【IWJブログ・特別寄稿】「知る権利に配慮? 嘘をつけ」(ライター 小笠原淳) 2014.3.29

記事公開日:2014.3.29 テキスト
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(小笠原淳)

特集 秘密保護法

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 あの悪法に抵抗せよ――。

 3月28日、フリージャーナリストら約40人が国を相手取り、特定秘密保護法の違憲確認・差し止めを求める訴えを東京地裁に起こす。原告団の中には、首都圏のみならず地方で活動するフリーランスの名前もいくつか。かくいう私自身、海を隔てた北海道からこの裁判に参加することになった当事者だ。

 民事裁判の原告になるのは、生まれて初めてのこと。必ずしも「国」を取材する機会が多いとはいえない札幌ローカルのライターが、どういういきさつで訴訟参加を決めたのか、この場を借りて報告させていただきたい。

 きっかけは、2011年10月から参加しているメーリングリストへの書き込みだった。グループの名前は「フリーランス連絡会」。同年3月の福島原発事故を契機に始まった政府・東電の共同記者会見に出席していた、あるいは出席を認められなかったフリー記者たちが、記者クラブと同じ条件下での取材機会を当局に求めるべく、そうした要求の主体として発足した集まりだ。

 活動は先の要求に留まらず、国会記者会館の使用承認を同記者会に求めたり、地方の知事会見のオープン化に関する要望を自治体に寄せたりと、幅広い。直近ではNHK会長の定例会見オープン化を求め、同本部や総務省などに質問・要望を寄せている。

 連絡会のメーリングリストに「特定秘密保護法」についての投稿があったのは、本年2月21日のこと。会の主要メンバーでジャーナリストの寺澤有さんが、同法の違憲確認・差し止め訴訟の提起を決めたと報告したものだ。その文中で、寺澤さんはほかのフリーランスにも参加を呼びかけていた。

《「フリーランスの取材の自由を侵害する」が大きな主張、立証の柱となる本訴訟で、私以外のフリーランスにも原告として参加してもらったほうが盛り上がるのではないかということになりました》(同日付投稿から)

 読んだ私は、ほとんどその瞬間に参加を決めた。訴訟参加費は印紙代などの実費のみで、1人5000円。たまたまジーパンのポケットに五千円紙幣が入っており、たまたま机の引き出しに現金封筒が1枚ひそんでおり、たまたま額面ぶんの郵便切手がみつかった。やはりたまたま、自宅は札幌で最も大きな郵便局から徒歩10分ほどの距離にある。虎の子の5000円でプライベートブランドのビールと国産ウイスキーと缶ピースとを数日間ぶん確保するはずだった計画を瞬時に忘れ去り、ただちに現金書留をこしらえて郵便局の夜間窓口を訪ねた。

 札幌の2月は寒い。氷点下の冷気で一瞬我に返り、ウイスキー手配の延期に小さく舌打ちしたけれど、現金書留の3重封緘はいかんともし難い偉容。やや歩速を緩めつつも窓口まで赴き、素直に書留を送ったのだった。これが口座振り込みだったら、外出後1分弱で引き返していたかもしれない。

 私はなぜ、北海道の寒さや俗な誘惑に敗けることなく訴訟費用を負担できたのか。それは実は、保護法そのものへの危機感からではない。いま現在の取材環境に、すでに大きな疑問を持っているためだ。

 保護法はいちおう、取材の自由を謳っている。

《この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない》(同22条)

 すでにいろいろなところでいろいろな人たちが問題にしているのは、ここに言う「報道」とか「取材」とかがきちんと定義されていない、という点だ。しかし私は、それ以前の問題があると思う。つまり、ごく単純に「嘘をつけ」と思ってしまう。配慮しなければならない? 嘘をつけ。これまで金輪際「配慮」なんぞしたこともないくせに。

 地元月刊誌『北方ジャーナル』に、ある誤認逮捕事件のことを書いた(本年4月号)。殺人事件の容疑者として逮捕された女性が処分保留で釈放され、最終的に嫌疑不十分で不起訴になった、という話だ。新聞・テレビなどの記者クラブ媒体は当初、「容疑者」となった女性の氏名・住所・年齢・職業・顔写真を当人に無断で公開し、捜査機関経由の「供述」を活字や電波で伝えた。

 毎度のことだ。毎度のように「両論併記」を無視し、警察・検察の言い分だけを連日流し続けたのだ。結果、取り返しのつかない人権侵害をものすごい規模でやってのける形となった。

 記者クラブと無縁の私は、「両論」をきっちり記録しておきたいと思った。だが、それはできないのだった。理由は同義反覆になるが、記者クラブに入っていないから。つまり、クラブ非加盟のライターは捜査側の言い分を取材することができないのだ。所轄の副署長を訪ねても、返ってくるのはニヤニヤ笑いのみ。道警本部の広報に連絡をとっても、記者クラブに流れた情報のほんの一部が口頭で伝えられるだけ。文書開示請求をすれば、出てくる資料は真っ黒け。まともに対応する気がないと判断した私は、記者クラブの正反対をやろうと決めた。即ち、「捜査側ではないほうの言い分」だけを書く――。

 長大なインタビュー記事にはそれなりの反響があったけれど、私としてはどうにも不完全燃焼。今回に限らず、とにかく警察は記者クラブ非加盟者にろくな対応をしない。改めて指摘するまでもないが、彼らは公務員だ。公務員の持つ情報は、国民・市民の情報だ。そこにもし「公開すべきでない情報」なるものがあるとしたら、それはまさに相手が誰であっても公開すべきでない。同じく、公開しなくてはならない情報は、相手が誰であっても公開しなくてはならない。法律に基づいて仕事をする公務員が、法的根拠なしに国民を2種類に分けてはならないだろう。

 ところが、毎日、毎日、国内のあらゆるところでその原則が破られ続けている。このたび記事にした事件では、容疑者の女性が逮捕の何日も前からテレビ・新聞にあとをつけられ、隠し撮りされていた。その女性に嫌疑があるということを、いったい誰が記者クラブ関係者に教えるのか。もしも公務員から情報が漏れたことがあきらかになったら、漏らした人は処罰の対象になる。そして、その根拠となる法律にはすでに「秘密」の2文字が堂々と盛り込まれているのだ。

《職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない》(国家公務員法100条)

《職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない》(地方公務員法34条)

 毎日、毎日、到るところで、もっぱら記者クラブ媒体のみに対して、職務上の秘密が漏らされ続けている。だが、毎日、毎日、到るところで公務員が処罰され続けているという話は聴かない。

 それらが秘密でないとは言わせない。情報公開法を使ってなおべッタリ墨塗りされてしまう隠し事が、秘密でなくて何なのか。それらの秘密が、なぜなぜ「マスコミ」という特定の営利企業の関係者のみに流れるのか。…

(…会員ページにつづく)

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