2025年8月5日午後1時30分より、東京都千代田区の衆議院第2議員会館にて、超党派人道外交議員連盟による緊急総会が開催された。飢餓が急速に進んでいるガザの現地状況について、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長の清田明宏氏から、オンラインでの報告が行われた。
冒頭、立憲民主党の近藤昭一衆議院議員は、次のように述べた。
近藤議員「『ビヨンド・イマジネーション』、『想像を絶する』というだけではなくて、『想像をせざるを得ない』わけです。本当に、食べ物も水も入ってこない状況を。
イスラエル側は、『支援をしている』と言いながら、おそらく、100ヶ所以上あった支援の場所を、数ヶ所に絞って、そこに支援物資を取りに来る市民を狙い撃ちにする、というようなことも起きている。
食料を得るために行く人の命を奪っている、ということでありますし、本当に、皆さんもご想像していただいているように、食べ物がなくて、餓死していくという人達が増えてきているということであります。
そうした食料が極めて厳しい状況の中に、すぐに食事を提供しても、それを体が受け付けていないような状況にもなっているわけでありまして、本当に今の状況は、何としても改善をしていかなくちゃいけない。
ご承知の通り、G7のいくつかの国も、『国家承認を』ということで表明をしておりますし、この議連でも、総理に対しても、大臣に対しても、『パレスチナ国家承認』ということで、この間も申し入れをさせていただいているところであります」
- 超党派人道外交議員連盟による岩屋外務大臣表敬(2025.7.7 外務省 報道発表)
続いて、UNRWA保健局長の清田氏が、約20分の現地報告を、レバノンのベイルートから、オンラインで行った。
清田氏は、イスラエルによるガザの破壊・占領について、「先がまったく読めません」と述べ、ガザの食糧危機と飢饉の危機について、「本当に深刻です」と訴えた。
清田氏は、ガザの5歳未満の乳幼児を対象にその栄養状態を把握するために使用されているMUAC(Mid-Upper Arm Circumference:上腕周囲径計測帯「命のうでわ」)について、次のように説明した。
- 【試してみよう!】栄養失調を見分ける「命のうでわ」2024年07月10日(国境なき医師団HP)
清田氏「MUACというのは、上腕の真ん中ぐらいを測るんですね。それを測って、栄養状態を調べるんです。身長と体重で調べるのが一番正しいのですが、人道支援の現場では、そういうことができませんので、MUACで上腕の周りを測ります。
そして、それが、12.5センチ以上であれば、栄養には問題がない。それが、12.5センチ以下ならば、急性の栄養失調である。特に、11.5センチ以下であれば、重度の栄養失調ということで、非常に厳しい状態です。(中略)
このようなリスト(全編動画の11分32秒~)が送られてきました。
18人、写真付き、データ付き。この18人は、その中で、MUACが12.5センチ以下の、いわゆる急性栄養失調の子供さんなのですが、なんと、10センチ以下の子供さんが、7人もいました。
本当に、信じられないです。これは、本当に大変なことだということで、みんなでいろいろな対策を練り、まず一つ、やらないといけないことは、『きちんと報告をする』ということをしました。(中略)
当初は、元々持病のある子供が、ガザの医療システムの崩壊によって、持病の治療ができず、体力が落ちてきたところで、食糧危機に直面して、家族も対応できず、痩せ衰えて、急性栄養失調になるという事例が多かったのですが、どんどん、持病のまったくない子供さんの事例があがってきました。(中略)
本当に厳しい状態であり、この厳しい状態は、統計にも出てきます(全編動画の15分12秒~)。
これは、我々のクリニックでやっている、MUACの調査の指標です。
だいたい6ヶ月から6歳以下の子供さんの栄養失調の状態を見るんですけども、その割合が、イスラエルによって食料の搬入が止められた3月から、どんどん悪くなっています。
当初は、それまでの停戦中に入った食料等で持ちこたえたんですが、やはり、どうしても対応できずに、5月の下旬から、どんどん、直線的に上がっていきました。6.8%。
6月上旬では、10%。6月中旬は、15%。そして、最終の7月中旬の調査では、18.5%までいきました。
つまり、ガザ市では、5人に1人の子供が、栄養失調です。
これは、非常に危険な状態です。なぜ危険かというと、MUACが18.5%であるということは、『飢饉(famine)』である、という一つの指標になります。国際的な栄養の専門家の集まりであるIPC(Integrated Food Security Phase Classification=総合的食料安全保障レベル分類)というのがあるんですけども、そこが、飢饉の基準を明確に定めています。
