「日本経済を活性化させたいなら、消費税『増税の延期』ではなく、『減税』をすべきである」――。
御年91歳、中央大学名誉教授で商学博士、最新刊『税金を払わない巨大企業』(文春新書)が大きな話題を呼んだ富岡幸雄氏は、「減税断行」の必要性を強く訴える。
2016年5月28日、私は、富岡氏の東京研究所で、富岡氏に2度目となるインタビューを行なった。
この日はちょうど、5月26日から27日にかけて行われたG7伊勢志摩サミットの翌日であった。サミットの討議で安倍総理は、「世界経済はリーマン・ショックの前と似た状況だ」と、これまで日本政府も諸外国政府も、誰も述べたことのない見解を述べた。
日本のメディアからも海外のメディアからも非難を浴びた安倍総理のコメントは、誰がどう見ても、2017年4月に控えた「消費税10%への増税延期」のための布石であったと思われる。
サミットが始まる前、安倍総理は消費税増税について、「リーマン・ショックや大震災のような事態が発生しない限り実施する」と繰り返し強調していた。そして、安倍政権は繰り返し、アベノミクスの成果は出ているとして、日本経済が順調に成長していることを強調していた。
アベノミクスが効果を発揮していて、日本経済が「順調に成長している」のであれば、自民党が2014年の衆院解散総選挙で約束した通り、「消費税増税を再び延期することはない」はずであった。
しかし、安倍政権は、「今回のサミットで、世界経済は大きなリスクに直面しているという認識については一致することができた」と、消費税増税を延期する口実にサミットを利用したのである。
私が富岡氏にインタビューを行なった4日後の6月1日、安倍総理は、2014年の総選挙での公約を破り、「消費税増税の延期」を発表した。安倍総理は、「公約破り」との批判に対し、「これまでのお約束とは異なる、新しい判断だ」と開き直ってみせた。
しかし、安倍総理がどれだけ開き直ってみせても、消費税増税の延期が、7月10日に控えた参院選への選挙対策だったとの批判は免れない。また、その参院選ではひたすら「アベノミクスの成果」を強調してみせたが、その成果のほとんどが根拠薄弱で、印象操作的であるとの批判を免れるものではなかった。
そもそも、アベノミクスが本当にうまくいっているのであれば、なぜ消費税増税を延期したのか説明がつかないという矛盾について、安倍総理はいまだに納得のいく答えを国民に示していない。
誤解を招くといけないので、急ぎつけ加えておくが、私は消費税増税には反対である。IWJという超零細企業を経営してみて自ら実感しているが、消費税は法人税などと比べてはるかに負担が重い。これ以上の増税に耐えられない企業は決して少なくない。増税を断行すれば弱々しい日本経済の景気は確実に腰折れするだろう。
消費税増税の延期、もしくは増税の撤回は正しい。しかしそれはアベノミクスによって日本経済が根本から体力を奪われているという現状認識にもとづかなくてはならない。
そもそも、グローバル企業ばかりが税負担を優遇され、タックスヘイブンを用いた租税回避が見のがされていて、活動範囲がドメスティックな中小企業や一般庶民に法人税減税分のしわ寄せが、消費税増税という形で押しつけられてゆくというのは、あまりに不公平な話である。
ともあれ、根拠の不明確な消費税増税延期ではあったが、一方で国民の過半数は、延期を歓迎した。5月30日付の毎日新聞によると、世論調査で66%が増税延期に賛成を示した。
この安倍総理の「増税先送り」が、内閣支持率の上昇につながるというのは、ある意味当然だが、同時に皮肉で、倒錯した話でもある。
安倍総理が「増税延期」という形で消費税という、国民の首を絞めるロープを一時的に緩めても、国民が首を絞められている現状には変わりはない。首を絞める者に対して、その力を緩めてくれたからといって、「恩義」を感じる筋合いなど、まったくない。
70年も税制を研究してきた富岡氏は、はっきりと「消費税増税は、そもそも必要ない」と言う。
「税金というのは権力者が弱者から収奪する手段です、昔から。消費税というのは間違った税金です」
「税制の歪みは国の歪み」と言い切る富岡氏は、インタビューの中で、「正しい税のあり方」を明確に示した。
