小泉進次郎環境大臣は2020年2月9日、福島に出張。飯舘(いいたて)村の南に位置し、現在も避難指示が続く長泥(ながどろ)地区を視察。次に、双葉町を伊澤町長の案内で視察し、最後は、同じく福島原発事故被災地である大熊町を訪問した。
小泉環境相は大熊町の吉田淳町長と会談後、二人で並んで会見に臨んだが、開始早々、強烈な違和感を抱く発言を口にした。
2050年までに二酸化炭素の排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボン宣言」についての説明を始めたのだ。「帰宅困難区域」が未だに残る被災地の大熊町なのだから、「なぜ原発ゼロ宣言ではないのか」という疑問が当然湧いて。
そこで小泉環境相に単刀直入に聞いてみた。
▲「ゼロカーボン宣言」を行う小泉進次郎環境大臣(左)と福島県大熊町・吉田淳町長(横田一氏提供)
福島県大熊町の「ゼロカーボン宣言」!? 「なぜ原発ゼロ宣言ではないのか」の疑問
横田「なぜ『原発ゼロ宣言』をしないのか。あるいは、『ゼロカーボン宣言』が『原発ゼロ』を含んでいるのかをうかがいたい。(安倍)政権の原発再稼働から目をそらすようにも聞こえたが」
小泉環境相「全く違う。『ゼロカーボン宣言』は脱炭素に向けた明確な宣言であるし、国際社会も、国の動きが注目されているが、企業の動き、自治体の動きの評価が非常に高い。そういった中で57自治体が宣言をしているが、58自治体として原発事故を経験、いま復興に向けて全力で走っている大熊町が向かうべき方向性を、『再生可能エネルギーを中心にしたゼロカーボンを達成していく』と宣言をしたことは、私は日本にとって世界に向けても前向きのことだと思っている」
冒頭の説明で小泉環境相は、大熊町のゼロカーボン宣言には、原発にも化石燃料にも頼らずに再生可能エネルギー100%を目指すという説明をしていた。であれば、「ゼロカーボン&原発ゼロ宣言(再生可能エネルギーへの転換)」といった脱原発を盛り込んだキャッチフレーズにしないと訴求力に欠ける。こう思いながら、質問を続けた。
福島県大熊町・吉田淳町長「原発ゼロうんぬんは今回のことには考慮していない」
横田「『(ゼロカーボン宣言に)原発ゼロは含まれている』という理解でいいのか。原発ゼロはゼロカーボン宣言に含まれているか。今の意味(説明)だと『原発ゼロ宣言』でもあると。イエスかノーか一言、お願いします」
職員「すみません。次の時間がありますので…」
小泉環境相「町長の思いを」
横田「大臣にも聞きたいが、町長の思いも(お願いします)。『原発ゼロ』も含まれているのかどうか」
吉田町長「それはいろいろ事情もあるかと思うが、私は原発ゼロうんぬんは今回のことには考慮していない。ただ町としては復旧復興に向けて取り組んでいるが、震災前の規模まで(戻すのに)は難しい。コンパクトにするしかないが、その中には未来志向の考えを入れなければならないということで今回、ゼロカーボンを宣言して、これからの目標にして再生していきたい」
▲福島県大熊町(横田一氏提供)
納得のいかない小泉環境相の説明、小泉純一郎元首相の「即時原発ゼロ」とは雲泥の差!
