2022年11月10日、午後6時45分より、東京都杉並区の西荻勤労福祉会館にて、「戦争をさせない杉並1000人委員会」の主催により、国際政治学者・神奈川大学羽場久美子教授の講演「東アジアの平和のため、何をなすべきか?―中国とは戦争しない!― 市民・自治体・沖縄を平和のハブに!」が開催された。
「戦争をさせない杉並1000人委員会」は、2022年6月9日にも、羽場教授による講演「「ロシアのウクライナ侵攻:武器供与でなく停戦を」を行なっている。
このたびの講演は、今年が日中国交正常化50周年、沖縄復帰50周年、そして、ちょうど中国共産党の第10回党大会が終わったということで、それらを踏まえ、「東アジアの国際関係」をテーマにしたものとなった。
羽場氏は講演の概要について、次のように述べた。
「東アジアの平和のため、我々は何をなすべきか。そして特に今、中国を、そして、台湾が非常に不安定化している中で、中国とは戦争をしないんだということを、それがいかに重要かという話を本日はさせていただきたいと思います。
特に、その際に、政府に頼って、いかにその平和をつくってほしいといっても、なかなか実現はならないので。
市民とか自治体とか、そして、最近は、私は沖縄を『平和のハブ』にということで、ここに玉城(デニー)さんの写真も入れさせていただいているんですけれども、玉城沖縄知事とか、それから沖縄の市民の方々とともに、今沖縄がもう最前線になっているんだけれども、決して中国と戦争をしないんだということで、非常に頑張られているということもあって、それもあわせてお話をさせていただきたいといます」
また、羽場教授は、現状の問題点について、3つのポイントをあげて解説した。
「(1つ目)今、ロシアが劣勢というふうに言われていますが、これらが今後、ロシアが完全にウクライナから撤退してウクライナを完全に解放するまで戦うんだというような中で、この間、何万人も一般市民が亡くなっているんですね。
ウクライナの公式見解でも、ウクライナで1万5000人の人たちが、負傷者含めて亡くなったり傷つけられたりする。
負傷者といっても、戦争時の負傷者というのは、本当に腕のちぎれ、脚がなくなったりというような、もう非常に悲惨な状況でありますから、そうした状況がウクライナで1万5000人、そして、ロシアでは9万人近い人たちが亡くなったり、体を壊したりしていると言われています。その中のほとんどが若者たちなんですね。(中略)
今こそ、停戦を可能な限り早く進めて、1日に100人200人も死んでいるというような状況の中で死者を止め、そして、その上で交渉していくということをできる限り、早くしていかなければなりません。
それから、2つ目は、そのウクライナ戦争が長引けば長引くほど、東アジアの戦争の危機は高まるということです。
新聞でも煽られているように、ウクライナにロシアが侵攻したということは、中国が台湾に侵攻すると同じことだ、そして、それが始まりつつあるんだということで、連日、大手の一般紙も含めて中国批判が高まっています。
そうした中で、果たして、私たちは防衛費を2倍にし、さらには、ミサイルを沖縄や本土に配備して、戦争準備をするべきでしょうか?
東アジアで戦争をさせない。そして、私たちは東アジアでこれ以上緊張を高めないということが極めて大事だと思います。
3番目ですけれども、改憲の可能性を既に、先日の総選挙の結果の1日目に、岸田総理大臣は改憲と防衛費2%ということを言ってきました。
日本は、現在の段階で、軍事費、世界の第5位ぐらいなんですね。これを2%、2倍に上げますと、あっという間に第3位にまで躍り出てしまう。つまり、米、中、日になってしまって、本当に憲法9条が形骸化し、そして、中国に対して、その防衛費や改憲の問題を整備していくということは、東アジアの戦争準備を日本そのものが始めていく、ということにつながっていきます。
ぜひ、これを止めて、武器ではなくて、コロナで苦しんでいる人たちの医療を、あるいは、この間、非常に格差が広がって貧困者が拡大していると言われますが、貧困者の救済などに、その保障のために、国民の血税を使うべきであると思います。
そして、これらを実行していくのに、これまで私たちは政府に非常に頼んできましたが、なかなかそれが現実化しない。むしろ、今言いましたように、防衛費を2倍にし、憲法を改変し、そして、近隣国に対して戦争を準備する、というようなことがなされている中で、誰が、では戦争を止められるのかと考えると、この間の杉並区の市民の報道にも象徴されるように、市民であり、地域の人たちであるということだと思うんですね」
また、羽場教授は、経済についても、以下のとおり、自身の問題意識を述べた。
「なぜ、アメリカと中国、あるいは、中国と日本は、これだけ対立し、緊張しているのかというところを考えたときに、『中国がアメリカを抜いて、経済で世界一になる』、ということが、今言われている。そして、それが結果的に、緊張を招いている、ということなのだと思います。(中略)
重要なのが、『経済がアジア』ということですね。アメリカそして日本政府は中国との対立を煽って、中国との経済関係や、例えば、ファーウェイや中国の製品も購入しないようにというような圧力もかけています。
でも、興味深いことに経団連や経済界も含めて、いや、そういうことはしないと政府の要求に従ってではなくて、『我々は経済の面ではアジアと結ぶ』ということを表明しています。
これは驚くべきことでもあり、現実的なことでもあるんですけれども、今、日本の経済の貿易の4分の1は、中国との関係であるということをご存知でしたでしょうか。
日本の貿易の4分の1が中国との貿易ということで考えると、政府やアメリカが、『中国との貿易を減らしなさい』、むしろ、『アメリカや他の国に拡大しなさい』ということを言うことによって、日本経済、今、逼迫している日本経済が、さらに悪化することは目に見えています。
だからこそ、経団連も、それからロシアのサハリン2とかサハリン1もそうですけれども、三井物産や三菱商事までロシアの石油は買い続けるということを言っているんですね。
これはアメリカにとっては、非常に忠実ではないことかもしれないんですけれども、欧州がロシアの石油を拒否して、ひょっとしたらこの冬を乗り切れないかもしれない、非常に寒い冬をどうやって市民が乗り切っていくのかということが喫緊の課題として問われています。
そういうところで考えると、私たちが生きていくためにも、近隣国と経済を維持するということは絶対に必要なことなんですね。これらも含めて、もう一度考え直す必要があると思います」
羽場教授の講演の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。
岩上安身は、2022年8月16日と9月23日に、羽場教授に連続インタビューを行った。ぜひ御覧いただきたい。