これからIWJは、パナマ文書のリークなどで明らかになった、グローバルな規模での富の偏在と、税負担の不公正の問題に連続して切り込んでゆく。このインタビューのテキスト化は、その第一弾である。
なお、5月28日に実施した本インタビューは、10月19日18時より、IWJチャンネル1番で再配信する。ぜひ、ご視聴いただきたい。
- タイトル 「グローバル経済の闇のメカニズム」を暴く!パナマ文書から消費増税まで~『税金を払わない巨大企業』の著者・富岡幸雄氏に岩上安身がインタビュー
- 日時 2016年5月28日(土)14:30〜
- 場所 東京都内
「大学2年生で2等兵に。暴力によって兵士の理性を奪おうとする陸軍によって毎晩殴られっぱなしだった」~1925年生まれの富岡幸雄氏が戦時を振り返る
岩上安身(以下、岩上)「中央大学名誉教授、商学博士、税制の泰斗と言っても過言ではありません、富岡幸雄先生の御自宅にお邪魔しております。よろしくお願いします」
富岡幸雄中央大学名誉教授(以下、富岡)「よろしくお願いします」
岩上「先生、今おいくつでしたっけ?」
富岡「91歳です。1925年生まれ」
岩上「ちょっと本題からそれますが、こちらに先生の学徒出陣のときのお写真があります。普通の、初年兵として召集されたんですか?」
▲後列真ん中に立っている学生服の男性が、学徒出陣時の富岡幸雄氏(当時大学2年生)
富岡「大学2年生の時、陸軍現役兵として召集され、最初は2等兵でした。どんな偉い人の子供も、そうでない人も、軍隊は平等です。激しい戦闘訓練が毎日続き、毎晩殴られっぱなしですよ。
理由もないのになんで殴るのか、当時はわからなかったけど、今はわかります。暴力によって陸軍は、人の理性を奪うんです。人を殺すためには、理性があってはいけないんです。地獄のようでしたけれど、僕の生涯にとって貴重な初年兵の3ヶ月間でした。
やがて、幹部候補生の試験を受けて連隊で1番、師団で1番の成績で士官学校に入りました。見習士官までいき、昭和20年の9月1日に、陸軍少尉になることになっていたんです。国を守るために死ぬのは当然だと思って一生懸命に頑張りました。
終戦後、帰ってきてもう一度大学に行きたかったけど、父は『働いてもらわなければ困る』ということで、大学は諦めて国税庁に入りました」
岩上「先生のおじいさんは、戦争当時から東条英機のことを『けしからん』と批判した、気骨の人だったそうですが?」
富岡「じいさんは、頑固で気骨があり働き者で、しっかりした人物でした。あの時代に一人で、『こんなとんでもない戦争を始めたのは東条だ』『東条は国賊だ、けしからん』と、大声で戦争を非難していました。
特高警察や憲兵に聞かれたら大変なことになるとして、家族をはじめ周りの人間は、『そんなこと聞かれたら困る』と言っていました」
岩上「気骨の人だったのですね。先生もその気骨を受け継がれて、戦争は反対だと主張されていますね。
その国のあり方は、税のあり方に反映されるのですよね?」
富岡「その通りです。税は社会的公正の鏡です。税制が歪んでいるということは、その国が歪んでいるということ。日本の歪みは残念ながら大きいですね」
岩上「GDPは今期プラスになったようですが(※)」
富岡「GDPは実質3期続けてマイナスです。うるう年だったからプラス0.1だっただけで。1日多いとプラス0.1上がるんです。
結局、アベノミクスは中身がなかったんですよ。それを認めないためにサミットを利用した。あまりにも税制を政治の道具に利用しています。僕はあぜんとしましたよ。『3本の矢』と言いますけど、1本目(異次元金融緩和)も失敗したんですよ。
一番ダメだったのは成長戦略ですよ。外国にはいいように利用されてますよ。サミットの顔立てて、何かしなくてはならないということで、消費税増税を延期することにしたんです。ことごとく経済は政治に利用されていますよ」
そもそも消費税は本来あってはならない「生存税」~法人税減税の穴埋めに消費税が使われている現状を憂う
岩上「前説が長くなりましたが、本題に入ります。『饗宴VI』のときにもお話いただきましたが、消費税延期と減税は違いますね」
