種子法廃止は違憲! 国を相手の裁判を通じて、日本の農業を支えてきた種子法復活の可能性が見えた!? 戦争による食糧不足、グローバル企業による寡占等、危機の時代の「食」をめぐって熱く議論~6.3 種子法廃止違憲確認訴訟 報告集会 2022.6.3

記事公開日:2022.6.13取材地: テキスト動画
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(取材・浜本信貴、文・IWJ編集部)

特集 種子法廃止!「食料主権」を売り渡す安倍政権
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 6月3日金曜日は、「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」の第7回口頭弁論期日であった。午前中に3名の原告本人尋問が行われ、午後に3名の証人尋問が、東京地方裁判所で行われた。

 これを受けて、午後4時半頃から、衆議院第1議員会館・国際会議室で、報告集会が約1時間半にわたって開催された。

 TPP交渉差止・違憲訴訟の会代表の池住義憲・立教大学大学院キリスト教学研究科教授、弁護団共同代表幹事長の山田正彦・元農林水産大臣、弁護団共同代表の岩月浩二氏、弁護団共同代表の田井勝氏のほか、平岡秀夫弁護士・元法務大臣、古川(こがわ)健三弁護士らが出席した。

 約1時間半に及んだ報告集会では、憲法学者の土屋仁美・金沢星稜大学経済学部経済学科准教授による報告と、原告証人3名による報告、それぞれの担当弁護士による報告が行われた後、報告会参加者による質疑が行われた。

憲法学者 土屋仁美准教授について証人尋問を担当した古川弁護士は、土屋氏が国際法の視点から「食料への権利」を論理立てて歯切れよく説明していただいたと評価!

 憲法学者の土屋仁美・金沢星稜大学経済学部経済学科准教授は、金沢からこの日の証人尋問のために駆けつけた。土屋氏はすぐに金沢に戻るため、最初に証人として報告をした。

 土屋氏の証人尋問を担当した古川弁護士は、土屋氏が国際法の視点から「食料への権利」を論理立てて歯切れよく説明し、証言いただいたと報告した。

 土屋氏は「古川先生のご指導のもと、どうにか大役を(の責任を果たしました)。貢献できることがあったとするならば、とても嬉しいと思っております」と述べた。

田井弁護士による全体報告(その1)「今日は原告3人、証人3人の尋問期日で、この裁判にとっては大事な大事な日でした」。6名の証人がそれぞれ良い証言ができたと評価!

 続いて、田井弁護士から全体の報告が行われた。

田井弁護士「今日は原告3人、証人3人の尋問期日で、この裁判にとっては大事な大事な日でした。皆さんが証言いただいたことが、そのまま活字になり、そして証拠になる。判決の内容に使われる立派な証拠になります。ここでどういう発言を出せるか、そして裁判官に響かせるかという重要な1日だったと思います」。

 田井弁護士は、6名の証人がそれぞれ良い証言ができたと評価した。

 午前中の原告証人は菊池富夫氏(山形県、採種農家、山形県指定種子生産圃場)、舘野廣幸氏(栃木県、一般農家・有機農業、舘野かえる農場)、野々山理恵子氏(消費者、生活協同組合パルシステム東京顧問)3名であった。

 田井弁護士は、採取農家である菊池氏はどんな悪条件の年であっても、良好で安全な種子を採らなければならない苦労や手間隙を具体的にわかりやすく証言したと報告した。

田井弁護士「農家の人たち、あるいは消費者の人たちに良好で安全な種を与え続けられる。それがひいては、我が国の食料の安定供給である、食の安全に貢献しているという矜持を感じていたが、一方的に、審議過程も不十分なまま(種子法が廃止されたことに)、怒りを持って裁判に挑んだ、という話をしてもらいました」。

 田井氏はこの証言の中で「審議過程が不十分」であったことは、大きな争点の一つだと指摘した。

 田井弁護士は、一般農家・有機農家として証言した舘野氏は、有機農業にとっていかにタネが重要であるかを証言した、消費者代表として野々山さんは、良好で安全なタネと生産物の提供をうけることがいかに重要かを証言したと報告した。

田井弁護士による全体報告(その2)採種農家、有機農業、消費者、種子法のもとで農政に携わった元県職員、憲法学者、農政に詳しい専門家の証言が揃い、我々の主張のまとまりが全部出し切れたと報告!

