが、その前に凶弾に倒れ、中継取材はならなかった。
安倍氏のスケジュールは前日7日の夕方に決まったとされているのに、容疑者はそれを知り得る情報力があり、準備もしていたはずで、計画的な犯行ではないかと指摘した。
孫崎氏は、安倍氏の銃撃事件に関する報道がおかしいと、指摘した。事件から約5時間後、山上容疑者の供述が一斉に出てきた。
岩上「まず、NHKが報じたものです。『容疑者は「安倍元総理大臣に対して不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしている一方で、「元総理の政治信条への恨みではない」とも供述しているということです』。
もうひとつは、日テレです。『警察の調べに対し「殺そうと思って狙った」などと話していることが新たにわかりました。一方で、山上容疑者は「安倍元首相の政治信条に対するうらみではない」とも話していて、複数の関係者によりますと、これまでのところ山上容疑者について事件につながるような思想的背景や組織的背景については確認できていないということです』。
(山上容疑者の動機について)検索をしてみますと、こんな形で出てきます。検索トップページです(プリントしたペーパーを見せる)。各社みんながそろいもそろって、『政治信条への恨みではない』と書き出しています。これは朝日です。ヤフー、共同通信、産経、FNN、全部『政治信条への恨みではない』という言葉がヘッダーの冒頭にきます。
これは記者クラブにおいて、警察がトップと揉んだ上で出すリリースだと思うんですね。これは県警が勝手にやれるというレベルの話じゃないと思いますので。どういうふうに文章を流すのかということに関しては、警察庁まで上がった問題じゃないかなという風に、孫崎さんもおっしゃっていましたが。
中村格さんなんですね、警察庁長官は。『政治信条』が一番最初に来るという、違和感についてどういう風に感じになられますか?」。
孫崎氏「この資料(FNNの記事)に書いてあるのは、『奈良県警は認否をまだ明らかにしていないが、動機について「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」と話しているという』」
岩上「すごいことですよね。まだ殺害行為の認否を明らかにしてないのに、まず先に犯行動機の中に『政治信条への恨みではない』と」
孫崎氏「まだ本人は犯罪をやったかどうかということについて認否が取れてないんですよ」
岩上「それ(認否)が、一番最初にやることですよね」
孫崎氏「そう。その確認をとってからどういう動機であったかということを調べていく。事件について、どういうような行動を取ったのかっていうところから始めて、事実関係を明らかにしていく。
認否もしてないのに、『思想は関係ない』ということを本人が言いますかね?」
岩上「彼(山上容疑者)が何者であるかはさておきにして、まず警察署に詰めかけている記者たちに対して、一発目のリリースを出したんですよ。だから、あんな風に一律に並んでるわけです」。
孫崎氏は、認否が明らかにされてもいないのに、「思想は関係ない」と最初から決めつけた一斉報道の「異常」さを指摘した。岩上は、警察署が情報統制をしている可能性を指摘しました。孫崎氏は、このテロ行動が今後の日本の進路を変える危険性について言及した。
孫崎氏「非常に危険なこと、重要なことは、このテロの行動を、どのように客観的に見るかということが、これからの日本の政治を(変えていく)。こういう事件があると、必ずおかしいことが起こってくるんですよね。こういう事件が利用されることによって、新しい政治の体系ができていく」。
孫崎氏は、まずは事件の事実関係や背景を慎重に明らかにしなければならないと強く述べた。
孫崎氏「『政治信条は関係ない』という最初の報道(NHKの記事によれば)ですが、『総理に対して不満があり、殺そうと思っていた』と、言っているわけです。(中略)
その不満というのは、殺そうとするほどの不満なわけですよ。この個人と安倍さんとの関係があるかっていうと、まず個人的なものはないと見ていいでしょう。そうすると、個人的なものがなくって殺そうとするまでの不満がある。でも、それは政治信条の恨みではないと」
岩上「おかしいですよね。
つまり、安倍さんと個人的な関係を築けて、それこそ一緒にマージャンでもできるような人が、ゴルフでもできるような人が、私的な恨みを抱いたというようなことでは絶対ありえない、(安倍元総理は)雲上人ですから。海上自衛隊の隊員であったって一般市民ですよ。(中略)
一般市民が殺そうと思うほどの不満を政治家・安倍晋三に対して抱くわけですよ。政治家としての安倍晋三に不満を抱くのは、政治信条に関するものしかないと思うんですけどね」
孫崎氏「さっきの日テレでいえば、『安倍元総理に不満があり』というが、(何の不満なのか、という点が)ここにはない。非常に重要な、なんで殺そうと思っていたかということが、ここには入っていない。(それなのに)すぐに『政治信条に対する恨みはない』というわけ」
