総理の「笑っていいとも!」出演はマスコミ劣化を示す 〜金平茂紀氏「メディアよ、権力に擦り寄るな!」 2014.3.22

記事公開日:2014.3.22取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2014年3月22日、宮城県石巻市の石巻中央公民館で、講演会「崖っぷち!表現の自由 〜今、報道と漫画で何が起きているのか〜」が行われた。第15回人権研究交流集会の分科会として、「明日の自由を守る若手弁護士の会」が主催したもので、TBS「報道特集」キャスターの金平茂紀氏、漫画家の山本直樹氏、弁護士の山口貴士氏がマイクを握り、集まった弁護士らに向かって熱弁を振るった。

 3人の中で、ことに集会を盛り上げたのは金平氏。特定秘密保護法を悪法と断じ、客席に向かって、「皆さんの仲間だった、福島出身の森まさこさん(参院議員)は秘密保護法成立の立役者だ。彼女は『人権派弁護士』と呼ばれていたらしいが、人権派弁護士って、あの程度なのか」と、会場の多くを占める弁護士たちへ向かって、挑発的に問いかけた。

 それを受けて、山口氏が応戦。「森まさこさんの個人的資質はともかく、人権派の失敗は、秘密保護法に総論反対したこと。今は、左派の力が非常に弱い。左派は、そのことを自覚しなければならない。(国会の衆参ねじれが解消され)保守勢力が圧倒的優位な状況の中で、秘密保護法案などを巡り、全面反対を叫ぶのではなく、あえて、総論賛成・各論反対の立場に立ち、部分的勝利を狙っていくのが賢い戦い方」と主張する山口氏に対し、金平氏は、かぶりを振ってみせた。

■Ustream録画(再配信映像)
・1/2(3時間0分)

・2/2(1時間0分)※15分間ほどで終了します。

  • 登壇者 金平茂紀氏(ジャーナリスト、TBS「報道特集」キャスター)/山本直樹氏(漫画家)/山口貴士氏(弁護士)

 「マスコミは今、『マスゴミ』と揶揄されるほど評判が悪い」──。金平氏はこう切り出し、日本のメディアの現状について語り始めた。

 テレビ局で報道に従事する者に「公的な役割」を軽んじる傾向が目立つ、とした金平氏は、「法律家もそうだが、ジャーナリズムに携わる人間は、公的な利益に資するという面があるはず。しかし、私のその思いは、日々、裏切られ続けている」とし、日本のメディアの、権力を監視する力が急速に劣えていることに懸念を表明した。「欧米では、マスコミが『権力監視力』を備えているのは当然のことだが、今の日本の状況は、それとは対照的だ」。

 さらには、「日本のメディアは、むしろ、権力者に擦り寄っていっているふしがある」とも指摘し、こんなことを述べた。

 「昨日、『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングに、一国の総理大臣が約20分間出演した。多分そこには、内閣広報からの接触があっただろうし、フジテレビ側の思惑もあったと考えられる。が、その辺の事情はどうであれ、総理大臣が、ああいった形でテレビ出演したのは、G8(主要8ヵ国首脳会議)の中では日本だけだろう」。

問題だらけのNHK人事

 金平氏は「たとえ、バラエティー番組であれ、タモリさんがどういう人であれ、出演した総理が表情を曇らせるような質問を、ひとつぐらいはぶつけないことには、(マスコミなのに)総理に擦り寄ったことになる」と力を込め、実際に、タモリ氏がその種の質問をひとつもしなかったことについて、国民の間に何の批判もわき上がらなかったことを問題視した。

 金平氏は「今の日本には、自分よりも強い者に擦り寄る空気が蔓延している」と言う。「新聞やテレビの政治部の記者にも、その傾向が目立つ」と指摘し、「擦り寄って内部に入り込まないと、重要な情報が入らないという面は確かにあるが、『保身』を図りたい気持ちの方が強いように映る」と批判した。

 そして、NHK人事に話題が及ぶと、「今のNHK経営委員は、現総理の『友人』で占められている感がある。それだけでも十分スキャンダラスだが、その委員によって選ばれた、元米国三井物産社長の籾井勝人会長が、就任会見で、あんな『暴言』を吐いたことを見逃すわけにはいかない」とし、「(ああいった発言をする)籾井氏は、公共放送のトップにはふさわしくない」ときっぱり。さらには、「最初に理事全員に、(人事権掌握のために)辞表を書かせた彼のやり方は、普通の民間企業ならまだしも、公共放送機関であるNHKには馴染まない」とも語った。

