TPPの最大のターゲットは何か——。それは、米国におけるTPP推進のロビー活動費を見れば明らかだ。米国を牛耳る軍産複合体は、石油業界が100億円、防衛・ミサイル業界が1500億円と巨費を投じている。しかし、5300億円という桁違いのロビー費を注ぎ込んでいるのが、米製薬会社・医療業界である。
「TPPの最大の目的は医療です。これはほとんど報じられません」。
北海道がんセンター名誉院長で、放射線治療の臨床医として約40年もの間、医療の現場に立ってきた西尾正道氏は、「日本の医療市場を開放せよ」という米国の露骨な要求と、米国医療の悲惨な実態を見てきた一人だ。2015年5月8日、岩上安身のインタビューに応えた西尾氏は、そのリアルな現状を語った。
日本では、盲腸の手術を行い8日入院すると10万円程度の自腹で済む。しかし米国では700万円かかるという。さらに貧血で2日間入院したら200万円、ちょっとした腕の骨折手術で150万円もかかる。米国ではGDPの約20%(280兆円)を医療費が占める。そして米国の家庭破産の62%が、この高額の医療費によるものだ。
現在、日本の医療は医療法第7条で、「営利を目的としてはいけない」と定められている。西尾氏は、「これがTPPで変えられ、米国のようになる」と警鐘を鳴らす。
企業の利益のための「ISD条項」が、国の法律よりも上位にくることで、薬の値段は製薬会社が自由に決められるようになる。TPPによってまず真っ先に影響が出るのが、この薬価の高騰だと西尾氏は指摘する。そして混合診療の解禁、自由診療の拡大、民間保険会社への加入増大、医療への株式会社参入などで、日本の医療費は米国並に吊り上げられていく 。
さらに西尾氏はTPPの影響として、食の安全の問題もあると指摘する。残留農薬の基準が緩くなったり、食品表示や成分表示が規制され、遺伝子組み換え食品かどうかの表示も撤廃される可能性があるという。
「日本はまさに汚染列島です」。
西尾氏によれば、日本ではすでに危険な農薬や化学物質の基準値が、他の先進国に比べて圧倒的に緩いという。例えば日本のお米に多く用いられているネオニコチノイド系農薬は、ミツバチの消失の原因であることが判明し、最近では子どもの脳や神経への発達神経毒性があり、認知症の原因であるとする研究結果も出されている。
このネオニコチノイド系農薬は、EUでは3種が禁止となり、オランダでは全面禁止になった。しかし、日本はこの15年間で使用量は3倍となり、イチゴやリンゴ、ブドウやナシなど、手で掴んで食べる作物の基準はEUの2〜25倍、米国と比較しても2〜15倍の緩い基準値となっている。
さらに農薬は住宅建材に、シロアリ駆除剤や接着剤として「ノーチェック」で使われているという。農薬は農薬取締法、殺虫剤は薬事法が適用されるが、シロアリ駆除剤はどの法律にも適用されないのだ。西尾氏は、「農薬はガーデニングや殺虫剤など、生活にあふれている」と指摘する。
インタビューでは他にも、多くの炭酸飲料や乳飲料に含まれている人工甘味料「アスパルテーム」による深刻な健康被害や、「成長ホルモン」漬けの米国産牛肉の危険性、国産牛乳の99.5%が発がん性物質に汚染されているという衝撃の事実まで、話が及んだ。
- 日時 2015年5月8日(金)20:00〜
- 場所 IWJ事務所(東京・六本木)
「昔は経済的利益のためには戦争を仕掛けていた。今は経済的利益のために司法を変えるTPPを仕掛ける」
※以下、インタビューの @IWJ_ch1アカウントによる実況ツイートをリライトし、掲載します。
西尾正道氏「TPP、この情報社会でその中身が全く知らされないのは異常なことです。妥結したら50以上の法律を変えなければいけないと言われています」 岩上安身「TPPは21分野にも及ぶ。その一つの関税が大きく報じられているが、その他はほとんど報じられませんね。
米国は、方や欧州では『TTIP』を仕掛けています。これに対し欧州各国の反対運動はすさまじく、10万人単位の抗議デモが起こっています」
西尾氏「昔は経済的利益のためには戦争を仕掛けていた。今は経済的利益のために司法を変えるTPPを仕掛けるのです」
TPPで日本の医療は米国並の悲惨な状況に
西尾氏「TPPの最大の目的は医療です。これはほとんど報じられません。ポイントは『ISD条項』です。例えば薬の値段が高過ぎる、国として薬価を下げるとなっても、それは認められないとなる。企業の利益のためのISD条項がその国の法律よりも上位にきます。