富岡「法人税をどんどん減税し、法人税減税の穴埋めに消費税が使われちゃっているんですよ。今から30年近く前、1989年に消費税が導入されたとき、僕は日本商工会議所をはじめ全国の多くの中小企業団体や主婦連などの多くの人々と連携し、政党では社会党と公明党と一緒に反対したんですよ。当時公明党は庶民の党だった。それが今では、政権与党になりたいがために、自民党と連立して消費税導入に賛成しているのです」
▲富岡幸雄・中央大学名誉教授
岩上「結局目先の損等優先です。安倍政権も、選挙のために消費税増税の延期を発表しました」
富岡「選挙の争点から消費税ははずすということです。できるだけ参議院は勝ちたいから。私の主張はまったく違います。そもそも消費税は、あってはならない税制なんです。消費税というのは、本来の税金ではなく物価です。政府にとっては集金のためのタックスマシーン。しかも、無給の徴税員が全国にいるようなもの。こういうものを政治家と官僚に与えちゃいけないんです。
舛添前都知事が税金を私用に使ったと言われていますけど、あんなものは氷山の一角です。日本の政治家と官僚が税金をムダ遣いしていますよ。
消費税はなくすべき。せめて、元の5%に戻すべきなんです」
岩上「他方で、中小零細企業が苦しんでいる。僕も零細企業の経営者をしてみて、法人税以上に消費税の大きさに驚いています」
富岡「消費税は生きとし生けるものにかかる、『生存税』。生きている限りとられるんです」
日本の法人税が高いというのは大嘘!!~零細企業より資本金100億円超の巨大企業の税負担の方が軽いという「報じられない」現実!!
富岡「日本の法人税はけっして高くなく、全国の法人の法人税、地方税の合計負担を平均すると、実効税率は21%。しかも、零細企業より資本金100億円超の規模の巨大企業の負担が軽いのです。ひどいでしょ。
業績が良いのに税負担率が著しく低い企業の1位は、三井住友FGです。4859億円の利益がありながら、法人税300万円ですよ。実効税率は0.0006%です。企業名を出して、恨まれますけどね。でも僕はファクトにもとづいてやってますから、文句があったら言ってきてください。でも誰も来ませんよ。こないだ国会で野党の人が僕の本を出して、『大企業こんなに税金は払っていないよ』と。そしたら麻生財務大臣が出てきて、『そういうことのないようにします』と(※)」
※2016年2月26日の衆院財務金融委員会で、民進党の落合貴之議員が質疑で富岡氏の研究を引き合いに、「中央大学名誉教授の富岡先生、長年、この国の税体系にもかかわってきた方だと思います。その方が集計をしています。やはり、100億円超の企業それから連結法人は、ほかのところよりも負担率が明らかに低い」と述べた。これに対し政府参考人の佐藤慎一財務相主税局長は、「数字だけを見て判断をするというのは、場合によっては判断を誤ることがございます。そういう大きな法人になりますと、グループを形成しておりまして、例えば、子会社と親会社との間の受取配当について益金不算入の制度ということがございますけれども、それはむしろ二重課税があってはいけないという制度上の要請からくるものでございまして、そこの部分も一応あえて計算をしてやっているということではございますので、その辺のあり方というのを考える必要があると思います」と答弁した。
▲図表2 業績が良いのに「実効税負担率」が著しく低い主な大企業―2015年3月期の法定総合正味税率35.64%の時期―
岩上「この(業績が良いのに「実効税負担率」が著しく低い主な大企業)リストを見ていると、パナマ文書(※)に名前の出てきた企業名がたくさん出てきます。この重なりが、ポイントですね」
※パナマ文書:世界各国の首脳とグローバル大企業による「タックスヘイブン」(租税回避地)利用の実態を暴露した文書。匿名の人物から入手した「南ドイツ新聞」がICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)に加盟する76ヵ国370名強のジャーナリストとともに、約1年かけて文書の中身を分析し、2016年4月3日、その内容の一部を公開した。