 午後の証人は、山口正篤氏(元栃木県農業試験場)、鈴木宣弘東京大学教授(食料・農業・農村政策審議会委員)、土屋仁美准教授(憲法学・食品法ほか)であった。

 田井弁護士は、栃木県の農業試験場の職員であった山口氏が、奨励品種の選定、品種の育成、原種・原原種の生産、圃場審査など、種子法の体系にもとづいた県の業務を紹介したと報告した。

田井弁護士「種子法が廃止されることで、県がタネ生産に関与しなくなる、これも大事だけれども、やはり山口さんとして訴えたいのは、栃木県や各県がこれまで品種を育成してきたことが途絶えてしまう、ということに強い問題意識を持っておられました。

 農業試験場の職員の方が減っているとか、予算が減らされているということを証言いただいいた」。

 国は種子法が廃止されても、各都道府県が種子条例をつくって従来通りに活動しているから、種子法廃止の影響はないと主張している。しかし、都道府県の現場からは、国からの交付金が減って予算が取れなくなっているという実態が証言されたことになる。

 田井弁護士は、鈴木教授の証人尋問について「非常に痛快かつ明確に話していただいた」、種子法廃止の審議過程の問題を、農政審議会や農政の裏話まで、わかりやすくお話いただいた、と報告した。

田井弁護士「農政審議会ではなく、規制改革推進会議、竹中平蔵さん達がやっている内閣府管轄の会議体の下でつくらたのが種子法廃止が出た。その中で農政審、つまり農業に関わっている人たちの意見なんかまったく取り入れられることのないまま、廃止されたという問題。

 もし、農政審が関わっていたら、そんなことにはならなかっただろうというのは、以前農政審に入っておられた鈴木先生だからこそ言える発言だったかと思います」。

 鈴木教授の証言は、種子法廃止の審議過程の問題をずばりと指摘した。規制改革推進会議からのトップダウンで決定され、農政の現場や農家が排除された審議過程は、TPPに関連するさまざまな改革に共通する手法である。

 田井弁護士は、土屋准教授は「食糧への権利」について解説し、審議過程の問題についてどう対処すべきか、法の番人である司法がちゃんと審査すべきだと指摘した、と報告し、証人尋問で原告側と弁護団の主張全体を出すことができたと評価した。

田井弁護士「この6名の尋問で、私なりに、我々の主張の、一つの骨格、まとまりが全部出し切れたのかなと思っております」。

田井弁護士による全体報告(その3)国際法にもとづいて主張した「食料への権利」と種子法廃止にいたる審議過程の問題を司法として審査すべきだと主張

 一方で、今日の証人尋問が予定よりも1時間近く早く終了したことについて、田井弁護士は、被告である国側からの反対尋問が、証人の経歴確認が数件あったのみで、内容に踏み込んだ実質的な反対尋問がなかったためだと説明した。その理由について、田井弁護士は、安保法制やマイナンバーの訴訟と同じ手法だと指摘し、国はあえて内容に踏み込んで原告側の議論の土俵に乗ることを回避している、と説明した。

田井弁護士「私たちが『食料への権利』とか、様々なことを書いてることについて、あまりそこの議論に入ろうとしないと言うか、本当は入らせずに終わらせたいという姿勢があって、ああいう形(反対尋問が事実上ない形)になっているんだと思います

 本音を言えば、鈴木先生には反対尋問などできっこないよと、私は思っておりました。

 非常にけしからんとは思うのですが、その態度が今日見えたかなと思いました」。

 最後に、田井弁護士は今後のスケジュールについて、次回期日が10月7日午後2時に決まったこと、裁判官からは問題がなければそこで結審にしたいと告げられたこと、原告と弁護団側はそれまで(9月26日)までに「最終準備書面」を用意しなければならないことを報告した。

田井弁護士「裁判官は今日は、私の見立てでは本当に熱心に聞いてたとは思うんですけれども、だからといって、簡単にいい判決を書いてくれるとは思いません。裁判官は、本当に簡単に終わらせようとすれば、『食料への権利なんか認められない』、『皆さんの被害なんかない』と書いてしまえば簡単なんです。はっきり言って。

 しかし、そうさせてしまってはならない、というのが最後にやるべきことだと思います。今日は私たちの言い分を言い切りました。この内容をまとめたものを最終準備書面として出し切らないといけない、最後の期日も(傍聴席を)満杯にして、皆さんの熱を、いい判決を書いてほしいと、この審議過程の問題を中心に、やはりこれがおかしいということを、ちゃんと司法として審査してほしいという私たちの訴えを裁判所に届けることが大事かと思います」。

記事目次

■全編動画

  • 日時 2022年6月3日(金)17:30~
  • 場所 衆議院第一議員会館 国際会議室(東京都千代田区)
  • 告知 TPP交渉差止・違憲訴訟の会 サイト内告知

<ここから特別公開中>

原告証人として採種農家の苦労と種子法の必要性を訴えた菊池富夫氏は、「あれ?これ、普通に考えると、俺の頭では、勝てるぞ」と勝訴の手応えの実感を伝える!