ではTPPで日本はどうなるか? 日本の医療は医療法第7条で、『営利を目的としてはいけない』と定められている。これがTPPで変えられ、米国のようになります。米国では盲腸手術・8日入院で700万円、今の日本だったら10万円前後の自腹で済みます」
岩上「私は狭心症の発作でICUに入ったのですが、これが米国で無保険だったらいくらかかっていたのでしょう?」
西尾氏「1億円近くかかったでしょうね…。
米国では貧血で2日間入院したら200万円。腕をちょっと骨折して手術しただけで150万円です。これがTPPで日本に入ってくる可能性があるのです。
米国での民間保険は、掛け金がかなり高い。また様々な条件をつけて支払いを渋る。さらに保険会社とタイアップしている病院や医療技術しか使えない事も多い。米国の医者は患者に、『この治療法が最適だけど保険会社が認めていないから使えません』と言うはめになっているのです」
5300億円という莫大なロビー費を注ぎ込む米医療業界
西尾氏「医療の面で言えば、食の安全の問題もあります。
残留農薬の基準が緩くなったり、食品表示や成分表示が規制される可能性。そうしたら『道の駅』もなくなります。遺伝子組み換え食品かどうかの表示も撤廃される可能性もあります。
TPPの何が問題なのかと言うと、米国企業の凄まじいロビー活動です。米「TIME」誌の報道によると、ロビー費は米製薬・医療業界は5300億円、防衛・ミサイル業界が1500億円、石油業界が100億円です。これを見ればTPPの目的が明らかです。TPPの狙いは医療。米国では家庭破産の62%が医療費です」
TPPがもたらす薬価の高騰、混合診療解禁、国民皆保険の縮小
岩上「TPP推進派は混合診療解禁は国民皆保険は潰しませんよ、と喧伝しますが、実際はどうなのでしょう?」
西尾氏「新薬や新しい治療については国民皆保険の適用外となります。それによって国民皆保険の規模がどんどん縮小していきます。やがて国民皆保険は消滅することになるでしょう。
民間保険会社への加入も増えるでしょう。今は2000万人位が加入しています。また医療への株式会社参入も進みます。日本においてこれから右肩上がりの分野は(高齢化社会において)医療と介護だけです。日本人の年間医療費平均は30万円位ですが、高齢者は90万円以上ですから。
一番問題なのは、直接的にすぐ影響が出てくるのが薬価の高騰です。今は中医協が薬価を管理している。しかしTPPに入れば日本(病院側)で勝手に値段を決められず、製薬会社の設定した薬価しか認められなくなります。
今、国民皆保険制度は日本、ドイツ、フランス、オランダのみ。イギリス、スウェーデン、カナダは税金を主とする国民保険組織によって(外国人も)無料です。しかし例えば子宮がんは2カ月待ちなど順番待ちがあります。また医師の給料も安く医療の質も悪い」
1985年から日本医療の市場開放を要求していた米国
西尾氏「米国は1985年から医療分野の市場開放を要求しています。2001年には年次改革要望書で医療に市場原理の導入を要求、2011年にはUSTRが医薬品の関税撤廃などを要求しています。いかに米国が日本の医療を狙っているか。これをメディアは全く報じませんね。
日本では薬価は2002年から10年間で5倍、20年間で10倍になっています。海外からの輸入医薬品は2.5兆円です。そして2014年10月4日の日経新聞のトップ記事は『医師以外も病院のトップに 特区で追加緩和』です。
国内の製薬会社で最大規模の武田薬品でも世界では14位。ベスト10に米国企業が5社です。
現在の日本では国民皆保険とセットで高額療養費限度額制度という非常に良い制度があります。患者負担をあまり気にせず治療薬を使用できる環境です。しかし薬価が高騰すれば破綻します」
がんや自閉症、糖尿病も化学物質が原因!?
妥結目前と言われるTPP、「最大のターゲットは日本の医療」――国民皆保険制度が崩壊の危機~岩上安身による北海道がんセンター名誉院長・西尾正道氏インタビュー(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/244873 … @iwakamiyasumi
米国では家庭破産の62%が医療費です。
https://twitter.com/55kurosuke/status/597143608601419776