2023年9月30日午後1時30分より、東京都練馬区の武蔵大学にて、『ラジオと戦争』出版記念シンポジウム「いま、足元から問う 放送の公共性とは何か?」が開催された。
元NHK放送文化研究所主任研究員の大森淳郎氏の著書『ラジオと戦争』(NHK出版、2023年6月26日)は、大本営発表を大々的に報じ、あらゆる番組を戦意高揚のための媒体として使った「戦時下のラジオ」を検証している。
大森氏は、膨大な資料と聞き取りを通じて、戦後、「仕方がなかった」として振り返られることの多い戦争協力が、実は、関係者の主体的な関与によるものであったことをあぶり出している。
シンポジウムには、大森氏と、日本ジャーナリスト会議(JCJ)代表委員の藤森研氏、NPO法人Dialogue for People代表でフォトジャーナリストの安田菜津紀氏、東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏の4名が登壇し、司会は、武蔵大学社会学部教授の永田浩三氏がつとめた。
シンポジウムの第一部では、基調報告として大森氏が講演を行い、第二部では、これを受けて登壇者が討議を行った。
討議の中で、「メディアと大衆」の関係性について、大森氏は次のように語った。
大森氏「確かに今、『敵基地攻撃』とか『防衛費倍増』とか、とてつもないことが起こりつつあるんだと思います。
にもかかわらず、メディアも社会も、市民というか大衆というか、それもひっくるめて、何か普通に流れて行っている怖さを感じるんですね。
『メディアと大衆』って、『鶏と卵』みたいな話なんですけども、この本で書いた一人に奥屋熊郎(おくや くまお)さんという人がいます。
この人は、ラジオ体操を始めたり、高校野球中継を初めてやった人で、日本の『放送の父』と言ってもいいような人です。
この人が、戦時中にある調査をするんですね。で、一体どういう番組が喜ばれるんだろう、喜ばれているんだろうって調査をするんです。そうすると、明らかになるのが、『浪花節』なんですよ。
じゃあなんで大衆は『浪花節』が好きなんだろうと考えたんですね。で、出した答えが、『ラジオが放送するからだ』という答えなんですよ。それを彼は『ラジオ大衆』という言葉で言い抜けるんですよ。『ラジオ大衆』…。
つまり、彼が言ってることは、ラジオが流すから、大衆は浪花節を好きになる。その逆じゃないんです。
つまり、もっとそれを普遍化して言えば、大衆がラジオを聴くのではないんです。ラジオが大衆を作るんです」。
シンポジウムの詳細については、全編動画を御覧いただきたい。