環太平洋経済連携協定(TPP)交渉のカギは、日米協議にあると言われる。農業と自動車の分野で日米の交渉団が歩み寄れば、早期妥結も可能との見方は有力で、米民主党政権は、2016年の大統領選に向けてTPP交渉の妥結をアピールする腹づもりだ、との指摘もある。
だが、2015年1月24日、東京都内で講演したオークランド大学教授で貿易交渉問題に明るいジェーン・ケルシー氏は、オバマ大統領がTPP早期妥結の手柄を立てるのは難しい、と占う。また、たとえ日本に配慮した形で合意がなされたとしても、米国は、あとになって平気で前言をひるがえすような理不尽を強いてくるだろう、とも述べた。
ケルシー氏は「TPPには、ISD条項のほかにも、サーティフィケーション(承認手続き)という悪玉が隠されているのだ」と訴える。米国は、この承認手続きを使い、相手国の国内法や商慣習が貿易協定に相応しいかどうかを議会承認後に審査する。相応しくないと米国が判断した場合、当該国は米国の要求に沿うように変更を加えねばならないという。つまり、米国は日本に対し、あとから追加的な要求リストを突きつける可能性が十分あると、ケルシー氏は警告する。
ケルシー氏の講演は、TPP交渉差止・違憲訴訟の会(代表・原中勝征氏)の発足を記念して行われた。昨年2014年9月より設立準備を進めていた同会は、TPPの秘密性を問題視し、憲法が保障する国民の「知る権利」などを侵害しているとして、集団訴訟によりTPP交渉の差し止めと違憲確認を求めていく。幹事長は元農水大臣の山田正彦氏、弁護団共同代表は岩月浩二弁護士が務め、現在までの会員は2400人に上っている。
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この日のケルシー氏のスピーチからは、TPPは米国の憲法にも背いていることが浮かび上がった。TPP交渉の内容を秘密にすることは、米国議会が貿易交渉の権限を握る、という米国憲法による取り決めを無視しており、ケルシー氏は「議会が交渉内容を精査できない」と指摘する。
そして、米議会内部でもTPPの秘密性への反発が高まっているとし、日本でも同種の「情報開示」圧力が、政治家のみならず、一般市民の間にも広がれば、TPPでの米国の暴挙を封じることができるとして、「みなさんが『TPPは日本国憲法違反』と訴えていることは非常に心強い」と力を込めた。