 続いて、原告証人を務めた菊池氏、舘野氏、野々山氏からも報告があった。以下、一部を抜粋する。

菊池氏「(5月ごろに証人尋問の書面をいただいたが)田植えが終わったらしようという風に思って、なかなか手につかなくて。尋問と言っただけで、なんかドキドキして。小心者ですから、終わってほんとにほっとしています。こんな大事な裁判でもっともっと準備できたら良かったなというのが今の率直な感想です。

 最初、この裁判がどういう結果になるかっていうのは、『多分負けるでしょうね。でもちゃんと言わなくちゃ』みたいな感じだったんですが、今日の証言を聞いていたら、『あれ?これ、普通に考えると、俺の頭では、勝てるぞ』という風に思いました。

 まともなっていう言い方も変ですが、無垢な高校生・大学生が聞いたら『当たり前だよな』っていうことが、これは通らないということかどうか、分かりませんが、この日本は結構おかしな社会だな、ということをもう一度再確認しました。皆さん、証人の方あるいは原告の方の意見を聞いてると、これ結構いい場所にいるんじゃないかみたいな」。

舘野廣幸氏は日本のわずか0.5%の有機栽培農家として「タネがなければ農業は成り立たない。とくに有機の種子は、非常に手に入らない貴重なもの」と主張

舘野氏「私は一般農家ではございませんで、日本のわずか0.5%の有機栽培農家でございまして、あと99.5%は普通の慣行栽培農家なので。どちらの立場に立って言ったらいいのかなと思いましたけども、種子にとってはあの慣行栽培だろという栽培であろうと、タネがなければ農業は成り立たないわけで、そこのところがきちんと強調したいというふうに思います。その中でも、有機の種子は、非常に手に入らない貴重なものであります。

 にもかかわらず国は、『有機農業やるんだ』とか、『有機農業みんな農家はやったらどうだ』みたいな、やりもしない人たちが勝手に政策をつくっておりますけども、私のあのー実際の行をやってる立場からすれば、まず、有機をやるべき土づくりとか圃場整備、それから環境、そしてタネ。そういうものをきちんと国が環境整備をして、農家の人にやっていただくというのが筋だろうという風に思っています。

 国は『みどりの食料システム戦略』(注1)というのを突然発表したんですけれども、その裏は何か分かりませんが、今、(舘野氏の所に)問い合わせが殺到してるんです。補助金が出ているせいだと思うんですけど、有機を進めたいんだけどどうしどうしたらいいのか、と。国が政策をつくったのに、なんで私のところにくるんだと思いますけども。私にアドバイスを求める。うちの民間稲作研究所にも、業務委託や計画立案委託の依頼がいっぱい来てて。自分たちの経営で私は精一杯だから、日本全国のまでやってられないんですが。

 そういうのは農水省や国がちゃんとそういう仕組みをつくってやるべきものを、まったくやってない。国は有機栽培のノウハウもまったくない状態で、口先だけの事を言ってるんだと思います。それが危険な方に行かないように、我々は国を監視していかなければはならないと思います」。

(注1)みどりの食料システム戦略(農林水産省)

生活協同組合パルシステム東京顧問 野々山理恵子氏は消費者代表として、種子法がつくられたのは食料の安定供給が目的と証言、「気候変動もあり、戦争もあり、本当に飢餓の時代が来るんじゃないか。日本だけが逆行していていいのか」と批判!

