「自衛隊員が棺で戻ってくる状況を、今の日本人は受け入れられるだろうか」──国際地政学研究所、「軍事トラウマ問題」を徹底論議 2015.4.16

記事公開日:2015.4.30取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田)

 「イラクに派遣された約1万人の自衛隊員からは、帰国後、29人の自殺者が出ている。彼らは一度も銃弾を放ってはいないが、自死を選んだ」──。国際地政学研究所理事の柳澤協二氏は、この現実は重い、と顔を曇らせた。

 国際地政学研究所の今年3回目のワークショップが、2015年4月16日、「PTSDを知る~軍事上のトラウマとの関連における示唆」のタイトルで、東京都内にて開かれた。PTSDとは、心的外傷後ストレス障害のことで、ここでの当該者は「軍人・自衛隊員」である。

 集団的自衛権の行使容認などを背景とする、自衛隊の海外活動枠の拡大は、国家公務員の中でも自殺率の高い自衛隊員が、現在よりはるかに過酷なストレス環境に置かれる可能性が高くなることを意味する。

 しかし、今年に入って活発になっている「戦後70年」の議論では、この「軍事トラウマ」をほとんど考慮しておらず、また、戦争を体験した日本人が非常に少なくなっている現在、これを扱いたくても扱えない面もある、と柳澤氏は言う。

 そして、「実際に自衛隊員が棺に入れられて戻ってくる状況を、今の日本人は受け入れられるだろうか。その想定を避けた議論は、まるで自衛隊の海外派遣の枠が拡大されない前提でするようなものだ」と述べて、安保法制の改定などで、戦争国家に向かいつつある現実との乖離を指摘した。

 この日は、精神保健福祉士の柳澤恵美子氏から、PTSDに関するレクチャーも行われた。「嫌だ」という感情表現がうまくできず、強いものに巻かれるタイプの人がPTSDになりやすい、と語る柳澤恵美子氏は、「日本という国は、国民に『嫌だ』を適切に表現させる教育を施してきただろうか」と疑問を投げかけた。

 同研究所理事の林吉永氏からは、「戦場では、軍人が抱えるストレスを、別の価値観に転化することがカギになる」との言及があった。第二次世界大戦中の「鬼畜米英」や「祖国を守るために、自分の命を捧げる」というフレーズもまた、そのために国がひねりだした価値観だ、と林氏は強調した。

記事目次

■ハイライト

  • 登壇者 柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)、柳澤恵美子氏(精神保健福祉士)、桑田成雄氏(航空自衛隊・医官)、林吉永氏(国際地政学研究所理事)
  • 日時 2015年4月16日(木) 18:00~
  • 場所 アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)
  • 詳細 国際地政学研究所

復興支援でもPTSDに苦しむ自衛隊員たち

 「戦後70年を振り返る時、PTSDという視点が非常に重要になってくるが、今の日本人の多くは戦争を知らない」。冒頭のあいさつで、柳澤氏は、このように発言。戦後70年というテーマを、PTSDと絡めて議論することは、その要因である軍事トラウマ(戦場)を、国民の多くが体験していない今の日本では、決して容易ではない、とした。

 柳澤氏は、2003年~2010年のイラク戦争の際、復興支援のために派遣された約1万人の自衛隊員の中から、現在までに29人の自殺者が出ている調査があると述べ、「自殺した自衛隊員は皆、ただの一度も銃弾を放ってはいない。にもかかわらず、自死を選んだ。この現実は、実に重い」と語った。

 昨今の安保法制を新しくする動きは、イラク派遣よりも格段にハイリスクになる海外活動へと、自衛隊員が駆り出される可能性が高まることを意味する、と柳澤氏は懸念する。

 「実際にそうなったら、自衛隊員や日本社会はどういった影響を受けるのか。自衛隊員が、棺に入れられて戻ってくる状況を、今の日本人は受け入れられるだろうか」と問題提起し、この点を避けて「戦後70年」を議論することは、「自衛隊の海外派遣の枠が拡大されないことを前提にして、議論することに等しい」と力説した。

メンタルを強くする「嫌だ」の表現力

 続いてマイクを持った柳澤恵美子氏は、「自分というものがなく、強いものに巻かれてしまうタイプの人が、PTSDになりやすい」と指摘し、そのような人たちは、往々にして「嫌だ」という言葉を使う能力に欠けている、と強調した。

 「大人になっても、『嫌だ』という感情表現を適切に行えない人は、(職場環境などの問題によって)メンタルが傷つきやすい」と指摘した柳澤恵美子氏は、ポイントはその人が育った家庭環境にある、と語る。「嫌だ」と少しでも発したら、激しく叱られるような環境で育てられた場合、「その子どもは『嫌だ』という言葉を使えなくなる」とし、次のように述べた。

 「国のレベルで考えた場合、日本は国民に対し、『嫌だ』を適切に表現させる教育を施してきただろうか。戦時中の『欲しがりません、勝つまでは』の精神が、今なお残っているように映る。憲法9条の改正を受け、(戦場に行くことになる)自衛隊員が、軍事トラウマからPTSDに罹病することが珍しくない日本になった場合、国は罹病の責任を、隊員個人の(生い立ちに由来する)気質などに押しつけるつもりなのか」

(…会員ページにつづく)

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「「自衛隊員が棺で戻ってくる状況を、今の日本人は受け入れられるだろうか」──国際地政学研究所、「軍事トラウマ問題」を徹底論議」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「自衛隊員が棺で戻ってくる状況を、今の日本人は受け入れられるだろうか」──国際地政学研究所、「軍事トラウマ問題」を徹底論議 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/242746 … @iwakamiyasumi
    今の日本人がどれほど「我が事」と感じるだろうか?この疑問が問うものは重い。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/593730158034432000

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