籾井氏に聞かせたい、元BBC会長の言葉

 その上で金平氏は、英国放送協会(BBC)会長だったグレッグ・ダイク氏の発言を、動画(TBSテレビのニュース)で紹介した。

 BBCは、NHKが手本とする公共放送。ダイク氏は2003年に、イラク戦争に至る折の英国政府の世論操作をスクープしたことで、ブレア英首相と真っ向から対立し、最終的に辞任に追い込まれている。「実際は、当時のイラクのフセイン政権は大量破壊兵器を持っておらず、BBCが報じた通りの結果となった」と強調した金平氏は、「英国民は、ブレア政権よりもBBCが正しかったことを、よくわかっている」と言葉を重ねた。

 公共放送のトップには、たとえ自分がクビになろうが、行政のトップと戦わなければならないケースが発生する、と金平氏。「国が右と言ったものを左というわけにはいかない、という籾井氏のあの発言は、公共放送のトップにはあり得ないこと」と怒りをにじませた。

 動画の中でダイク氏は、「BBCにとって、もっとも重要なのは政治的に独立していること」「私は『BBCの報道は偏っている』と言ってきたブレア首相に対し、『何がフェアで、何がフェアでないかを決めるのは、あなたではない』と返事の手紙を書いた」などと語り、NHK籾井会長による「国が右と言ったものを……」については、「BBCの会長や経営委員長がそういった発言をすることは想像できない」としている。

オリンピックのため、Jビレッジ返還

 その後、金平氏は「アジェンダ・フィッティング(問題提起)」の面でも、日本のメディアの衰えが目立つと指摘。3.11被災地の復興と、東京五輪の開催という2つのテーマを国民に示し、その優先順位づけで思案を促すような報道が圧倒的に不足していると訴え、今、メディアが国民に伝えるべきニュースの一例として、3.11後、東京電力の福島復興本社として機能してきたJビレッジ(福島県楢葉町にあるサッカーのナショナルトレーニングセンター)を巡る問題を紹介した。

 Jビレッジは、福島第一原発から20キロに位置し、原発事故後は収束作業の拠点として活用されていた。昨年夏、原発への入退管理機能を原発敷地内に移設。東電復興本社も2015年度中にJビレッジを明け渡し、富岡町に移る方針を固めている。

 金平氏は「Jビレッジを、2018年までにサッカー練習場として返還しろ、という要請が、IOC(日本の五輪委員会)と日本サッカー協会から東電に出されている。東電は従う姿勢を見せているが、十分な駐車スペースが確保できるなどの点で、Jビレッジを継続使用したいのが彼らの本音だ。この一件は、国が『原発事故処理よりも、五輪開催を優先しろ』と言っているようなもの。優先順位がめちゃくちゃだ」と批判した。

3.11が新自由主義型改革の好機にされる

 金平氏は、この集会が開かれた石巻市の、中心部から車で15分ほどの高台の地価上昇ぶりが、3年連続で全国首位であることにも触れた。「海岸べりには、復興のためのジョイントベンチャー(共同企業体)の作業施設が立ち並んでいる」と指摘し、「ショック・ドクトリン」という言葉を口にした。

 これは、日本語で「惨事便乗型資本主義」と表現されるとのこと。金平氏は「その国に、もの凄い惨事が発生した時は、国民に意識の変化が起こりやすいため、これまでやろうとしてもできなかったことを、火事場泥棒的にやってしまう動きが起こりやすい」とし、3.11による、福島を中心にした大惨状は、新自由主義型の改革を断行したい勢力にとっては、またとないプラス要因だと強調した。

 新自由主義を信奉する改革推進派は、「大きな国家」や「福祉国家」といった言葉を忌避すると指摘した金平氏は、医療、教育、福祉といった公的部門に「民営化」という手法で競争原理を吹き込むことが、新自由主義型改革の基本だと説明する。「近年、日本でも民営化が『時代の要請』であるかのように語られているが、自由(自費)診療が基本の米国の医療実態は、とても酷い。お金持ちはいいが、低所得者は医療サービスを享受できないのだ。(国民皆保険をベースにした)日本の医療制度の方が、よほどましだ」。

被災地での「ショック療法」はやめろ!

 金平氏は「公的部門の民営化がどうしても必要というのなら、少なくとも、被災のダメージから立ち直っていない福島などは後回しにすべきだ」と力を込める。

 「漁業権を漁協から取り上げて、『水産特区』を作って株式会社化して儲けようという、日本の伝統を破壊する動きが出ているが、そういう改革は、まず、被災地以外のところで始めてほしい。『被災地は弱っているだけに、改革が受け入れられやすい』というショック・ドクトリン的な考え方には、強い違和感を覚える」