簡単に言うと、3つあって、1つは『食糧が足りない』ということ。2割以上の人が、壊滅的な食糧危機の状態にあるということ。
そして、それによって、栄養失調が深刻になる。体重比で30%。MUACでは、15%。
ですから、これはもう『飢饉』の基準を満たしています。
そして、飢餓関連の死亡率が増加していること。人口1万人あたり2人、あるいは、子供さんで言うと、4人。
これを満たせば、『飢饉』ということになってしまいます。
非常に厳しい状況ですので、IPCは警告を発しました。7月29日だったと思います」
- ガザで飢饉が「進行中」、国連支援の専門家ら警告「最悪のシナリオ」(BBC News Japan、2025年7月30日)
清田氏の報告に続いて、外務省・中東第一課長の小長谷英揚(こながや ひであき)氏より、パレスチナをめぐる最近の情勢、特にパレスチナ国家承認に関する外務省の動き等についての説明が行われた。
小長谷氏は、日本政府によるパレスチナ国家承認の今後の動きについて、具体的に次のように述べた。
小長谷氏「ちょうどこの国際的なこのハイレベル国際会議(7月末にニューヨークで開催された『パレスチナ問題の平和的解決及び二国家解決の実現のためのハイレベル国際会合』※)の直前に、マクロン仏大統領が、9月に(パレスチナの)国家承認を行なうことを表明したり、あるいはこの会議が行われている期間中にも、イギリスのスターマー首相、カナダのカーニー首相が、同様の、交換条件(イスラエル政府が、パレスチナ・ガザ地区での停戦に合意し、パレスチナ国家と共存する『2国家解決』の可能性を模索するなどの一定の条件を満たさなければ)をつけた形ではありますけれども、表明をされています」
- 「パレスチナ問題の平和的解決及び二国家解決の実現のためのハイレベル国際会合」への参加(結果概要)(外務省、2025年7月31日)
「この時点で、日本政府の立場としては、この(ハイレベル国際会合に出席した)上村司・政府代表(中東和平担当特使)のステートメント(※)にも、最後の行に記載されてございますけれども、今回のこのハイレベル会議の成果も踏まえ、中東和平の進展を後押しする観点から、パレスチナ国家承認について適切な時期も含めて、総合的な検討を行っていくということを会議の場で述べました」。
- 上村司日本国政府代表(中東和平担当特使)によるステートメント 二国家解決実施に係るハイレベル会合(外務省、2025年7月29日)
「先週も岩屋外務大臣から、同様の趣旨で会見(※)をしておりまして、適切な時期・あり方を含め、総合的な検討を行い、判断を行うということで、次の行事としては、この先週の閣僚会合を受けて、9月の第4週に、いわゆる国連総会のハイレベル・ウィーク、各国首脳が集まる機会に、今度は同じ会合を、閣僚級ではなくて、首脳級で行うということがアナウンスされております」。
- 岩屋外務大臣会見記録(外務省、2025年7月29日)
「そこで、先ほど申し上げたフランス、イギリス、カナダ等は公表を行う、あるいは他の国も検討しているということで、我々日本政府としても、それに向けて真剣に検討を行った上で、判断を行うということでございます。
このニューヨークでの会合に先立ちましては、議連の皆さんを中心とした146名の方の署名を、岩屋外務大臣に提出いただきまして、そうした議員の皆様のご提言も、当然踏まえた上で、きちんと外務大臣、総理とも相談していくということかと考えております」。
また、日本国際ボランティアセンター(JVC)、国境なき医師団、パレスチナ子どものキャンペーン、セーブ・ザ・チルドレン、そして、ヒューマンライツ・ナウの各団体から、それぞれの取り組みについて、報告が行われた。
質疑応答では、一般参加をしていた現代イスラム研究センターの宮田律(みやた おさむ)理事長から、外務省の小長谷氏に対して、「日本は、ガザ傷病者の受け入れを、もっと増やすべき」との提言があった。
国境なき医師団からの報告によると、日本は3月に2人のガザの患者を受け入れたが、その後、受け入れ人数はまったく増えていない。
宮田氏は、自身のnoteで、この日の総会の参加報告を行っている。
- 空虚な響きをもつパレスチナ問題の「2国家解決」と、日本のガザ傷病者の受け入れは2人からいっこうに増えない(宮田律氏note、2025年8月6日)
岩上安身は、これまでに4回、宮田律氏へのインタビューを行なっています。ぜひ、以下のURLからご視聴いただきたい。
緊急総会の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。






