 野々山氏は、原告証人は証言時に何も資料を見てはいけないという指示があり、平岡弁護士の尋問に答える形でなんとか言いたいことの3分の2ぐらいを言うことができたと述べた。

野々山氏「私すごく一番今日のとこで言いたかったのは、鈴木先生も少し触れられていましたけれども、今のこの世界情勢で、気候変動もあり、戦争もあり、本当に飢餓の時代が来るんじゃないか。食糧不足の時代はもう来ているって言われてますけど、その時にこんなことしてて、日本だけがそれに逆行するようなことをしていていいのかっていうのを、すごく言いたくて。

 種子法が戦後すぐにつくられたのは、戦争中に国民が飢えて苦しんだ経験から、食料の安定供給を目指すためにだったと効いていましたので。食料の安定供給を目指した法律がなくなったということに、すごい危機感を覚えてるっていうところを、最後の項で述べさせて頂きました。本当に子供達がお腹空かせてお米が食べられなくて、ひもじい思いをするなんてことがあってはならないんじゃないかっていうところが一番言いたかったことです」。

 野々山氏は世界の1割以上の人々が現在飢餓状態にあること、遺伝子組み換えや化学農薬の研究開発などを進めているグローバル企業が日本の農業にとって代わろうとしていることのリスクなどを上げ、「そうした企業に私たちのタネを売り渡していいものだろうか」と問うた。

鈴木宣弘東京大学教授の証人尋問について岩月弁護士は「この国の意思決定のシステムをこのままでいいと言っていては、もうこの国は私物化されて滅んでしまう」と、鈴木教授が種子法廃止の不透明な審議課程を鋭く批判したことを報告! 米国と外資にむしばまれ、気骨ある官僚は人事で干される従属国・日本の官僚機構の現実を暴露!

 鈴木教授の証人尋問を担当した岩月弁護士は、鈴木教授の証人尋問について報告した。

岩槻弁護士「(鈴木教授に)『農水省の職員がやりたくもないこと(種子法の廃止など)をやらされている。農水省が自分たちで築いて、先人が築いてきたシステムを、自分たちで破壊させられている。これはこれは当事者としてとても辛いこと。ところがそれに逆らうと、左遷されて結局1年後に退職するということも事例も起きている』ということをお話しいただいて、種子法廃止がいかに吹き荒れているかという実態をつくづくと感じました」

 岩月弁護士は、農業だけではなく、山林事業、水道事業、漁業でも同じような改革が同じような手法で行われており、財産権の侵害など、憲法29条3項(注2)に明確に反することが起きている、と指摘した。

(注2)日本国憲法「第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
② 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③ 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」

 岩月弁護士は、従来の農業の現場から声が、農水省や政治家に上がり、国会に上がるというボトムアップ式の体制が壊され、「今だけ金だけ自分だけ」を考える人々によるトップダウン式で「竹中平蔵氏の鶴の一声で降りてきたものを、無理矢理官僚にやらせて国会に上がってくる」という体制に変わったことが大きな問題だと指摘した。

岩槻弁護士「(国会の答弁を見ると)『都道府県の種子に関する取組は後退しません』と、みんな口を揃えているんですね。じゃ、廃止しなければいいんだけど、なぜか廃止するという非常に奇妙な。

 誰1人、都道府県の取り組みを交代させることがいいとは一言も言っていない。みんな、こう(種子法を廃止)しても大丈夫だよと言ってるだけで、廃止されていってしまうという非常に奇妙な意思決定の仕方がされている。

 少なくともこの国の意思決定のシステムをこのままでいいと言っていては、もうこの国は私物化されて滅んでしまうということをつくづく思います」。

 岩月弁護士は、「この国の意思決定のシステム(の異常さ)と、食糧への権利の重要性を裁判所になんとか認めてもらいたい」と訴えた。

平岡弁護士は、裁判では法律理論が駆使され、必ずしも「正義だけで物事のカタがつかない。みんなが頑張らないといけない」と警鐘

 平岡弁護士は、野々山氏の証人尋問の経緯を述べた後、「非常に幅広い視点から」証言していただいた、「たいへん良かったじゃないか」と評価した。

平岡弁護士「司法の世界に日本の社会の救いを求めてきた、自分の救いもあるんですけれども。やっぱり司法の世界もなかなか難しいですね。そんなに簡単に正義だけで物事のカタがつかない。

 先ほど菊池さんも言われましたけど、中学生ぐらいがこの裁判を見たら、どう見てもこっちの方に分があると思うんだけれども。なかなか司法の世界もそう単純じゃなくて。非常に法律理論みたいなものが駆使されて、なかなか、正義だけにもとづいて判断ができないという状況になっている。

 何をすればいいのかっていうと、やっぱり、行政の世界でも、立法・政治の世界でも、司法の世界でも、それぞれで、みんなが頑張らないといけないということだろういうふうに思います」。

 平岡弁護士は、「我々はこの司法の世界で頑張っていきますけれども、政治の政界でも行政の世界でも皆さんの力をしっかりと発揮していただけるようお願いします」と締めくくった。

質疑(その1)「勝訴したら種子法が復活しますか?」という質問に対して、仮に勝訴した場合は、廃止無効にいく流れができると回答!