ジム・キャリーが『キック・アス2』の宣伝協力を拒んだ理由

 金平氏が、予定が立て込んでいるとの理由で、集会の途中で会場を去った後は、短い休憩を挟み、山本氏が「表現の自由」をテーマに話した。

 山本氏は1991年に、自身の作品『Blue』が、東京都青少年保護育成条例では初の有害コミックに指定された経験を持つ。「表現の自由に縛りをかけたい人たちは、フィクションと現実の違いをわかっていない」と訴えた山本氏は、『キック・アス2』というバイオレンス・アクション映画を巡る騒動に触れた。

 「俳優のジム・キャリーさんが、脚本が面白いという理由で、この映画に出演している。だが、暴力描写が過激であるとして、彼は宣伝活動への協力を断ったという。これに対し、撮影当時は10代半ばだった、主役のクロエ・グレース・モレッツさんが、『映画はあくまでも作り話』といった発言をしたらしく、私はそれを知って胸がすく思いだった」。

 「フィクションと現実の違いを幼少期に学んでいれば、コミックなどの表現が問題になることはない」と結論づけた山本氏は、過度の表現規制に警鐘を鳴らす弁護士の山口氏にマイクを譲った。

「これ嫌い」表現規制の根底にあるのは個人の不快感

 「表現規制反対活動の傾向対策」との題目を掲げた山口氏は、まず、創作物規制を推進する側の論理を、性差別反対、被害者や児童の人権保護といった視点で分類した上で、「根底には『私はこういうのは嫌だ』という不快感がある」と分析してみせた。

 そして規制推進側が起こした具体的な行動として、1. レイプレイ騒動(2009年)、2.「第3次男女共同参画基本計画策定に向けて(中間整理)」の発表(2010年)、3. 合田誠展騒動(2013年)などを紹介した。

 1. は、日本国内向けのアダルトゲーム『レイプレイ』が、ネット通販大手のアマゾンで販売開始になったのを受け、女性権利擁護団体のイクオリティ・ナウ(本部・ニューヨーク)が展開した抗議活動。メディアが大きく取り上げ、政府与党からも批判が出て、同作は発売中止となった。

 2. では、「女性をもっぱら性的ないしは暴力行為の対象として捉えたメディアにおける表現は、女性に対する人権侵害であり、男女共同参画社会の形成を大きく阻害するものである」とされており、その対策の必要性に言及されている。3. は、四肢が切断された少女の絵が、同人誌にひっそりと載せられるのではなく、六本木ヒルズ内の森美術館で堂々と公開されたことに、市民グループが抗議したものだ。

市民グループは理念より実利でまとまれ!

 山口氏は規制推進運動にも変化が見られるとし、合田誠展騒動について、「アート自体を批判せずに、美術館で公開したことに批判の矛先を向けている点で、ある種の進歩が認められる」との認識を示した。

 一方の性表現規制反対派についても、山口氏は普遍的な特徴を見い出しており、「表現の自由の原理主義者は、思いのほか少ない。現行規制の運用面の改善を求めることはともかく、法改正に向けてのアクションはさほど見られない」と説明し、「表現の自由」などを主張する理念的な反対行動を繰り広げたいわけではなく、「自分たちが読みたいマンガを読むこと、やりたいゲームをやることを邪魔しないでほしい」という素朴な願いが根底にあると指摘した。

 「規制反対派のコンセンサスは『現行の規制で十分、規制強化は不要』といったレベルにあると思う」と続けた山口氏は、反対派は意外に保守的であるとも述べ、「海外の規制動向には関心がない」とした。

 規制反対派は、憲法論を含む理念論よりも実利の議論を好む、と重ねて強調した山口氏は、「抽象的な理念を掲げれば掲げるほど、反対派はうまく連帯できなくなる。それよりも『読みたいマンガを読みたい、やりたいゲームをやりたい』という、目の前にある具体的なテーマの実現を目標にした方が、(護憲と改憲など)立場を超えた連帯が実現する」と続けた。

信頼できる政治家を見つけておこう

 山口氏は、同じことが「市民活動」全般に当てはまるとし、どんな市民運動も、理念に拘泥すると成果が上がりにくいと訴える。

 その上で、山口氏は「市民活動には、政治家とのつながりが不可欠」と力説。「デモや集会で、いくら人数を集めて気勢を上げても、それで終わりなら、その運動は自己満足でしかない」と指摘し、「実際に立法府で活動してくれるのは、あくまでも政治家。だから、政治家への働きかけが肝要だ」として、次のように述べた。

 「平時から(特定の)政治家を支援する地道な努力を重ね、信頼関係を築くことが重要だ。自分が困った時だけ陳情に行ってもダメ。選挙活動を積極的に手伝うなどでして、顔を覚えられるようにすることがポイントだ。なお、政治家への感謝、尊敬を忘れないことも大切。彼らを公僕と見る向きもあるが、政治家だって人間だし、リスクを背負っている」。

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