2013年6月23日(日)14時、滋賀県大津市のピアザ淡海(おうみ)において、「いのちが一番!大飯をとめて原発ゼロを求めるつどい」と題するシンポジウムが開かれ、井戸謙一氏(弁護士)および斉藤征二氏(元敦賀原発下請け労働者)がそれぞれ報告を行った。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年6月23日(日)14時、滋賀県大津市のピアザ淡海(おうみ)において、「いのちが一番!大飯をとめて原発ゼロを求めるつどい」と題するシンポジウムが開かれ、井戸謙一氏(弁護士)および斉藤征二氏(元敦賀原発下請け労働者)がそれぞれ報告を行った。
■全編動画
井戸氏は、金沢地裁の裁判長として、2006年3月、北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の運転差し止めを認める判決を下した。これは、運転中の原発に対する国内初の画期的な判断として、注目された。現在は弁護士として、「福島集団疎開裁判」を提起している。
冒頭、政府や原子力村が進めようとしている原発の輸出や再稼働について、「『放射能の被害は大したことない』と洗脳するためのものだ」と指摘した。さらに、チェルノブイリ事故後に、ウクライナ当局やベラルーシ当局が採った大規模な移住政策について、「国際的な原子力村は、『失敗だった』『移住させる必要はなかった』と言い、その『教訓』を福島に活かそうとしている」と批判した。そして、「日本では、福島第一原発事故を、まるでなかったかのようにする政策が行われている」と述べた。
続いて、自身が取り組んでいる福島集団疎開裁判の概要を説明した。この裁判は2011年6月に、福島県郡山市の小中学生14人が、「年1mSv(ミリシーベルト)を超える放射線量の学校での教育活動は、問題である」とし、「憲法で定められた、公教育の主宰者としての安全配慮義務がある。それが実現できないならば、安全な場所に移して教育を実施する義務がある」として郡山市を訴えたもので、同年12月に福島地裁郡山支部で却下された。不服申し立ての後、今年4月に仙台高裁でも却下が決定した。
福島地裁郡山支部の決定の論拠は、「結果的に、郡山市の3万人の小中学生を強制疎開させることになる申し立てであるから、被害の危険が切迫し、重大な損害が起きることが明らかであり、他に解決方法がないことを要する」「しかし、除染がそれなりに効果をあげている、年100mSv以下の低線量被曝被害には実証的裏づけがない、文部科学省の通知により年20mSvが目安となったことなどにより、子どもたちに切迫した危険性があるとは認められない」というもの。
一方、原告側は、仙台高裁に不服申し立てをするにあたって、郡山支部が決定した論拠を覆すべく、低線量被曝の危険性や、除染効果の低さを明らかにする反証を提出した。これに対し、仙台高裁は、郡山支部が「切迫した危険性があるとは認められない」とした決定よりも一歩踏み込み、「福島に住み続けることの危険性を正当に認めた」上で、「郡山市に居住を続ける限りは、学校生活で年1mSv以下に低減できたとしても、日常生活で1mSvを超えるから、年間の積算被曝線量の低減を求める申し立ては認められない」という主旨の決定を行った。これについて井戸氏は「危険性を正当に認めたのに、屁理屈で捻じ曲げた決定である」と批判した。
ただ、井戸氏は、裁判官経験者として、「本来、こういった決定を下す場合、前提として、『危険性の指摘』をする必要はない。にもかかわらず、それをしたのは、裁判官が、『危険である』と認識し、それを言う必要があると思ったに違いない」と分析した。
そして、この裁判の特徴として、「海外メディアの高い注目度」や「多くの科学者や市民、著名人の支援」を挙げた一方で、「大手メディアによる徹底的な無視」や「福島県内ではほとんど知られていない」点を指摘した。これについて、一貫して報道したのは東京新聞だけであるとし、当初は複数のメディアが報道していたにもかかわらず、途中から全く報じなくなったことから、「何らかの力が働いたのだろう」と述べた。