岩上「おかしい。かつ、『(複数の)事件につながるような思想的背景や組織的背景については確認できていない』。それは、はじめから、聞かなきゃ確認できないことです。けれども、こんなことを今言うかと。
まず、この人間が何をしたのかっていうことを全部事実確認して、単独犯なのか、複数犯なのかといったことを、確定していかなきゃいけないじゃないですか。複数犯だったならば、組織的な犯行かどうかってことも、組織的背景も、こんな初期の段階で」
孫崎氏「確認できるわけないじゃないですか。殺人事件があってから、4、5時間、組織的背景まで確認できないのは当然です」
岩上「さも組織的犯罪ではないかのような、単独犯がただ殺そうと思った、『政治信条に対する恨みはない』、一部の跳ね返りである。こういうストーリーを生みやすいような、情報操作の仕方。
選挙直前ですよ。選挙が終わったあとにいろんなことが出るかもしれませんが、このような政治と殺人事件は無関係であるということを、冷酷にも流すっていうのは、これは、安倍晋三さんに対してもちょっと失礼な話じゃないでしょうか」
孫崎氏「これはしかし、朝日新聞、共同、みんなですよね。いかに日本が今、統制されているかっていう、ものすごい証拠みたいなものが出てきましたね」。
岩上も「警察と報道が一緒になって情報操作して、その挙句こんなへんな作文をしてしまった」と指摘した。
岩上「これ(安倍元総理銃撃事件)は、政治信条の恨みの話ですよ、それ以外ありえないですよ。個人的な恨みでなかったら。
この人のしたことは、サイコパスとか、無差別殺人みたいな殺人とは違いますね。特定個人を殺そうと思ったと言っているんですから。ちゃんと不満があるから殺そうと思ったと言ってるんですから。(中略)
『初報』っていうのは、国民にすごくインパクトがあって。『政治信条』からの『政治テロ』では『ない』んだという植え付けがされているんですが、そんなことわからないっていうことです。こういう時に『政治テロではない』と打ち消すのは、非常に意図的な情報操作と言わざるを得ないですよね。
安倍さんのやってきた政治は、非常に強烈なインパクトを残してきたわけですよね。アベノミクスしかり、外交しかり。あるいはこれからやろうとしている憲法改正。
その方向性に対して止めたいとか、否定するとか、そのように思う人間がいたということを消したいのかなと、思わざるを得ないんですよね。
だからといって銃撃するというのは、あってはならないことなんですが」。
続いて、孫崎氏が「テロの起こった後が大事だ」と指摘したことについてお話をうかがった。
岩上「先生は先ほど、テロのあった後が大事だと。テロはテロで痛ましく取り返しのつかないことですが、テロが政治利用されるっていうこと」
孫崎氏「そうなんです」。
ここで、戦前から戦後にかけて、政治家に対する主なテロ事件をざっと振り返った。
・1909年10月、伊藤博文元首相がハルビン駅で銃撃され、死亡。
孫崎氏は、朝鮮半島や満州政策で比較的穏健だった伊藤が殺害されたことで、日本は朝鮮人の「皇民化(日本人化)」など、強硬な姿勢に変わっていったと指摘した。
・1921年11月、原敬首相が東京駅で刃物で刺されて死亡。
・1930年11月、浜口雄幸首相は東京駅で銃で撃たれた、翌31年に死亡。
・1932年、5・15事件、犬養毅首相らが射殺された。
・1936年、2・26事件、元首相・海軍軍人の斎藤実は殺害されたが、後継の岡田啓介首相は無事。
2.26事件を受けて、岡田内閣が総辞職し、後継の廣田内閣が、思想犯を公権力の下に監視しておくために「思想犯保護観察法」を制定した。2.26事件を起こしたのは軍人なのですが、逆に一般人を広く取り締まる法が制定された。
孫崎氏は、この2.26事件によって潮流が変わり、政治家は萎縮して完全に軍部の言いなりになってしまい、それが後の東條内閣の登場につながると指摘した。
参議院選挙投票日を控えた各党は、安倍元総理の銃撃事件を受けて、自民、公明、維新、国民民主など、奇しくも、「改憲派」の各党が、8日の幹部応援演説や遊説を中止している。
一方、立憲民主、共産、れいわ、社民など「非改憲派」は、「自由な言論と民主主義を守っていくために暴力には屈しない」として、遊説を続けると表明している。
孫崎氏は、今回の銃撃事件はあるが、「その後に何が起こるか」が大事だと繰り返した。
孫崎氏「多分、これで銃撃事件がありました、終わり、じゃないんです。これから何かものすごい大きな変化が日本の中に出てくるかもしれない、ということを考えなければなりません」。
その後、インタビューは、孫崎氏の新しい著書『平和を創る道の探求』(かもがわ出版)に沿って、台湾有事で日本が戦場になっても米国は出てこないこと、日本が米国にも留まられるままに「戦争参加」の国になろうとしていること、そうした潮流の中で、「平和を創る道」とはどのようなものであるか、ウクライナ問題は米vsロシアの新冷戦・新秩序が形成されるのか、といった話題に及んだ。
ぜひ、インタビュー全編を御覧ください。