町長は入らない理由を語らなかったので「なぜ原発ゼロが入らなかったのか」と再質問をしたが、職員が「これで終わり」と打ち切りを宣言した瞬間、小泉環境相が立ち去らずに追加説明をした。
小泉環境相「明確なのは、福島は2040年に向けて、原発ではなく再生可能エネルギーで実質まかなっていく県作りをやっている。その後押しを我々もしっかりとやるし、いま大熊町が福島県の中で郡山に次ぐゼロカーボン宣言を、原発事故を経験した立地自治体として明確な方向を向けているのは私は大きなことだと思っているので、ご理解をお願いしたい」
納得のいく説明とは言い難かった。「2040年に再生可能エネルギー100%」という言葉を裏返せば、「2040年までの20年間は原発稼働OK」になる。あまりに悠長な目標設定であり、父親の小泉純一郎元首相が全国講演行脚で訴えている「即時原発ゼロ」とは雲泥の差がある。
小泉元首相が根拠とするのは、2011年3月11日の福島第一原発事故の後、2013年9月までは原発稼働は2基で、2013年9月から2015年9月の2年間は稼働ゼロであったことだ。そして全国各地での講演でこう訴えていたのだ。
「たった2基ならば、原発を動かさなくても、自然エネルギーなど他のエネルギーが十分ある」「この間、一度も電力不足にならなかった。江戸時代の生活にも戻らなかった。この事実は重いですよ。日本は世界に先駆けて『原発ゼロ』で十分にやってきているのですよ。ドイツは、福島の原発事故を見て『これからは原発ゼロでやっていこう』と宣言しました。
ところが、いまも何基かドイツの原発は動いている。日本は政府が『原発ゼロ宣言』をしたわけではない。それなのに、いま原発を持っている国の中で、現実に『原発ゼロ』でやっているのは日本だけですよ。『原発ゼロ』でも、十分に経済・産業はやっていける。このことを、世界第3位の経済大国である日本が証明している」(小泉純一郎談。吉原毅編『黙って寝てはいられない』より)
▲小泉純一郎元首相(IWJ撮影)
小泉環境相は「ゼロカーボン宣言を前面に押し出すことで、安倍政権の原発推進政策から目をそらす役割」を果たしているのか!?
小泉元首相は嘘をついた原発推進派へのリベンジもしている。首相時代に専門家から「原発は安全で、コストが安くて、クリーンなエネルギー」と聞いて原発推進政策を踏襲した小泉元首相だが、辞任後、福島原発事故を見て疑問を抱いて「頭のいい人にだまされていた」と気が付いた。そして総理時代の過ちを正すべく、全国各地での講演で「原発は安全じゃない。クリーンでもない。金まみれの、金食い虫の環境汚染産業だ」と暴露しながら脱原発(再生可能エネルギーへの転換)を訴え続けている。しかも講演後の囲み取材では「進次郎は私の講演をネットで見ているようだ」とも語っていた。
とすれば、息子の小泉環境相は「即時原発ゼロ」が可能であることを父親の講演で知りながら、「2040年に再生可能エネルギー100%(=20年間は原発稼働OK)」を口にした可能性が十分にある。「ゼロカーボン宣言を前面に押し出すことで、安倍政権の原発推進政策から目をそらす役割をしている」と批判されても仕方がないだろう。
「『過ちては改むるに憚ることなかれ』を引用する小泉元首相と小泉環境相は二重写し」と期待するも、外れた見立て
小泉環境相の福島視察を取材したのは、父親と同じような戦う姿勢が垣間見える発言をしていたからだ。
政権への異議申立をすることがなかった小泉環境相に変化の兆しが見られたのは、1月21日の記者会見。冒頭でベトナムへの石炭火力プラント輸出案件ブンアン2」に反対する旨の説明を始め、国内外の批判を念頭に「国際社会や国民から理解できる政策の形につなげていきたい」と意気込み、プロジェクト資金を融資するJBIC(国際協力銀行)を所管する外務省など「各省と調整してきたい」とも述べたのだ。
こんな内情も暴露し、石炭火力推進勢力との対決姿勢を露わにしてもいた。「この件の実態は、日本の商社が出資をしてJBICが入り、プラントのメーカーとして中国のエナジーチャイナと米国のGEといった形で成っている。今までさんざん聞いてきた一つのロジックは『日本がやらないと中国が席巻する』とも聞いてきた。しかし、この構図は日本がお金を出して、結果、つくっているのは中国とアメリカ。こういう実態を私はやはりおかしいと思う」。