 続いて報告会の参加者との質疑に移った。

男性「今日初めて裁判に参加させていただいたので、ちょっと裁判のことを分からないので、もしかしたら変なことを聞くかもしれないですけども、裁判で勝訴した場合は、国が種子法を復活するっていうことになるでしょうか?」

田井弁護士「勝訴した場合、種子法廃止が憲法違反であるという話になるんですけれども、仮に勝訴してもまた向こうが控訴してとまだまだ続く可能性が十分にあるんですけれども。

 勝訴したからと言って、それ(種子法廃止)がそのまま無効になるかどうかについては、別の議論があるんですが、仮に勝訴した場合は、そちら(廃止無効)にいくような流れになってくると思います」。

質疑(その2)「独自条例をもうけた31の県で、実際にこれまでどおりの事業がなされていますか?」という質問に対して、現時点では移行期間なのでおおむねこれまで通りと回答!

 そのほか、独自条例をもうけた31の県で、実際にこれまでどおりの事業がなされているかどうかという質問があった。これに対し、山田正彦氏が、山形県や栃木県などの状況について、個別にわかっていることを紹介し、全体的には「まだ条例ができて1,2年なのでまだ、おおむね、従来通りやっていただいているようです」と回答した。

 種子法が廃止されて、国からの交付金が減った件について、山田氏は農水省に問い合わせているが、実態がよくわからないと付け加えた。

山田氏「農水省に聞いたんですが、財源が減らされている、なくなっているのはけしからんじゃないかといったら、農水省は『一括交付金だからどのように使ってもいい。県はそこに回せばいいんです』と弁解していましたけれども。

 私が農水大臣で予算付けをやったことがありますが、386項の予算に必ず種子なら種子云々と、品目ごとに予算をつけていくんです。

 そう言う意味じゃ、予算から趣旨に関する項目が無くなったのは間違いないだろうと思っていますが、いくら聞いてもそれを明らかにしようとはしてくれないんです。科目のほうは出るんですが、細かいところは内部の機密資料だということになってしまう」。

 国は種子法が廃止されても、都道府県は独自に条例をつくっており問題はないと主張してるが、交付金の実態が明らかにされなければ、なぜある県では職員が減らされたり、設備投資が止まっているのかがわからない。大きな問題である。

 続いて自家採取の問題について、山田氏は、2021年4月に、長野県が、長野県の登録品種については従通り、種苗法改定前の種苗法通り、許諾手続きも許諾料も不要と最初に決定した後、北海道、山梨で相次いでそうなったと報告した。山田氏らの調べでは、39の道県で少なくとも今年は、自家増殖自由という方針だということである。

 山田氏は種苗法改定について、もう一つの大きな問題点も指摘した。都道府県や国が開発してきた優良品種、たとえばシャインマスカットなどについて、民間に提供していくことになっているが、その実態がほとんど明らかにされていないと指摘した。これまでに民間に提供された優良品種は420種類であることだけはわかったが、どういう品種がいくらで提供されたかは、民間の取引だから開示できないとされたということである。山田氏は、これからの大きな問題になっていくだろうと述べた。

山田正彦氏は「今年、タネがなくなりつつあります」「秋から肥料代が2倍になる」「来年はもう農家を辞めるという人がどんどん増えている」と危機感を募らせる!

 その後、戦時中の食料不足の経験と食糧安全保障を語る男性、農家のほとんどは種子法廃止の問題について何も知らないと指摘する有機農業のコンサルタントの男性、などが発言した。

 山田氏は、農家の危機感がないという話を受けて、種子がなくなってきていると明かし、会場がざわついた。

 「今年、私、びっくりしたんですが、タネがなくなりつつあります。知り合いがうっかりしていたら、種籾が注文できなくなった、今年ないのだというのです。(略)

 この間、『日本のタネを守る会』の会長をやっていただいた八木岡(努)さんとお話ししたときに、八木岡さんが『今年、タネが手に入らなくなっている。どこか投機筋が買い占めたんじゃないか。しかも、えらく高くなった』、そう言ってました。

