岸田文雄総理は2022年4月8日の記者会見で、ロシア軍が「虐殺」や「原発攻撃」を行ったとの認識を示し、ロシアへの追加制裁を行うこと表明した。
しかし「ロシアが原発を攻撃」は明らかな事実誤認である。原発への「攻撃」が事実なら莫大な放射能汚染が引き起こされ、欧州の大部分が居住不能になったはずである。
ウクライナ軍の部隊と交戦はしたものの、現実には原子炉は破損していない。5月11日時点でもザポリージャ原発はロシア軍の厳重な警戒下に置かれ、ウクライナ人職員によって、平常通り稼働中だ。ロシア軍は原発を「確保」し「警備」したに過ぎない。
岸田総理はさらに、ブチャの虐殺に関して、国際刑事裁判所(ICC)による捜査や国連による独立した調査も終了せず、結論も出ていない、まだ「容疑」の段階で、ロシアを「犯行主体」と決めつけた。
ロシア軍の犯行容疑が濃厚だとしても、誰が実行犯か、組織的なものか、個人的なものか、何もまだ分からない。容疑がある、という段階である。
こうした、証拠となる事実がまだ集まらず、判断を下すにはまだ早い「虐殺」容疑や、「原発攻撃」という、明らかに間違った事実認識をもとにして、岸田総理はロシアに対する5つの制裁を決定したのだ。戦争になったら致命的な急所となりうる、原発を日本国土の各地に配置しながら、ミサイルの撃ち合いを招く中距離ミサイルの配備を準備するなど、正気の沙汰ではない。
制裁の中で特に注目されるのが、ロシア産石炭の禁輸で、代替として原発の活用を明言した。ロシア軍によるウクライナ侵攻を口実として、これ幸いにと、原発再稼働や小型高速炉設置に道を開こうとしている。
そもそも<ロシア=悪>を前提とする一方的制裁強化は、世界的な石油や食糧の高騰を生み、エネルギー資源と食糧の両方を輸入に頼る日本の国益を大きく損なうことは必至である。
今求められるのは、ウクライナ侵攻に対して、武器支援でさらなる戦闘の激化を煽り、ロシアに制裁を加えることよりも、可能な限り停戦させて、民間人の犠牲を防ぐこと、そのための仲介や条件作りではないだろうか。
また、日本におけるロシア産の原油輸入量は約3.6%にとどまっているが、中東依存から脱却するため、絵ロシアをエネルギー調達先として重視してきた。サハリンプロジェクトは、その代表例と言えるだろう。
サハリンプロジェクトは、ロシア極東の石油・天然ガス開発事業で「サハリン1」「サハリン2」が存在する。これらのプロジェクトは、日本政府あるいは日本企業が出資し権益を得ている。
岸田総理もサハリンプロジェクトについて、「エネルギーの長期かつ安価な安定供給に貢献している。権益を維持する方針に変わりはない」と述べている。つまり、ロシアからの石油・天然ガスは、日本にとって極めて重要である。
ロシアに厳しい制裁を課している日本だが、その報復としてロシアが日本へのエネルギー資源の供給を止めるというシナリオは大いに考えられ、それは日本にとって多大なるダメージになることを忘れてはならないだろう。
なお、岸田総理はその後5月5日にも、さらなる追加制裁として、資産凍結対象の追加や量子コンピューターなど先端的物品の禁輸などを発表している。
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