これを聞いて私は、「原発ゼロ」を訴える講演を続ける小泉元首相と二重写しになるものを感じた。父の“講演定番ネタ”は、「論語」の「過ちては改むるに憚ることなかれ」の引用。だまされた過ちをさらけだした上で改めていく“戦闘的DNA”が息子に引き継がれて、「やられたら(騙されたら)やり返す」と言わんばかりの小泉環境相発言につながったようにみえたのだ。
だからこそ福島視察でも私は、「安倍首相を含む原発推進派に対しても踏み込んだ発言をするのではないか」と見立てたのだが、あえなく外れた形となった。
小泉環境相のリップサービスに終わるのか否か「環境省としては、まさに再生可能エネルギーを主力電源にしていく閣議決定を阻害する要因は一つでも多く突破をしていく省庁でありたい」
ただし原子力防災担当大臣も兼務する小泉環境相からは、前向きの発言が出始めてもいた。会見で「再生可能エネルギー主力電源化」が安倍政権の原発推進政策と矛盾することと、原発事故時の避難計画の実効性のなさについて、こんな質問をした。
「送電線の枠が原発再稼働分で埋められて、再生可能エネルギー拡大の阻害要因になっている。こういう問題についても環境大臣として物を申していくのか?」
「伊方原発の稼働停止に関連して、放射能汚染の被害を受ける『祝島』(山口県上関町)の方が避難する船が十分ないと(コメントしている)。避難計画が実効性がないまま(原発が)稼働している現実について、原子力防災担当大臣としての権限もあるわけだから、問題視していくのか?」
▲伊方原発3号機(IWJ城石裕幸撮影)
小泉環境相の回答は以下の通りだ。
「環境省としては、まさに再生可能エネルギーを主力電源にしていく閣議決定を阻害する要因は一つでも多く突破をしていく省庁でありたいというふうに考えているので、まさに『隗より始めよ』で再生可能エネルギーの調達を100%していくことを、まずは今年新宿御苑から環境省自身が身をもって示していきたいと考えています」
「(避難計画について)私も昨年の原子力総合防災訓練で島根原発に関わるような地域の現状を現場で見ました。原子力防災担当大臣として最重要の役割の一つが、地域の皆さんと一緒になって避難計画作りをしっかりと進めていくことだと思います。こういった(伊方原発停止)判決はありましたが、常に、全国の中でまだこの避難計画作りができていない地域もありますので、しっかりとでき上がるように継続して支援をしっかりとしていきたい」。
環境省の取り組みだけでなく、経産省に異議申立をするのかが重要なので「経産省に物を申していくのか、原発再稼働はおかしいのではないか」と再度聞くと、小泉環境相は次のように答えた。「(経産省とは)様々なコミュニケーションは日ごろからやっているので、私の問題意識は重々承知の上だと思います」。
リップサービスに終わる可能性もあるが、額面通りに受け取れば、安倍政権の原発推進政策に異論を唱えていくことになる。今後、国民にも見える形で”原子力ムラ“に異議申し立てをしていくのか否かが注目される。
小泉環境相は歴代原子力防災担当大臣と同様に、杜撰な避難計画のまま原発再稼働が罷り通っている実態に目をつぶるのか? それとも異論を唱えるのか?
伊方原発差止仮処分の翌日1月18日の朝日新聞は、原発から南東40キロほどのところに位置する祝島の漁師・橋本久男氏の「船を持っている島民は20人ほど。避難することになっても全員、無事に避難できる保証はない」とする発言を紹介した。
原発事故による放射能汚染被害を受ける地域の声を聞いていけば、杜撰な避難計画のまま原発が稼働している実態を目の当たりにするのは確実で、「実効性のある避難計画ができるまで原発の稼働は止めるべき」という結論に至らないとおかしい。
なお避難計画が絵に描いた餅であることは、元新潟県知事の泉田裕彦衆院議員(新潟5区)が「原発事故時の住民避難用バスの運転手確保が十分にできていない」ことなどについて問題提起している。
▲元新潟県知事の泉田裕彦衆院議員(2016年10月11日、IWJ撮影)
そのため、歴代原子力防災担当大臣と同じように小泉環境相が、実効性の乏しい杜撰な避難計画のまま原発再稼働が罷り通っている実態に目をつぶるのか、それとも異論を唱えるのかが注目ポイントになる。
安倍政権の原発推進政策を追認するだけの『忖度大臣』で終わるのか、それとも「閣内不一致」を覚悟の上で原発稼働に「NO」というのかが注目されるともいえる。
なお、IWJは【川内・玄海・伊方3原発立地周辺レポート】と題して、現地に赴き現地を取材し報告している。こちらも合わせてぜひご一読いただきたい。