 タネの問題、今年深刻な状況になりつつあ流中で、ウクライナの事情もあって、昨日か一昨日の日本農業新聞の一面に書いてありました(注3)が、『今年、肥料代が90%、全農が売るのが9月以降上がる』と」。

(注3)秋肥の大幅値上げ 農家支援策一刻も早く(日本農業新聞、2022年9月3日)

 山田氏は反(たん)あたりの肥料代があがり、今10アールで、5000円以上かかっている肥料代が倍になったら、農家は本当にやっていけなくなると警鐘を鳴らした。ただでさえ、米価(60キロあたり)が生産原価(1.5万円)を大きく割って6000円になっている、米農家は皆赤字だ、来年はもう農家を辞めるという人がどんどん増えている、と訴えた。

 有機農家の舘野氏は、有機農業であれば肥料代は不要だし、米価も自由につけられると述べ、農家が自由に米価をつけられない制度はおかしいと異を唱えた。舘野氏は、今の農家が自分で種籾を持っていないこともおかしいのではないかと指摘した。

質疑(その3)「今後、国との間での争点、国はどんなことを問題視してくるのでしょうか?」という質問に対して、「食料への権利」というものは認められない、種子法は廃止されても被害はないと回答!

 IWJも質問させていただいた。

IWJ記者「インターネット報道メディアIWJの六反田と申します。昨日の会見にも参加させていただいて、聞いたこととややかぶるんですが、今日大変良い証人尋問を聞かせていただいて、本当に幅広くこの問題が多面的に語られて、問題点が揃ったと言いますか、全体像が見えたなーという印象を持っております。

 ただ、国(被告)のほうの反対尋問が、非常に形式的と言いますか、事実上ほぼ内容がなかったと言ってよいかと思うんですが、また、10月には国のほうも書面を用意してくるというような話をして今日しておられました。

 今後、国との間での争点になること、国がどんなことを問題視してくるのか、といったことについてのご見解をお伺いできればと思います」

田井弁護士「国が今後どうというというところですけれど、これまで出てきた通り、国については、私たちの訴えている『食料への権利』というものは認められない、かつ、種子法は廃止されても皆さん被害は全然出てきてない、皆さんが感じてるのは漠然とした不安感だという訴えなんですが。多分、これがずっと続くと思います」

 千葉県でアスナロ農園で、無農薬・無肥料の農業をやっている女性が、せっかく良い安全な農産物を提供し、それが評価されて販路も広がっている中で、種子法廃止で、難しい状況に追い込まれるのは大変悔しいと、菊池氏・舘野氏に共感を寄せた。

池住義憲教授「『普通にやればこれ勝てるじゃん』。自信を持ってやっていきましょう。これは勝たなければならない」と参加者を鼓舞!

 最後に池住教授が、今日の証人尋問も報告会も大変良かった、と評価した。「食料への権利」を裁判所に認めさせることの重要性、つまり、安定した食料の供給、安全な食料、国内の自給率を上げること、の3点に対して、種子法廃止がまったく逆行するものであることが明らかになった、と述べた。

 池住教授は、困難な裁判であることは事実だけれども、菊池氏の言葉を引き「普通にやればこれ勝てるじゃん。ほんとうにそうですよね。自信を持ってやっていきましょう。これは勝たなければならない」と報告会に集まった人々に呼びかけた。

 山田正彦氏によると、この種子法違憲確認訴訟、もともと7年前、TPP交渉差止・違憲訴訟に始まったということである。この種子法違憲確認訴訟に関わる弁護団は7年間、ボランティアで弁護活動を続けているということである。

 今回、東京地裁での第1審が終わっても、2審、3審と裁判は続く。山田氏は、多くの方にご協力・ご支援をお願いします、と訴えた。

※TPP交渉差止・違憲訴訟の会(年会費2000円)

・TPP新聞 年3回発行(会員)
・『消された種子法』(1100円)
・Facebook:https://www.facebook.com/tpphantai

・Twitter:https://twitter.com/tppikenn

・オンライン問い合わせ:http://tpphantai.com/contact/

※日本の種を守る会(年会費2000円)

・31の都道府県で設立
・各都道府県の種子条例を設立するために尽力
・『タネは誰のもの』(DVD、3000円)
・『タネは誰のもの』解説小冊子(200円)
・『タネを守ろう!そうだったのか 種子法廃止・種苗法改定』(小冊子、48頁、200円)

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