参照IWJ「パナマ文書」関連記事
法人課税における実効税負担が低いのは、大企業優遇税制等で課税ベースが侵食されているため 巨大企業ほど縮小率が低い~タックス・イロージョン(課税ベースの侵食) タックス・シェルター(課税逃れの資金) タックス・ギャップ(税務署の徴税漏れ)という3大欠陥
富岡「法定税率は国税と地方税の合計で38.01%なのに、なぜ1%以下や10%程度、多くとも2%程度で済んでいるのか、が問題です。
法人課税における実効税負担が低いのは、課税ベースが侵食化により縮小しているからです。実際の利益に比して課税所得額は小さくなっています。タックス・イロージョン。課税ベースの侵食です。削られているんです。課税所得は小さく、巨大企業ほど、縮小率は大きいのです。大企業優遇税制や、欠陥税制があるためです。
これを絵にすると、こうなります。
正常な課税所得は十五夜お月さん、満月の形で表されます。ところが、タックス・イロージョン、タックス・シェルター、タックス・ギャップという三大欠陥によって削られています。
タックス・イロージョンというのは、課税ベースが削られること。タックス・シェルターというのは、課税対象となる資金が隠されていること、税金逃れの金融商品などです。タックス・ギャップというのは、税務署の徴税漏れ。
あなたのところは税務署来た?」
岩上「来ましたよ、『岩上安身事務所』への税務調査。4ヶ月間もかけて徹底的に調べられました。もちろん、クリーンにやってますから、何もおとがめなしでしたが」
特定の業種と特定の企業に集中的に恩恵を与えている「租税特別措置」という名の大企業優遇税制~安倍政権になってから税負担の不公正が一段と悪化!!
岩上「安倍政権になってから、不公正が一段と拡大している。ここが大事なんです。こういうことをマスコミは報じません」
富岡「公共政策のために、公平性を歪めても、国の経済を繁栄させるために特例を設けますよ、というのが『租税特別措置』。最初は真面目に作っていましたが、だんだん財界と政界の癒着によって、陳情の多いところ、政治献金の多いところに特措がいくようになってしまった。政治家が税制を利権化して集金と集票の手段としてしまっているんです。
その成れの果てがこのグラフです」
岩上「ちょっとグラフを説明させていただくと、青が2012年(民主党・野田佳彦政権)、赤が2013年(第2次安倍政権)。
(企業規模が)1000万円以下の零細企業にも、ある程度、租税特別措置があるということですか?」
富岡「逓減税率なんですよ。中小企業には年所得が800万円以下の部分が15%なんです。法人税は普通25%だけど、中小企業は、弱いから援助する、という意味です。
これを見ると分かる通り、資本金100億円超の巨大企業が圧倒的に多くの政策減税の恩恵を受けているのです。
租税特別措置による政策減税による減税相当額、民主党政権時代の終わりには1兆3218億円。それが安倍政権になると1兆8867億円。安倍さんになったとたんに、大企業に対する政策減税が大きくなったんです」
「正しい税のあり方」を政治家だけでなく国民も学ぶべき。
租税特別措置による大企業優遇税制 その見返りに自民党へ政治献金! ツケは消費税増税!! 安倍政権の「歪んだ税制」で国が滅びる~岩上安身による中央大学名誉教授・富岡幸雄氏インタビュー https://iwj.co.jp/wj/open/archives/304535 … @iwakamiyasumiさんから
https://twitter.com/55kurosuke/status/1051417211888226305
税金というのは権力者が弱者から収奪する手段です。
租税特別措置による大企業優遇税制 その見返りに自民党へ政治献金! ツケは消費税増税!! 安倍政権の「歪んだ税制」で国が滅びる~岩上安身による中央大学名誉教授・富岡幸雄氏インタビュー https://iwj.co.jp/wj/open/archives/304535 … @iwakamiyasumi
https://twitter.com/55kurosuke/status/1152001603492171777