井戸氏は、福島県民健康調査の資料をもとに、甲状腺疾患や子どもの高血圧、脳卒中や心不全が急増しているなど、憂慮すべきデータが実際に増えつつあることを指摘した上で、第二次疎開裁判を提起するための準備を行っていく方針を明らかにした。また、井戸氏は「山下俊一氏(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)に裁判に出てきてもらう」と述べたほか、「裁判の結果を待つ間にも子どもたちは被曝している」として、避難プロジェクトの開始など、具体的な行動を引き続き精力的に行っていく方針を示した。
斉藤氏は、「原発は命と引きかえである」とのテーマで、自らが身をもって体験した原発での被曝労働の実態を交えて報告した。斉藤氏は、日本原電の幹部が講演で、「原発には人夫(にんぶ)が必要」などと、差別的な意味合いを持つ言葉を発したことを紹介し、「確かに技術者ではない。熱さを辛抱し、放射能を分け合って作業する『人夫』だ」と述べた。また、防護服やマスクを装着して行う作業環境は劣悪で、「暑くてマスクが曇り、前が見えず、何をしているかわからないときがある。会話ができず、(ゼスチャーで)○か×を示す」と身振り手振りを交えて述べたほか、「原発内での作業は、ほとんどが除染。雑巾がけ。漏れた箇所を雑巾でふき取るのが、稼働中の原発での日常作業だ」と語った。
原発作業における被曝労働の実態について、斉藤氏は、累積被曝線量が規定値を超えると、法律によって仕事ができなくなるため、線量計での測定を作業員自身がごまかすケースが横行していることを説明した。自身の被曝量についても言及し、「放射能の高いところは人海戦術で作業する。3分間で0.8mSv浴びたこともある」と述べ、さらに、「私は6ヶ月で22.6mSv浴びた。甲状腺も手術した。脊髄も切った。心筋梗塞になった。白内障、緑内障になった」と自身の身に襲った病魔を語った。
これに関連し、「大飯、高浜、美浜の蒸気発生器での被曝量がひどい」と明言した。その理由として、「加圧水型炉(PWR)のアキレス腱は蒸気発生器だ」と語った上で、内部に直径2センチほどの細管が3000本ほど通っていることや、蒸気発生器は原子炉1基に3~4基設置していること、メンテナンス作業では、蒸気発生器の下部に作業員が入り、(不具合のある細管を使えなくするために)詰め栓をすること、さらに、大阪の貧困街として知られる「釜ヶ崎」の日雇い労働者が、内部に大勢入っていることなどを説明した。そして、「全く知識のない素人が原発を支えている。補修作業も素人。除染作業も素人だ」と語った。
原発の施設そのものの危険性については、原発の建設時に海砂を使用したことによるアルカリ骨材反応によって、設備のコンクリート強度に問題があることや、コンクリートの補修が困難であること、また、原発を動かすために外部電源を送り込んでいる送電線が、天変地異によって機能しなくなる懸念などを、具体的に説明した。
福島を取り巻く厳しい現状についても言及した。「福島第一原発事故の収束作業に約3000~4000人が従事している。彼らは毎日被曝しており、やがて労働者不足になる」と述べたほか、「福島県で行われている除染作業は100%不可能。最初からできないものを無理やり実施している」と厳しく指摘した。さらに、「福島県に住む人たちは、連日被曝している。あと3~5年の間に、どれほど体を蝕まれていくか心配だ。福島の子どもたちの集団疎開を早く行うことを、国は明言すべきだ」と力を込めた。さらに、放射能は全国規模で拡散していることから、全国民を対象とした血液検査の実施が必要だとの意見も述べた。
特に、「原発作業には、仕事がない若い人たちも行っている。この人たちが結婚したらどうなるのか心配だ。少子化といわれている中、子どもを産んだら奇形だったということになりはしないか」と強い憂慮の念を示した。
斉藤氏は、原発の処遇について、「原発の稼働は、大飯原発を最後にして、あとは絶対に動かさない。これこそが、命を守る第一の条件」としたほか、「第二の条件は、一日も早く、廃止を決定すべき。廃炉は30~40年掛かる。事故が起こる前に廃炉にすべき。事故が起こってからでは廃炉に何年掛かるかわからない」と力強く語った。また、報告の最後に、斉藤氏は、「放射性廃棄物や、廃炉後の廃材をどこに持っていくかという問題を、電力消費地も含めて真剣に考えるべきだ」と力説した。